がん患者の口腔管理:どんなことに気をつけるの? どんなときに受診する?
更新日:2020/11/11
- 歯科医師の八岡 和歌子と申します。
- このページに来ていただいた方は、がんの治療中にお口に関してお困りのことや、気になられることがあるかと思われます。
- がんの治療時に役に立つ、お口の管理に関する情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただきました。
目次
まとめ
- がんの治療時には、副作用として口内炎ができるなど口に関するさまざまなトラブルが生じることがあります。
- がんの治療前や、治療中に副作用が生じた際には歯科を受診して適切な処置を受けることで、安全にがん治療をうけることができます。
手術のとき、口の中はどうケアすればよいの?
どんな問題があるの?
- 口の中には、とても多くの細菌がいます。
- 全身麻酔の際、人工呼吸を行うために口から気管へ細いチューブを入れますが、口の中が汚れていると、細菌などがチューブを伝って肺へ流れ、手術後に肺炎を起こしやすくなります。
- また、ゆれている歯や、外れそうな詰め物があると、手術中に取れて危険です。
歯科を受診するタイミングは?
- 手術前までに歯科を受診し、歯のクリーニングや、ゆれている歯がないかなどの確認を行ってください。
- 総入れ歯(義歯)の場合でも、舌や粘膜をきれいにすることが大切です。
化学療法をうけるとき、口の中はどうケアすればよいの?
どんな問題があるの?
- お薬(抗がん剤)を使う化学療法をうけると、次のような口のトラブルを生じることがあります。
抗がん剤で生じる可能性のある口のトラブル
- 口内炎
- 食べ物のなどの味がわからなくなる味覚異常
- 口の中の乾燥
- 口の中のカビやウイルスによる感染(※免疫が下がる時期)
- 虫歯や歯周病など、口の中の細菌が原因で熱が出る(※免疫が下がる時期)
歯科を受診するタイミングは?
- 化学療法が始まる前までに歯科を受診し、口の中のチェックやクリーニング、歯磨きや清掃器具の選び方について指導をうけてください。
- 副作用が生じた際は、早めに歯科を受診してください。症状に合わせた処置や処方、セルフケアや清掃器具の選び方の指導をうけられ、より悪くなるのを予防できます。
予防や、早く良くなるために、自分でできることはないの?
- 歯磨きやうがい、入れ歯の清掃をして、口を清潔に保つようにしてください。
- うがいは普段より多く行い、口をうるおすようにしてください。
- スプレー式やジェルタイプの保湿剤を使うことも効果があります。
薬剤関連顎骨壊死ってなに?
- がんの骨への転移に対して、骨折の予防や痛みをやわらげるために使用するお薬(ビスフォスフォネート製剤など)や、がんに栄養を供給する血管が新しくできるのを抑制するお薬(抗がん剤の血管新生阻害薬)を長期に使用すると、顎【あご】の骨に炎症が生じ、さらに腐ってしまう顎骨壊死【がっこつえし】が生じることがあります。
どんな症状がでるの?
- 薬剤関連顎骨壊死では、次のような症状がでます。
薬剤関連顎骨壊死の症状
- 口の中の痛み
- 下唇や顎のしびれ
- 歯肉の腫【は】れ
- 進行すると、歯肉に白く硬いもの(骨)が出てくる、歯がゆれ動くようになる、歯が抜ける、
歯科を受診するタイミングは?
- 原因となる薬を使用する前になるべく早めに歯科を受診し、口の中のチェックやクリーニング、歯磨き指導などをうけてください。
- 歯を抜く必要があれば、薬を使用する前までにすませておき、また、薬を使用した後に歯を抜くことが必要になった場合は必ず歯科医師に薬を使用していることを伝えるようにしてください。
- 合わない入れ歯を使っていると粘膜に傷をつくり、そこから炎症が起こることがあるので、入れ歯は早目に調整してください。
- 薬を開始した後は、定期的に口のチェックやクリーニングをうけるようにしてください。
- 顎骨壊死が疑われた際は、早めに歯科を受診してください。治癒しやすく、より悪くなるのを予防するために、症状に合わせた処置や処方、セルフケア指導がうけられます。
予防のために自分でできることはないの?
- 歯磨きやうがい、入れ歯の清掃をして、口を清潔に保つようにしてください。
- 口が乾燥している場合は、口をうるおすようにしてください。
頭頸部癌放射線治療をうけるとき、口の中はどうケアすればいいの?
- のどや口などにできるがん(頭頸部がん)に放射線を当ててがんを死滅させる治療(放射線治療)では、次のような口に関するトラブルが生じます。
頭頸部がんに対する放射線治療の副作用
- 口内炎
- 口の中の乾燥
- 食べ物のなどの味がわからなくなる(味覚異常)
- カビやウイルスなどの感染症
- 食べ物などをうまく飲み込めない(嚥下【えんげ】障害)
- 放射線治療後も口の乾燥が長引くことがあります。そうすると口の環境が悪化し、虫歯ができやすい(放射線性う蝕【うしょく】)、細菌が増え肺炎になりやすいなどのリスクがあります。
- 顎の骨に当たった放射線の影響は生涯残ります。重度の虫歯や歯周病、合わない入れ歯による傷、抜歯後の傷などが感染を起こし、顎の骨が腐ることがあります(骨髄炎、顎骨壊死)
歯科を受診するタイミングは?
- 放射線治療を開始する前になるべく早めに歯科を受診し、口の中のチェックやクリーニング、歯磨き指導などをうけてください。
- 歯を抜く必要があれば、放射線治療を開始する前までにすませておき、また、放射線治療が終わった後に歯を抜くことが必要になった場合は必ず歯科医師に放射線治療を受けたことを伝えるようにしてください。
- 入れ歯が合わないようであれば、早目に調整を行います。
- 放射線治療開始後は、定期的に口のチェックや清掃をうけるようにしてください。
- 放射線治療が終わった後も定期的に歯科を受診し、歯科検診やクリーニング、虫歯予防のためのフッ化物の塗布を行ってもらってください。
予防のために自分でできることはないの?
- 歯磨きやうがい、入れ歯の清掃をして、口を清潔に保つようにしてください。
- 歯みがき粉は、なるべくフッ化物配合の物を選ぶようにし、口内炎などでしみるときは、一時的に刺激の少ない製品に変更したり、使用を控えてください。
- うがいは普段より多く行い、口をうるおすようにしてください。
- スプレー式やジェルタイプの保湿剤を使うことも効果があります。
追加の情報を手に入れるには?
- がん患者の口のケアについてよりくわしく知りたいときは、下記の国立がん研究センター「がん情報サービス」のページを参照してください。
- ganjoho.jp