Ⅲ度房室ブロック:どんな病気?検査や治療は?命にかかわるの?
更新日:2020/11/11
- 順天堂大学循環器内科で30年以上にわたり房室ブロックや洞不全症候群の診断やペースメーカ治療を行ってきた日本不整脈心電学会不整脈専門医の戶叶隆司、中里祐二と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかするとめまいや失神、息切れがあり、脈が遅い(少ない)ことが心配になっていたり、突然「ペースメーカが必要」と言われ、不安になっているのではないでしょうか?
- III度房室ブロックは怖い病気ですが、ペースメーカなどの適切な治療を行えば、これまでの日常生活やお仕事へ復帰することが可能です。
- 一方、診断や治療が遅れると、心不全で苦しんだり入院が長くなったり、死亡することもあります。
- われわれ不整脈専門医は、日々の診療の中で多くのIII度房室ブロックの患者さんに遭遇しますが、遅滞なくペースメーカ植込みを安全に行えば、皆様元気で社会復帰しておられます。以下、III度房室ブロックとその治療についてまとめてみました。
目次
まとめ
- III度房室ブロックとは、脈拍が極端に遅くなったり、一瞬脈拍が停止したりする、徐脈性不整脈という不整脈の一種です。
- 刺激伝導系という心臓の中の神経の異常が原因で起こります。
- 加齢や心疾患の一環として起こり、自然に治ることは多くありません。治療には通常ペースメーカが必要です。
- 脈が遅くなる、めまいや息切れがする、一瞬意識が遠のく、意識を失うなどの症状があれば、専門医を受診してください。早期に適切な診断・治療を受けることが大事です。
- 症状がひどい場合は、直ちに救急車をよびましょう。
- ペースメーカ植込み手術を受ければ症状はなくなり、日常生活に戻れます。また、その後の生活にも大きな制限はありませんのでご安心下さい。
Ⅲ度房室ブロックは、どんな病気?
- 心臓は自身から発せられる電気信号によって動き、血液を全身に送り出しています(図表1A)。
- III度房室ブロックとは、心臓からの電気信号が途中で途絶えてしまい、脈が遅くなる病気です(図表1B)。
- 時に心臓が止まってしまう場合があります。
- すぐに治療が必要なので、症状があれば医療機関を受診してください。
コラム:Ⅲ度房室ブロックの機序
- 心臓の拍動は、「刺激伝導系」という心臓の中の神経のようなもので心拍数を調整しています。心拍数を決定するのは刺激伝導系の頂点にある「洞結節」です。洞結節の指令は、1回ごと刺激伝導系を伝わって心房、次いで心室に伝わり、心室が血液を拍出、脈拍になります。
- III度房室ブロックは心房から心室へ洞結節の指令が全く伝えることができなくなったことによって心拍、脈拍が遅くなる「徐脈性不整脈」です。
- III度房室ブロックの状態になると、心房は洞結節の指令で動いていますが、心室は洞結節の指令や心房の動きと無関係に心臓が止まらないよう最低限にゆっくりと動く徐脈の状態(心拍数20~40/分程度)になってしまいます。
- この最低限の心室の動きも保証されたものではなく、一過性に心停止し失神したり、あまりに心拍が遅いため心室が痙攣状態(心室細動)となり、致死的なこともあります。
- III度房室ブロックの多くは、急いで治療を要します。血圧計などで急に脈が遅くなった場合は、早めに医療機関を受診して下さい。
図表1 心臓のしくみと心電図
Ⅲ度房室ブロックと思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- III度房室ブロックなどを疑ったとき、下記を目安に医療機関の受診を検討して下さい。
- 意識がなく、脈拍が停止している場合は救急車を呼んで、心肺蘇生術を行って下さい。
かかりつけ医への受診がおすすめの場合
- 症状はないが、いつもより脈がやや遅い(40~50/分程度)
- 健診などで偶然発見された場合
救急車などで緊急で受診が必要な場合
- 明らかに脈が遅く、息切れ、めまい、胸痛、むくみなどがある場合
- 脈拍が止まりそうに極端に遅い(40/分以下)場合
- 意識が悪かったり、意識がなくなったりする場合
受診前によくなるために自分でできることは?
- 残念ながら、Ⅲ度房室ブロックは良くなるためにご自分でできることやお薬はなく、安静にしていても自然によくなることは通常ありません。
- 息切れやめまい、意識が遠のくなどの症状を認めたら、まず脈拍数をご自分でも確認してみてください。脈が遅い場合は、迷わず内科医や循環器専門医に相談してください。
Ⅲ度房室ブロックになりやすいのはどんな人?原因は?
- III度房室ブロックは、心臓の電気信号のはたらきが加齢などによって変性することが原因です。
- Ⅲ度房室ブロックでは下記のような人がなりやすいと言えます。
Ⅲ度房室ブロックになりやすい方
- ご高齢の方
- 生活習慣病を指摘された人
- 心疾患を持っている人
- サルコイドーシスなどの全身性の疾患を指摘されたことがある人
- 家族にⅢ度房室ブロックになった人がいる人
経過観察を行っていただきたい方
- 健康診断で心電図検査を受けられ、房室ブロック、右脚ブロック、左脚ブロックと指摘された方は、定期的に病院で検査を受けていただくことをおすすめします。
- 特にご高齢の方は、将来的に進行してしまうことがあるため、注意してください。
コラム:Ⅲ度房室ブロックになりやすい人の詳細
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の人
- 冠動脈疾患、拡張型・肥大型心筋症などの心筋症、心筋炎やこれらを基礎にする心不全を持つ人
- 心臓の弁置換術など心臓手術を行った人
- サルコイドーシスやアミロイドーシスなど全身性の疾患の人
- 先天性の房室ブロック
- 薬剤により誘発される場合
どんな症状がでるの?
- III度房室ブロックでは脈が遅くなり、以下のような症状を示します。
- ご高齢の方など、症状がはっきりしない方や症状が出ない方もいらっしゃいます。
Ⅲ度房室ブロックの症状
- 身体を動かすと息切れがする
- 全身に倦怠感がある
- むくみがでる
- 脈が遅くなる、一時的に心臓が止まる
- めまいがする
- 意識が遠のく、意識を失う
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 問診でIII度房室ブロックの症状があり、脈の遅さを認めた場合、以下のような検査を行います。
検査の種類
- 心電図検査:心臓の電気信号に異常がないかを調べます。心電図検査で、診断はほぼ決定します。
- 胸部X線写真:胸の特殊な写真を撮ります。心臓に負担がかかっていると心臓が大きくなります。
- 採血検査:心臓のホルモンを調べます。心臓に異常をきたしているとホルモン量が増えます。
- 心臓超音波検査:心臓に元々の構造的な異常がないかを調べます。
- 冠動脈造影:急性心筋梗塞が疑われる場合は緊急で行います。
どんな治療があるの?
- Ⅲ度房室ブロックでは脈が遅くなり、全身に酸素が足りない状態になります。これを改善するために、下記の治療を行います。
- ペーシング:ペーシングとは、心臓を人工的に電気で刺激し、心臓を動かすことです。Ⅲ度房室ブロックを根本的に治療する、唯一無比の方法です。
- 薬物療法:ペーシングを行う間、心臓を動かす薬(交感神経刺激薬)を投与することもあります。しかし、効果は不安定で、限定的なものです。
- なお、III度房室ブロックであっても、一部の人ではペースメーカがすぐに必要にはならない場合があります。このような場合は、専門医による注意深い経過観察が望ましいです。
ペーシングの実際
- 受診時に、高度の徐脈や一過性心停止を繰り返すなど心拍数を直ちに上げないといけない状況であれば、経皮的ペーシングを行います。ただし、経皮的ペーシングは痛みを伴いペーシングも不安定です。
- ペーシングがすぐに必要な場合、入院していただいて準備を整え、体外式一時ペーシングを行います。
- その後、ペースメーカ植込み手術を行います(図表2)。病状が安定している場合、経皮的ペーシングや体外式一時ペーシングを行わず、直接ペースメーカ植込み手術を行うことも多いです。
図表2 ペースメーカ
コラム:ペースメーカを必要としないIII度房室ブロック
- 先天性房室ブロック等で心拍数が50~60/分程度ある。
- 身体活動で明らかな心拍数上昇を認める。
- 無症状である。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- Ⅲ度房室ブロックの治療では、心臓を動かすためのペースメーカという機械をつけていただくことになります。ペースメーカの種類によって、注意することが異なります。
経皮的ペーシング
- 体の表面、胸部に大きなシールを貼って、心臓を電気で刺激します。
- 重大な合併症はないですが、痛みを伴います。
体外式一時ペーシング
- 緊急時につけるペースメーカです。まれではありますが、器具が心臓に一部を突き破ってしまったり、炎症によって心臓を包んでいる袋に液体がたまること(心タンポナーデといいます)があります。息苦しさなどを感じたら、すぐに医師に相談してください。
植込み型永久ペースメーカ
- 体の中に植え込むタイプのペースメーカです(図2)。稀ですが、体外式一時ペーシングと同じ合併症や感染が起こることがあります。息苦しさや傷口などが赤くはれるなどを感じたら、すぐに病院を受診してください。
- 日常生活への大きな制限はありません。携帯電話は使用可能ですが、ペースメーカ本体から15cm程度離して下さい。また、電磁波を発生する家電製品には注意が必要ですが、おおむね使用できます。
- なお、医療器具や電気製品の中には使用できないものもあります。これらの注意点は医師に相談していただくことが大切です。
予防のためにできることは?
- Ⅲ度房室ブロックには残念ながら、確実な予防法はありません。しかし、以下のような注意は大切です。
Ⅲ度房室ブロックをおこさないために
- 規則正しい生活
- バランスのとれた食事
- 適度な運動
- 禁煙
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症等の生活習慣病を予防し、発症した場合しっかり治療することは、Ⅲ度房室ブロックの予防につながります。
- また、毎年健康診断を受け、ご自分の健康状態を把握することも大切です。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 残念ながら、加齢や心疾患によるIII度房室ブロックは、自然に治ることはまずありません。一時的に回復しても、将来再発する可能性が高いです。
- しかし、ペースメーカによって、これまでの日常生活に戻ることは十分可能です。
- よほど特殊なお仕事を除けば、社会復帰も十分可能になります。
- なお、原因によっては、ペースメーカを必要とせず治る場合もあります。
ペースメーカが必要ない可能性があるIII度房室ブロック
- 急性心筋梗塞などの急性疾患:通常1週間程度で回復します。
- 高カリウム血症などの電解質異常:電解質の是正で改善します。
- お薬で引き起こされたⅢ度房室ブロック:お薬を中止すれば回復する場合があります。しかし、治療上中止できないお薬であれば、ペースメーカ植込みを行う必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
III度房室ブロック
- 日本循環器学会のサイト:一般の皆様へ 各疾患のご案内 不整脈
- http://www.j-circ.or.jp/sikkanpg/case/case5/
- 日本不整脈心電学会のサイト:健康増進活動 不整脈ってなあに 心臓の病気について、房室ブロック
- http://new.jhrs.or.jp/public-site/activities02/lecture/lecture-2-a-4/
III度房室ブロックの治療指針とペースメーカの適応
- 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)
- 不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)
- http://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
ペースメーカ植込み手術を受けた後の社会生活について
- 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012年度合同研究班報告)
- ペースメーカ, ICD, CRTを受けた患者の 社会復帰・就学・就労に関するガイドライン(2013年改訂版)
- http://www.jcirc.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_okumura_h.pdf
もっと知りたい! III度房室ブロック
ペースメーカの詳細
体外型一時ペーシング
- 頸部、鎖骨下、もしくは鼠径部の静脈を局所麻酔で血管穿刺し、レントゲンをみながら心臓をペーシングするカテーテルを心臓まで入れます。
- まれに合併症としてこのカテーテルが心臓や心臓挿入までの血管を損傷し、心穿孔やそれに伴う心タンポナーデ、その他体内への出血が起こり、輸血やドレナージを要し、緊急開胸手術を要することがあります。
ペースメーカ植込み手術(図2)
- 鎖骨の少し下の皮膚を局所麻酔で切開し、鎖骨下の静脈を介して、レントゲンをみながら心臓をペーシングするカテーテル(リード)を心臓まで入れ固定します。リードとペースメーカ本体を接続しすべてを体内に埋没させ皮膚を閉鎖する手術です。
- まれではありますが、合併症としてこのリードが心臓や心臓挿入までの血管を損傷し、心穿孔やそれに伴う心タンポナーデ、その他体内への出血が起こり、輸血やドレナージを要し、緊急開胸手術を要することがあります。
- 創部の出血も合併症としてあげられ、輸血や手術を要することがあります。
- まれに術後リードが移動してしまう場合は、再手術を行わねばなりません。
- 術後は1週間程度ではありますが、入院の上創部の安静と経過観察を要します。
ペースメーカ植込み手術後は?
- これまでの日常生活に速やかに戻れます。
- 術後は外来で定期的にペースメーカの点検を行い、インターネットを利用したペースメーカの遠隔モニタリングも普及しています。
- 創部が赤くなり腫れるなどの場合、発熱を認める場合はペースメーカ植込み後の感染症を考えねばなりません。
- この感染症発生は低頻度ですが、リードやペースメーカ本体を取り出す感染処置が必要になります。
障害者手帳について
- ペースメーカ植込み手術をお受けになったかたは、身体障害者手帳が交付されます。
- 身体障害者手帳の申請には、有資格医師の診断書が必要です。所定の手続きをとって交付をうけて下さい。
- 等級は、ペースメーカへの依存度、身体活動能力によって決定します。
- 3年ごとの再認定があります。