淋病:原因の淋菌って?症状は?治療は? 再発するの? クラミジアとの違いは?
更新日:2020/11/11
- 泌尿器科専門医の安田 満と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が淋病になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 淋病【りんびょう】(淋菌感染症)は、淋菌の感染によって起こる病気で、ほとんどの場合性行為(セックス)によって感染します。
- 淋病は、おもに尿道炎、女性では子宮頸管炎【しきゅうけいかんえん】としてあらわれますが、咽頭、結膜、直腸などからだ中のいたるところに感染して炎症などを起こします。
- 感染2〜7日後に、尿道炎であれば尿道分泌物、おしっこをするときの痛み、尿道のかゆみなど、子宮頸管炎では膿性帯下【のうせいたいげ】が多くなるなどがありますが、40%の方は自分で症状を感じることはありません。
- 検査では、尿道分泌物の顕微鏡検査やPCR法という特別な検査法によってからだの中に淋菌がいることを調べます。
- 薬がきかない(薬剤耐性【やくざいたいせい】)淋菌が増えており、治療にはお薬(抗菌薬)を注射します。
- 淋病を予防するには、性行為の最初から最後までコンドームを使用することです。
淋病は、どんな病気?
- 淋病【りんびょう】(淋菌感染症)は、淋菌の感染によって起こる病気で、ほとんどの場合性行為(セックス)によって感染します。
- 性行為以外による感染としては、生まれたときに感染する赤ちゃんの結膜炎や、まれに膿の濃厚接触による結膜炎などもみられます。ただし、お風呂は濃厚接触とはなりませんので、淋病に感染することはありません。
- 淋病は、おもに尿道炎、女性では子宮頸管炎【しきゅうけいかんえん】としてあらわれます。
- 性器以外にも、のどの一部への感染(咽頭炎)、結膜炎、精巣上体炎、直腸炎や骨盤腹膜炎なども起こします。
- さらに、血液中に細菌がたくさん入り込んで増えてしまう菌血症【きんけつしょう】となり、からだ中のさまざまな部位に感染することもあります。
どんな症状がでるの?
- 淋菌が感染した部位によって症状が異なります。あまり強い症状があらわれないこともあります。
尿道炎
- 尿道から、ドロドロした白色〜黄色の膿が出る(膿性尿道分泌物)。
- おしっこをするときに尿道が痛む(排尿時痛)。
- おしっこをするときに尿道が熱く感じる(尿道灼熱感【にょうどうしゃくねつかん】)。
- おしっこの出口が赤くなる(尿道口の発赤【ほっせき】)。
女性の場合
- 膿のようなおりもの(膿性帯下【のうせいたいげ】)が多くなったり、下腹部の痛みが起こることがありますが、40%程度の方は症状を感じません。
咽頭に感染した場合
- ほとんど症状がありません。のどが赤く腫れて痛みがでる(咽頭炎)ことはまれです。
- 症状があったとしても空咳【からせき】やのどの違和感程度です。
結膜炎
- まぶたの強いむくみ(浮腫【ふしゅ】)とともに、大量のドロドロ(膿性)とした目やに(眼脂【がんし】)がでます。
- まれに急速に病気が進んで角膜にただれ(潰瘍)が生じたり、穴があいたり(穿孔)して、失明することもあります。
直腸炎
- 多くの場合は症状がありません。
- ときに肛門がかゆくなったり(瘙痒感【そうようかん】)、不快な感じが起こったり、肛門性交のときの痛み、また下痢、血便、膿性血便などが生じたりします。
淋病と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 次のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。
医療機関を受診したほうがよい場合
- 感染の可能性がある行為をした2〜7日後に、淋菌感染症の症状がでた場合:ちなみに、淋菌以外の細菌では1週間後以降に症状がでます。
- 男性、女性を問わずパートナーに淋菌感染症の症状がでた場合や淋菌感染症と診断された場合:ご自身に症状がなくても、淋菌が感染している可能性があります。
淋病になりやすいのはどんな人? 原因は?
性行為による感染
- 淋菌感染症のほとんどは性感染症のため、性行為(セックス)によって感染することがほとんどです。
- 男女の性器を結合させる腟性交だけではなく、口を使って性器を刺激する口腔性交や、肛門性交でも感染します。
- 尿道炎や子宮頸管炎になった患者さんの約3割が、症状はなくても咽頭に淋菌が感染しています。
- 感染のリスクが高くなるのは次のような場合です。
淋菌感染のリスクが高い行為
- コンドームを使用しない無防備な性行為
- コンドームを使用しない口腔性交
- パートナーの数が多い性交
性行為以外で考えられる原因
- 性行為以外でも、膿に濃厚接触した場合は、まれに感染することがあります。
- また、悲しいことに虐待によって感染する場合もあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 尿道炎や結膜炎で膿が出ている場合は、分泌物などを顕微鏡で調べ、淋菌がいることを確認します。
- 分泌物がない場合や子宮頸管炎、直腸炎の場合は、PCR法という特別な検査法でからだの中に淋菌がいることを調べます。
- 分泌物の顕微鏡検査以外はその場で診断を確定することはできませんが、潜伏期や自覚症状からおおよそ淋菌感染症と診断して治療を開始します。
コラム:淋菌感染症の診断方法
- 尿道炎、結膜炎などでは分泌物を顕微鏡で観察して淋菌(グラム陰性双球菌:赤色でソラマメが2つくっついた形)であることを証明します。しかし、分泌物がほとんどない場合や、子宮頸管炎や直腸炎のようにもともとほかの細菌が多い場合は顕微鏡での観察では診断できません。
- 顕微鏡での診断ができない場合はreal-time PCR法などの核酸増幅法検査によって淋菌を証明しますが、これには数日かかります。
- 淋菌感染症では20〜30%にクラミジアを合併しますので、顕微鏡で観察し淋菌感染症と診断した場合でもreal-time PCR法などの核酸増幅法検査も行いますが、これには数日かかります。
- 核酸増幅法の場合、尿道炎では最初のおしっこ(初尿)、子宮頸管炎では頸管スワブや初尿、咽頭感染ではうがい液や咽頭擦過物を用います。
どんな治療があるの?
- 淋菌を殺したり、増えるのをおさえるためのお薬(抗菌薬)による治療が必要です。
抗菌薬による治療のしかた
- 抗菌薬のセフトリアキソンの静脈注射、あるいはスペクチノマイシンの筋肉注射を行います。
- 注射は基本的に1回だけですが、重症の場合などでは複数回注射します。
- 咽頭感染ではスペクチノマイシンは効果が低いため、セフトリアキソンの静脈注射のみとなります。
コラム:薬剤耐性淋菌の蔓延
- これまで細菌によくきくお薬とされていたペニシリン、テトラサイクリン、キノロンやマクロライドなど、口から飲む抗菌薬がきかなくなった(薬剤耐性)淋菌が多く出てきています。
- 2009年に世界で初めて、セフトリアキソンがきかない淋菌が日本でみつかりました。
- お薬がきかない淋菌が増加しているため世界的な問題となっています。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 治療の副作用は?
- セフトリアキソンやスペクチノマイシンは、ごくまれに血圧が低下することで全身に血液が送られなくなるショック症状が起こることがあります。ただし、これはほかの抗菌薬でも同様のリスクがあります。
- パートナーに淋菌を感染させる可能性がありますので、完全に治るまでは性行為は原則禁止です。
再診に関するお願い
- 治療を受けて症状がよくなっても、指定された日に必ず医療機関を再診してください。
- 症状がほとんど出ないクラミジア・トラコマティスがまだ残っている可能性があります。再診時には、最初にかかったときに行ったクラミジアの検査の結果が出ているはずです。これが陽性の場合には、クラミジアの治療が必要です。
パートナーの治療に関するお願い
- ご自分が淋菌感染症と診断されたら、パートナーの治療も同時に必要です。
- 症状の有無にかかわらず、医療機関を受診させてください。
予防のためにできることは?
- お薬がきかない薬剤耐性淋菌が増えていますので、淋菌に感染しない、つまり予防が大切です。
- 淋菌感染症の予防のためには、次のようなことを心がけてください。
淋菌感染症の予防
- 予防はNo sex、Steady sex、Safer sexが基本です。
- 性行為をしないこと。性行為をするのであれば、ほかのパートナーがいない相手に固定すること。コンドームを使用することです。
- なお、口から梅毒が感染する例や、淋菌がのどに感染する例もあります。ですから腟性交時だけでなく、性行為すべての間コンドームを使用することが必要です。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 現在のところ、淋菌は、適切なお薬(抗菌薬のセフトリアキソンおよび咽頭感染以外でのスペクチノマイシン)を使用すればほぼ100%治ります。
- 症状が治まらない場合には、ほかの細菌や原虫が感染していることが疑われます。ほかの細菌としてクラミジア・トラコマティス、マイコプラズマ・ジェニタリウム、原虫としてトリコモナスなどがあります。
- ほかの細菌や原虫が感染していた場合、淋菌に対するお薬では効果がありません。別の抗菌薬などが必要ですので、ただちに医療機関を受診してください。
追加の情報を手に入れるには?
- 淋菌感染症に関しては日本性感染症学会のサイトにガイドラインがありますので、こちらをご覧ください。
- http://jssti.umin.jp/guideline_c.html