非ホジキンリンパ腫:どんな病気?検査や治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 血液専門医・がん薬物療法専門医の丸山 大と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとご自分やご家族が非ホジキンリンパ腫と診断され、どんな病気なのだろうかと不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 2週間たっても治らないリンパ節の腫れがあった場合は病院を受診して下さい。
- 非ホジキンリンパ腫は、がん化したリンパ球の種類によって大きくB細胞リンパ腫とT/NK細胞リンパ腫とに分けられます。
- また、リンパ腫が進行するおおよその速さにより、低悪性度、中悪性度、高悪性度に分けられます。
- 治療中および治療後も、出来るだけ普段通りの生活を心がけて下さい。
- 診断や治療について分からないことがあったら、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。
非ホジキンリンパ腫は、どんな病気?
- 非ホジキンリンパ腫とは、リンパ球(白血球の一種で免疫機能を持つ)の一部が「がん化」した悪性リンパ腫の1つです。
- がん化したリンパ球の種類によって、B細胞リンパ腫とT/NK細胞リンパ腫とに分けられます。
- 日本では、非ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫全体の90%以上を占めますが、このうち約70%はB細胞リンパ腫です。B細胞リンパ腫とT/NK細胞リンパ腫は治療方法が違います。
- この他に、リンパ腫の悪くなる速さにより3つの悪性度に分けられます。年単位で悪くなる「低悪性度リンパ腫」、月単位で悪くなる「中悪性度リンパ腫」、週単位で悪くなる「高悪性度リンパ腫」です。
- 低悪性度リンパ腫はとてもゆっくりと進行するため、症状がないことが多いです。一方、高悪性度リンパ腫は悪くなるスピードが速く、痛みや発熱などの症状がでることが多いなどの特徴があります。
悪性度と非ホジキンリンパ腫のタイプ
- 低悪性度(年単位で進行するタイプ):ろ胞性リンパ腫、MALTリンパ腫など
- 中悪性度(月単位で進行するタイプ):びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫など
- 高悪性度(週単位で進行するタイプ):バーキットリンパ腫、成人T細胞白血病・リンパ腫(急性型・リンパ腫型)など
コラム:ホジキンとは?
- 非ホジキンリンパ腫とは、「ホジキンリンパ腫ではないリンパ腫」という意味合いです。
- 「ホジキン」とは、1832年にこの病気を報告したイギリス人の医師の名前です(トーマス・ホジキン先生)。
非ホジキンリンパ腫と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 患者さんがご自身で「非ホジキンリンパ腫かもしれない」と思うことはほとんど無いと思います。
- 2週間たっても治らないリンパ節の腫れやしこりがあった場合は、近くの病院を受診してください。ただし、リンパ節が腫れたからといって、リンパ腫であるとは限りません。まずは内科や、(首のリンパ節の腫れであれば)耳鼻科などを受診されれば良いと思います。
リンパ節の腫れ
- リンパ節が腫れる原因はさまざまです。多くの場合は感染症(細菌やウィルス)による一時的な腫れです。その他には、免疫系の影響(膠原病、サルコイドーシスなど)が、「がん」以外の原因として挙げられます。
- 「がん」によるリンパ節の腫れとして、悪性リンパ腫が挙げられます。また、他の悪性腫瘍によってリンパ節が腫れることもあります。
非ホジキンリンパ腫になりやすいのはどんな人?原因は?
- 一部のタイプを除いて非ホジキンリンパ腫の原因は分かりません。基本的には遺伝せず、他人にうつすこともありません。
- HTLV-1というウィルスを持っている方の数%が、T細胞リンパ腫のひとつである成人T細胞リンパ腫・白血病を発症することが知られています。
- また、一部のリンパ腫はEBウィルスが原因で発症することが知られています。ただし、ほとんどの日本人は幼い時にEBウィルスに感染していますので、リンパ腫の発症を予防する方法はありません。
- 胃に発生する低悪性度リンパ腫であるMALTリンパ腫は、ヘリコバクター・ピロリ菌が原因で発症することが知られています。
どんな症状がでるの?
- 症状としては、リンパ節の腫れ(首や脇、足の付け根など)が最も多いです。リンパ腫によるリンパ節の腫れの特徴として、痛みがないのが典型的です。
- ただし、急激に腫れてきた場合(中悪性度リンパ腫の一部や多くの高悪性度リンパ腫)は、リンパ節やしこりに痛みがある場合もあります。
- 低悪性度リンパ腫では、症状がないことが少なくありません。この場合は、たまたま検診などで受けたレントゲンやCT検査などで、リンパ節の腫れを指摘されて発見されることが多いです。
- リンパ腫に特有の症状は特にありません。基本的にはリンパ節が腫れている所の押される感じが主です。つまり、リンパ腫ができた場所によって症状は異なるということです。
- 病状が進行すると、熱が出る、寝汗をかく、体重が減るなどの症状が出現することもあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 非ホジキンリンパ腫の診断のためには、腫れているリンパ節などから組織を採って(生検といいます)、顕微鏡で詳しく観察して診断することが必須です(病理検査といいます)。局所麻酔で採ることが多いですが、胸やお腹の奥にある場合は、全身麻酔で採ることもあります。
- 血液検査、尿検査、レントゲン、心電図などの一般的な検査に加え、リンパ節の腫れや他の臓器に異常がないかどうか調べるために、全身CT検査、PET検査(薬を点滴して全身を撮影する)などが行われます。多くの場合は骨髄検査(腰の骨に針を刺して骨髄を採る)も行われます。これらの結果によって、リンパ腫が体のどこにあるかを判断します(病期 [ステージ] 診断といいます)。
- その他、胸やお腹に水が貯まっていれば、針を刺して、その水を詳しく調べる検査が行われることもあります。また、内視鏡検査が行われることもあります。
- 意識や神経などに異常があった場合は、脳MRI検査や、髄液検査(背中の骨の間に針を刺して液体を採る)が行われることもあります。
どんな治療があるの?
- 非ホジキンリンパ腫の治療内容は、リンパ腫のタイプによって違います。すべてのタイプのリンパ腫について詳しくお話しすることは難しいため、ここでは代表的な低悪性度リンパ腫である「ろ胞性リンパ腫」と、中悪性度リンパ腫の「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の治療についてお話します。
- それぞれのリンパ腫は、病期診断によって、I期、II期、III期、IV期のどれに当てはまるか分かります。限局期(I期、II期)か、進行期(III期、IV期)かで治療が違うことがあります。
ろ胞性リンパ腫
- ろ胞性リンパ腫は、「腫瘍量」=「リンパ腫の量」によって「低腫瘍量」と「高腫瘍量」に分けて治療を考えるのが一般的です。
- 限局期(特にI期)のろ胞性リンパ腫では、放射線治療が治療のひとつです。ただし、放射線治療による副作用(唾液腺、甲状腺、腸、背骨、腎臓などに異常が起きる)が心配される場合は放射線治療を行わないこともあります。
- 低腫瘍量のろ胞性リンパ腫では、数年以上にわたって病気が進行しない可能性があります。そのような場合、治療はせず、経過観察が可能です。最近では(経過観察ではなく)抗体薬というガン化した細胞だけを狙い撃ちできる薬が、診断後すぐに投与される場合もあります。ただし、どちらの方法でも最終的な治療成績に差はありません。
- 高腫瘍量のろ胞性リンパ腫では、診断後に化学療法が行われることが一般的です。高腫瘍量のろ胞性リンパ腫では、CHOP療法、CVP療法、あるいはベンダムスチン療法といった抗がん剤が選択されることが多く、これらに抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブあるいはオビヌツズマブといった抗体薬を併用するのが標準治療です。また、リツキシマブあるいはオビヌツズマブの維持療法(2年)が行われることもあります。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
- 中悪性度リンパ腫であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、限局期(I期、II期)では抗がん剤と抗体薬の併用療法(リツキシマブ併用CHOP(R-CHOP)療法)、あるいはR-CHOP療法と放射線治療との併用療法が行われます。
- 進行期(III期、IV期)ではR-CHOP療法が標準治療です。リツキシマブの維持療法は行われません。
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では、リツキシマブの代わりにオビヌツズマブが投与されることはありません。
治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
治療の副作用
- 化学療法や放射線治療に伴い、吐き気、食欲低下、脱毛などが起こります。吐き気に対しては有効な吐き気止めのお薬がありますので、担当医や看護師・薬剤師さんとよくご相談いただき、できるだけ予防に努めて下さい。
- 化学療法剤(特にベンダムスチン)投与によって、血管の痛みが起こることがあります。
- 化学療法後に正常な血液が一時的に減ってしまい(骨髄抑制といいます)、発熱や肺炎・敗血症などの感染症を起こすことがあります。発熱した時は、速やかに抗生物質の内服を開始していただき、症状が改善しない場合は、必ず病院へ連絡して下さい。
- リンパ腫の治療では、正常なリンパ球も減少します。特にベンダムスチンの治療中、治療後は、リンパ球減少が遷延します。担当医とよく相談して、予防薬を内服するなど、感染症予防に努めてください。
- 化学療法剤(特にCHOP療法のシクロフォスファミド)や、感染症による肺障害が起こることがあります。息苦しさなどを自覚した場合は、必ず病院に連絡して下さい。
- 化学療法剤(特にCHOP療法のビンクリスチン)によって、しびれや便秘などの末梢神経障害が起こることがあります。しびれの有無や程度は、患者さんご本人以外には評価することが難しいため、ぜひ患者さんから担当医や看護師さんに教えてあげて下さい。
- 抗体薬(リツキシマブ、オビヌツズマブ)は、特に初回投与時、発熱、発疹、気分不良などのアレルギーに似た症状(輸注関連毒性といいます)が出現することがあります。投与中に違和感を感じたら、あまり我慢せずに看護師を呼んでください。
外来治療時の注意点
- 初期治療では抗体薬の初回導入時などをのぞくと、多くの場合は入院ではなく外来で治療を行います。何か体調がおかしいと感じたら、我慢しすぎないで病院へ相談して下さい。
- 感染症を防ぐため、手洗いとうがいを習慣づけて下さい。
- 外来治療を行っている場合、ほとんどの方は食事や行動を制限する必要はありません。生ものを食べていただいてもかまいません。できるだけ普段通りの生活を心掛けて下さい。
再発後の治療の注意点
- 再発後の治療は、患者さんや病気の状態によって多岐にわたるため、治療に伴う副作用は担当医から説明を受けて下さい。
治療後・治癒後の注意点
- 非ホジキンリンパ腫に対する治療がすべて終了した後も、定期的に通院していただくことが必要です。化学療法や放射線治療の結果、数年してから発症する合併症(晩期合併症といいます:心障害、肺障害、二次がんなど)があるため、これらを経過観察していきます。
- 非ホジキンリンパ腫が治癒したと考えられた後も、これらの晩期合併症のチェックを含め、検診や人間ドックなどを受けることをお勧めします。
副作用が出た場合の対処方法
- 熱が出た時は抗生物質を飲んでください
- 体調が悪い時にはすぐ病院に連絡してください
予防のためにできることは?
- 残念ながら、非ホジキンリンパ腫の発症を予防する方法はありません。
- 治療中や治療後の注意点は【治療中の注意】でお示しした通りです。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
ろ胞性リンパ腫
- ろ胞性リンパ腫をはじめとする低悪性度リンパ腫は、ゆっくり進行しますが治ることは難しいタイプのリンパ腫です。ただ、限局期で放射線治療を受けた患者さんの一部は治る可能性があると考えられています。
- 低腫瘍量ろ胞性リンパ腫で、5年経過観察したところ、約半分の患者さんでまだ治療を必要としなかったとの報告があります。
- 高腫瘍量ろ胞性リンパ腫に抗体薬併用化学療法を行った場合、10年たっても約半分の患者さんでリンパ腫の再発や死亡がなかったとの報告があります。
- 高腫瘍量ろ胞性リンパ腫に、リツキシマブ化学療法とオビヌツズマブ化学療法との比較試験を行ったところ、オビヌツズマブ化学療法が優れた(3年後の無再発生存割合がリツキシマブ群 73% vs オブヌツズマブ群 80%)と報告されました。ただ、全生存割合は両群で差が無く、またオビヌツズマブ群で副作用がやや多いことが分かっていますので、どちらを投与するかを担当医ともよく相談して下さい。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
- 中悪性度リンパ腫であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は、化学療法で治せる可能性があります。
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のタイプによって治療の成績が違いますので、担当医から説明を受けてください。治療期間は4か月半~6か月程度です。
追加の情報を手に入れるには?
- 国立がん研究センターがん情報サービス 悪性リンパ腫
- https://ganjoho.jp/public/cancer/ML/index.html
- 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版
- http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/table.html
- 国立がん研究センター中央病院薬剤部 薬剤治療パンフレット CHOP療法
- https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/pamph/2017/hematology/CHOP_hematology_201711.pdf
さいごに
- 非ホジキンリンパ腫の治療を受けていただくにあたり、患者さんやご家族にも、病気や治療内容、副作用の対処方法をよく理解していただくことが大切です。
- うがいや手洗いはもちろん、禁煙や節酒など、健康的な生活を心掛けて下さい。
- 診断や治療に疑問を持ったら、他の病院の医師に聞いてみること(セカンドオピニオンといいます)もできます。まずは担当の先生の説明を聴き、よく相談することが大切です。