呼吸機能検査:何がわかるの?どんな時に必要?異常があると言われたら?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器専門医の川山 智隆と申します。
- このページに来ていただいた方は、肺の健康あるいは喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎(肺線維症)の疑いまたはその心配があり、どのような検査があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 代表的な検査方法である呼吸機能検査について理解する上で役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
呼吸機能検査って何のこと?
- 呼吸機能検査とは、あなたの肺の能力を評価する検査です。
- 肺の能力は大きく分けて3つあります。1つめは息を吸う能力(肺活量)、2つめは息を吐く能力(1秒量)、そして3つめが酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す能力(肺拡散能)です。
- 息を吸う能力を測る方法は肺気量分画法【はいきりょうぶんかくほう】、息を吐く能力を測る方法は努力呼吸法【どりょくこきゅうほう】といい、いずれもスパイロメーターという機械を使って測定します。酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出す能力は、精密肺機能検査用の機械を使って測定します。
- 肺の能力は20歳から25歳までがピークで、そのあとは加齢に伴って衰えていきます。呼吸機能検査は、肺の健康状態を評価するだけでなく、肺の機能が異常になる病気を発見するのにも大きな役割をはたしています。
どんな人が呼吸機能検査を受ける必要があるの?
- 主に、咳や痰が長く続く方、息切れを感じる方、全身麻酔で手術を受ける方には、呼吸機能検査を受けていただきます。
- また、健康な方でも、埃っぽい環境で働いている方、タバコを吸われる方は、定期的に呼吸機能検査を受けていただいた方が良いかもしれません。
- アスリートの方の体力測定に利用されることもあります。
検査ができない、あるいは注意して行う必要がある場合
- ここ4週間以内に、脳卒中・心臓病・大動脈解離などの心臓や血管の病気をされた方は、病状が悪化することがあります。
- くしゃみや咳のほか、触ったりすることで他の人にうつる病気をおもちの方(肺結核やコロナウイルス、インフルエンザウイルス感染症など)は、器械を通して他の人に病気をうつしてしまう可能性があります。
- 過換気症候群やパニック障害をお持ちの方は、検査のための呼吸が難しい可能性があります。
- 妊娠中、または妊娠の可能性がある方は、お腹の赤ちゃんへの影響を考慮したうえで検査を行うか判断します。
どうして呼吸機能検査を行う必要があるの?
- 肺の検査と言えば、レントゲンやCTスキャンなどの画像検査が有名かもしれません。しかし、これらの画像検査では、肺の能力(機能)を測定することができないためです。
- 肺の病気のなかには、レントゲンで異常がなくても、肺の機能が異常になるものもあります。下記にあげた喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎(肺線維症)のような病気を疑う場合などに、呼吸機能検査が必要になります。
喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方の呼吸機能検査
- 喘息やCOPDの方は、1秒量が低下します。
- 肺活量と1秒量をそれぞれ1回測定した後、気管支を広げるお薬(気管支拡張薬【きかんしかくちょうやく】)を吸っていただきます。
- お薬を吸ってから15~45分後、もう一度1秒量を測定します。全体で50分程度かかります。
COPD・間質性肺炎(肺線維症)の方の呼吸機能検査
- COPDや間質性肺炎の方は、酸素を取り込む能力が衰えることがあります。
- 肺活量、1秒量を測定したのち、酸素を取り込む能力(肺拡散能)の測定を追加して行います。肺拡張能検査にかかる時間は5分程度です。
実際にはどんなことをするの?
- 呼吸機能検査を行う際、患者さんには口で呼吸をしてもらいます。鼻や唇から空気が漏れないよう、必ず鼻にクリップをつけて、マウスピースをきっちりくわえていただきます(図表1)。
- 患者さんが立って検査を行ったほうが正確とされていますが、安全面を考慮して、座って行うのが一般的です。
- 息の吐き方や吸い方は、評価したい肺の能力によって異なります。ここでは一般的に行われる、肺気量分画法、努力呼吸法(フローボリウム法ともいいます)、肺拡散能検査の3つの測定方法を説明します。
図表1 患者さんの準備
肺気量分画法
- 肺気量分画法とは、息を吸う能力(肺活量)を測定する方法です。スパイロメーターという機械を使います。
- マウスピースをくわえたら、慣れるまでふつうの呼吸をしていただきます。呼吸が安定したら、ゆっくりと息を吐きだし、吐き出せなくなる限界まで息を吐き出してもらいます。
- 息を吐けなくなりましたら、ゆっくりと息を吸い始めてもらい、今度は息が吸えなくなる限界まで吸ってもらいます。
- 息が吸えなくなりましたら、ゆっくりと吐いて、再度吐き出せなくなるまで吐いてもらいます。
- 吐けなくなりましたら、ふつうの呼吸に戻っていただき終了です。
努力呼吸法
- 努力呼吸法とは1秒量を測定する方法で、1秒間にどれだけ多くの息を吐きだせるかを調べる検査です。スパイロメーターという機械を使います。
- マウスピースをくわえたら、慣れるまでふつうの呼吸をしていただきます。呼吸が安定したら、いっきに大きく、吸えなくなる限界まで息を吸っていただき、そこからバースデーケーキのローソクの火を消すようにいっきに息を吐き出してもらいます。
- だいたい6秒間以上は吐き続けていただきます。それ以上吐けなくなりましたら、再度息を最大限吸っていただき、終了です。
肺拡散能検査
- 肺拡散能検査とは、酸素や二酸化炭素などのガスがいかにすばやく交換できているかを評価する検査です。精密肺機能検査用の機械を使います。
- マウスピースをくわえたら、ふつうの呼吸からいっきに吐けなくなる限界まで息を吐き出します。
- そこから微量の一酸化炭素を含んだ空気をいっきに吸えなくなる限界まで吸い込みます。限界まで吸ったら、10秒間息を止めます。10秒後にいっきに息を吐き出して、終了です。
- この検査は、肺活量が少なすぎると測定結果に誤差が生じることがあります。肺拡散能検査を受けてよいか、担当の医師に事前に確認しておいた方がよいでしょう。
コラム:一酸化炭素が肺拡散能検査に使われる理由
- 肺拡散能検査では、一酸化窒素がごく少量(0.3%)含まれている空気を吸い込んでもらい、吸い込む前と後の一酸化炭素の量を測定することで、どれくらい肺から血液に浸透したかを評価しています。
- ヒトの赤血球に含まれるヘモグロビンは酸素をくっつける力を持っていますが、一酸化炭素は酸素に比べて200倍以上ヘモグロビンとくっつきやすい性質を持っています。また、一酸化炭素は通常の空気には含まれていないため、評価がしやすくなります。
- 0.3%の一酸化炭素を吸入しても、体に害はありません。
検査の時間はどのくらいかかるの? 痛みはあるの?
- 準備を含めますと、だいたい10~50分程度かかります。ただし、うまく検査ができなかった方は同じ検査を何度か繰り返していただくこともありますので、予定より長くかかる場合もあります。
- 検査自体の痛みはありませんが、強く息を吸ったり吐いたりしていただきますので、疲れたり、胸が痛くなったりすることがあります。
理解しておきたい リスクと合併症
- 呼吸機能検査は、安全で苦痛が少ない検査のひとつですが、いっきに強く息を吸ったり吐いたりすることで、次のようなことが起こる可能性もあります。
意識が遠のく
- いっきに、しかも大きく息を吸ったり吐いたりするので、意識が遠のいて倒れる方もいらっしゃいます。
- 通常は、椅子に腰かけていただき、ゆったりした姿勢で検査を受けていただくと安全です。
過換気状態とテタニー症状
- いっきに大きく息を吐くことで、体から二酸化炭素がたくさん出過ぎてしまうことがあります(過換気状態といいます)。
- 二酸化炭素が少なくなると、冷や汗をかいたり、意識がぼんやりしたり、手や足がしびれて、指がつったようになって動かしにくくなります(テタニー症状といいます)。
- これらの症状は、安静にしていれば30分から1時間で自然によくなります。
気管支拡張薬の副作用
- 気管支拡張薬を使う検査を行った方は、一時的(30分程度)手が震えたり、胸がドキドキする副作用が出ることがあります。
検査後の注意点は?
- 検査後に注意していただくことは特にありません。
- 気分がすぐれない方、過換気・テタニー症状・手の震えや胸のドキドキがある方は、よくなるまで様子をみますので、ベッドなどで安静にしていただくことがあります。
検査後にこんな症状があったら病院に伝えてください
- 喘息やCOPDをお持ちの方は、ご自宅に戻られた後で、息をすると「ヒューヒュー」という音がするようになったり、呼吸をしにくく感じることがあります。お手持ちの気管支拡張薬を吸入してもよくならないときには、病院に連絡してください。
- 気分が優れない、過換気、テタニー症状、手の震えや胸のドキドキが再び現れた場合も、場合も病院に連絡してください。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 下記のウェブサイトやガイドラインをご参照ください。
ウェブサイト
- 日本呼吸器学会ホームページ 市民のみなさまへ 呼吸器Q&AのQ29
- https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=138
ガイドライン
- 日本アレルギー学会編集. 喘息予防・管理ガイドライン2018.(協和企画)
- 日本呼吸器学会編集. CODP診断と治療のガイドライン第5版2018. (メディカルレビュー社)
- 日本呼吸器学会編集. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. (南江堂)
もっと知りたい! 呼吸機能検査
そのほかの呼吸機能検査
気管支拡張薬を使った1秒量測定
- 喘息やCOPDをお持ちの方で、治療薬が効くかどうかを評価するために行います。気管支拡張薬を吸入してもらい、吸入の前後で1秒量が増加するか測定します。
- 気管支拡張薬が効くまでには15分から45分かかりますので、それまでお待ちいただきます。
- 喘息やCOPDだった場合、気管支拡張薬を吸った後で1秒量が改善します。
気道過敏性検査
- 気道過敏性検査は、1秒量を低下させるお薬(メタコリンやヒスタミン)を少ない濃度から吸入していただき、1秒量が20%以上低下するかを確認する検査です。
- 11本の異なる濃度の試薬をそれぞれうすい濃度の試薬から2分間吸入し、1秒量の測定を繰り返しますので、全部で1時間ほどかかります。
- 喘息の方の気道は刺激に弱いため、普通の人なら反応しないような少ない濃度のお薬でも刺激になってしまいます。喘息の診断や、喘息が治療でよくなっているかを確認するために行います。
強制オッシレーション検査法
- 喘息やCOPDの方は気道が狭くなるために呼吸が妨げられ(呼吸抵抗といいます)、1秒量が低下していることがあります。
- 強制オッシレーション検査法は、呼吸抵抗を測定するための検査法です。マウスピースを通して気管支に音波を流し、その跳ね返り具合を計算して、呼吸抵抗を測定します。
- 患者さんは通常の呼吸で測定できます。所要時間も5分程度です。