一過性脳虚血発作(TIA):どんな病気?放っておいてもよいの?検査や治療は?後遺症は残るの?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医、脳卒中専門医の北川 一夫と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかするとご自分やご家族の方が脳卒中の発作を起こし、大丈夫だろうかと不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 一過性脳虚血発作とは、一時的に脳を栄養する動脈の血流が途絶えてしまい、脳が上手く働かなくなってしまう状態です。
- 片側の手足や顔の力が抜ける、言葉がしゃべれなくなる、視野の一部がぼやける、片方の眼がみえなくなるといった症状があらわれます。
- 通常30分以内に血流が回復して症状もなくなりますが、脳卒中を起こしやすい危険な状態です。ただちに専門病院を受診していただき、治療をうけてください。
- また、脳卒中の発作を予防するために、生活習慣の改善を試みてください。
一過性脳虚血発作とは? どんな症状がでるの?
- 一過性脳虚血発作【いっかせいのうきょけつせいほっさ】とは、ある領域の脳に栄養を送る動脈が一時的に途絶え、その領域の脳が上手く働くなって神経症状があらわれるのですが、発症後24時間以内(通常は30分以内)に血流が回復して症状もなくなる状態です。
- 症状は、片側の手足(顔を含む場合もあります)の脱力、言葉をしゃべれない、片方の視野の一部がぼやける、片方の眼がみえなくなる(一過性黒内障【いっかせいこくないしょう】といいます)などです。
- 失神、立ちくらみなどは、一過性脳虚血発作ではありません。これらは脳全体に血液が回らなくなる状態です。
一過性脳虚血発作(TIA)と思ったら、どんなときに病院・クリニックへ受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 一過性脳虚血発作を起こした方は、脳梗塞を起こしやすい危険な状態になっています。下記のような場合はすぐに病院を受診してください。
医療機関の受診がおすすめな場合
- 突然、片方の手足に力が入らない、目が見えない・ぼやけるなどの症状がある場合
- 突然、言葉が話せなくなる場合
救急車を呼んだほうがよい場合
- 意識がなくなる、朦朧とする場合
- 意識が戻っても、手足が動かせない、上手く話せないなどの症状がある場合
- 30分しても突然起こった症状が良くならない場合
一過性脳虚血発作で病院を受診したらどんな検査をするの?
- 一過性脳虚血発作を起こした方が病院を受診した時は、すでになにも症状はないことがほとんどです。
- ですので、病院では、脳出血や脳梗塞が起こっていないか、CTまたはMRI検査を実施します。さらに血液検査、心電図、頸動脈超音波検査、心臓超音波検査などを実施して、一過性脳虚血発作を起こした原因を探します。
一過性脳虚血発作で病院を受診したら入院するの?
- 病院を受診された時にすでに症状が消失していても、脳MRI検査で新しい脳梗塞が見つかる場合があります。
- この場合は脳梗塞と診断し、すぐに入院していただき、ただちに血液をさらさらにする抗血栓療法を開始して、脳卒中再発の予防と再発時の対応に備えます。最初の数日に脳卒中を再発するリスクが極めて高いためです。
- 新しい脳梗塞が見つからなくても、首や頭の中の太い動脈に狭窄、閉塞がある場合、脳梗塞を起こしやすい不整脈や心房細動が見つかった場合も、脳卒中を再発するリスクが高いので、原則的には入院していただいて治療を行うことが多いです。
一過性脳虚血発作ではどんな治療をするの?
- 一過性脳虚血発作で、心疾患、心房細動が見られる場合は抗凝固薬を、それ以外の場合は抗血小板薬を用います。
- とくに最初の数日が脳梗塞を起こしやすいので、複数の抗血小板薬を併用する場合も多いです。
コラム:一過性脳虚血発作の治療薬
- 抗凝固薬:ワーファリン、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ
- 抗血小板薬:バイアスピリン、プラビックス、プレタール
脳卒中を予防するためにできることは?
- 脳卒中の発症予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常といった内科的危険因子を管理し、生活習慣の改善をあわせて行います。
- 日々の生活の中で気を付けていただきたいことをまとめました。
一過性脳虚血発作の予防のために
- 禁煙する
- お酒を控える
- 適度な運動とバランスの良い食事で肥満を是正する
もっと知りたい! 一過性脳虚血発作のこと
一過性脳虚血発作と脳卒中はなにがちがうの?
- 一過性脳虚血発作は脳に病変を生じていないもの、脳卒中は脳梗塞として脳に何らかの病変を残すものと区別されています。
- 最近の知見では、1時間以内に症状が回復したので一過性脳虚血発作だと診断した場合でも、脳MRI検査を行うと新しい脳梗塞の病変がみつかる場合が増えてきました。
- そのため、神経症状はなくなっていても脳梗塞の病変を認めるものは、脳梗塞と診断しようという流れになってきています。脳梗塞、病変を生じていない場合は一過性脳虚血発作と診断するようになりました。
一過性脳虚血発作を放っておくとどうなるの?
- 一過性脳虚血発作であらわれる神経症状はすぐに回復しますが、なにも治療をしないと1週間以内に5-10%の人が本当の脳卒中を起こしてしまうことがわかっています。
- 一過性脳虚血発作を起こした場合、症状が回復したから治癒したのではなく、脳卒中に移行しやすい危険な状態であると認識すべきです。一過性脳虚血発作を疑ったら直ちに専門病院を受診してください。
コラム:脳卒中発症リスクを測るABCD2スコア
- 一過性脳虚血発作を起こした患者さんは、下記のABCD2スコアで7点満点中4点以上であると、2日以内の脳卒中発症リスクが4-5%以上とされています。
- 年齢(Age):60歳以上で1点
- 血圧(Blood pressure):140/90mmHg以上で1点
- 臨床症状(Clinical feature):片側の麻痺で2点、言語障害 で1点
- 持続時間(Duration):60分以上で2点、10-59分で1点
- 糖尿病(Diabetes):1点