肝腫瘍ラジオ波焼灼療法:どんな治療?治療を受けるべき人は?治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 消化器内科専門医の寺谷 卓馬と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身またはご家族、お知り合いの方が肝腫瘍と診断され、どのような治療法があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 肝腫瘍に対する治療方法のひとつである「ラジオ波焼灼療法」について理解するために役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
まとめ
- 肝腫瘍ラジオ波焼灼術とは、超音波をしながら、針状の電極を腫瘍に入れ、大腿部に貼った対極板との間で450KHz前後のラジオ波を流し、電極の周りが熱されることによって腫瘍を壊す方法です。
- 肝臓の悪性腫瘍に対する治療法として、保険適応となっています。腫瘍の個数が3個以内、大きさが3㎝以内の肝腫瘍の方に対して行います。
- リスクや合併症として、出血、肝膿瘍、腫瘍播種がありますが、頻度は1~3%です。
どんな治療?
- 肝腫瘍ラジオ波焼灼術とは、1990年代終盤に日本に導入された方法で、超音波(またはCT)をしながら、針状の電極を腫瘍に入れ、大腿部(または背部)に貼った対極板との間で450KHz前後のラジオ波(高周波の電流)を流し、電極の周りが熱されることによって腫瘍を壊す方法です。
- 肝臓の悪性腫瘍に対する治療法として、保険適応となっています。
肝腫瘍について
- 肝臓の腫瘍には、良性腫瘍という放置してもよいものと、悪性腫瘍(癌)という治療が必要なものがあります。悪性腫瘍は放置すると大きくなり、他の臓器に転移をし、生命を奪う病気です。
- 良性・悪性の区別には、まずはCTやMRI検査といった画像診断が必要です。さらに、一部の組織を取って顕微鏡で観察することもあります。採血でわかる腫瘍マーカーは参考になりますが、診断はできません。
- 肝臓の悪性腫瘍として、肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌が代表的です。
手術とは何が違うの?
- 手術と違う点は、4点あります。
- 1点目は、局所麻酔で行う点です。全身麻酔をかける肝切除術とは異なり、多くは局所麻酔と鎮静剤のみでラジオ波焼灼療法は行います。
- 2点目は、早く退院ができる点です。術後から退院まで時間がかかる手術と比べ、ラジオ波焼灼術では術後3-4時間の安静は必要ですが、回復も早く、1週間以内と早く退院できることが一般的です。
- 3点目は、消化管の合併症になりにくい点です。手術とは異なり、術後に腹壁瘢痕ヘルニアや腸閉塞になることはありません。
- 4点目は、日をまたいで行える点です。治療日を火曜日と金曜日といったように2回に分けて行うなど、患者さんへの治療の負担を散らせることができます。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- この治療を受けるべき人は、腫瘍の個数が3個以内、大きさが3㎝以内です。
- しかし、1個だけ(単発)で2㎝以下の小さな腫瘍であっても、場所によってはラジオ波焼灼療法ができない場合もあります。
- また、腫瘍が無数にある場合、門脈、静脈、胆管といわれる脈管に腫瘍が浸潤している場合、黄疸や腹水といった症状がある場合には向きません。
治療前にどんな検査が必要なの?
- 治療前には、画像検査、超音波検査、血液検査が必要です。
- 画像検査:腫瘍を診断するために、造影剤を使ったCTまたはMRI検査で行います。
- 超音波検査:ラジオ波焼灼療法前に、腫瘍の位置を確認し、刺す経路や焼灼する回数などの治療プランを立てることが必要です。
- 血液検査:血小板数や凝固の能力をチェックし、治療で出る出血のリスクを回避する必要があります。多くの病院が、外来にて必要な検査を進め、入院は治療前日となります。
治療は何時間かかるの?痛いの?
- 腫瘍が1個だけ、大きさが2㎝以下であれば、直径3㎝大に焼灼できる電極で1回穿刺し、10分未満で治療は終了します。
- 腫瘍が腸管に近い場合、肺に隠れてしまう場所にある場合は、人工腹水や人工胸水が必要になりますが、それにかかる時間は5分以内です。
- 治療の部屋に入ってから出るまで、トータルでも1時間位で終わることが多いです。
- また、焼灼中に電極の周りの温度が80-90℃以上になるので、痛みはあります。肝臓の中に太い神経はありませんが、肝臓表面の浅い場所、肝門部という太い血管が入る深い場所では、神経が発達していて、痛みが強いです。
- 出来るだけ痛みをなくすため、痛み止めの薬に加え、眠くなる鎮静剤を使って、眠っているうちに治療することもあります。ただ、鎮静剤から醒めるまで、誤嚥(つばや食べ物が気管に入ること)などに注意が必要です。
理解しておきたい リスクと合併症
- 起こりうるリスクと合併症は、以下のようなものがあります。
出血
- 血流が豊富な肝臓に針を刺すので、お腹の中に出血を起こすことがあります。そのほか血液が溜まっている場所から、胸の空洞に出血(血胸)、胆道の出血、肝臓の被膜や皮膚の下に血のかたまりができる可能性があります。
- 出血量が多ければ輸血をし、血を止めるために血管撮影や塞栓術、手術(開腹や開胸術)が必要なことも、稀に考えられます。
肝膿瘍
- 膿の溜まった場所に体の外からチューブを入れ、膿を出す治療(ドレナージ)を行います。
腫瘍播種
- 腫瘍に電極を入れて焼くラジオ波焼灼療法では、1年半以上経過してから、刺した場所の皮膚や腹膜の下に腫瘍が見つかることがあります。これは、壊死しなかった癌細胞が電極によってまかれてしまった状態です。
- 手術やお薬で治療します。
医療従事者向けコラム:リスクや合併症の頻度は?
- 病院間で差がありますが、発生する頻度は1-3%程度です。腫瘍播種の頻度としては0.5-2.8%と報告に差があります。
治療後について
- 治療後は、主治医の指示通りに病院へ行ってください。
- 治療が100%上手くいっても、肝臓の中に再び腫瘍が現れる頻度(再発率)は高いと考えられており、定期的な通院と画像検査が必須になります。
他の治療法は?
- 他の治療法には、以下のようなものがあります。
重粒子線治療、陽子線治療、サイバーナイフ、IMRT(強度変調放射線治療)という体幹部定位放射線治療
- これらは、ラジオ波焼灼術と同じ、腫瘍1個ごとに狙い撃ちする局所療法です。
- 腫瘍の大きさや個数によって保険適応が制限され、腫瘍の場所によっては治療が不可能となるケースもあります。
肝動脈化学塞栓療法、薬物療法
- これらは、多くの腫瘍を同時に治療する方法です。
- 分子標的薬を使ったお薬の治療は、飲み薬なので外来での治療が可能です。効いていることが確認されれば、継続的に飲んでいただきます。