内シャント造設術:どんな治療? 治療を受けるべき人は? 検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 血管外科専門医の古森 公浩と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身あるいはご家族が腎臓のはたらきが悪くなって血液透析が必要となり、内シャント造設術を受けられるよう提案され、耳なれない手術に不安に感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 内シャント作成術は、腎臓のはたらきが悪くなって血液透析という医療的な補助が必要になったとき、バスキュラーアクセスという血液の取り出し口と返し口を作るために行われる手術です。
- 内シャントとは、患者さん自身の動脈と静脈を皮膚の下でつなぎ合わせ、静脈に流れる血液の量を増やして血液を取り出しやすくする方法です。
- この処置を行うことで今後、通院での安定的な血液透析を行うことが可能となります。
- 血液透析は原則的に週3日間通院して透析を受け、1回の透析には平均4時間程度かかりますが、透析を受けている時間以外は自由に行動することができます。
どんな治療なの?
- 内シャント造設術は、腎臓のはたらきが悪くなって血液透析という医療的な補助が必要になったときに行われる手術です。
- 血液透析では、一度にたくさんの血液が必要になるため、バスキュラーアクセスとよばれる血液の取り出し口と返し口が必要になります。
- バスキュラーアクセスにはいくつかの方法がありますが、わが国では約90%の患者さんが内シャントを使用して血液透析を行っています。
- 内シャントとは、患者さん自身の動脈と静脈を皮膚の下でつなぎ合わせ、静脈に流れる血液の量を増やして血液を取り出しやすくする方法です。
- 通常局所麻酔で行い、手術時間は1時間前後です。
- バスキュラーアクセスの方法には、人工血管を用いた内シャントや動脈表在化、カフ型カテーテルなどがあります。
どんな目的や効果があるの?
- 血液透析とは、血管から血液をいったんからだの外に出し、血液に含まれる老廃物を取り除いてから、からだに戻す治療法です。
- 毎分200ccの血液を取り出す必要があるのですが、静脈に針を刺す方法では十分な血流の量が得られません。そのため、透析を継続的に行えるように、透析用の血管を手術で作成します。この血管を内シャントと言います。
- 内シャントは、静脈で透析ができるよう、血流の豊富な動脈から一部の血流を静脈に流した血管です。血液透析の円滑な施行・継続に必要なものです。
- この処置を行うことで血液が高い圧力で大量に静脈に流れるようになるため、静脈が太くなり(怒張)、血液透析のための針を刺しやすくなります。今後、通院での安定的な血液透析を行うことが可能となります。
実際には、どんなことをするの?
- 内シャント造設術はおもに、自分自身の動脈と静脈をつなぎ合わせる方法、人工血管を使用する方法の2つがあります。
- 感染のリスクや造設した内シャントがどのくらい長持ちするかかという点からは、患者さんご自身の血管を使う方法が最善と考えられますが、透析歴の長い患者さんでは人工血管を使用することが多くなります。
自分自身の動脈と静脈をつなぎ合わせる
- 腕の皮膚を切開して静脈と動脈を確認したら、動脈を小さく切開してそこに静脈をつなぎ合わせます。動脈の血流を静脈へ一部流すことで、だんだんに静脈の血流が多くなって透析が可能となります。
- 一般に、手首近くの血管(橈骨動脈と橈側皮静脈)を使って行います。
人工血管を使用する
- 動脈の近くにつなぎ合わせるのに適した静脈がない場合には、人工血管を使います。
手術にかかわる補足事項
- この手術は自然な血液の流れを人の手で変えるために、ときに上肢の冷感、痛み、腫れなどが現れるものの、多くは自然におさまります。
- 内シャントは手術後すぐには使用できないため、血液透析用の静脈留置カテーテルを併用するか、あらかじめ作製しておきます。
どのくらいの時間がかかるの?
- 手術時間は約2時間前後です。
- 手術後すぐに食事や歩行ができますが、術後2〜3時間は定期的にシャント音を聴診器で確認していきます。
- 抜糸は10~14日に行います。ふつうは局所麻酔で行いますが、場合により鎮静剤をあわせて用いることもあります。
- 内シャントは狭くなってしまったり、ふさがってしまうこともありますので、透析時に定期的にチェックを行っていきます。
どんなリスクや合併症があるの?
- 内シャント手術には、次のような特有の合併症があります。
出血(術中・術後)
- 輸血が必要になることはあまりありませんが、もともと腎不全による貧血が強い場合など、状況によっては輸血が必要になることもあります。
シャントの閉塞
- つないだ血管がふさがってしまうことです。
- 手術後の早い時期、あるいはしばらく時間が経過してからでも、起こることがあります。
シャントの狭窄
- 血管がせまくなってしまうことです。
- シャントの血流不足、静脈圧の上昇、シャントを造設した腕が腫れてきた場合、バルーン拡張術や再手術が必要になることあります。
感染
- 手術で傷ついた部分や、シャント部分で感染が起こることがあります。
- 手術した部分に感染が起こることがありますが、早期であれば細菌を殺すお薬(抗生剤)や、皮膚を切開して膿をだすなどの治療を行って、シャントを残します。
- 時間が経過してから発症した人工血管シャント感染の場合には、人工血管を取り除くことが必要となります。
神経障害
- 皮膚を切開した部分の周囲にしびれを感じる場合がありますが、日常生活に支障が生じることはほとんどありません。
ほかにはどんな方法があるの?
- 血液透析に対するバスキュラーアクセスの方法には、内シャント造設術のほかに、次のようなものがあります。
バスキュラーアクセスの方法
- 上腕動脈表在化
- 血管内留置カテーテル
- 腹膜カテーテル
ほかの方法とくらべるとどんな利点や欠点があるの?
内シャントによる血液透析
- 血液透析が始まると、原則的に週に3日間通院して透析を受けることになり、1回の透析には平均4時間程度かかりますが、透析を受けている時間以外は、自由に行動することができます。
- 夜間に透析を行っている施設を利用していただければ、仕事を続けることも可能になります。
腹膜カテーテルによる透析
- 自宅で管理できるため、患者さんのご負担を少しは減らすことができます。
- ただし1日に4回、ご自分でメンテナンスを行わなければなりません。また、カテーテルが閉塞するリスクが高く、煩雑であること、長い間使っていると腹膜の機能が障害されるため、約5~8年以内の使用に限られるといった面があります。
コラム:腹膜透析が行われる場合
- 血管がないために内シャントが行えない
- 重度の心不全、四肢拘縮【こうしゅく】(手足の関節が動かしにくくなる)、認知症などにより穿刺することがむずかしい
- 長い期間生きることが期待できない
- 腎移植またはほかの方法が使えるようになるまでの一時的な処置
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本透析医学会による「維持血液透析ガイドライン:血液透析導入」が以下のホームページでご覧になれます。
- www.jsdt.or.jp › tools › file › download.cgi
- 日本透析医学会による「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」が以下のホームページでご覧になれます。
- https://www.jsdt.or.jp/jsdt/17.html