人工膝関節置換術:どんな治療?治療を受けるべき人は?検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 整形外科専門医の赤木 龍一郎と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身またはご家族、お知り合いの方が変形性膝関節症と診断され、どのような治療法があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 変形性膝関節症に対する手術方法のひとつである人工膝関節置換術について理解するために役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 人工膝関節置換術は変形性膝関節症の治療法のひとつです。
- 膝関節の傷んだ部分を手術で取り、金属やセラミックでできた人工関節に取り替えることで痛みを取り除きます。
- 変形性関節症の程度により、膝全体を置換する全置換術あるいは部分的に置換する単顆置換術が選択できます。
- 手術によって歩行時や階段昇降の際の膝の痛みを改善することができ、自分の足で出かける楽しみを取り戻すことができます。
どんな治療?
- 人工膝関節置換術は軟骨が傷んで痛みの原因になっている関節の部分を骨ごと切り取り、金属やセラミックでできた人工関節に置き換える治療です。
- 傷んでいる範囲によって部分置換術(単顆置換術)あるいは全置換術のどちらを選択するか決められます。
この治療の目的や効果は?
- この治療の一番の目的は痛みの原因となる組織を切除して人工関節に置き換え、痛みをとることです。
- 治療により歩きやすくなり、生活しやすくなります。
- 膝の状態によっては関節の動きが改善する、脚がまっすぐになる、などの効果も期待できます。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 痛みなどの症状やレントゲン写真でみた変形の程度だけでなく、年齢や生活スタイル、どういったことで困っているか、リハビリ意欲はあるかなどを考慮して治療方法を決めます。
治療を受ける場合
- 変形性膝関節症の痛みで、日常生活動作がやりづらくなったとき
- リハビリや鎮痛剤の注射の治療を行っても、治らないとき
- 変形膝関節症以外でも、関節が変形してしまったとき
実際には、どんなことをするの?
- 手術は以下の2種類あります。
手術の種類
- 部分的に置換する手術:膝の一部分だけ軟骨がすり減って痛みの原因になっている場合に行います。
- 全体を置換する手術:膝全体の軟骨がすり減っている場合、変形の程度が強い場合に行います。
- いずれも皮膚を切って開き、膝関節をあけ、傷んだ骨と軟骨を切除して金属あるいはセラミックなどでできた人工関節に取り替える手術です。
- 間にはポリエチレンでできた部品を挟むことで、膝がなめらかに動かせるような構造になっています。
- 状態に応じて膝のお皿(膝蓋骨)の軟骨もポリエチレンで置き換える場合があります。
他にどのような治療があるの?
- まずリハビリによる筋力・可動域の維持や体重コントロールを含めた生活指導、杖・装具の使用、鎮痛剤の内服・外用やヒアルロン酸の関節内注射などの保存的治療を行います。
- 治療をしても良くならない場合に、膝の変形の程度や脚の形(O脚、X脚など)によって関節鏡手術や骨切り術といった選択肢があります。
その他の手術
- 関節鏡手術:関節鏡で膝関節内の傷んだ組織を切除する場合があります。突然膝が動かせなくなる症状などがある場合には、有効なこともありますが、痛みをよくするためには、あまり長期間の効果が期待されないため近年ではあまり行われません。
- 骨切り手術:大腿骨(太もも)あるいは脛骨(すね)、もしくはその両方を切ってO脚やX脚を矯正することで、体重のかかりかたを変えて痛みを軽くする治療です。自分の膝を残して脚の形を整える治療なので、若い方や活動性の高い方にはメリットの大きい治療法です。しかし15年程度のうちにまた痛みが悪化して人工膝関節置換術が必要になる可能性があります。
治療を受けるにあたって
禁煙について
- 手術前後の期間は禁煙するようにしましょう。
- 喫煙は手術中やその後の障害の原因になります。例えば、タバコの影響で痰の量が増え、全身麻酔の際に支障をきたすことがあります。
- 最低でも手術が決まったその日から禁煙することが望ましく、可能な限り長く禁煙することが大事です。
術前の評価
- 手術を安全に行うために、手術前に胸のレントゲン写真を撮ったり、血液検査を行ったり、麻酔科の先生の評価を行うなど術前の評価を行います。
理解しておきたい リスクと合併症
- 手術によって引き起こされる望ましくないことを合併症と言います。人工膝関節置換術後の代表的な合併症を挙げます。
- これらすべての合併症が必ず起きるわけではありません。
人工膝関節置換術のリスクと合併症
- 術後の痛み
- 術後の出血
- 傷口の感染
- 傷口の縫合不全
- 深部静脈血栓症
- 肺塞栓
- 神経障害
- 可動域制限
- 術後の脱臼
- 人工関節の破損、ゆるみ
治療後について
リハビリ
- 手術後は早期から膝の曲げ伸ばしや歩行訓練などのリハビリを始めることが大切です。
手術後の通院
- 歩行能力や膝の動きに応じて、手術後もリハビリ通院が必要になります。
- 長期間の経過で人工関節に不具合が生じないことを確認するため、手術後は長期に渡り定期的な通院が必要になります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 日本整形外科学会 ホームページ
- https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html
もっと知りたい! 人工膝関節置換術
歩けなくなったら手術すればいいですか?
- 痛みがなく生活で困っていなければ、レントゲンなどの検査で軟骨がすり減って骨が変形していても手術をする必要はありません。
- しかし、リハビリや薬では改善できない痛みがあって歩行能力が落ちている場合には、あまり歩行能力が低下しないうちに手術をしたほうが手術後の経過が良いと期待できます。完全に歩けなくなってしまってからでは手術をしても歩けるようにならない場合があります。
手術で歩けなくなることもありますか?
- 手術によって痛みがとれ、手術前よりも歩行や階段昇降が楽にできるようになる場合がほとんどです。
- 手術後に感染や骨折などの合併症を生じてしまうと歩行能力が低下してしまう場合もありますが、可能性は低いと考えています。
合併症の詳細について
術後の痛み
- 手術によって日常生活などの活動に伴う痛みは軽減すると期待できますが、ある程度の痛みが残る場合があります。
- 手術後の痛みを無理に我慢する必要はありません。痛み止めなどを使用して痛みのコントロールをするので、痛みが辛い場合は医療スタッフに遠慮なく伝えて下さい。
術後出血
- 手術では膝に流入する血管を駆血することによって出血を最小限にすることができますが、手術後には骨を切除した部分からの出血が起こることがあります。
- そのまま様子を見られる場合がほとんどですが、輸血が必要になる場合もあります。
創部感染
- 創部(そうぶ)とは手術で切った傷のことです。手術中から抗生物質を使用して感染の予防に努めていますが、それでも創部についた細菌が増殖して感染を起こすことがあります。
- 深いところに感染した場合、再手術(場合によっては人工関節の抜去)が必要となり、長期間の治療が必要になる可能性があります。
創治癒不全
- 創部の縫い合わせた部分がうまくつながらず、その縫い目のほころびから創部が開いてしまうことがあります。
- 皮膚が壊死してしまうこともあり、この場合は皮膚移植の手術が必要になることもあります。
深部静脈血栓および肺塞栓
- 静脈の中で血が固まってしまい、血管が詰まってしまうことがあります。
- 血栓が肺の血管を塞いでしまった場合重症となり命にかかわる可能性があります。
- 予防のために術後は脚にポンプを装着し、弾性ストッキングを装用していただきます。
- また、血栓をできにくくする薬を内服していただきます。
神経障害
- 創部の周りの皮膚の感覚が鈍くなったり、しびれたりすることがあります。
可動域制限
- 変形の程度や手術前の可動域により、手術後にもある程度の可動域制限は残る可能性が高く、手術をしても正座は難しい可能性が高いです。
術後の脱臼
- 手術後に人工関節の脱臼を生じる場合があります。程度により再手術の対象となります。
人工関節の破損、ゆるみ
- 手術後長期間(通常は15年以上)経過した後に人工関節と自分の骨の間でゆるみを生じたり、ポリエチレンがすり減ったりすることで人工関節を入れ替える手術が必要となる場合があります。