腎生検:どんな検査?検査を受けるべき人は?検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 腎臓専門医の石川 英二、乳原 善文と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご本人やご家族、知り合いの方が腎疾患(たんぱく尿や血尿、慢性腎炎やネフローゼ症候群など)の疑いまたはその心配があり、どのような検査があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 代表的な検査方法である腎生検について理解する上で役に立つ情報を提供しています。
- 私達が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 腎生検は、たんぱく尿や血尿、腎機能障害をきたした際に、腎臓の中で起こっている病気の原因を詳しく調べる検査です。
- うつ伏せになってもらい、超音波で腎臓の位置を確認しながら、鉛筆の芯ほどの太さの針を使って腎臓の細胞を取り出します。
- 検査は入院してもらい行います。
- 検査時間は30分から1時間程度です。
- 一番注意する合併症は出血です。合併症を予防するため、検査後はベッド上での安静が必要です。
- 原因が分かるため、最適な治療が提案できます。
- さらに病気がどれくらいの速さで悪くなるかやこれから行う治療への反応性、今後腎機能が低下していく危険性などについても知ることができます。
どんな検査?
- 腎生検は、たんぱく尿や血尿、腎機能障害をきたした際に、腎臓の中で起こっている病気の原因を詳しく調べる検査です。
- うつ伏せになってもらい、超音波で腎臓の位置を確認しながら、鉛筆の芯ほどの太さの針を使って腎臓の細胞を取り出します。
- 検査は入院で行います。検査時間は30分から1時間程度です。
- 血液や尿の検査だけでは、その原因を正しく診断することが難しい場合が多く、腎生検することで、腎臓の中で起こっている病気の原因を正しく診断できます。
- 病気の原因が分かれば、最適な治療法をご提案できます。
- 腎生検の目的は下記の3つです。
(正確な腎病理組織診断)
(腎臓病の予後や治療に対する反応性の予測)
(治療方針の決定) |
どういう人がこの検査を受けるべき?
- たんぱく尿や血尿が続く場合や、腎機能が進行性に悪化する場合、腎臓に何らかの病気が疑われる場合に腎生検を行います。
- ただし、腎生検を受けた方がよい場合でも、腎生検には細心の注意が必要な場合や、腎生検の適応にはならない場合もあります。
- 腎移植後の患者さんでは、無症状であっても定期的に腎生検を行います。
腎生検の適応
- 下記のような場合に腎生検を行います。
腎生検の適応
- 血尿が続き、進行する腎炎が疑われる方
- たんぱく尿が続く方:全身のむくみを認め、ネフローゼ症候群が疑われる場合も含まれます。
- 血尿とたんぱく尿を同時に認める方
- たんぱく尿や血尿はないものの、腎機能の低下が続く方
- 急速に腎機能が悪化している方
- 全身性エリテマトーデス、血管炎や糖尿病などの全身性疾患を持つ方:腎生検で診断が確定することが多いためです。
- 原因不明の腎不全で腎臓がまだ普通の大きさの方
- しかしながら、上記のような症状があっても、患者さん本人やご家族から腎生検の同意が得られない場合、腎臓や尿路に感染症がある方、指示に従うことができずじっとしていられない方は腎生検ができません。
腎生検に細心の注意が必要な場合
- 腎臓が片方しかない方
- 腎臓の形態が通常と異なる方
- 腎臓にたくさんの嚢胞(腎臓の水胞のようなもの)がある方(多発性嚢胞腎など)
- 血圧が非常に高い方
- 血小板数が少ない、あるいは血液をサラサラにする薬(抗血小板薬や抗凝固薬)をお飲みの方
- 妊娠中の方
- 高度な肥満のある方
実際には、どんなことをするの?
- 腎生検は入院で行います。通常入院翌日に、エコーで針の位置を確認しながら、自動生検針を使用して腎臓を採取します。下記のような手順になります。
腎生検の手順
- 検査前の食事は中止となります。
- 検査前から点滴をします。これは腎生検中に血圧が下がったり、気分が悪くなった際、すぐに薬剤を投与するためです。腎生検前には抗菌薬や止血剤を点滴で投与することが多いです。
- 検査はうつ伏せで行います。腎臓は左右2つありますが、検査を行うのは片方のみであり、左右どちらの腎臓でも検査可能です。通常は左側の腎臓を生検することが多いです。
- 背中を消毒した後、エコーで腎臓を確認しながら、皮膚表面から腎臓の表面までを痛みを感じないように、しっかり麻酔します。
- 腎組織をとる針の太さは鉛筆の芯くらいです。針が抵抗なく進められるよう、皮膚を2-3㎜程切開します。
- 針が腎臓の上に達したところで合図をしますので、5秒から10秒程度の間、息を止めていただきます。その瞬間に腎組織を取ります。この際、バチンとバネの音がしますが、痛みはありませんので安心してください。この操作を2~3回繰り返します。
- 十分な腎組織が取れたら、止血のため5〜10分の間、背中から腎臓を圧迫します。
- 検査後は仰向けになり6〜24時間のベッド上安静が必要となります。検査後の飲食は寝たままの姿勢となりますが可能です。排尿や排便もベッド上で行います。寝たままの姿勢では尿が出ない場合もあり、尿道カテーテルを使用する場合もあります。
- 通常、翌朝から歩行は可能です。腎臓からの出血を予防するため、階段をかけ上がったり、腰に負担のかかる激しい運動は4週間程度控えてください。
検査にかかる時間は?痛みはある?費用は?
- 検査時間は30分~1時間程度です。
- 背中に麻酔する際や、尿道カテーテルを留置する際に痛みがあります。
- 麻酔の後は、腎臓の組織を取る瞬間も痛みはありません。針を進める際に、背中を押されるような感覚はあります。
- 検査後は仰向けになり6〜24時間のベッド上安静となります。背中に砂嚢を置いたり、腹帯で圧迫する場合もあります。
- 長時間の安静により、腰痛や気分不良となる場合があり、痛み止めを使う場合もあります。
- 入院する病院および入院日数によって多少異なりますが、4泊5日の腎生検入院で、自己負担額が3割の場合、費用は7~8万円程度です。
他にどのような検査法があるの?
- 腎生検に代わる正確な診断方法は残念ながらありません。
- 腎生検の方法には、これまで紹介してきた経皮的腎生検以外に、手術室で全身麻酔のもと皮膚を切開して直接腎臓を見ながら腎組織を採取する「開放腎生検」や、内視鏡で腎臓を直接確認しながら腎組織をとる「鏡視下腎生検」を行っている施設もあります。
- 腎生検にあたって、出血性合併症の危険が高い場合や、腎臓が小さい場合、経皮的腎生検でうまく腎組織がとれなかった場合には「開放腎生検」や「鏡視下腎生検」を選択することがあります。
コラム:開放腎生検と鏡視下腎生検の詳細
- 開放腎生検:皮膚を切開して、腎臓を直接確認して腎組織をとるため、確実に腎組織が得られ、確実に止血できるため出血性合併症の危険が少ない利点があります。ただし背中に3cm程の傷口が残ります。
- 鏡視下腎生検:手術室で全身麻酔のもと、腹腔鏡を用いて直接腎臓を観察しながら腎臓の組織を針でとります。開放腎生検よりも傷口が小さく、負担は少ないと考えられますが、腹腔鏡の操作に慣れた医師が必要です。
理解しておきたい リスクと合併症
- 検査に必要な処置によって引き起こされる望ましくないことを合併症と言います。
- 腎生検の代表的な合併症は下記のようなものが挙げられます。
腎生検の代表的な合併症
- 出血
- 痛み
- 薬剤アレルギー
- 発熱
- 迷走神経反射(嘔気、嘔吐、血圧低下、徐脈など)
- 腎臓にはたくさんの血液が流れており、針で組織を取るとほとんどの場合、出血を認めます。多くの場合、出血は40ml程度で問題となることはありません。
- 大量の血液が膀胱に流れ込むと、血の塊でおしっこの通り道が閉塞することがあります。この場合は尿道カテーテルを入れて、膀胱内の持続洗浄を行います。
- 出血により血圧が下がったり、貧血がすすんだ場合には輸血が必要となる場合があります。また、出血が止まらない場合は止血処置もします。
- 処置が必要となるような出血性合併症があった場合は、ベッド上での安静時間が延びたり、入院期間が長くなる場合もあります。
- 腎生検で背中に麻酔をする際や、尿道カテーテルを入れる際、ベッド上で長時間安静にしている際に痛みを感じる場合があります。
- 局所麻酔薬、鎮痛薬、抗菌薬など、薬剤に対するアレルギー反応(皮疹やかゆみなど)が起こることがあります。まれですがアナフィラキシーショック(アレルギー反応で血圧が低下する)をきたすこともあります。これまでお薬に対するアレルギーがあった方は事前にお知らせください。また検査中に異変に気づかれた際は、すぐに医師や看護師にお伝えください。
- 検査後 1~2日に熱が出ることがありますが、これは腎生検の際に生じた血腫が吸収される際の「吸収熱」がほとんどです。まれですが、腎生検の際に感染した場合でも発熱することがあり、その際は検査や治療のため入院期間が延びることがあります。
- 強い緊張や痛みのため、迷走神経反射が起こることがあります。その場合、薬を投与することもあります。
検査後の注意は?
- 血管の豊富な腎臓に針を刺した後は、圧迫止血しますが、その後も安静が必要です。
- 検査終了後6時間から24時間のベッド上安静が必要です。許可なく起き上がったり、歩いたりすることは出血の危険が増えるため、医療スタッフの指示に従ってください。
- 血尿を認めた場合は、血尿が消えるまで安静入院が必要となる場合があります。
- お腹に力をかける動作(しゃがんだ姿勢での排便、重い荷物を持ち上げる)や激しい運動は、4週間はできるだけ避けてください。
検査後にこんな症状があったらスタッフに伝えてください
- 検査後に下記のような症状が出る場合があります。そのような場合はすぐに医療スタッフに伝えてください。
検査後の危ない症状
- 腹痛や背中の痛み
- 尿をしたいのに出ない
- 血尿
- 腎生検後、局所麻酔薬の効果がなくなっても、通常は痛みがでることはありません。
- お腹や背中が急に痛み出した場合は、腎臓の周りに出血が広がっている可能性があります。
- おしっこの通り道に出血した血液がたまると、血の塊で膀胱の出口がふさがれてしまうため尿が出ません。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本腎臓学会ホームページ内に、慢性腎臓病(CKD)をはじめ、多くの腎疾患の診療ガイドラインが公開されています。それぞれのガイドラインの中に、腎生検についての記載がありますので参照してください。
- https://www.jsn.or.jp/guideline/guideline.php
- 医師向けですが、『腎生検ガイドブック2020』 (東京医学社)も参考になると思います。
- Mindsが日本で作成された診療ガイドラインを掲載しています。この中で患者・市民のみなさまへ向けたガイドライン解説を見ることが可能ですので、ぜひ利用してください。
- https://minds.jcghc.or.jp