眠れない、寝た気がしない…不眠障害:原因は?対処法や薬はあるの?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の神出 誠一郎と申します。
- とつぜん眠れなくなったり、よく眠れない夜が何日も続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- たいていは一時的なものですが、長く続く場合には「不眠障害」という診断で医師の治療を必要とすることもあります。
- そこでこのページでは、不眠障害の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 不眠【ふみん】とは、睡眠の質や量が十分でないと感じる状態のことをいいます。 そして、不眠障害【ふみんしょうがい】とは、寝付けない、途中で何度も起きる、予定時間より早くに目が覚める、という不眠の3つの症状のうち1つ以上が、週3日以上、3か月以上続く状態です。
- 不眠障害には、なかなか寝付けない(入眠困難【にゅうみんこんなん】)、途中で何度も起きてしまう(中途覚醒【ちゅうとかくせい】)、予定よりずっと早くに目が覚めてしまう(早期覚醒【そうきかくせい】)、という3つの種類があります。
- 原因はまだ不明ですが、不安・緊張といったストレス、体やこころの病気、薬・アルコールや寝る環境などが影響することが知られています。
- 多くの場合、睡眠12箇条(下記掲載)を守り、カフェインの摂取を抑えたり、規則正しい生活を送ることや寝る環境を整えることなどでよくなります。改善しない場合はお薬による治療が必要になることもあります。
- ただし、不眠障害のお薬は、アルコールや運転への影響があったり、長期間飲むことで効かなくなったりやめにくくなったりする可能性もあるため、適正な量と期間を医師とよく相談することが重要です。
不眠障害はどんな病気?
- 不眠【ふみん】とは、睡眠の質や量が十分でないと感じる状態のことをいいます。
- 不眠障害【ふみんしょうがい】とは、寝付けない、途中で何度も起きる、予定時間より早くに目が覚める、という不眠の3つの症状のうち1つ以上が、週3日以上、3か月以上続く状態です。
- 睡眠に関する他の病気や、アルコール・薬物の影響だけではない病気の状態のことをいいます。
どんな症状がでるの?
- 不眠障害には、大きく分けて以下の3つの症状があります。
不眠障害の症状
- 入眠困難【にゅうみんこんなん】:寝ようと思ってベッドに入っても、なかなか寝付くことができない状態です。
- 中途覚醒【ちゅうとかくせい】:寝ている間に何度も起きてしまう、または途中で目が覚めるともう一度眠れない状態です。
- 早期覚醒【そうきかくせい】:予定の起きる時間よりもずっと朝早くに目が覚めてしまい、その後に寝付けない状態です。
不眠障害と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 以下のような症状がある場合には、病院へ受診してください。
病院・クリニックへ行くべき状態
- 週の半分以上続けて眠れない、それが何か月も続く
- 以前にも不眠障害で受診した経験があり、似た症状が出てきた
- もともと病気があり、その状態が悪くなって不眠も強くなった
- 不眠だけでなく、食事がとれない、強い不安がとれない、仕事・勉強・家事などが手につかない
- 最近出された薬を飲んだ後から不眠が出てきた
- 家族など周囲から、いびきがひどいと言われた、あるいはいびきが途中で止まっていると言われた
医療機関の選び方は?
- 最近はかかりつけの内科などでも上手に対応してくださることが多いですが、なかなか改善しない場合には、心療内科や精神科といった不眠障害を専門とする医療機関への受診をお勧めします。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 不眠障害でつらい場合は、以下のことをやってみてください。
病院・クリニックへ行く前に自分でできること
- 寝る前にカフェインやアルコールをとらない:とくにアルコールの代謝物質は覚醒作用がありますので、途中で目が覚める原因になる可能性があります。
- 寝る直前にパソコンやスマートフォンなどを使用しない
- 朝は決まった時間に早く起きる:休日などについゆっくり起きてしまうと、リズムがずれたままになってしまうことがあります。生活リズムを整えることが重要です。
- ストレスがある場合は、寝る前にリラックスできるようなことをやってみる
どんな治療があるの?
衛生指導
- 多くの場合、規則正しい生活や寝る環境の整備など、睡眠についての指導で改善が期待されます。(睡眠12箇条)
お薬による治療
- 衛生指導で改善しない場合はお薬で治療しますが、症状によって使うお薬が異なります。
- 入眠困難:短時間型もしくは超短時間型といわれる効き目が短い睡眠薬を使います。
- 中途覚醒:短時間型もしくは中間型といわれる効き目が短い~中くらいの睡眠薬を使います。しかし、効果が続く時間は個人差が大きいので、状況に応じて種類を選択します。
- 早期覚醒:中間型もしくは長時間型といわれる効き目が中くらい~長い睡眠薬を使います。
認知行動療法
- また、最近では認知行動療法という精神科の心のトレーニングも、効果があると言われています。
- もしお近くの医療機関で行われている場合には、お薬以外の治療の方法として選択肢になります。
お医者さんで治療を受けた後に注意することは?治療の副作用は?
- お薬の副作用として、翌日の眠気、集中力の低下があります。お薬を飲んだ後は車の運転はやめてください。
- 効き目の長い薬の場合には、朝起きた後に効果が続いている可能性があります。もし眠気やふらつきが強い場合には医師と再度ご相談ください。
- また、長期にわたって薬を飲むと、効かなくなる、またはやめにくくなる可能性もあります。適正な量と期間を医師とよくご相談ください。
不眠になりやすいのはどんな人?原因は?
- 不眠障害だけではなく、他の睡眠覚醒障害、心の病気などが原因で不眠になることもあります。不眠の原因になることをまとめました。
不眠障害の原因
- 生活リズムの乱れ:朝起きる時間が遅い朝寝坊、あまりに早い時間から横になることなども含まれます。
- 寝る前のカフェイン、お酒、ニコチン:お酒が代謝された物質には覚醒作用があり、中途覚醒の原因となります。
- ストレス:夜に心配事を考えてしまうと、寝付けない原因となります。
- 寝る直前のパソコンやスマートフォンなどの使用:パソコンやスマートフォンなどを寝る直前まで使用すると寝つきに良くないことが言われています。
注意すべき不眠になる他の病気
- 睡眠に関する病気:睡眠時無呼吸症候群(肥満や小さい顎などのため喉が狭く、いびきの際に呼吸が止まり、ぐっすり眠れない)、レストレスレッグ症候群(寝る時に脚がむずむずして眠れない)などがあげられます。これらの場合は通常の不眠障害と異なる治療が必要になります。
- 体の病気:呼吸器の病気(夜に呼吸が苦しくなる)、前立腺の病気(夜にトイレに起きてしまう)、痛みや痒みがあるなど。また、循環器の病気、消化器の病気、糖尿病、妊娠、パーキンソン病なども、不眠の原因になります。もともとこういった病気にかかっている場合には、かかりつけの医師とよくご相談ください。
- 精神の病気:うつ病、躁うつ病(双極性障害)、統合失調症、不安障害などが原因のことも少なくありません。早期覚醒が長く続いたときは、うつ状態のサインの場合もあります。不眠だけでなく、これらの治療も早く始めることが重要です。
お薬の影響
- 抗パーキンソン病薬、降圧剤、ステロイド、インターフェロン、甲状腺治療薬などは、不眠の原因になる可能性が知られています。これらを飲んで眠れなくなった場合には、担当の医師とご相談ください。
予防のためにできることは?
- もともと眠りにくい方もおられますし、眠れない症状はたいていの場合一時的なもので、慌てずにしばらく様子を見ていることで徐々に良くなることも多いです。
- 普段の生活での心がけが良い睡眠につながることもあります。厚生労働省が2014年に作った「健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~」に、良い睡眠のためのヒントが書かれています。内容のうちいくつかを以下に記載します。
よい睡眠のために普段から心がけること(睡眠12箇条より)
- しっかり朝食をとり、適度な運動で、睡眠・覚醒のメリハリをつける:朝食をとると体を目覚めさせます。日中に適度な運動をすると寝付きがよくなり、中途覚醒を減らすことにつながります。寝る前に激しい運動や夜食は寝つきを悪くするのでやめてください。
- 良い睡眠のための環境作り:寝る前はリラックスできるよう、寝室の温度や照明を工夫してみてください。寝る前に入浴する場合は、熱すぎない温度を心がけてください。
- 体内時計のリズムを保つ:体内時計は、朝の太陽の光によってリズムを刻みます。何日も続けて起きる時間が遅くなったり、朝暗いままの寝室でずっと過ごしたりしていると、体内時計のリセットが上手くいきません。もし寝付けなかったとしても、できるだけいつも通りの時間に起きて、太陽の光に当たってください。
- 睡眠に対して悪影響になるものを避ける:夜のお酒、カフェイン、ニコチン、寝る前のスマートフォンやパソコンは寝つきを悪くする可能性があります。
- 日中の長い昼寝に注意:昼寝をする場合には、午後の早い時間に20分間までにすることが勧められています。
- 横になる時間に注意:まだ眠くないのに焦って早く横になっても、「早く寝なければ」、「今夜は眠れるだろうか」と心配しながらでは、緊張して余計に眠れません。基本的には眠くなってからベッドに入ることが大事です。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 不眠障害で医療機関に受診した場合、正確な診断のためには特に患者さんのお話が重要になります。
- 下記のような情報をお医者さんに正しく伝えていただくと、診療の大きな助けになります。下記の情報などをメモにまとめておいて、当日見せていただけると医師としては非常にありがたいです。
診療の助けになる情報
- いつから眠れなくなりましたか? これまでにも眠れないことがありましたか?
- 眠れないのはどのくらいの頻度ですか? 何日に1回、または週に何日?
- 寝付けない、途中で何度も起きる、朝早くに起きてしまう、のどれに当てはまりますか?
- 寝る部屋の環境は? まぶしい、うるさいなど、気になることはありますか?
- 眠れないこと以外に体の症状はありますか? 息が苦しい、ドキドキする、胃の不調、痛み、かゆみなどはありますか?
- もともとの病気や飲んでいる薬はありますか?
- アルコール、タバコ、コーヒー、紅茶をどのくらいとっていますか?
- 強いいびきや、寝る前に手足のムズムズがありますか?
もっと知りたい! 不眠障害のこと
不眠を生じる他の睡眠覚醒障害
睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠時無呼吸症候群は、肥満や顎が小さいために喉が狭くなり、いびきの際に呼吸が止まる病気です。
- 寝ている間に頻繁に呼吸が止まり、その都度目が覚めてしまうために、熟睡できない、または夜中に起きてしまうなどの症状があります。
- 正確な診断にはポリソムノグラフィーという専門的な検査が必要なため、不眠障害の専門医の受診が必要です。
レストレスレッグ症候群
- レストレスレッグ症候群は、寝る時に脚がむずむずして眠れない病気です。別名「むずむず脚症候群」とも言われます。
- 最近は血液中の鉄の濃度が低いことが原因の一つとして可能性があると言われています。
周期性四肢運動障害
- 周期性四肢運動障害は、睡眠中に手や足がぴくぴくと繰り返し動いてしまう病気です。
- 寝ている間に手や足がぴくぴくと繰り返し動くので、途中で目が覚めてしまうという症状があります。
- 原因はまだよくわかっていません。
概日リズム睡眠覚醒障害
- 概日リズム睡眠覚醒障害とは、体内時計の調整がうまくいかない病気です。
- 寝る時間、起きる時間がずれたまま固定してしまう、あるいは日に日にどんどんずれていってしまうといった症状があります。
- 長期間の寝る時間-起きる時間のリズムを表に記録していただくことで、特徴が分かることも多いです。この場合は、高照度光療法やメラトニン受容体作動薬を用いた治療が行われることもあります。
不眠を生じるこころの病気
うつ病
- うつ病は、気分の落ち込みや不安、疲れやすさ、やる気・興味がなくなる、食欲が落ちる、といった症状が出ます。加えて高い確率で不眠も生じます。
- この場合は不眠の治療だけでは良くなることは少なく、うつ病自体の治療が必須になります。そのため、診察の際には睡眠だけでなく、気分や仕事・学校の様子、食事を含めた体調についてもお話を聞きます。
双極性障害(躁うつ病)
- 双極性障害は、上のうつ病に加えて、極端に気が大きくなってしゃべりすぎたり動きすぎたりする「そう状態」も伴うものです。そう状態では、むしろ自分で睡眠を必要と感じなくなるため、自分の意志で一晩中起きて活動してしまうことが特徴です。
- この場合も不眠の治療だけでは改善せず、双極性障害自体の治療が優先されます。
統合失調症
- 統合失調症は、周囲に対して過敏になりやすく、その場にいない人の声が聞こえたり、実際とは異なるのに自分が責められたり、狙われているような感覚があるといった症状があります。
- 恐怖や不安・緊張で夜間の不眠になることが多いのですが、不眠以外の症状を自分から医師に言いたがらないことが多く、気を付ける必要があります。
不安障害
- 不安障害の中でも様々な出来事や活動に過剰な不安を感じてしまう全般性不安障害は、不眠が起こることもあります。
- この場合は、不眠の背景に顕著な不安がないかどうか確認することが重要です。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 睡眠12箇条は、以下のウェブサイトでご覧いただけます。
- https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
- 少し専門的ですが、厚⽣労働科学研究班と日本睡眠学会による不眠治療のマニュアルも下記のwebサイトでご覧いただけます。
- 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン -出口を⾒据えた不眠医療マニュアル-
- http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf