股関節の痛み:原因は?病院受診のタイミングは?治療で良くなるの?
更新日:2020/11/11
はじめに
- 整形外科専門医の中村 順一と申します。
- とつぜん股関節が痛くなったり、ひどい股関節の痛みが何日も続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、股関節の痛みの一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知っておいてほしいこと」について説明させていただいています。
目次
まとめ
- 股関節痛(足の付け根が痛むこと)の原因はさまざまです。しかし、多くは命の危険性の少ない病気です。
- ただ、まれに、がんの転移のように危険な病気もあります。痛みがひどい場合や、歩けないなどの症状があれば医療機関への受診が必要になります。
- 痛み止めで症状が治まらない場合は手術が必要になります。
- 股関節痛の原因を探る手掛かりになるのは、痛みが「一時的な」ものなのか、「ずっと続く」ものかという点です。
- 股関節痛を繰り返す場合や一か月以上続く場合は通常医療機関の受診が必要です。
どんな症状?
- 股関節の痛みは歩きはじめに足の付け根が痛みます。そこに痛みを感じたときに股関節痛があるといいます。
- 股関節の痛みは動かしたときに痛むので、足をひねったり、靴下をはいたり、足の爪を切ったりする時などに痛みを感じるのが特徴です。
- じっとしていれば痛くありません。そのため椅子に座っているのは長くても平気なことが多いです。また、立ちっぱなしなら長時間でも大丈夫なこともあります。
- 歩き始めが痛いため、椅子から立ち上がった時に痛くて、すぐには動けないこともあります。
- しばらく歩いているとむしろ楽になってきますが、長時間歩いているとやはり痛みが出てきて足を引きずるようになり、だんだん長い距離を歩けなくなります。
主な原因
- 股関節痛の原因はさまざまです。多くは命の危険性の少ない病気ですが、たとえ、命に関わらない病気でも、生活に支障をきたすことが問題となります。
- まれに、感染やがんの転移のように危険な病気もあります。痛みがひどい場合や、歩けないなどの症状があれば医療機関への受診が必要になります。
変形性股関節症
- 骨盤の受け皿である臼蓋(寛骨臼)の形成不全により、大腿骨頭に対する屋根のかぶりが悪いことが病態です。
- 年齢とともにだんだん関節の軟骨がすり減ってくるのが典型症状です。変形の程度や症状の強さ、年齢などで治療方針が変わってきます。
- また、家族に股関節の悪い方がいる場合はかかりやすいです。
- レントゲンで診断がつく場合が多いので、医療機関への受診をお勧めします。
特発性大腿骨頭壊死症
- 大腿骨頭への血流が悪くなることで骨頭の骨髄が壊死し、やがて大腿骨頭の骨が潰れてしまう病気です。
- 原因は不明で指定難病にされています。膠原病などのステロイド治療や習慣性の飲酒のあとに生じやすいことが知られていますが、詳しいことは分かっていません。
- 変形性股関節症よりも痛みが強く、症状の進行も早いことが多く、早めに医療機関の受診が必要になります。
関節リウマチ
- 関節の中にある滑膜という関節液をつくる組織に対する免疫異常により炎症を生じ、滑膜が異常に増殖して軟骨や骨を破壊し、関節が変形してしまう原因不明の病気です。
- 手の指や手首のような小さな関節に炎症を起こしやすく、股関節のような大きな関節には起こりにくいのですが、一度関節破壊が起きると手術が必要になります。
大腿骨近位部骨折
- 足の付け根の部分での骨折で、骨が弱い高齢者に起こりやすいです。まれに、足をひねっただけで折れてしまうこともあります。がんの転移が原因であることもあります。
- 症状はやはり股関節の痛みですが、激しい痛みのために脚全体が動かせなくなり、立つことや歩くことはおろか身体を動かせなくなります。手術が必要になることが多く、緊急で医療機関を受診する必要があります。
化膿性股関節炎
- 股関節の中に細菌が入り込んだために感染による痛みを生じます。股関節の熱感と腫れ、全身の発熱をともないます。
- 乳幼児でかかりやすく、軟骨が損傷されてしまうと感染がおさまったあとも成長障害をきたし、関節が変形したり足の長さが違ってしまったりするため、特に注意が必要です。
- 成人では糖尿病や透析などで免疫力の低下した人がかかりやすくなります。
こんな症状があったら救急車を
- 股関節が痛いと感じたときは、まれに緊急で専門の医療機関へ受診が必要なことがあります。
- 以下のような症状がある場合にはすぐに受診してください。整形外科医のいる医療機関での診療が必要になります。
救急車で医療機関を受診してほしいとき
- 転倒や転落などで股関節を打った後に股関節に痛みを感じた場合
- 発熱を同時に認める場合
- 痛みがどんどんひどくなり、歩けない場合
股関節の痛みに対して、よくなるために自分でできることは?
- もともと股関節が悪い人が、股関節痛を認めた場合は、必ずしも医療機関に受診する必要がありません。
- 特に下記のようなことをすると股関節痛を予防することができたり、早く良くなると考えられています。
今ある痛みに対してできること
- 安静:もともとある股関節痛が強くなった場合は炎症がおきたと考えられるので、まずは安静が有効です。関節の痛みは動かしたときの痛みなので、安静にすればひとまず痛みはおさまるはずです。
- 市販薬の内服:痛みがつらい時にはお手持ちの頭痛薬(ロキソニンやアセトアミノフェン)を飲んでください。薬局に行って薬剤師さんにこれらの成分の入った薬剤を頼むとよいでしょう。まずは、副作用の少ないアセトアミノフェンがおすすめです。もし効果が不十分な場合にはロキソプロフェンを検討するといいです。ただしアレルギーがある方や腎臓の機能が悪い方、胃潰瘍がある方は使用に注意が必要です。ただし、痛み止めは慢性的な股関節痛には効きにくいとされています。
予防のためにできること
- 食事:肥満は股関節の軟骨へのストレスです。適切な体重を維持できるようにバランスの取れた食事とカロリーを心がけるようにしてください。また、毎日日本酒換算で2合以上の飲酒は大腿骨頭壊死症にかかりやすくなるので、アルコール摂取を控えるとよいです。
- 禁煙:毎日20本以上の喫煙は大腿骨頭壊死症にかかりやすくなるの控えてください。
- 適度な運動:体力を養い、体重をコントロールし、骨や筋肉の強さを保つために適度な運動は効果的です。貧乏ゆすり(ジグリング)は股関節を長持ちさせるといわれています。プールで歩くことは体重をかけずに筋肉を鍛えられるので股関節が痛む方にはおすすめです。痛みのない範囲でうまく付き合うようにすれば、しばらくの間は予防になります。
控えるべきこと
- 過度なストレッチ:股関節が痛くなると関節の曲がりやひねりが悪くなります。無理にストレッチするとかえって悪化してしまうので、痛みのない範囲でゆっくり動かす方がいいです。しゃがみ込み動作も控えてください。
- 重労働:重いものを持つと余計に痛くなるので重労働は避けてください。
- ステロイド治療の中断:ステロイド治療を受けていて特発性大腿骨頭壊死症と診断された場合に、副作用を心配して自己中断してしまう方がいます。ステロイドを勝手に中止するのは危険ですから絶対にしないでください。もともとの病気の治療に必要な薬なので主治医の先生とよく相談してください。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 以下のような症状がある場合には医療機関の受診を検討して下さい。レントゲン検査が必要です。
かかりつけ医を受診してほしいとき
- 何度も繰り返し現れる股関節痛
- 手持ちの鎮痛薬を飲んでも効果がなく、むしろ悪化していく股関節痛
- 癌や免疫を押さえる病気のある方の股関節痛
お医者さんでおこなわれること
- お医者さんでは特に、問診で診断になります。特に下記の情報をお医者さんに正しくつたえると診療の助けになります。
診療の助けになる情報(股関節痛チェックシート)
- 初めての痛みか、前もあった痛みか?
- 痛みの持続時間は?:数分、数時間、数日など
- 痛みの場所は?:そけい部、腰、膝、太もも、片方、両方、など
- 痛みの感じ方は?:ズキズキ、締め付けられる、ピリピリ電気が走るよう、など
- 痛みの強さは?:10段階で0~10とするとどのくらい痛いか、など
- 股関節痛以外の症状は?:靴下が履けない、足の爪が切れない、しゃがめない、階段の上り下りができない、足をつくと痛い、足を引きずる、長く歩けない、など。
- 医師への要望:痛みの原因を知りたい、とにかく痛みを取ってほしい、がんかどうかを知りたい、など。
- これらの症状を手がかりに股関節の診察を行い原因を考えていきます。
- 患者さんの要望に沿って、レントゲンや血液の検査、より詳しい画像検査(CTやMRI)などの検査をどこまですすめるか、検討します。
もっと知りたい! 股関節痛
他にどんな病気のことが考えられるの?
- 上記の股関節痛の原因以外にも、以下にあげるように数多くの病気が股関節痛の原因になります。もし、痛みのせいで毎日の生活に大きな支障が出ている場合は、医療機関で相談してみてください。
- 股関節痛の原因を探る手掛かりになるのは、年齢と性別です。
小児期に好発する股関節痛
乳幼児期の化膿性股関節炎
- 乳幼児期におきる化膿性股関節炎は、赤ちゃんの不機嫌や感染したほうの足を動かさなくなる仮性麻痺、発熱を典型とします。
- NICUなどに入院中の新生児では肺炎などの感染症との鑑別が必要になります。
- 乳幼児期の化膿性股関節炎は放置すると重大な成長障害を生じます。まずは小児科への受診が必要です。
- 化膿性股関節炎が疑われた場合は、緊急手術が必要になるので、整形外科医のいる小児専門医療機関への紹介が必要になります。
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
- 生まれた時かその後に股関節が脱臼する病気です。脱臼していても痛みはなく、赤ちゃんが不機嫌になることもありません。
- 生後3か月健診で股関節の開きが悪い(開排制限)、大腿部の皮膚のしわが左右差がある、足の長さが違う、といった症状でみつかる場合があります。
- 女児、骨盤位分娩、冬生まれの子に多いという特徴もあります。
- 日本ではごくまれですが、発展途上国では1歳を過ぎて歩き始めてから歩き方がおかしいと分かることもあります。
ペルテス病
- 6歳から8歳くらいまでの男児に多く、大腿骨頭が血流障害のために壊死してしまう病気で原因は不明です。
- 一旦壊死した骨は自然経過で修復されますが、およそ3分の1に変形を残します。
- 股関節痛は初期に膝の痛みとしてみられることが知られています。
単純性股関節炎
- 3歳くらいから小学校低学年までに発症することが多く、男女差はありません。股関節痛の前に上気道炎など感染が先行することがありますが、原因は不明です。
- 股関節は突然の激痛で始まり急に歩けなくなります。ただし、不思議なことに痛みは数日で収まり、けろっと治ることが特徴です。
- 前述の化膿性股関節炎やペルテス病との鑑別が必要になります。単純性股関節炎は除外診断でつける病名なので単一の病気ではないと考えられています。
大腿骨頭すべり症
- 第二次性徴期におこりやすく、男児では13歳~15歳、女児では11歳~13歳が好発年齢です。
- 肥満の子におこりやすいとされています。
- 大腿骨頭すべり症の股関節の痛みは、ペルテス病と同じように膝の痛みとして感じることがあります。
- 痛み以外の症状は、股関節を屈曲していくとあぐらをかいたような格好になる、ドレーマンサインが有名です。大腿骨頭すべり症は骨頭の一部が後ろへずれてしまう病気で、放置すると重大な成長障害を残すため、緊急手術が必要になります。
若年性特発性関節炎
- 16歳以下の小児期に発症する原因不明の関節炎で、以前は若年性関節リウマチと呼ばれていました。
特発性股関節軟骨融解症
- 小児期から思春期に明らかな原因なく股関節の軟骨が融解して、関節のすき間がなくなってしまう、珍しい病気です。
成人期に好発する股関節痛
臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)
- 思春期から青年期の女性に多くみられます。
- 発育性股関節形成不全に含まれる病気ともいえますが、乳幼児期に股関節が脱臼していなくても、股関節の屋根のかぶりが浅いことがあります。
- 加齢とともに軟骨が痛んできて、40代になると変形性股関節症に進行するのが典型的です。
股関節唇断裂(損傷)
- 青年期から壮年期にみられます。
- 骨盤の臼蓋の縁にリング状に付いている関節唇が変性して断裂する病気です。臼蓋形成不全のある方で股関節の前方部分にストレスが集中して断裂してしまう場合は若い女性に多いです。
- 逆に前方部分のかぶりが良すぎて股関節を深く曲げたときに大腿骨とぶつかってしまうことにより断裂してしまう場合は壮年男性に多くみられます。
大腿骨寛骨臼インピンジメント
- しゃがみ込み作業をする人やスポーツ活動をする人にみられます。股関節を深く曲げたときに大腿骨と寛骨臼がぶつかって痛くなる病気です。
一過性大腿骨頭萎縮症
- 壮年男性や妊産婦に生じることがあります。その名の通り、一時的に大腿骨頭の骨が弱くなり、股関節が痛くなるものの、しばらくすると自然に回復する病気で、原因は不明です。
軟骨下脆弱性骨折
- 骨粗鬆症のある高齢女性に多いとされます。
- 大腿骨頭の骨が弱くなり、関節軟骨の直下でおきる骨折です。
- 歩行が困難となるほどの強い股関節痛を生じます。
急速破壊型股関節症
- 腰が曲がってしまった高齢女性に多く、立った時のバランスが後ろになってしまうために股関節に無理な力が加わって壊れてしまう病気です。
- 骨粗鬆症により大腿骨頭の骨が弱くなっているので、半年から1年の間にどんどん骨が潰れてしまいます。股関節が激しく痛みます。
脊椎関節炎
- リウマチに似た病気で、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎などを含めた総称です。
- 日本人には少ない病気ですが、股関節のような大きな関節に炎症がおこります。
化膿性腸腰筋炎
- 化膿性股関節炎と似た病気で、成人では糖尿病や透析などで免疫力の低下した人がかかりやすくなります。股関節の外側にある筋肉が感染するもので、関節の中までは細菌が入り込んでいない状態です。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下の書籍やウェブサイトを参照してください。
- 変形性股関節症 診療ガイドライン2016 日本整形外科学会 日本股関節学会
- 特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン2019 日本整形外科学会 厚生労働省指定難病特発性大腿骨頭壊死症研究班
- https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf#search=%27%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3+%E5%A4%89%E5%BD%A2%E6%80%A7%E8%82%A1%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%97%87%27
- 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 改訂第2版 日本整形外科学会 日本骨折治療学会