鼻・副鼻腔の内視鏡手術:どんな治療?合併症は?術後の再発は?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の野口 直哉と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身またはご家族、お知り合いの方が副鼻腔炎で手術治療を勧められ、実際どのような手術がなされるのかについて知りたいと考えておられるかもしれません。
- 現在、主流となっている内視鏡下副鼻腔手術ついて理解するために役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 副鼻腔炎では、お薬やネブライザーといった治療で良くならない場合に、鼻の穴から内視鏡を使って行う手術が必要になります。
- 内視鏡手術は、鼻腔と副鼻腔の間に十分に通り道ができるように、鼻の中から副鼻腔の出入り口を大きく広げる手術です。
- 手術後も、炎症を抑えるためのお薬や鼻の処置がしばらく必要となります。
どんな治療?
- 副鼻腔の内視鏡手術は、内視鏡を使って鼻の中から行い、副鼻腔炎などで、炎症を起こしている副鼻腔(鼻の周りの空洞)の出入り口を広げて、炎症が治まりやすくする治療です。
- 通常、副鼻腔炎の治療は、お薬やネブライザー療法(お薬などを吸う治療)を行いますが、良くならない場合は手術で治療します。
コラム:以前の手術はどんなの?
- 以前の手術は、上くちびるの裏側から歯茎を切り、頬の皮膚をめくり上げ、頬の骨に穴を開けて副鼻腔に入り、悪い部分(炎症を起こしている病気の粘膜)を剥がし取っていました。
この治療の目的や効果は?
- 内視鏡手術の目的は、炎症を起こしている副鼻腔の出入り口を広げ、炎症によって副鼻腔内に貯まったものが外に出やすくなること、かつ十分に副鼻腔に空気が通るように形を整えることです。
- 内視鏡手術は副鼻腔炎が治りやすいように鼻の中や副鼻腔の形を整えるものなので、手術後も炎症を抑えるお薬や粘膜の働きを整えるお薬で治療を続ける必要があります。
コラム:副鼻腔炎はなぜなかなか治らないの?
- 副鼻腔炎が治りにくい理由は、2つあります。ひとつは副鼻腔が老廃物を外に出すのに不利な形となってしまっていること、もうひとつは粘膜の働きが弱ってしまっているためだと考えられています。
- 本来、副鼻腔の中の老廃物は、粘膜の働きによってベルトコンベアのように副鼻腔の外(鼻腔)に出されます。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 以下のような方は、この治療を勧められます。
治療を勧められる方
- 薬やネブライザー療法を3〜6ヶ月行っても副鼻腔炎が良くならない方
- 具体的には、鼻水、鼻づまり、後鼻漏(鼻水がのどにおりてくる)といった鼻の症状が続いている場合や、レントゲン写真で副鼻腔の影がよくならない場合に手術が選択されます。
- 鼻の中に大きな鼻茸(炎症によって粘膜がむくんだもの)がある方、鼻の中が鼻茸でいっぱいな方
- 初めて診る場合にそれらがあったら、薬やネブライザーだけでは完全に治らないことがほとんどなので、すぐに手術を勧められることがあります。
実際には、どんなことをするの?
- まず手術の前に、副鼻腔の炎症がどこまで拡がっているのか、副鼻腔や鼻の中(鼻腔)がどんな形をしているのか、事前にCT画像(レントゲンの断層写真)で検査します。
- 手術では、鼻の穴から内視鏡と細長い器具を入れ、炎症を起こしている副鼻腔の出入り口を大きく広げていきます。
- 具体的には鼻腔と副鼻腔の間にある薄い骨の壁を外します。炎症によって副鼻腔内に貯まっているものを吸い出します。強くむくんだ副鼻腔内の粘膜の一部を切ることはありますが、粘膜は剥がし取らずに残します。最後に出血しないように、ガーゼを鼻の中に入れたり、最近では血を止める作用をもつ柔らかい綿状のものを詰めたりします。
コラム:副鼻腔の種類
- 鼻腔を取り囲んでいる副鼻腔には4つの部位があり、上顎洞(頬の奥)、篩骨洞(眼と鼻の間の奥)、前頭洞(おでこの奥)、蝶形骨洞(鼻の一番奥)と名前が付いています。
コラム:手術時間について
- 片鼻か両鼻か、さらには副鼻腔炎の拡がり具合や副鼻腔の形(なかには手術が難しい形があります)によって手術時間は異なります。概ね1時間から3時間程度です。
- 予定手術時間は事前に伝えられますが、状況により延長したり早く終わったりします。また、単純に手術時間だけでなく、手術前の麻酔をかける時間や手術の準備をする時間、また、術後の処置や麻酔から目が覚めるまでの時間などが必要になるため、予定手術時間よりもおおよそ1時間前後の時間が必要になります。
コラム:麻酔について
- 最近では全身麻酔で手術を行うことが多いです。
- 手術が終わったら麻酔薬の使用を中止し、手術室の中で目が覚めます。呼吸の安定が確認されてから手術室を出て、通常は一般病棟に戻ります。
他にどのような治療があるの?
- お薬やネブライザー療法で良くならない副鼻腔炎に対しては、通常は副鼻腔の出入り口を広げる手術が行われますが、場合によっては以下のような治療が選択されることもあります。
鼻茸切除術
- 鼻茸が副鼻腔の出入り口を塞いでいる場合は、内視鏡を使って鼻茸を切り(副鼻腔の出入り口を広げずに)、引き続きお薬の治療を行うことで炎症が治まることがあります。
- 鼻茸を切るだけなので局所麻酔で日帰りの手術をすることができますが、副鼻腔内視鏡手術ほどの効果は期待できません。
抜歯
- 副鼻腔炎の中には、上あごの歯の根っこの炎症が原因になっているものがあります。この場合は、歯を抜いて炎症のもとを取れば、お薬やネブライザー療法を続けると2〜3ヶ月で副鼻腔炎が治ることがあります。
治療を受けるにあたって
- 治療を受けるにあたって、お伝えしたいことは以下の通りです。
術前の評価
- 基本的には全身麻酔での手術になるので、手術前に採血、胸のレントゲン写真、心電図検査、肺活量の測定など、全身麻酔での手術に問題がないかどうか評価する必要があります。
お薬について
- 手術まではそれまでの薬やネブライザーを続けていただき、炎症を悪くさせないことが重要です。風邪をひくと副鼻腔の炎症が悪くなり、手術にかかる時間が長くなることもあるので、体調管理にも気を付ける必要があります。
- 他の病気で血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合は、一時的に薬をやめる場合があります。
理解しておきたい リスクと合併症
- 内視鏡下副鼻腔手術のリスク、起こりうる主な合併症は、以下の通りです。
リスク、起こりうる主な合併症
- 出血
- 感染
- 痛み
- 眼の合併症(目を上手く動かせない、視力が悪くなる、涙がこぼれる)
- 頭の合併症(頭の中の液が鼻に漏れる、感染症)
- 解剖学的な位置関係から副鼻腔手術に際して上記のような合併症が起こる可能性がありますが、手術は解剖を熟知し経験を積んだ医師によって細心の注意のもとに行われます。
出血について
- 手術中の出血は通常はそれほど多くはありません。ただし、鼻の中にも動脈の小枝が何本か走っているので、こういった血管から出血が起こる場合があります。手術中は出血している部位がわかりますので、出血部位を電気で焼くことで問題なく血を止めることができます。
- 手術後はガーゼや血を止める作用をもつものを鼻の中に詰めておきます。しかし、手術当日から翌日にかけては鼻血がのどの方に少したれ込んでいきます。時間とともに次第に落ち着くので、飲み込まないでつばと一緒に口から出して下さい。
感染について
- 手術した部位に細菌が感染すると、熱や痛みが出る恐れがあります。手術中と手術後には感染の予防のために細菌をやっつける抗菌薬を使うので、感染が問題になることは稀です。
- 感染が考えられる場合は、鼻の中に詰めたものを早めに抜いたり(少し鼻血がでる可能性があります)、抗菌薬を続けたりします。
手術後の痛みについて
- 手術後の痛みは通常は軽いです。痛み止めで落ち着く程度の痛みです。
- 痛みがあるときには痛み止めを使えるので、医療スタッフに伝えて下さい。
眼の合併症について
- 副鼻腔の隣には、眼球や視神経、眼球を動かす筋肉が入っているスペース(眼窩)があります。例えば副鼻腔から眼窩の方へ器具が入ってしまった場合、眼の動きの障害や視力の障害といった合併症が起こる可能性があります。
- 鼻の中には涙の通り道(鼻涙管)があります。鼻涙管が傷ついて詰まってしまった場合、涙が鼻に抜けないため眼からこぼれる(流涙)症状が出る可能性があります。
頭の合併症について
- 副鼻腔の上には脳が入っているスペースがあります。副鼻腔とこのスペースの境界(頭蓋底)を手術で傷つけると、頭の中の液(髄液)が鼻の方に漏れてくる(髄液漏)可能性があります。
- 傷ついたところから菌が感染すると髄膜炎という頭の感染症を起こす可能性があります。
- 髄液漏が生じたら、鼻の中の組織を使ってその場で頭蓋底の傷つけた部分(穴)を塞ぎます。手術後はしばらく上半身を起こしてベッド上で安静にしていただく必要があります。
治療後について
- 治療後の注意点は以下の通りです。
- 治療後も、炎症を抑えるお薬や粘膜の働きを整えるお薬を使います。
- これは、副鼻腔炎に対する内視鏡手術は、副鼻腔炎が治りやすくなるように鼻・副鼻腔を整えるもので、炎症を起こしている副鼻腔の粘膜は残るためです。
- 手術後しばらくは、鼻の汚れを取り除く必要があります。
- 手術の時の出血が固まったものや分泌された物で鼻の中が汚れるので、鼻の中をクリーニングするための処置をします。また生理食塩水で鼻の中を洗うこともあります。
- 以上のように、手術後も定期的に病院へ来ていただくことになります。
コラム:再発するの?
- 風邪などをきっかけに副鼻腔炎がまた起こることがあります。体調管理に気をつけて頂くことが大切です。
- 鼻茸が再発したとき、大きく広げた副鼻腔がまた閉じそうになってきたときなどは、小さな再手術(通常局所麻酔)が必要になることがあります。
- アレルギー反応が強く関わっている副鼻腔炎(喘息をお持ちの方など)は手術をしても再発しやすいと言われております。
もっと知りたい! 鼻・副鼻腔の内視鏡手術のこと
副鼻腔炎の手術は痛いと聞いたのですが?
- 手術後の痛みはひどくありません。痛み止めで十分落ち着く程度だとお考え下さい。また、手術は通常全身麻酔で行うので、手術中に痛みを感じることはありません。
- お顔の真ん中の手術なので、痛みが心配なのはごもっともです。以前は上くちびるの裏から頬をめくって頬の骨に穴を開けて副鼻腔に入っていました。このため術後に顔が腫れたり痛みが強くでたりしていましたが、内視鏡下の手術は鼻の中のみで行うのでそこまで痛くありません。
副鼻腔炎の手術では術後に顔が腫れると聞いたのですが?
- 内視鏡手術では、鼻の外に傷が付くことはなく、原則として顔が腫れることはありません。しかし、以前の手術方法では術後に顔が腫れることがありました。
入院期間はどれくらい?
- 病院によって異なりますが、数日から1週間程度だとお考え下さい。