中皮腫:どんな病気?どういう人に起こりやすい?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器外科専門医の田中 文啓と申します.
- このページに来ていただいたかたは,もしかすると「自分が中皮腫になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません.
- いま不安を抱えている方や,まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました.
- 私が日々の診察の中で,「特に気を付けてほしいこと」,「よく質問を受けること」,「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました.
目次
まとめ
- 中皮腫とは,アスベスト(石綿)が原因で主に胸膜に発生するがんです.
- アスベストを吸い込んでから20-40年後に起こります.このため,過去にアスベストを扱う仕事に就いていた人は要注意です.
- 主な症状は,胸の痛み,咳,息切れです.
- 比較的珍しくまた診断や治療も難しいので,治療経験の豊富な専門医療機関への受診をお勧めします.
- 中皮腫と診断された患者さんは,医療費などの公的補助を受けることができます.
中皮腫は,どんな病気?
- 中皮腫とは,中皮【ちゅうひ】と呼ばれる膜から発生する腫瘍で,その多くが悪性,つまり”がん”です.
- 中皮は肺,心臓,腹部の臓器などを包んでおり,それぞれ胸膜【きょうまく】(肋膜【ろくまく】ともいいます),心膜,腹膜と呼ばれます.そのいずれにも中皮腫は発生しますが,大部分は胸膜に発生します.
- 最初に胸に水(胸水)が溜まることが多く,これにより胸の痛み・咳・息切れなどの症状があらわれます.
- 中皮腫はアスベスト(石綿)が原因で発生します.
- アスベストを吸い込んでから20-40年という長い期間の後に発生することが中皮腫の特徴です.現在はアスベストの使用は禁止されていますが,過去にアスベストを扱う仕事に就いていた人などは気をつけていただく必要があります.
- 中皮腫は,胸の中全体に広がることが多いため,胸全体を手術しなくてはならず,治療による体への負担が大きくなります.
中皮腫と思ったら,どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 胸の痛み,咳や息切れを感じたら,まずはかかりつけ医を受診して胸のレントゲン写真を撮ってもらってください.
- 症状がなくても,職場のがん検診がある場合は必ず受けてください.
- 過去にアスベストを扱う仕事に就いていた方は,毎年レントゲン写真を撮ってください.
コラム:中皮腫を疑う所見
- 胸に水(胸水)が貯まっている場合は中皮腫の疑いがあります.
- 胸膜が分厚くなったプラークと呼ばれる影は,中皮腫そのものではありませんが,アスベストを吸い込んだサインです.
専門医への受診がおすすめな場合
- レントゲン写真で胸水やプラークが見られた場合.
- 中皮腫は,比較的珍しくまた診断や治療も難しいので,中皮腫が疑われた場合は治療経験の豊富な専門医療機関への受診をおすすめします.
医療機関の選び方
- かかりつけ医にご相談いただき,地域で中皮腫を多く扱っている医療機関を紹介してもらうのがよいでしょう.
- 全国の“がん診療連携拠点病院”をインターネットで検索することもできます.ただし,中皮腫は患者数が少ないために拠点病院でも専門的に扱っていない場合もあります.
- 医療機関を受診する前に,ホームページを見たり電話で問い合わせるなどして,中皮腫の診療実績を確かめることをお勧めします.
- 実際に受診してみて疑問に思ったときは,他の医療機関でセカンドオピニオンを聞いてみることも考えましょう.セカンドオピニオンの紹介状を書くのを嫌がるお医者さんはやめたほうがよいと思います.
受診前によくなるために自分でできることはある?
- 風邪だろうと思い込んだり,痛み止めや咳止めの薬で症状を抑えている間に,病気はどんどん進行してしまいます.
- 中皮腫に対してご自身でできることは,とにかく早く専門医療機関を受診することです.
中皮腫になりやすいのはどんな人?原因は?
- 中皮腫はアスベスト(石綿)が原因で起こりますので,アスベストを吸い込む作業やアスベストを取り扱う現場などでの仕事に就いていた方がなりやすいです.
アスベストを吸い込む可能性のある方
- 鉱山などでアスベスト製造に関連する作業をしていた方
- 断熱材や建材などのアスベスト製品を製造する作業をしていた方
- アスベストの吹き付けなど,アスベストを取り扱う作業をしていた方
- 造船や車輛製造および解体などのアスベスト製品を取り扱う現場での作業をしていた方
- アスベストが付着した作業着を洗濯していた方
- 周りにアスベスト製品を取り扱う工場があった方
どんな症状がでるの?
- 中皮腫はほとんどが胸膜に発生しますので,次のような胸の症状がでることが多いです.
中皮腫の主な症状
- 胸の痛み
- 咳
- 息が苦しい
- 早期には症状がないこともあります.
- 進行して全身に中皮腫が広がると,嘔吐・だるさ・発熱など,あらゆるがんの症状がでます.
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 中皮腫を疑われた場合,下記のような検査を行うことになります.
検査の種類
- 細胞診:胸水が溜まっていることが多いので,胸に針を刺して水を抜き,胸水の中にある細胞を顕微鏡で調べます.
- 胸膜生検:胸の中にカメラ(胸腔鏡)を入れて胸膜の細胞を切り取り,細胞を調べます.全身麻酔をかけて,患者さんは眠った状態で行うことが多いです.
- 全身CT:全身にがんが広がっていないかを調べます.
- 頭部MRI:頭部にがんが広がっていないかを調べます.
- 全身PET検査:全身にがんが広がっていないかを調べます.
- 血液検査:全身状態を調べたり,がんの状態を把握します.
- 肺機能検査:肺への影響を調べます.
- 心電図:心臓への影響を調べることがあります.
どんな治療があるの?
- 中皮腫の治療は,手術治療,放射線治療,薬物治療を組み合わせて行います.
- 早期発見して手術を行うのが一番効果的ですが,胸全体に広がってしまった中皮腫を取り除く手術は体への負担が大きく,実際に手術を受けることができる患者さんは多くありません.
- また,手術だけでは治る可能性が高くないため,可能ならば手術の前後に抗がん剤などの治療も行います.
- なお,胸全体の広い範囲に放射線を当てると,肺が傷付いて強い副作用がでてしまいます.そのため,放射線治療の片側全胸郭照射は,手術により肺をすべて取り除いた後でなければ行うことができません.
手術治療
- 胸膜肺全摘術(EPP):中皮腫が生じた側の肺と胸膜をすべて取り除く手術です.
- 胸膜切除/肺剥皮術(P/D):肺から胸膜を”はぎとる”ことにより,肺を残しながら中皮腫が生じた側の胸膜をすべて取り除く手術です.
- いずれも必要に応じて,肋骨や横隔膜などを一緒に取り除くことになります.
放射線治療
- 片側全胸郭照射:胸膜肺全摘術(EPP)によって肺を取り除いた後にのみ行われます.放射線で,手術で取り切れなかった可能性のあるがん細胞をやっつけます.
- 緩和照射:痛みのある場所に部分的に放射線を当てて,症状を和らげる治療です.
薬物療法
- 抗がん剤(細胞障害性薬剤):シスプラチンとペメトレキセドを組み合わせて使います.シスプラチンを使えないときは,カルボプラチンで代用します.
- 免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤):抗がん剤が効かなくなった場合,2018年末からニボルマブ(商品名:オプジーボ)が使えるようになりました.
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 中皮腫の治療やその副作用は、患者さんごとに大きく違います.担当のお医者さんや看護師さん・薬剤師さんから,説明や注意事項をよく聞いてください.専門的な用語も多いため,わからないときは納得いくまでご質問ください.
- タバコを吸っていると,どの治療法でも副作用が出やすくなります.必ず禁煙を守ってください.
- どの治療でも,熱,咳や息切れが出たときは,ただの風邪と思わずに必ず治療を受けている医療機関を受診してください.肺炎などをこじらせると,命にかかわります.
- なお,免疫療法の場合は,これまでの治療では考えられなかったようないろいろな副作用が,全身のどこにでも起こる可能性があります.たとえば,急に重い糖尿病になることもあります.
- 免疫療法の副作用はいつ起こるか予想できず,また治療が終わって数か月が過ぎてからでも起こります.普段と違うことに気づいたら自己判断せず,すぐに担当のお医者さんに知らせていただくこと,定期的に医師の診察をうけていただくこととが大切です.
予防のためにできることは?
- 中皮腫はアスベストが原因で起こるので,アスベストを吸い込まないことが予防につながります.
- 現在,アスベストの使用は法律で禁止されていますが,規制前に建てられた建物の解体作業時などに吸い込む可能性があります.このような作業にあたる際には,きちんと防塵用のマスクを着けることが大事です.
- 過去にアスベストに関連する作業に従事していた方は,毎年きちんとがん検診を受けることをお勧めします.
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 中皮腫の治療は難しいですが,早期であれば,手術と抗がん剤などを組み合わせて治すこともできます.治療は数か月以上かかると考えてください.
- 手術ができない場合は,抗がん剤で進行を遅らせたり,放射線治療などで症状を和らげる治療を行います.
追加の情報を手に入れるには?
- インターネットでは様々な情報を得ることができますが,信頼できるサイトから情報を手に入れることが大事です.下記のサイトをお勧めします.
- 国立がん研究センターのがん情報サービス(ganjoho.jp)
- https://ganjoho.jp/public/index.html
- 日本肺癌学会のガイドライン
- https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=33
- 産業医科大学呼吸器・胸部外科のサイト
- http://www.kitakyusyu-gan.jp/
もっと知りたい! 中皮腫
中皮腫の公的補助制度について
- 中皮腫と診断された場合,医療費などについて公的補助を受けることができます.
- 公的補助制度には,労働災害認定によるもののほか,労働災害認定の対象とならない場合の石綿健康被害救済法による制度があります.
労働災害認定
- 職場でアスベストばく露を受けて中皮腫になったり死亡された場合は,労働災害の認定が受けられます.都道府県の労働局や労働基準監督署に相談してください.
石綿健康被害救済法による保証
- アスベストばく露をうけた職場がなくなってしまった場合や不明の場合,また職場以外でのばく露の場合も,この法律に基づいて公的補助を受けることができます.詳しくは,独立行政法人環境再生保全機構や保健所に相談してください.