心臓カテーテル法および冠動脈造影:どんな検査?痛みは?安全性は?
更新日:2020/11/11
- 循環器専門医の村松 崇、尾崎 行男と申します。
- このページに来ていただいた方は、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の疑いまたはその心配があり、どのような検査があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 代表的な検査方法である冠動脈造影検査について理解する上で役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 冠動脈造影【かんどうみゃくぞうえい】検査は、心臓に血液を送っている冠動脈【かんどうみゃく】という血管が狭くなっていないかを評価する検査です。
- 検査の目的は、狭心症【きょうしんしょう】や心筋梗塞【しんきんこうそく】とよばれる、心臓の血管の病気を評価する目的で行われます。
- 足の付け根や手首からカテーテルとよばれる細い管を入れて、造影剤という血管を見やすくするお薬を注入して血管の撮影を行います。
- 検査は通常1泊程度の入院で行い、検査時間は30分から1時間程度です。
- 現時点では虚血性心疾患を評価するうえで最も信頼できる検査です。
どんな検査?
- 検査は局所麻酔で行います。
- 太さが1~2mm程度の専用の細い管(カテーテル)を太ももの付け根または手首の動脈から入れて心臓まで進めます。
- カテーテルが冠動脈の入り口に入ったところで造影剤を入れながら冠動脈の画像をデジタル動画で撮影し、狭くなっていたり詰まっている部分がないかなどの異常を診断します。
図表1 健常者の右冠動脈
図表2 狭心症患者の右冠動脈
矢印の箇所が狭窄しているのがわかります
どういう人がこの検査を受けるべき?
- この検査はおもに、虚血性心疾患と呼ばれる心臓の栄養血管が狭くなっている可能性のある人に対して行われます。
- 特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症の方のうち、急激に冷や汗をともなうような胸の痛みがある場合や、運動するたびに胸の痛みがある人で検査を検討します。
- 時間が許す場合は、事前に血液検査や、心電図、トレッドミル負荷試験、心筋シンチグラフィーなどの検査をいくつか用いて、本当にこの検査が必要かを評価することもよく行われます。
- ヨード造影剤そのものによって害(合併症)が生じることもあるため、以下の方は検査ができない場合があります。
検査ができない場合
- 妊娠中、または妊娠の可能性がある方
- 過去にヨード系造影剤に対するアレルギーがあった方
- 喘息と言われたことがある方
- アレルギー体質や、アレルギーの病気がある方
- ヨード過敏症の方
- 腎臓の働きが悪い方
- 経口糖尿病薬(ビグアナイド系=メトホルミン)を飲まれている方
実際には、どんなことをするの?
検査前の処置
- カテーテルを入れる部分が手首の場合には特に処置はありませんが、足の付け根の場合は感染を防ぐために毛をそります。
- また、陰部に布を当ててカテーテルを入れるところからばい菌が入らないようにする場合があります。
- 検査中は寝台の上では大きく動かず、じっとしていることが必要です。
- その他、腎臓の働きが悪い方には腎臓への負担を減らすために、検査前に点滴を行うことがあります。
検査の手順
- カテーテルを入れる部分を消毒します。その後、からだ全体に滅菌した大きな布をかぶせます。なお、布の上は清潔を保っているため手などは出さないようにしてください。
- カテーテル検査ではカテーテルを入れる部分のみの局所麻酔を行います。細い針が刺さって、お薬が入っていくときにチクリとした痛みを感じます。
- その後動脈から太さが1~2mm程度の専用の細い管(カテーテル)を入れます。血管を傷をつけないよう慎重に心臓まで進めます。
- カテーテルが冠動脈の入り口に入ったところで血管を染めて見やすくするためのお薬である造影剤を注入します。
- 血管を様々な角度から撮影するため同時に、撮影装置が回転したり顔や体に近づいたりします。
- 検査が終わったらカテーテルを抜き、血管にできた穴を強く押さえて血を止める処置を行います。
検査に引き続いて治療が行われる場合
- 検査で冠動脈が細くなっている部分が見つかった場合は、そのまま、動脈を拡げる治療(経皮的冠動脈形成術:PCI)が行われることもあります。
検査にかかる時間は?痛みはある?
検査の時間について
- 施設にもよりますが、検査は原則として1泊2日程度の入院で行います。検査時間は冠動脈造影検査のみであれば通常30分から1時間程度で終わります。
- 検査に引き続いて治療を行う場合は、さらに長い時間がかかる場合があります。
検査中の痛みや苦痛について
- 針を刺す部分の皮膚に局所麻酔をします。この麻酔のときに痛みを感じることがあります。また、カテーテルを皮膚から血管に入れるときに、入れている部分が「押される」感じがします。
- 造影剤を注入するときに胸が熱く感じることがあります。数秒でおさまりますので心配しないで下さい。また、「ドキドキ」したり「少し胸が苦しくなる」場合があります。
- その他かゆい部分がある、気分が悪いなど気になることがありましたら気軽に周りのスタッフに声をかけて下さい。
他にどのような検査法があるの?
- 冠動脈造影検査の方法として、カテーテルを入れる方法以外に冠動脈CTスキャンによる検査方法があります。
- カテーテル検査と冠動脈CTスキャンそれぞれのメリットとデメリットを理解した上で、担当医とよく相談して検査方法を決めることが大切です。
- 冠動脈CTスキャンはX線を用いて体の断面(輪切りにした図)を撮影する検査です。最大のメリットは痛みや苦痛がなく短い時間で冠動脈の状態を評価できる点です。
- 他の臓器とは異なり心臓は常に動いていますので、心電図を付けて心臓の動きに合わせて撮影を行います。
- 血管を染めるための造影剤を注射して検査するのは冠動脈造影と同じです。
- より良い質の画像を得るために、心拍数の早い場合には心拍数を抑えるような薬を用いる場合があります。
- 血管が石灰化といってかたくなっている場合には血管の詰まり具合の評価が難しく、正確性においてはカテーテル検査に負けてしまうことがあります。
理解しておきたい リスクと合併症
- 検査に必要な処置によって引き起こされる望ましくないことを合併症と言います。冠動脈造影検査の代表的な合併症を下記に説明します。
- 下記のような合併症のほかにも、例えば検査のストレスにより胃潰瘍ができるなどの不測の合併症が起こることもあります。
血栓塞栓症
- カテーテルによって血管が直接傷ついたり、もともと血管壁に付いていたと考えられる粥腫(プラーク)や血のかたまりがはがれたりすることにより、全身の血管のどこかに詰まり、血の流れが悪くなることがあります。
- 中でも重大なものとして心筋梗塞や脳梗塞、腸間膜動脈塞栓症などがあり、いずれも命に関わりうる合併症です。それ以外にも腎臓や手足の血管が詰まったり、術後に動かないでいることによりふくらはぎなどの静脈に血のかたまりができ、肺に流れて肺血栓塞栓症を起こすこともあります。
出血
- 検査の間はヘパリンというお薬を用いて血をさらさらにして血のかたまりが出来ないようにしていますが、検査による緊張で血圧が極端に上がるなどの原因によって脳出血などの出血をおこす合併症が起きる可能性があります。
- また、カテーテルを入れていた部位からの出血もあります。
心タンポナーデ
- 心臓の周りに液体がたまる状態のことです。心臓は心嚢【しんのう】という袋で取り囲まれています。カテーテルが心臓や冠動脈の壁を突き抜けてしまい、心臓の外に血液が漏れると、この袋の中に血液がたまってしまうことがあります。外から心臓が押されることによって十分に血液が送り出せない状態になることがあります。これを心タンポナーデと呼びます。
- この場合には緊急で心嚢に針を刺して溜まってしまった血液を抜く処置(ドレナージ)が必要になります。
造影剤による合併症
- 冠動脈造影に用いられるヨード造影剤は人によりアレルギー反応を起こすことがあります。弱いアレルギーでは湿疹が出たり、一時的に気分不良を起こしたりするぐらいですが、強いアレルギーでは呼吸が苦しくなったりショック状態になったりします。
- まれに造影剤使用後10日程度して湿疹が出現することもあります。
- そのほかにも、造影剤は腎臓に負担をかけ、腎臓を悪くすることがあります。
神経の障害
- 一般的に動脈と平行して走っている神経を、針を刺したときに傷つけてしまうことがあります。
- そのため、手首からカテーテルを入れた際に神経を傷つけてしまうと指が動きにくくなったり、しびれが残ったりすることがありますが、いずれもほとんどの場合は一時的で元に戻ります。
エックス線被ばく
- 診断に用いる放射線(エックス線)の量は、通常体には影響がないレベルです。使用する放射線の量もなるべく低い量で必要以上な量は使わないように気をつけます。
- ただし、繰り返し検査を行う場合は医師と相談してください。
検査後の注意は?
- 検査終了後、一定の時間、針を刺した部位を押さえて止血しなければなりません。
- 足の付け根から入れた場合では、数時間ベッド上で安静にすることとなります。
- 術後もしばらくは激しい運動は避け、水分をこまめに摂取するようにしてください。
検査後にこんな症状があったらスタッフに伝えてください
- 皮膚にできものができたり、かゆい部分がある、息苦しい、気分が悪いなど気になることがありましたら気軽に周りのスタッフに声をかけて下さい。
- まれにカテーテルを入れていた部分から出血する場合があります。検査後に急な痛みや腫れを感じた場合にはスタッフに知らせて下さい。
- 術中、術後にしゃべりにくくなったり、体が動かしづらかったり、おなかや背中が急に痛くなったときは血栓塞栓症の可能性があるのですぐにスタッフに知らせてください。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 日本循環器学会 ホームページ
- http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf