ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型):どんな病気?治療は?
更新日:2020/11/11
- 松澤重行(小児科専門医)、井上雄一(睡眠学会認定医)と申します。睡眠障害専門のクリニックで診療を行っています。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分や子どもが夜中に家の中を歩き回るようになってしまった。どうしてしまったんだろう?」と不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私どもが日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型)は、寝ている間に突然起き上がって歩き回るなどの異常な行動を生じ、呼びかけに対する反応が乏しくなるものです。
- 子どもが歩き始める時期以降、70歳くらいまでどの年齢でも起こりますが、3歳から12歳頃に多くみられます。
- 睡眠不足やストレス、音や光などの環境刺激が原因の1つです。
- 症状や経過が典型的でないとき、てんかんやレム睡眠行動障害(悪夢に伴う異常行動)などとの区別が必要なときなどには一泊入院で睡眠ポリグラフ検査を行います。
- 治療としては、悪化する原因を減らす、危険を避けるなどが基本になります。症状の頻度が多いとき、危険を伴うとき、日常生活への影響があるときは、お薬を使います。
ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型)は、どんな病気?
- ノンレム睡眠からの覚醒障害(ノンレムパラソムニア)とは、ノンレム睡眠の深い眠りから不完全に起きてしまい、不自然な行動や反応がみられる病気です。
- このうち睡眠時遊行症型は、昔から「夢遊病(むゆうびょう)」と呼ばれ、寝ている間に突然起き上がって歩き回るなどの異常な行動と、呼びかけに対する反応の低下がみられるものをいいます。
ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型)と思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- ノンレム睡眠からの覚醒障害と思ったら、以下のようなときは、病院へ受診してください。
病院へ受診した方がよいとき
- お子さんの場合には、回数が多いとき、翌日の日中の活動にも影響するようなとき
通常、子どもの頃にみられるものは、正常な成長の過程で起こる現象と考えて良い場合がほとんどです。
- 医療機関の選び方としては、子どもでは小児科、おとなでは神経内科・精神科を受診してご相談ください。最初は大きな病院や専門病院でなく、かかりつけ医で良いと思います。
- 専門的な判断や睡眠検査が必要なときは、睡眠専門外来のある病院やクリニックへ受診してください。。
ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型)になりやすいのはどんな人?原因は?
なりやすい人
- 好発年齢は3歳から12歳頃まで
しかし、子どもが歩き始める時期以降、70歳くらいまでどの年齢でも起こります。
- 親や兄弟にこの病気がある人
体質(遺伝的原因)によってこの病気になりやすい人とそうでない人がいます。
原因
- 旅行や慣れない場所などによる睡眠不足、発熱、身体的・精神的ストレス
大人になって初めて症状が起こったり、小児期以降なくなっていたのがおとなになって再発したりする方の多くの原因と言われています。
- 睡眠時無呼吸症候群(気道がふさがり、睡眠中に何回も呼吸が止まる病気)、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンがたくさん出る病気)、片頭痛、頭のけが、脳炎、脳卒中(脳の血管がつまってしまう病気)など
- 音や光、膀胱に尿が溜まるなどの刺激
- 向精神薬(うつ状態や不安を和らげるお薬)
炭酸リチウム、フェノチアジン、抗コリン剤、鎮静剤、催眠剤など
- 精神の病気とは関連がないと考えられています。
どんな症状がでるの?
- 以下のような症状が出ます。
症状
- 寝ている間に急に体を起こし、混乱したようにあたりを見回し、立ち上がって歩き出す。
- 突然ベッドから飛び出して走り回る。
- 家の外まで歩いて行く。
- 階段や窓から落ちるような危険な行動や、暴力的な行動がみられる。
- ぼんやりしていて話しかけてもふだんのような反応はみられない。
- 翌朝にできごとについて尋ねられても覚えていない。
- 症状は数分から30分くらい続きます。
- 症状は自然に終わりますが、ベッドに戻らず違うところで寝てしまうこともあります。目覚めているようにみえますが、歩いていても意識は低下しています。
- 一晩に何回もおこることもあれば、たまにしかおこらないこともあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- まず病院へ行ったら、症状を詳しく話してください。症状を記録した動画などがあれば、診療で役立ちます。
- 症状が典型的で経過が不自然でなければ、特に検査は行いません。
- ただし、症状や経過が典型的でないときや、てんかんやレム睡眠行動障害(悪夢に伴う異常な行動)などとの区別が必要なときは、脳波を調べる検査や終夜睡眠ポリグラフ検査(一晩にどのような体の活動を行っているか調べる検査)を行います。
- 睡眠時遊行症をおこしやすくする睡眠時無呼吸や周期性四肢運動障害(寝ている間に手足の異常な動きがおこり、眠りを妨げる)などの睡眠に関係する病気が疑われるときには、終夜睡眠ポリグラフ検査を行います。
どんな治療があるの?
- 治療は、症状の頻度によって異なります。
- 症状がたまにしかみられず、危険でない場合
特別な治療は行いません。症状を起こさないための予防法、危険を避けるための工夫などを説明し、実施していただきます。
- 症状の頻度が多いとき、危険を伴う場合
この病気のために日常生活に困りごとがあるときは、お薬を使って症状を抑えていきます。
- 明らかな原因がある場合
その原因を取り除くための治療を行います。たとえば、睡眠時無呼吸症候群が原因の場合には、その治療を行うことで睡眠時遊行症が起こらなくなります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?食事や生活で気をつけることは?治療の副作用は?
- 治療を受けた後は、寝不足や不規則な生活をなるべく避けるようにしてください。飲酒も悪化する要因になるので、控える方がいいです。
- 治療の副作用については、治療薬の特徴や注意点などを先生に聞くことが大切です。
予防のためにできることは?
- 予防としてできることは以下の通りです。
予防法
- 睡眠時間をしっかり確保する
- 過剰なストレス・疲れが出る状況を避ける
- 寝室の音や光に配慮する
- 寝る前にトイレに行っておく
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 思春期頃までには大半が自然に治ります。
ノンレム睡眠からの覚醒障害の多くは、正常な成長の過程でおこる現象の一つと考えられています。
- 思春期を超えて続く場合、あるいは大人になってから始まる場合は、睡眠不足やストレスが強まるたびに症状がみられる傾向があります。
もっと知りたい! ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症型)のこと
ノンレム睡眠とは?
- ノンレム睡眠とは、眼球が動かない眠りで、ぐっすり眠っている状態です。一方、レム睡眠とは、眠っていても眼球が動いている、眠りが浅い状態のことを指します。
- 一晩の睡眠は、ノンレム睡眠の深い眠り、ノンレム睡眠の浅い眠り、レム睡眠の3つからなり、それらのまとまりを1回約90分で3-5回繰り返しています。
症状があるとき起こした方が良いの?
- 症状がみられたとき、無理に目を覚まさせたり、行動を止めようとしたりすることはかえって良くありません。穏やかに対応し、布団に誘導して寝かしつけてあげてください。