経カテーテル的止血術:どんな治療? 治療を受けるべき人は? 検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 血管外科専門医の古森 公浩と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身あるいはご家族にけがや手術のあとの出血、消化管出血あるいは喀血など動脈からの出血が生じて、それを止めるための経カテーテル的止血術を提案され、耳なれない方法に不安に感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 経カテーテル的止血術とは、血管の中にカテーテルという細い管を通していき、金属コイルなどを特定の場所に詰めることによって血流をとどこおらせ、血のかたまりをつくって出血を止める方法です。
- けがや手術のあとの出血、胃や腸などの消化管からの出血あるいは肺や気管支からの喀血など、動脈からの出血が疑われるとき、その原因となっている血管を調べ、止血するために行います。
- 出血している血管をふさぐことで、出血を止めることが期待されます。
- 治療した血管の先の臓器の虚血、血管損傷・解離・出血、血栓症、穿刺した場所の出血、治療時に使われるお薬によるアレルギー、もともと腎臓のはたらきが悪くなっている場合などでの腎機能障害のような合併症が起こることがあります。
どんな治療なの?
- 経カテーテル止血術とは、血管の中にカテーテルという細い管を通し、血管をふさいで血液の流れを止める金属コイルなど(塞栓物質といいます)を特定の場所に詰めることにより、血流をとどこおらせ、血のかたまりをつくって(血栓【けっせん】化といいます)出血を止める方法です。
- 経カテーテル的止血術は、出血が疑われている患者さんに対して、血管の中に通したカテーテルからレントゲン写真で血管をみやすくするお薬(造影剤といいます)を入れて血管を撮影し、出血している血管を確認してから行われます。
塞栓物質の種類
- 塞栓物質は、固形のもの(おもに金属コイル、ゼラチンスポンジなど)と、液体のお薬(n-ブチル-2-シアノアクリレート(NBCA)など)に分けられます。
- また、血管をどのくらいの間ふさぐことができるかという点からは、一時的塞栓物質、永久的塞栓物質に分けられます。
- 使用する塞栓物質は、塞栓の目的、塞栓する場所などにあわせて選ばれます。
どんな目的や効果があるの?
- 経カテーテル的止血術は、けがや手術のあとの出血、胃や腸などの消化管からの出血、あるいは肺や気管支からの喀血【かっけつ】など、動脈からの出血が疑われるとき、その原因となっている血管を調べ、止血するために行います。
- 出血の量や範囲、カテーテルが届く場所などから、塞栓物質を選びます。
- 出血している血管をふさぐ(塞栓する)ことにより、出血を止めることが期待されます。
- ただし、出血している血管が見つからない、または治療が困難な部分から出血している場合には、治療を中止せざるをえないことがあります。
- 病変の状態によっては一部のみしか治療ができず、十分な治療効果が得られない場合もあります。また、たとえ止血ができていても、ふたたび出血が起こる可能性もあります。
実際にはどんなことをするの?
- 経カテーテル的止血術によって出血を止めるには、次のような手順で行います。
経カテーテル的止血術の手順
- 足の付け根の部分(鼠径部【そけいぶ】といいます)を消毒し、局所麻酔を行います。
- 鼠径部の大腿動脈に医療用の特別な針を刺して(穿刺【せんし】)、シースとよばれる管を血管の中に留置します。
- このシースを通してカテーテルを血管の中に入れ、目的の血管まで進めていきます。
- カテーテルから造影剤を入れて、血管をレントゲン撮影し、出血している血管を確認します。場合によってはCT撮影を行うこともあります。
- どの血管のどの部分から出血しているか確認でき、塞栓ができると判断したら、その血管から塞栓を行い、止血します。
ご注意いただきたいこと
- 造影剤を入れるときに熱く感じたり軽い痛みを感じることがあります。
- 場合によっては、腕の動脈(上腕動脈)、首の動脈(鎖骨下動脈、総頸動脈)、手首の動脈(橈骨動脈)などを使うこともあります。
ほかにはどんな治療があるの?
- そのほかの治療法としては、お腹や胸を切開し、手術で直接止血する方法があります。
手術後の出血の場合
- お腹や胸を切開し、直接出血している部分を探して、出血を止めることが可能な場合があります。
- なお、お腹や胸を切開することで、まわりの組織からの圧迫がなくなるため、かえって多量の出血を引き起こし危険な場合もあります。
産科出血の場合
- 赤ちゃんを出産したあとなどに異常な出血が起こることがあり、出血が大量で命にかかわる場合には、お腹を切開して子宮をすべて切り取ってしまう(全摘出)ことがあります。
- 子宮を全摘出した場合は、今後妊娠することができなくなります。
- なお、お腹を切開することで、まわりの組織からの圧迫がなくなるため、かえって多量の出血を引き起こし危険な場合もあります。
喀血【かっけつ】の場合
- 病気にかかっている肺を切り取ってしまうことがあります。
- その場合は、呼吸の能力が低くなります。
治療を受けるにあたってどんなことに注意したらいいの?
- 治療を受けるにあたっては、次のような処置が必要になります。
治療を受けるに際しての処置
- 剃毛【ていもう】:鼠径部の大腿動脈に針を刺す場合は、その部分の毛を剃ります。
- 絶食:治療の前は食事をとらないようにしていただきます。治療の直前に点滴をします。
- 尿道バルーン(カテーテル):治療中・治療後は自由にトイレに行けないため、膀胱内に尿道バルーン(カテーテル)を入れることがあります。
どのくらいの時間がかかるの?
- 通常は2〜4時間程度で終了しますが、さらに時間がかかることもあります。
- 最後に、治療に使ったカテーテル類をすべて抜きとって、カテーテルを入れた場所を20〜30分ほど圧迫し、止血して終了となります。
どんなリスクや合併症があるの?
- 経カテーテル的止血術には、次のようなリスクや合併症があります。
臓器の虚血【きょけつ】
- 出血している血管をふさぐことや意図しない血管の塞栓物質が入り込むことにより、その血管の先の臓器に血液が行きわたらなくなること(虚血)があります。
血管の損傷、解離、出血
- 治療中にカテーテルなどの医療器具により血管の壁を傷つけて、血管の壁がはがれてしまうこと(解離といいます)や出血することがあります。
- 追加の治療(動脈塞栓術、外科的な処置、血管の中に入れて血液の流れをたもつ網状の金属の器具<ステント>を留置するなど)を行うことがあります。
血栓症【けっせんしょう】
- 治療中に血管内に血のかたまり(血栓)がつくられた場合や、血管の壁に血栓やコレステロールがついていた場合、それらがはがれて流れていくと、その先の細い動脈をふさいでしまうことがあります。
- 動脈がふさがると酸素や栄養が運ばれなくなり、組織・細胞などが死んでしまうことがあります。脳梗塞【こうそく】が起こる可能性もあります。
穿刺した場所からの出血
- 針を刺した部分の出血が止まらず、皮膚の下に血液がたまったり(血腫といいます)、血管の壁の一部が壊れて瘤のようなものができたり(仮性動脈瘤【かせいどうみゃくりゅう】)する可能性があります。
お薬に対するアレルギー
- 治療時に使う局所麻酔薬、造影剤、抗生物質などでアレルギー反応が起こることがあります。
腎機能障害
- 治療中に使われる造影剤によって、もともと腎臓のはたらきが弱くなっている場合や、造影剤を使う量が増えた場合は腎機能障害が起こることがあります。
- 多くは一時的であるものの、まれに透析治療が必要となることがあります。
治療を受けたあとに注意することはあるの?
- 穿刺部からの出血を防ぐため、ふつうは約6時間ベッドの上で安静にしていただくことが必要です。その間、穿刺した側の足は曲げることができません。
- 問題がなければ、翌日から歩いていただくことが可能です。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
ウェブサイト
- 日本IVR学会による「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン2017」が以下のホームページでご覧になれます。
- https://www.jsir.or.jp/docs/sanka/2017sanka_GL180710.pdf
- 日本IVR学会による「血管塞栓術に用いるゼラチンスポンジのガイドライン」が以下のホームページでご覧になれます。
- https://www.jsir.or.jp/docs/guideline/zsponji/150817GS班ガイドライン第2版(掲載).pdf
- 日本IVR学会による「血管塞栓術に用いるNBCAのガイドライン2012」が以下のホームページでご覧になれます。
- https://www.jsir.or.jp/docs/nbca/130107_NBCA.pdf
書籍
- 専門書ですが、以下の図書があります。
- 栗林幸夫、中村健治、廣田省三、吉岡哲ほか編「IVRマニュアル、第2版」医学書院、2011