統合失調症:原因は?妄想って?どんな薬があるの?どう接すればいいの?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の松本 和紀と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると自分やご家族が統合失調症になってしまった?と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」についてまとめました。
目次
まとめ
- 統合失調症とは、本来聞こえるはずのない音や声が聞こえる幻聴や、間違った思い込みを信じる妄想、考えや行動がまとまらない、などの症状が特徴的な精神の病気です。
- 統合失調症の治療にはお薬と心理社会療法があり、治療を受けていただければよくなっていきます。ご自分にあったお薬を、お医者さんと相談しながら見つけてください。
- 治療を続けることで、一人暮らしをしたり、仕事をしたり、学校に行くなど、一人ひとりにあった社会生活を送ることができます。
- 家族、友人、学校の先生、職場の人たち、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士、保健師、その他の支援者など、多くの人たちが治療や支援に協力してくれます。病気になっても、必ず手助けしてくれる人たちがいます。
統合失調症は、どんな病気?
- 本来聞こえるはずのない音や声が聞こえる幻聴や、間違った思い込みを信じる妄想、考えや行動がまとまらない、などの症状が出てくることが特徴の、精神の病気です。
- 意欲の低下、ひきこもり、気分の落ち込みや高ぶり、などの症状が出ることもあります。病気の症状やその後の経過は、一人ひとりでかなり違いがあります。
- これらの症状のためにつらくなったり、日常生活に支障が出たりする場合には、精神科での治療が必要になります。
- 多くの患者さんは、治療を続けていただくことで、症状が軽くなったり、すっかり良くなったりし、自分に合った社会生活を行うことができるようになります。
統合失調症と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 下記のような症状が出て、苦しかったり、日常生活に支障がでる場合、あるいは、学校や職場、家族などの周りの方が、精神科への受診をすすめる場合、医療機関への受診を考えてください。
病院へいくことを検討していただきたい場合
- 聞こえないはずの声が聞こえる
- 思い込みが強くなり、何が本当か分からなくなる
- 考えや行動がひどくまとまらない
- 不可解な話、行動が続く
医療機関の選択
- 精神科を受診することをおすすめします。
- 統合失調症の始めは症状が軽く、変化しやすく、確実に診断するのは難しいことも多いです。統合失調症と似た症状が出てくる精神の病気はたくさんあるため、これらをしっかり見分けるためには、精神科の先生による診察が必要です。
- 治療の必要性や病院について不安やわからないことがあれば、公的機関の窓口で相談できることがあります。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 苦しかったり、日常生活に支障が出る場合、ご自分でできることをまとめました。
ご自分でできること
- 困っている問題を誰かに相談する:問題を一人で抱え込まず、例えば家族、友人、学校の先生、相談機関、カウンセラーなどに相談してみてください。
- 症状の影響を確認する:気になる症状があっても、日常生活に全く支障がなければ、様子をみても良いことがあります。しかし、悩みやつらさがひどくなる、日常生活に支障が出る場合には、病院への受診を考えてください。
- 症状の頻度を確認する:症状が数ヶ月に1回程度でしたら、まだ大丈夫かもしれません。しかし、週に数回以上の頻度で症状が起きる場合は、病院への受診を考えてください。
- 規則正しい生活を心がけ、ぐっすり眠るようにする
統合失調症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 統合失調症は、10代から30代にかけて発症することが多く、140人に1人くらいがかかる病気です。
- 他の精神の病気と共通ですが、以下の特徴がある場合は、統合失調症になるリスクに関係しています。
統合失調症に関係する特徴
- 人との交流が減り、一人でいることが多くなる
- 身の回りで不思議なことが起こっていると感じ、疑い深くなったり、怖くなることが多い
- 正体不明の音や声が時々聞こえる
- 繰り返しのトラウマの体験
- 理由がはっきりしないのに、学校の成績が落ちてくる
- 大麻や覚醒剤などの違法な薬物の使用
統合失調症の原因
- 統合失調症の原因はまだわかっていません。
- 脳の神経が、遺伝や環境の影響を受け、何らかの問題が起こるのかもしれません。少なくとも、精神の状態が悪くなっている時には、ドパミンという脳内の物質のはたらきに問題が起こっている可能性があります。
どんな症状がでるの?
- 統合失調症では、本来あるはずのないものがあらわれる症状(陽性症状)、本来あるはずのものが乏しくなる症状(陰性症状)、その他の症状の大きく3つが出てきます。
- すべての症状が出てくるのではなく、種類や内容は患者さんごとに異なります。
陽性症状
- 幻覚:本来は存在しないものを感じてしまうことで、中でも人の声がはっきり聞こえてくる「幻聴」が多いです。一日に何度も、あるいは、毎日のように聞こえることがあります。
- 妄想:思い込みが強くなり、実際とは違う考えを強く信じてしまいます。被害的な妄想がよく見られます。
- まとまらない考えや行動:不可解な話、行動が見られることもあります。
陰性症状
- やる気がなくなる
- 生活がだらしなくなる
- 人と会いたがらずに、引きこもる
- 会話や表情に感情があまり出なくなる
- 言葉や考えがあまり出てこなくなる
その他の症状
- 強い不安や緊張を感じる
- 気分の落ち込み、または高ぶりを繰り返す
- 興奮しやすくなる
- ひとりごとが多い
- 記憶力や集中力が低下する
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
問診
- 精神科では、お医者さんが、あなたが何に困っているのか、どんな症状や体験があるのかをお聞きします。
- また、受診される際には、以下の点をまとめておいていただけると診断に役立ちます。
精神科のお医者さんに聞かれること
- 困っている問題や症状は、いつから始まりましたか?
- その問題や症状は、どのくらいの頻度で起こりますか?
- その問題や症状が、悪くなるきっかけはありますか?それは何ですか?
- その問題や症状があることで、普段の生活にどんな支障がありますか?
- 生まれてから現在までの生活についてお聞かせください。
- 家族や家庭のことをお聞かせください。
- 学校や職場での様子についてお聞かせください。
- 周りの人との関係についてお聞かせください。
体の病気や異常を調べる検査
- 精神以外に病気が潜んでいないかを調べるために、血液検査や、必要に応じて脳の画像検査、頭の働き(認知機能)の検査を行うこともあります。
どんな治療があるの?
- 統合失調症の治療には、お薬と心理社会的な治療があります。
お薬
- 抗精神病薬:精神を安定させる「抗精神病薬」というお薬が一般的です。気持ちを落ち着かせたり、幻聴を減らしたり、妄想による思い込みを軽くしたり、不安や緊張などの症状を和らげたりする効果があります。
- 睡眠導入剤:眠れない場合に使うこともあります。
- その他のお薬:気分を安定させる気分安定薬や抗不安薬などの薬が出されることもあります。
- お薬の効き方や副作用の出やすさは患者さんごとに違いがあります。お薬にはいくつか種類があるので、お医者さんとよく相談しながら、ご自分にあった薬の種類と量を見つけてください。
心理社会療法
- 精神療法:お医者さんと話しをし、症状の確認や、悩みごとや困りごとを相談する治療です。
- 心理教育:患者さんご本人やご家族が病気についての知識や理解を深め、治療法や対処法について学びます。
- 家族療法:患者さんご本人とご家族との関係、家族の困りごとなどについて相談します。
- ケースマネージメント:生活上のさまざまな問題(お金、住むところ、仕事や学校の問題)の解決に向けた相談をします。仕事に就くことや、学校に通うための支援を受けることができます。
- その他:デイケアでのプログラム、人づきあいの仕方を練習するプログラム(ソーシャルスキルトレーニング)、心理士と症状や困りごとの解決に取り組む心理療法(認知行動療法)、作業を行う訓練(作業療法)、認知機能の訓練を行うこともあります。
お医者さんで治療を受けているときに注意をすることは?治療の副作用は?
お医者さんとのコミュニケーションの工夫
- お医者さんの診察を受けるとき、自分の困っている症状や問題、薬の飲み心地や副作用、その他の心配ごとがあれば、ぜひ伝えてください。
- 受診の前に、何を相談するかをまとめてメモを準備したり、緊張が強いときには、紙にまとめて手渡したりするのもよいかもしれません。
お薬の副作用
- 抗精神病薬を飲むと、眠くなる、足がムズムズする、口が渇く、食欲が出すぎるなどの副作用が出ることがあります。
- お薬によって、出やすい副作用に違いがあります。お医者さんと、よく相談しながら薬の調整をしてください。
予防のためにできることは?
- 統合失調症の確実な予防法はまだ見つかっていませんが、以下のことは、予防に役立つ可能性があります。
予防のためにできること
- 睡眠をしっかりとる:眠れない状態が続いた時や、ほとんど眠れない時は、お医者さんに相談してください。
- 無理をせず、休養をとる。
- 悩みや困りごとは、信頼できそうな人に相談する:一人で過ごす時間が長く続くことはあまりよくありません。
- つらい精神症状や問題が続く時には、精神科を受診する:統合失調症のリスクが高い精神状態のときは、心理社会的な治療やお薬が、統合失調症の予防に役立つことがあります。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 統合失調症は再発を繰り返したり、症状が続いたりすることが多い病気なので、治療をしっかり続けることが必要なことが多いです(あるいは、「続けることが役立ちます」)。
- しかし、高血圧や糖尿病のように、「治療を続けながら症状をコントロールし、安定した社会生活を送ること」は可能です。満足のいくよりよい回復を目指して前に進むことができるのです。
- また、統合失調症の中にも、一部ですがすっかり治る方もいます。しかし、今の医学では、すっかり治る方を事前に見分けることはできません。統合失調症になって最初の2~5年間ですっかり良い状態が続いた場合には、お薬を少しずつ減らしたり、場合によっては中止することを試すことがあります。これは、成功することもあれば、失敗することもあるため、主治医の先生と相談しながら、慎重に試す必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 追加の情報を手に入れるには、以下のサイトをご覧ください。
- 厚生労働省 こころの健康や病気、支援やサービスに関するウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html
- こころの健康情報局 すまいるナビゲーターhttps://www.smilenavigator.jp/tougou/
- 統合失調症ナビ
https://www.mental-navi.net/togoshicchosho/
もっと知りたい! 統合失調症
統合失調症に似た病気って他にあるの?
- 以下のような精神科の病気が、統合失調症に関連していたり、似た症状が出てきたりします。
統合失調症に似た病気
- 妄想が中心となる妄想性障害
- 症状が出る期間が短い短期精神病性障害
- 気分の波もある統合失調感情障害
- うつ病や躁うつ病(双極性障害)
- トラウマによるPTSDや解離性障害
- 統合失調症などの精神科の病気にかかるリスクが高いアットリスク精神状態
家族は統合失調症の患者さんにどのように接するとよいでしょうか?
患者さんへの接し方
- ご本人を叱ったり、否定したり、批判する言動や行動は控えてください。
- 幻聴や妄想を、頭ごなしに否定することはよくありません。強く否定すると、むしろ悪化することがあります。
- 本人の希望ややる気を大切にしてください。できたところを認めて、言葉に出して評価してください。
治療へのかかわり
- 病気についての知識や理解を深めてください。
- 薬の必要性についてご理解ください。お薬は、ひとり一人にあった種類を、適切な量で服用している限りは、効果も安全性も高いです。
- 治療の目標は長い目でみて考えてください。急がば回れと言いますが、時間をかけることが、良い結果に結びつくことがあります。
ご家族の負担の軽減
- ご家族の健康にも配慮してください。家族のみなさんも、よく眠ることや、自分の時間を持てるように生活することが大切です。
- 主治医などの治療者や、行政の窓口などの支援者も、上手に利用してください。