肺高血圧症:どんな病気?難病なの?検査は?治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 千葉大学病院「肺高血圧症センター」センター長の巽浩一郎です。千葉大学病院では、呼吸器内科を中心として、多くの診療科・コメディカルの方々と連携をとり、また患者さんをご紹介頂いた医療機関の先生とも連携をとる形で、多職種の集合体としての「肺高血圧症センター」を運営しています。
- このホームページに来ていただいた方は、ほとんどが「肺高血圧症」と医師から診断を受けて、どのような病気かを知りたい、自分は今後どうなるのだろうかと不安を抱えている方と思います。
- いま不安を抱えている方や、肺高血圧症の症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 肺高血圧症は、肺の血管の病気により、心臓が全身に酸素を送る機能が低下し、息苦しさなどの症状を認める病気です。
- 心臓は右と左に分かれています。その右側の心臓から肺に血液が送られます。肺高血圧症は、この心臓の右側の機能が低下する病気です。心臓の機能が下がった結果、全身に酸素を十分に送れないために、動く時に息切れを感じます。また,動く時に脳に十分な血流を送れないために、失神が起こることもあります。
- 現在、肺高血圧症は早く診断し早く治療することにより、ほぼふつうの生活が可能な病気になりました。
- 肺高血圧症の専門医は日本では数少ないのが現状です。日本肺高血圧・肺循環学会(www.jpcphs.org)は、肺高血圧症患者会とも連携をとり、肺高血圧症の診療・研究のサポートをしています。
- 肺高血圧症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
肺高血圧症は、どんな病気?
- ヒトが生きるためには、きちんと「呼吸」をして「大気中の酸素」を肺から体の中に取り込む必要があります。
- しかし、「呼吸」するだけでは体の中に酸素は取り込めません。「肺から取り込んだ酸素」を、心臓に一度戻して、さらに全身に送る必要があります。
- 心臓から肺に血液を送るための血管を「肺動脈」といいます。この肺動脈の圧力(血圧)が異常に上昇するのが「肺高血圧症」です。
- 肺動脈の圧力が上昇する理由は、肺の細い血管が異常に狭くなり、また硬くなるために、血液の流れが悪くなるからです。
- 肺高血圧症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
肺高血圧症と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 自分で肺高血圧症を疑って、医療機関を受診することはないと思います。たまたま受診した病院で、肺高血圧症を疑われることが診断のきっかけになります。
- 自覚症状として特別なものはありません。
- 安静にしている時の自覚症状はありませんが,体を動かす時に、ヒトはより多くの酸素が必要になります。この酸素の供給が十分にできなくなるのが、肺高血圧症です。下記の症状に注意して下さい。
注意してほしい症状
- 体を動かす時に息苦しく感じる
- 体を動かす時に意識がなくなる(失神)
受診前によくなるために自分でできることは?
- 受診前に病気を良くするために自分でできることは、残念ながらありません。
肺高血圧症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 肺高血圧症の原因としては下記のようなものが、知られています。
肺高血圧症のなりやすさに関係するもの
- 遺伝
- 食欲抑制薬、青黛などの特殊な薬
- 膠原病
- 先天性心疾患
どんな症状がでるの?
- 病気の重症度により症状は違いますが、下記のような症状を認めることがあります。
- 病気の程度が軽度の場合:強い運動をすると息切れ、動悸(どうき)、疲労感、胸の重苦しさ などが、あらわれます
- 病気の程度が中等度の場合:坂道や階段を上ると息切れがしたり、急に立ち上がるとめまいがしたり、いつも疲れやすいなどの症状が、軽い運動でも症状があらわれます
- 病気の程度が重度の場合:病気が重くなると、安静にしていても、息苦しさ、失神などの症状があらわれます
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- お医者さんでは下記のような検査を行います。
- 心電図:重症度を評価するための検査です。軽症の患者さんでは心電図の波形は正常であることもありますが、重症の患者さんでは変化が現れます。
- 胸部X線検査:X線を用いて肺動脈、心臓の状態、また肺の状態を調べます。
- 胸部CT検査:いろいろな方向からX線を照射して、胸を輪切りにしたような写真をとります。肺動脈、心臓の状態、また肺の状態を調べます。
- 心エコー検査:超音波を用いた検査です。身体への負担はありません。肺動脈圧を予想することができます。
- 肺シンチグラフィ検査:放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を用いて、肺の血流の状態を調べます。
- 右心カテーテル検査:カテーテルという細い管を直接心臓内に入れて、心臓や肺の血管の圧や酸素濃度を調べる検査です。肺高血圧症の診断を確定したり、治療効果を調べるために行われます。
どんな治療があるの?
- 以前は、肺高血圧症を完全に治すことは難しいとされてきました。現時点では、狭く細くなった肺の血管を広げる薬を使った治療により、病気の症状を軽くする、病気の進行を抑えることができるようになりました。
- 肺の血管を拡げる薬は、大きく3種類に分けられます。
肺の血管を拡げる薬
- エンドセリン受容体拮抗薬:エンドセリンという肺の血管を収縮させる物質の働きを抑える薬
- PDE5(フォスフォジエステラーゼ5)阻害薬・sGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激薬:肺の血管をひろげる物質を増やす薬
- プロスタサイクリン受容体作動薬・プロスタサイクリン製剤:血管をひろげるプロスタサイクリンという物質を増やす薬、プロスタサイクリンという血管をひろげる物質を補う)
- これらの薬を2種類以上組み合わせて使用することで、より良い効果が期待できる場合があります。
- また,上記を補助する治療として下記があります
補助的な治療方法
- 持続的な酸素吸入
- 利尿薬:心臓の負担を減らす薬
- 抗凝固薬:肺の血管で血液が固まるのを防ぐ薬です
- 呼吸・心臓リハビリテーション:場合によっては危険な場合もありますので、担当医とご相談下さい。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 残念ながら、肺の血管をひろげる治療薬による、頭痛等の副作用はよくみられます。肺の血管のみでなく、頭の血管を含めて全身の血管がひろがるためです。
肺の血管をひろげる治療薬の副作用
- 頭痛
- 顔が赤くなる
- 足のむくみ
- 肝機能の障害
- 貧血(医療機関での定期的検査が必要です)
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 病気が診断されず適切な治療が受けられなかった場合には、以下のような経過をたどることがあります。①肺の血圧が高くなる、②心臓が頑張る、③心臓が疲れて血液を全身に送れなくなり、酸素が全身にまわらなくなる、④少し動いただけでも息苦しく感じる
- しかしすべての肺高血圧症の患者さんが、このような経過をたどるわけではありません。進行が早い方と、進行がゆるやかな方がいます。
- 現状は残念ながら、それぞれの患者さんがどのような経過をたどるかの予測はつきません。
- また、さらに残念なことに、肺高血圧症は「難病」に指定されているとおり、治癒は難しいです。
- しかし、適切な治療により、健常人とほぼ同じ活動ができるようになることを治療目標として、専門医が治療にあたっています。
追加の情報を手に入れるには?
- 肺高血圧症は一つの病気ではありませんので、検索をされている方が、どのタイプの肺高血圧症であるのかを、まず知る必要があります。お医者さんにご確認ください。
- 特に、厚生労働省は日本の指定難病に関する情報を、難病情報センターに掲載しています。( )内の番号は、指定難病の番号になります。
- 肺動脈性肺高血圧症(86)
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/171
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/253
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/439
- 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(87)
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3868
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3869
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3870
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(88)
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/192
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/307
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/440
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