両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D):どんな治療?治療を受けるべき人は?治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 循環器・不整脈専門医の上野 亮・小林 義典と申します。
- このページに来ていただいた方は、突然発症する危険な不整脈や、日常生活程度の労作でおきてしまう息苦しさなどについてのお悩みがあり、ご自身で両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器について調べたり、医師から挿入をお勧めされているかもしれません
- 両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器がどんな医療機器であるか、手術方法や合併症、植え込み後の生活に関してなど、不安なくこの治療を選択することができるように役に立つ情報をまとめました。
- 日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器は、命に関わる重症の不整脈(致死性心室性不整脈)や重症心不全の治療法として、最も効果の高い治療の一つです。
- 不整脈の発症時に、植え込み型除細動器がすばやく検知し、電気ショック等の適切な治療を自動で行うことにより突然死を防止する植え込み型除細動器の機能と、左心室を両側から挟み込んで電気刺激し、少しでも心機能を良くしようとする機能の両方を兼ね備えています。
- 治療を受けることで、治療前よりも息苦しさが改善したり、より安心して治療前とほぼ同様の日常生活を送ることができるようになります。
- 誤作動や、数年後の電池交換の必要性、機器感染等のデメリットもありますので、担当の先生とご相談の上、ご自身の納得のいく治療を選択してください。
どんな治療?
- 両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器は、心室を2か所から同時に電気刺激できる機能のついた植込み型除細動器のことを言います。
- この機器は胸部へ植え込まれます。右心室側と左心室側から挟み込むようにして、左心室を同時に電気刺激することにより、心不全症状を改善させます。
- また、突然起こった心室頻拍や心室細動などの死に至る可能性のある不整脈を自動的に検知し、電気刺激や電気ショックにより正常な心拍に戻す医療機器です。
- 両⼼室ペーシング機能付き植え込み型除細動器は、英語では⼀般的に“CRT-D”と略され呼ばれます。
- チタンでできた本体の中にマイクロコンピューターと電池が内蔵されており、右心房、右心室、左心室に先端を留置した、シリコンでカバーされたリード線と接続します。
コラム:心臓ペースメーカーとICDの違い
- 心臓ペースメーカーは洞不全症候群や高度房室ブロックなど、徐脈性不整脈(脈が遅くなり症状が出る不整脈)の治療をする機器です。
- ICDは心室頻拍や心室細動などの頻脈性(脈が速くなる)不整脈を治療する機器です。
- CRT-Dには心臓ペースメーカーとICDの機能が備わっています。心臓再同期療法が必要な患者さんは、多くの方が徐脈性不整脈や頻脈性不整脈を合併しているからです。
- CRT-D本体の大きさは、心臓ペースメーカーよりも二回り、ICDよりも一回り大きく厚い構造になっています。
この治療の目的や効果は?
- CRT-D治療の目的は、心不全症状の改善によるQOLの改善です。
- 平地や階段での歩行、室内での家事などでも息切れや呼吸困難が出てしまう、ふだんから足のむくみがとれない、ベッドから起き上がるのもつらいような重症心不全の患者さんにCRT-D植え込みを行い、症状なく日常生活を送ることができるようにすること、症状が少しでも改善することを目指します。
- 突然起こった心室頻拍や心室細動などの死に至る可能性のある不整脈を自動的に検出し、電気刺激や電気ショックにより正常な心拍に戻します。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- CRT-D植え込みを行うのは重症心不全の方のうち、適応基準を満たして症状の改善が見込める方に行うことになっています。
- 具体的には、治療しうる薬物療法をすべて行っていても、日常の生活等の軽労作でも心不全症状が出現し、心室がきちんと収縮できていない、特に左心室の収縮不全を呈する患者さんです。
- 心不全の重症度分類には、NYHA分類が広く用いられます。軽症から重症でclass I-IVに分類されていますが、CRT-Dの適応は日常生活が軽度から中等度に制限される状態のclass IIかそれよりも重症の患者さんになります。
- CRT-D適応基準に関しては、やや専門的になりますので、担当の医師によくお話を伺うことをお勧めします。
コラム:QRS幅に対する治療効果について
- 心電図でのQRS幅は、左心室が同時に収縮しているかどうかの指標になります。QRS幅が150ミリ秒以上や、左脚ブロックという心電図上の特徴がある患者さんは特に心臓再同期療法の効果が見込めるとされています。
実際には、どんなことをするの?
手術の実際
- 植え込み術は手術室または心血管造影室にて、清潔な環境下で行います。
- 全身麻酔や局所麻酔の後に、鎖骨から3-5cmほど下の皮膚を切開し、皮下または胸筋の下にCRT-D本体を入れるポケットを作成します。
- 次に、鎖骨の下にある静脈からリード線と呼ばれる導線を挿入、リード線が2本の場合はそれぞれ右心室と冠静脈洞へ、3本の場合はそれぞれ右心房、右心室、冠静脈洞へ挿入し、本体と接続します。
- リード線と接続した本体をポケットに収納し、創部を縫合して手術を終了します(図表1)。
- 手術時間は約3時間程度です。重篤な合併症はまれであるものの、周術期死亡、感染症、出血や血腫、気胸、心臓穿孔による心タンポナーデなどが報告されています。
図表1 両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器
手術後の流れ
- 手術後は、創部に出血や血種、感染がないか、心臓内に留置したリード線の位置がずれていないかなどを、診察により、適宜血液検査、胸部レントゲン、心電図等で確認します。
- 術後1~2週間程度で退院できます。
- 創部の縫い方にもよりますが、最近は抜糸を必要としないことのほうが多いです。
- 手術した側のほうの肩は、リード線の位置がずれることを避けるため、術後数週間程度まで必要以上に挙げない、グルグルと回さないほうが良いと思います。
コラム:手術の重要なポイント
- CRT-D植え込みの一番のポイントは「冠静脈洞の枝にリード線を挿入し、左心室側壁側をうまく電気刺激できるか」にかかっています。
- 冠静脈洞の枝は細く曲がりくねっていることが多く、挿入に苦労します。一部の患者さんでは、左心室側壁に冠静脈洞の枝の血管がなく、リード挿入できない例があります。
- そのような場合には、小開胸にて左心室側壁の心外膜へリードを縫い付ける手術を行わなければなりません。それほど大きな手術ではありませんが、体への負担は若干大きくなります。
他にどのような治療があるの?
- CRT-D挿入の代わりになり得る治療は、現在のところありません。
- 重症心不全の状態に対し、CRT-Dが適応にならない、または適応であっても何らかの原因で実施できない場合には、代わりにICD挿入することを検討します。
- また、内服や点滴での薬物治療の強化、僧帽弁閉鎖不全が重症であればその治療、大動脈バルーンパンピングの挿入、補助人工心臓の挿入等、検討すべき治療方法はいろいろあると思います。
治療後について
- 入院・治療以前と同様に生活することができます。家庭用電化製品や携帯電話を使用しても通常問題ありません。
- CRT-Dは精密なコンピューターのようなものですから、下記のような直接体に電気を通すもの、外へ強い電磁波を出すもの、避けていただきたい特殊な環境や、一部の医療機器等があります。
使用を避けるもの
- マッサージチェア
- 電気毛布
- 体脂肪計
- アマチュア無線機
- IH調理器(操作したら離れてください)
- 電気風呂
- 退院後は、定期的な外来通院が必要です。一般的には3~4か月に一度外来にてCRT-Dの点検を行い、電池消耗度やモニター記録されている不整脈、作動状況等を確認します。特に痛み等はありません。
- 植え込み後数か月経過すれば、運動にもほとんど制限はありません。ただし、格闘技やラグビーなど、CRT-D植え込み部に強い衝撃が加わる可能性のある競技や、腕を激しく動かす鉄棒などは避けたほうがよいです。
- 退院後の日常生活中にも、CRT-D本体やリード線の感染症、リード線の断線、CRT-Dの誤作動などが起こる可能性があります。何かいつもと違う異常を感じたら、担当医師へご相談して下さい。
CRT-D本体の交換について(電池消耗による)
- CRT-Dの機種や作動状況等により異なりますが、植え込み後は数年に一度、電池消耗によりCRT-D本体の交換が必要になります。
- 時期は外来通院時に、担当医師が判断してくれます。入院して交換しますが、入院期間は数日から1週間程度と短期間です。
- CRT-D本体の交換は次のように行います。
- 胸のCRT-D上の皮膚を局所麻酔して切開し、ICD本体を取り出します。
- 次に接続されているリード線を本体から外して点検、異常がないかどうか確認します。
- 新しいCRT-D本体に接続し、以前と同様にポケットに入れて創部を縫合し終了します。傷は最初のCRT-D植え込み時に入れた際のものと同程度で済みます。
よくあるご質問
ホームモニタリングって何ですか?
- ホームモニタリングとは、自宅(寝室等)に小型の通信機器を置き電源を入れておくだけで、定期的に患者さんのCRT-D本体と電波で通信し、電池残量や作動状況等のデータが登録された担当医のいる病院へ定期的に送信される機能です。
- CRT-Dに重大な異常があった場合には、緊急でデータが送信される場合があり、患者さんの状態変化の早期発見につながります。
- 比較的新しい機種のCRT-Dでは、ホームモニタリング機能が備わっていることが多いです。
- 機器の費用はかからず、保険診療として「ホームモニタリング管理料」がかかるのみなのでできるだけ使用をお勧めします。
MRIは撮影できますか?
- 患者さんがMRI撮影を受けるには、大きく分けて3つの条件を満たしている必要があります。
MRI撮影を受ける場合の条件
- 条件付きMRI対応CRT-Dのカードを持っており、CRT-D本体およびリードがMRI撮影に対応していること。
- 撮影を行う病院がMRI撮影認定施設であること。
- CRT-Dのペースメーカー設定が一定の条件を満たすこと。
- もしもMRI撮影が必要になった場合は、まずは担当の医師へ相談して下さい。
旅行には行くことができますか?
- 特に問題なく、旅行に行くことができます。
- 航空機に搭乗する前の金属探知機の検査は避け、係員にCRT-D手帳を見せて下さい。
- 自動車に乗る際には、シートベルトがCRT-Dにちょうど当たってしまわないように、タオル等を当てておくことをお勧めします。
携帯電話は使えますか?
- はい、使えます。ただし、次の点に気を付けてください。
携帯電話を使うときにご注意いただきたいこと
- CRT-Dから15cm以上離して操作して下さい。
- CRT-D挿入側と反対の耳で通話して下さい。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本循環器学会ホームページ(www.j-circ.or.jp)に「循環器病ガイドラインシリーズ」が掲載されており、その中の「不整脈非薬物治療ガイドライン」にCRT-D治療のことが記載されています。誰でも閲覧することができます。