褐色細胞腫:どんな病気?注意しなければならない薬や検査は?治療は?
更新日:2020/11/11
- 内分泌代謝科専門医の田辺 晶代と申します.
- このページに来ていただいたかたは,もしかすると「自分が褐色細胞腫になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません.
- いま不安を抱えている方や,まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました.
- 私が日々の診察の中で,「特に気を付けてほしいこと」,「よく質問を受けること」,「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました.
目次
まとめ
- 褐色細胞腫とは,副腎という臓器にできる腫瘍で,非常にまれな病気です.
- 血圧を上げるホルモンが過剰につくられるため、多くの患者さんが高血圧になります.胸のドキドキや頭痛と同時に血圧が急に上がる発作がみられることもあります.
- 治療は原則,手術で腫瘍を取りだすことです.
褐色細胞腫は,どんな病気?
- 褐色細胞腫【かっしょくさいぼうしゅ】とは,腎臓の上にある副腎という小さな臓器にできる腫瘍です.多くの患者さんで腫瘍は直径3cmを超える大きさです。
- 副腎は血圧を上げるためのホルモンを何種類か作っていますが,ここにできる褐色細胞腫も,血圧を上げるホルモンであるカテコールアミンを必要以上につくってしまいます.腫瘍がつくるカテコールアミンにより,血圧が上がる,脈が速くなる,急に汗をたくさんかく,などの症状がでます.
- なお,褐色細胞腫は副腎以外のところにできることもあります.同じ腫瘍ですが,副腎以外にできるとパラガングリオーマ(傍神経節細胞腫【ぼうしんけいせつさいぼうしゅ】ともいいます)と呼び方が変わります.
褐色細胞腫と思ったら,どんなときに病院・クリニックへ受診したらよいの?
- 褐色細胞腫は非常にまれな病気です。気になる症状があっても,褐色細胞腫であることはほとんどないでしょう.
- ですが,更年期障害,パニック障害,精神的なストレスでも,褐色細胞腫と同じような症状がでます.これは検査をしないとわかりませんので,心配な方は医療機関を受診して下さい.
かかりつけの病院への受診がおすすめの場合
- 血圧が高い
- 1年以上にわたって,30分以上胸がドキドキしたり,血圧があがったりすることが時々ある
- 30分以上胸のドキドキが続く,血圧が上がることがひんぱんに起こる
- 健康診断などで「おなかに腫瘍がある」と言われた
内分泌科の専門医がいる病院への受診がおすすめの場合
- 血圧を下げるお薬を飲んでもあまり効かない場合
- 血のつながった家族,親戚の中に褐色細胞腫の方がいて,自分に症状がある場合
褐色細胞腫になりやすいのはどんな人?原因は?
- 褐色細胞腫は,高血圧の患者さん1000人に1人ぐらいの割合で現れるまれな病気で,原因はわかっていません.食事や運動とも関係ありません.
- 最近,褐色細胞腫になりやすい遺伝子を持っている場合や,褐色細胞腫が遺伝する場合があることがわかってきました.血縁関係のある方に褐色細胞腫の方がいて,自分に心当たりの症状がある場合は,専門医療機関で検査を受けることをお勧めします.
- 遺伝子を自費で調べることもできますが,まだ研究段階のため,多くの場合は不確実で,診断には結びつきません.
- なお,副腎以外に腫瘍ができた場合や,腫瘍がつくるカテコールアミンのうちノルアドレナリンのみが多い場合は,再発しやすいことがわかっています.
どんな症状がでるの?
- 褐色細胞腫では,下記のような症状がでます.
褐色細胞腫の症状
- 血圧が上がる
- 胸がドキドキする
- 急に冷や汗が出る
- 発作的に血圧が上がり,ドキドキして,頭が痛くなり,冷や汗が出る
- 便秘がちになる
- 体重が減る
- 血糖値が高くなる
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 褐色細胞腫を疑った場合は次のような検査を行います.
- 血液検査・尿検査:褐色細胞腫がつくるカテコールアミンが増えていることを確かめます.
- CT・MRI検査:腫瘍がどこにあるか調べます.
- MIBGシンチグラフィー:CT・MRI検査でみつかった腫瘍が褐色細胞腫であることを確定します.MIBGという,褐色細胞腫に集まる物質を使って行うレントゲンの検査です.
コラム:カテコールアミンの種類と代謝
- カテコールアミンにはアドレナリン,ノルアドレナリン,ドーパミンの3種類があります.これらのカテコールアミンは最終的に尿に排泄されます.
- アドレナリン,ノルアドレナリンの一部は体内で構造が変化し,アドレナリンはメタネフリン,ノルアドレナリンはノルメタネフリンに変化します.
- 診断の際は、これらのカテコールアミンを全て測定しています。
どんな治療があるの?
- 高血圧の原因になっているカテコールアミンの作用を抑える治療と腫瘍を切り取る手術、主にこの2つで治療を行います.
- カテコールアミンが増えて高血圧になっている場合は,その作用を抑える飲み薬(アルファ遮断薬)を飲んでいただきます.また,手術を行う場合も,手術前にアルファ遮断薬の量を増やして点滴を行います
- 腫瘍が1個のみで,手術が行える場所にある場合は,腫瘍を切り取って取り出す手術を行います.
- 手術ができない場合は,個別に治療方針を考えます.他の臓器に飛んでいく(転移)ような悪性の場合は,抗癌剤治療や放射線治療などを行うこともあります.
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 手術を行った場合とお薬の治療の場合に分けてご説明します.
手術を行った場合
- この腫瘍は再発することがあります.手術で完全に腫瘍が取れた場合でも,手術後半年~1年に1回は検査を受けてください.
- 手術の合併症は腫瘍のある場所や大きさ,手術方法によって異なります.手術前に主治医の先生から説明がありますので,不安な点があれば聞いてください.
お薬を使った治療の場合
- カテコールアミンの働きをおさえるお薬(アルファ遮断薬)は,めまい,立ちくらみ,胸がドキドキする,血圧が下がるなどの副作用があります.
- 飲んでいただく量を調節してこれらの副作用が出ないようにしますが,症状がある場合は別の薬(ベータ遮断薬)を追加することもあります.副作用かもしれないと思う症状がある場合はすぐに病院に相談してください.
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 腫瘍が1個だけで,手術で腫瘍を完全に取り出せる場合は,手術で治ります.しかし,10人中1~3人の患者さんで,数年後~十数年後に再発するといわれています.
- 手術ができない場合や腫瘍が完全に摘出できない場合は,根本的には治りません.その場合は症状を抑えるため,カテコールアミンの作用を抑える飲み薬(アルファ遮断薬)を続けていただきます.
追加の情報を手に入れるには?
- 病気の説明に関しては日本内分泌学会のホームページを参考にしてください.
- http://www.j-endo.jp/ippan/03_disease/02_03.html
- 日本内分泌学会から褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018が発刊されています.このなかに褐色細胞腫・パラガングリオーマ診断基準が記載されています.