骨盤臓器脱:原因は?症状は?起こしやすい人は?どんな治療があるの?
更新日:2020/11/11
- 泌尿器科専門医・指導医、排尿機能学会専門医の関戸 哲利と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が骨盤臓器脱になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 骨盤臓器脱とは、膀胱・子宮・直腸などが腟の出口から外に出てしまう病気です。
- 女性に特有で、5〜10%の人がなる頻度の高い病気です。
- 出産や年をとることなどにより骨盤の底を支えている筋肉や靭帯などが傷むことが原因であると考えられています。
- お股に物が挟まったような感じに加え、尿や便、性機能に関わる症状が出ることがあります。
骨盤臓器脱は、どんな病気?
- 骨盤臓器脱とは、膀胱・子宮・直腸などが腟の出口から外に出てしまう病気です(図表1)。
図表1 骨盤臓器脱
[関戸哲利. 腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱. 長谷弘記, 関戸哲利, 遠藤敏子編集. Super Select Nursing 腎・泌尿器疾患. pp227-231. 学研メディカル秀潤社. 東京. 2013より改変引用]
- 女性に特有で、5〜10%の人がなる頻度の高い病気です。
骨盤臓器脱と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- お股に物が挟まった感じがする、ナスのようなものが腟から出ている感じがするなどがありましたら、泌尿器科のある病院にご相談ください。
骨盤臓器脱になりやすいのはどんな人?原因は?
- 出産を経験した方やお年寄りの方に多い病気です。
- 原因は、骨盤底を支えている筋肉(骨盤底筋)や靭帯などが傷むことで、筋肉や靭帯が骨盤内の臓器を骨盤内に保てず、骨盤臓器の脱出が起こります。
どんな症状がでるの?
- 以下のような症状が出ます。
骨盤臓器脱の症状
- お股に物が挟まった感じ、ナスのようなものが腟から出ている感じがする
- 尿が出にくい
- お腹に力を入れないと尿が出ない
- トイレに行った後も尿が残っているような感じがする
- 頻繁にトイレに行きたくなる
- 突然尿意が来て、トイレまで我慢できない
- 無意識に尿が出てしまっている
- 尿が全く出なくなる
- 便が出にくい
- トイレに行った後も便が残っているような感じがする
- 性的活動に支障を感じている
- 腰の痛みや下腹部の痛みが生じることもあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 婦人科検診と同様の砕石位(両足を上げ開脚した状態)と呼ばれる姿勢をしていただき、骨盤臓器脱の程度、骨盤底筋や靭帯の傷み具合を確認します。
- 経会陰超音波検査やお腹に圧をかけながらのMRI検査で骨盤内の臓器がどこにあるか確認します。
- その他にも排尿機能や排便機能の評価目的の検査を行う場合もあります。
どんな治療があるの?
- 治療は、ペッサリーによる矯正、骨盤底筋訓練、経腟メッシュ手術、腹腔鏡下仙骨腟固定術、腟閉鎖術が代表的です。
- 治療法に関しては、骨盤臓器脱の病期、主たる脱出臓器、ご年齢、既往歴、患者さんのご希望などを考慮して慎重に決める必要があります。
- 骨盤臓器脱をクッションで支えて脱出を防ぎ、下垂感などの自覚症状の改善が期待できるサポート下着も市販されています 。
ペッサリー
- ペッサリーによる治療は、ペッサリーという矯正器具を腟内に挿入して骨盤臓器が外に出ないようにします。通常はリング状のペッサリーが用いられます。(図表2)。
- 腟の粘膜が荒れたり、血が出たり、おりものが増えるなどの合併症を減らすために、患者さんご自身による着脱が望ましいとされています。起きている間はペッサリーを入れ、寝ている間は抜きます。
図表2 ペッサリーの種類
[鈴木省治,加藤久美子. 骨盤臓器脱: ペッサリー 自己着脱とメッシュ手術. 泌尿器ケア 13(増刊) :240-261, 2008より改変引用]
骨盤底筋訓練
- 骨盤底筋訓練は、弱った骨盤底筋を鍛え直すリハビリテーションです。
経腟メッシュ手術
- 膀胱が外に出てきている場合にメッシュを用いて、出てくるのを抑える手術です(図表3、4、5)。
図表3 経腟メッシュ手術(TVM手術)
図表4 腹腔鏡下仙骨腟固定術
図表5 経腟メッシュ手術と腹腔鏡下仙骨腟固定術
腹腔鏡下仙骨腟固定術
- 腹腔鏡下に骨盤臓器の「要石」に相当する子宮頸部をメッシュを使って仙骨に固定する方法です。
腟閉鎖術
- 性的活動のないお年寄りの患者さんで考慮される手術です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 手術を行った際には、骨盤内臓器の損傷や腟からの出血が起こる可能性があります。
もっと知りたい!骨盤臓器脱のこと
経腟メッシュ手術(TVM手術)について
適応
- 膀胱瘤が主体
- 性的活動なしあるいは希望しない
- 閉経後
実施を避けるべき患者さん
- 開脚制限
- 慢性に痛みがある(特に骨盤部)
- コントロール不良の糖尿病、ステロイド、免疫抑制剤使用中
利点
- 短時間で実施可能な低侵襲の経腟手術
欠点
- 手技の一部に盲目的操作が含まれる
- メッシュ関連合併症の問題
主な合併症
- 膀胱、尿管、直腸などの損傷
- 出血
- 腟壁などへのメッシュ露出
- メッシュ関連の疼痛
腹腔鏡下仙骨腟固定術について
適応
- 子宮脱が主体
- 性的活動あり
- 比較的若年
実施を避けるべき患者
- 手術時に頭を低くできない
- コントロール不良の糖尿病、ステロイド、免疫抑制剤使用中
- BMI>30
利点
- 全ての骨盤臓器脱に対処可能
- メッシュ関連合併症の率が低い
欠点
- 手術時間が比較的長い
主な合併症
- 膀胱、腸管、直腸、腟などの損傷
- 出血