移植片対宿主病:どんな病気?どういう時に起こるの?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 血液専門医の薬師神 公和と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると造血幹細胞移植の副作用として移植片対宿主病について説明され、不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
- ここでは主に造血幹細胞移植後の移植片対宿主病について説明します。
目次
まとめ
- 移植片対宿主病【いしょくへんたいしゅくしゅびょう】とは、ドナーのリンパ球が患者さんの体を他人と考えて攻撃する病気です。
- 移植後早い時期に発症する急性移植片対宿主病と、移植後約3ヶ月以降から発症する慢性移植片対宿主病があり、それぞれ症状が違います。
- 移植片対宿主病については、ご自分で判断せず、担当の先生に相談してください。
移植片対宿主病は、どんな病気?
- 移植片対宿主病【いしょくへんたいしゅくしゅびょう】とは、ドナー(臓器をあげる人)のリンパ球が、患者さんの体を他人と考えて攻撃する病気です。英語の病名を略して、GVHDと呼ばれることが多いです。
- 造血幹細胞移植後の合併症として有名です。
- 肝臓、小腸、膵臓などの臓器移植においても、移植した臓器の中に含まれるリンパ球が原因で発症することがあります。
- 移植後早い時期に起こる急性移植片対宿主病と、移植後約3ヶ月以降に発症する慢性移植片対宿主病があります。
コラム:輸血後の移植片対宿主病
- 輸血後の移植片対宿主病もありますが、輸血製剤に放射線を当てるようになってから発症の報告はありません。
移植片対宿主病と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 移植片対宿主病に限らず、移植後は体に何か変化があれば、病院に連絡して受診するようにしてください。
- 移植後の合併症はいろいろあり、対応が遅れた場合に命にかかわることもあります。ご自身での判断は危ないことがありますので、注意が必要です。
移植片対宿主病になりやすいのはどんな人?原因は?
- ドナーと患者のHLA(白血球の血液型のようなもの)が一致していない、女性ドナーから男性患者への移植、ご高齢の患者さんなどで移植片対宿主病が起きやすいと言われています。
- 慢性移植片対宿主病は、骨髄移植や臍帯血移植よりも末梢血幹細胞移植を受けた場合に起きやすいと言われています。
どんな症状がでるの?
- 急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病があり、それぞれ症状が違います。
急性移植片対宿主病
- 皮膚の場合:皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、痛くなったりすることがあり、時として水ぶくれができるようなこともあります。
- 腸の場合:水のような下痢、吐き気、嘔吐、食欲がなくなるなどがあります。
- 肝臓の場合:皮膚や白目が黄色くなり、だるくなることがあります。
慢性移植片対宿主病
- 急性移植片対宿主病と違い、症状は様々です。息切れがすることもあります。
- 皮膚の場合:赤くなる、黒くなる、白くなる、硬くなる、爪がぼろぼろになる、汗がでにくくなる、髪の毛が抜ける、白髪が増える、関節が硬くなるなど。
- 口の場合:口の中が乾燥する、口内炎ができるなどがあります。
- 目の場合:目が乾く、痛い、まぶしい、まぶたのむくみなどがあります。まれに白目が黄色くなることもあります。
- 消化管の場合:食欲がない、吐き気、嘔吐、下痢などがあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
急性移植片対宿主病の場合
- 原則として、症状がある部分の組織を採って(生検といいます)、診断します。
- 皮膚の症状があるときは、皮膚生検を行います。
- 消化管の症状があるときは、胃カメラや大腸カメラを行い、消化管がどうなっているかを確認して、生検をして診断します。
- 皮膚や白目が黄色くなれば、肝臓の生検をすることもあります。
慢性移植片対宿主病の場合
- 急性移植片対宿主病と同じ検査をする場合と、診察だけで診断できる場合とがあります。
- 症状に応じて、眼科、歯科・口腔外科、婦人科の医師に相談することもあります。
どんな治療があるの?
急性移植片対宿主病の場合
- 軽症の場合には、予防として用いている免疫抑制剤(シクロスポリンやタクロリムス)の量を調節します。皮膚の移植片対宿主病であれば、ステロイドの塗り薬などの治療を行います。
- 中等症以上の場合には、ステロイドの点滴あるいは飲み薬で治療を行います。
- ステロイドの効果が不十分であれば、さらに多い量のステロイドを用いたり、ミコフェノール酸モフェチル、抗胸腺細胞グロブリンといった免疫抑制剤やヒト間葉系幹細胞を用いたりします。
慢性移植片対宿主病の場合
- 一般的には、皮膚などで軽症の場合はステロイドやタクロリムスなど免疫を抑制できる塗り薬、眼の場合には点眼薬など、症状の出ている所の治療を行います。
- 中等症から重症の場合や症状の出ている所の治療だけでは効果が不十分な場合には、ステロイドの飲み薬を使います。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 移植片対宿主病の治療は、基本的に免疫を抑える治療になるので、感染症には注意が必要です。
- ステロイドには感染症の他にも、眠れなくなったり、気持ちが落ち込んだり、顔が丸くなったりするなどのいろいろな副作用があります。ですが、勝手に中止することは非常に危険ですので、必ず担当医の指示に従ってください。
- 治療中に何か変わったことがあれば、担当医にお伝えください。使っている薬の副作用なのか、移植片対宿主病の新たな症状なのか、別の移植後の合併症なのかによって、対応が変わります。
予防のためにできることは?
- 免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン、ステロイドなど)が処方されている場合には、担当医の先生の指示に従って、正しく飲んでください。
- 皮膚を保湿することは大事です。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
急性移植片対宿主病の場合
- 軽症の場合は外来で診ることもありますが、中等症、重症の場合は入院が必要となります。数日以内で症状が消えることもあれば、長期間になる場合もあります。
- 治ることを期待して治療を行いますが、治療が難しかったり、慢性移植片対宿主病に移行したりする場合もあり、治療期間が数週間〜数ヶ月かかることもあります。
慢性移植片対宿主病の場合
- すぐに治ることはあまり期待できず、数ヶ月から何年にもわたって治療が必要になることが多いため、焦らずに治療することが大事です
追加の情報を手に入れるには?
- 移植片対宿主病に関しては日本造血細胞移植学会の下記のページを見るとよいでしょう。