自己免疫性溶血性貧血:どんな病気?検査や治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 溶血性貧血を専門としています医師の亀崎豊実と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとご自分やご家族が「自己免疫性溶血性貧血」と診断され、どのような病気か不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 自己免疫性溶血性貧血の多くは、ステロイドの飲み薬が必要となります。自分の判断で薬を中断すると症状が悪くなるので危険です。
- ステロイドの効果は高いですが、長い間飲み続ける必要があります。さまざまな副作用が見られることがありますので、定期的に主治医の診察を受けましょう。
- 他の病気が原因となったり(続発性)、治療の途中で他の病気にかかったりすることがあります。
- 感染やストレスが症状を悪くすることがあるので、うがい、手洗い、人混みを避け、ストレスをためない生活をこころがけて下さい。
- 自己免疫性溶血性貧血は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
自己免疫性溶血性貧血は、どんな病気?
- 自己免疫性溶血性貧血は、自分の赤血球を攻撃する抗体(免疫物質)ができることで、赤血球が壊れて貧血になります。赤血球が壊れたときに放出されるヘモグロビンが体内で分解されてビリルビンという物質になると、白目が黄色に染まる黄疸【おうだん】が現れます。
- 風邪のようなウイルス感染や他の病気を原因とするもの(続発性)が半分ですが、原因が分からないもの(特発性)も半分あります。
- 1割程度に、体が冷えると赤血球を攻撃する抗体ができるタイプがあります(寒冷凝集素症【かんれいぎょうしゅうそしょう】)。寒さで手足の先で皮膚の色が変わるなどの症状が見られます。体を温めることが大切で、ステロイドの効果は高くないことが多いです。
自己免疫性溶血性貧血と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 貧血症状として、顔色が悪い、まぶたの裏が白い、息切れ、胸がドキドキする、頭痛、めまい、だるさなどがあり、白目が黄色く染まる黄疸があるようなら、医療機関の受診を検討してください。尿の色が濃くなることもあります。
かかりつけ医への受診がおすすめな場合
- 他の病気で通院中に、上記の症状が出た場合
救急車を呼ぶ場合
- 上記症状に加えて、意識・反応が悪くなったり、体を動かすことのできない程の息苦しさがあったりした場合
自己免疫性溶血性貧血になりやすいのはどんな人?原因は?
- 子供とご高齢の方に多く、女性に多い傾向があります。
- 元々、他の血液の病気や自己免疫病(この病気のように、自分の細胞を免疫物質が攻撃してしまう病気)にかかっている方では、時に自己免疫性溶血性貧血を合併することがあります。
- 原因の分からないものも半分ほどあります。
- 人口100万人あたり3-10人の患者さんがおり、年間に100万人あたり1-5人が新たに発症しています。
どんな症状がでるの?
- 貧血症状として、以下のような症状があります。
貧血症状
- 顔色が悪い
- まぶたの裏が白い
- 息切れ
- 胸がドキドキする、脈が速い
- 頭痛、めまい、失神、耳鳴り
- だるい、力が入らない、元気がない(子供)
- 黄疸の症状として、皮膚・白目が黄色い、濃い色の尿があります。
- 寒冷凝集素症では、貧血症状に加えて、寒い所にいた後に貧血症状が悪くなったり、手足の先などで皮膚の色が変わったりします。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 貧血と黄疸から、溶血(赤血球が壊れること)の疑いがあると医師が判断した場合は、血液検査を行います。
- 自己免疫性溶血性貧血が強く疑われる場合は、他の血液の病気や自己免疫病が合併しているかどうかについての検査や骨髄検査(腰の骨に針を刺して骨髄血を採る)、CT検査なども行われることがあります。
どんな治療があるの?
- 通常、ステロイド薬が使われます。ただし、寒冷凝集素症ではステロイド薬は効かないことが多く、温めることが効果的です。
- ステロイド薬が効かない場合や、副作用で続けられない場合は、赤血球が壊される臓器である脾臓を取る手術や免疫抑制薬の使用が行われます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- ステロイド薬がよく効く場合が多く、長い期間投与しますので、様々な副作用に注意する必要があります。定期的な診察が必要で、自分の判断で薬をやめることは絶対にやめてください。なにか異常を感じた場合は早めに主治医に相談して下さい。
ステロイドの副作用
- 副作用としては、胃・十二指腸潰瘍、感染症、顔が丸くなる、にきび、骨がもろくなる、糖尿病、高脂血症、白内障、緑内障などが知られています。
- 胃・十二指腸潰瘍の予防として、胃酸を減らす薬(プロトンポンプ阻害薬)や胃の粘膜を保護する薬などを飲むことが勧められています。
- 骨がもろくなるのを予防するために、ステロイド薬の長期投与中には骨を強くする薬(ビスホスホネート製剤やビタミンDやカルシウム製剤)を飲むことなども勧められています。
- B型肝炎ウイルスを持っている方や既に感染したことのある方へのステロイド薬治療では、重症化やウイルスの再活性化の危険性があるため、投与する前に対応が必要です。
脾臓摘出手術治療の場合
- 脾臓を取った後は感染症のリスクが増えるため、手術の前にワクチン接種が必要であり、発熱した時に抗菌薬を使うと重症な感染症を予防できるとされています。
- 脾臓を取った後は血栓(血の塊)ができるリスクが増えるため、抗凝固薬による予防も必要な場合があります。
免疫抑制薬の治療の場合
- 正常な血液が減る、発がんの可能性が少し高くなるなどの副作用が知られており、定期的な主治医の診察が必要です。
輸血治療の場合
- 自己免疫性溶血性貧血では、輸血は行わず、できる限り避けるべきとされています。
- ただし、意識が悪くなるなどの重症な症状がある場合では、薬での治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は行う必要があります。
予防のためにできることは?
- ストレスや感染症によって症状が悪くなることがあるため、できるだけストレスのない安定した生活を送るようにしてください。
- 薬により感染しやすくなるため、人混みをさけて、手洗いやうがいをして、感染予防に努めてください。
- 寒冷凝集素症では、温かい服装や寝具を利用し、飲み物の温度や室温にも注意が必要です。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 特発性自己免疫性溶血性貧血では、ステロイド薬で8割程度の方に効果があります。
- ステロイド薬が有効な場合は、飲む量を少しずつ減らしていくと2割程度の方で中止することができますが、4割程度の方は少量から中等量を飲み続けることが必要です。
- 急にステロイド薬の量を減らしたり、自分で飲むのをやめたりすると再発しやすくなることが知られています。
- ステロイド薬の量を減らしている間に、再発した場合は、中等量まで増やします。
- 特発性の場合、発症や診断からの5年生存率は約80%です。
- 他の血液病や自己免疫病が原因で発症した続発性自己免疫性溶血性貧血では、元々の病気の治療が必要となることがあります。
- 感染症や薬が原因の続発性自己免疫性溶血性貧血では、感染症が治ったり、薬剤をやめたりして、治ることもあります。
- 続発性の場合、自己免疫病や薬の使用に続発する場合は80%以上の方で長く生きることができますが、リンパ腫や白血病に続発する場合は予後が悪いと言われています。
追加の情報を手に入れるには?
- 自己免疫性溶血性貧血に関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 難病情報センターのサイトhttp://www.nanbyou.or.jp/entry/114
もっと知りたい! 自己免疫性溶血性貧血
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 血液検査で溶血の際に高くなる項目(網赤血球、LDH、ビリルビン、AST)、低くなる項目(ヘモグロビン、ハプトグロビン)について検査を行います。また、抗体による溶血かどうかについて、血液検査でクームス試験を行います。
終わりに
- 自己免疫性溶血性貧血は指定難病に指定されており、病気の重症度に応じて医療費を援助してもらうことができます。診断された場合は、主治医に相談してください。
- 自己免疫性溶血性貧血の数%程度に、寒さにさらされた後の赤色や茶色の尿が特徴的な発作性寒冷ヘモグロビン尿症があります。ほぼ感染した後の子供に限定した病気であり、一時的なもので再発はありません。