眼球突出:どんな病気? どんなとき病院を受診するの?検査は? どんな原因があるの? 治療は?
更新日:2020/11/11
- 眼科専門医の柿﨑 裕彦と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分が眼球突出になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 眼球突出とは文字どおり、眼【め】が飛び出した状態のことをいいます。
- 医学的には、眼の外側にある骨の前面から眼の最前面までの距離が17ミリ以上、もしくは右眼と左眼の差が2ミリ以上ある場合に、眼球突出があると判断します。
- 「眼が出ているかな」と思ったら、まずは眼科を受診してください。
- 初めに受診した眼科で解決しない場合は、必ず専門の先生を紹介してくれます。
眼球突出とは、どんな病気?
- 眼球突出とは眼が飛び出した状態のことで、眼の外側にある骨の前面から眼の最前面までの距離が17ミリ以上、もしくは右眼と左眼の差が2ミリ以上ある場合をいいます。
- 眼球突出はからだのさまざまな異常によって生じますが、大きくは次の4種類に分けられます。
原因による眼球突出の分類
- 眼窩【がんか】(眼の奥の部分をいいます)に腫瘍ができた
- 眼窩が炎症によって腫れてしまった
- 血液が脳のほうから逆流してきたり、血管の中にたまってしまった
- 眼そのものが大きくなった
眼球突出と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 「眼が出ているかな」と思ったら、まずは近くの眼科を受診してください。
- 初めに受診した眼科で解決しないことも多いですが、必ず眼球突出の専門医を紹介してくれます。
- そこで診断がつけば、どのような原因かによって方針が決まり、治療が進められます。
眼科に行ったらどんな検査をするの?
- まず、次のような一般的な眼科の診察が行われます。
一般的な眼科の診察
- 視力・屈折値・眼圧などの測定:視力が落ちたり、眼圧が上昇することがあり、また、眼が大きくなってしまった場合、眼が光を屈折させる力を表す屈折値が異常を示します。
- 眼球の検査、充血の有無:網膜にしわがよったり、眼の表面が充血していないか、眼の中の血管が広がったり、くねくね曲がったりしていないか調べます。
- 眼球突出度の測定:どのくらい飛び出しているか、左右で違いがあるか調べます。
- 網膜【もうまく】や視神経の厚みを測定
- 視野測定:まっすぐ前を見たとき、片方の眼で上下、左右どれくらいの範囲が見えるか調べることがあります。
- 眼球運動の測定:特殊な機器を使って眼球の運動に障害がないか、物が2つに見えたりしないか調べます。
- つぎに、CTやMRIなどの画像検査によって、眼窩がどのようになっているか、血管がふくらんでいる場合は血流の方向などを調べます。
もっと知りたい! 眼球突出
- 眼球突出を引き起こす原因となる病気にはさまざまなものがあるので、次にその主なものの症状や治療についてまとめました。
眼窩に腫瘍ができる病気
- 眼窩にはさまざまな種類の良性、悪性の腫瘍ができます。
いろいろな良性腫瘍
- 眼球突出の原因となる良性腫瘍には以下のようなものがあります。
眼球突出の原因となる良性腫瘍
- 海綿状血管腫【かいめんじょうけっかんしゅ】
- 神経鞘腫【しんけいしょうしゅ】
- 涙腺腫瘍:多型腺腫【たけいせんしゅ】
- 類皮様嚢腫【るいひようのうしゅ】
- 副鼻腔炎の術後嚢胞【じゅつごのうほう】
- 視神経鞘髄膜腫【ししんけいしょうずいまくしゅ】
- 視神経膠腫【ししんけいこうしゅ】
- 良性腫瘍で代表的な海綿状血管腫、神経鞘腫、涙腺多型腺腫は、発育が遅いので、眼球突出以外に症状がなく、腫瘍が小さいうちは手術をしないで様子をみます。
神経鞘腫、涙腺多型腺腫
類皮様嚢腫
- 類皮様嚢腫は赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるとき皮膚の一部が奥のほうに取り残されて袋状になり、その中にアカがたまってしまったもので、主に幼児期に母親によってみつけられます。
- 類皮様嚢腫は眉の外側に生じやすく、手術で摘出します。
副鼻腔炎の術後嚢胞
- 一般に蓄膿症【ちくのうしょう】といわれる副鼻腔炎の手術のあと、数年〜十数年後に袋状の嚢胞【のうほう】(水ぶくれ)が発生して化膿することがあり、この嚢胞が眼窩に広がって眼球を圧迫すると、眼球突出や眼球運動に障害を生じます。
- 治療は、症状が軽い場合には抗生物質をのむだけですが、痛みがひどい場合には嚢胞の中の粘液や膿【うみ】を排出させます。
視神経鞘髄膜腫
- 視神経鞘髄膜腫は、中年女性の片眼に好発し、視力低下がゆっくりと進んで、多くの場合に眼球突出が起こります。
- 視神経鞘髄膜腫の治療の基本は腫瘍の全体を摘出することですが、確実に視力を失うので、視力がなくなるまでは経過観察とすることが一般的です。
- 視神経鞘髄膜腫では腫瘍の量を減らす減量手術を行うこともありますが、視力が低下するリスクが避けられないので、放射線治療が勧められます。
視神経膠腫
- 視神経膠腫は、10歳以下の小児によく起こります。成人では悪性度が高く病気の進行が速いので予後はよくないものの、眼球突出はあまり目立ちません。多くの場合で片側の視力低下が初発症状です。
- 無症状の視神経膠腫は経過観察とします。視神経膠腫では、手術は視機能が失われた場合のみ行われ、抗がん剤による治療が行われることもあります。放射線治療は、視神経膠腫に対しては効果がないどころか副作用が大きいので行いません。
いろいろな悪性腫瘍
- 眼球突出の原因となる悪性腫瘍には以下のようなものがあります。
眼球突出の原因となる悪性腫瘍
- 涙腺悪性上皮性腫瘍
- 涙腺悪性リンパ腫
- 乳がんや肺がんの眼窩への転移
- 副鼻腔にできたがんの眼窩への進展
涙腺悪性上皮性腫瘍
- 腺癌【せんがん】や腺様嚢胞癌【せんようのうほうがん】は涙腺から起こることが多いです。
- 治療は手術での全摘出です。
- 手術で全摘出できない場合、放射線治療を行うことがあります。
涙腺悪性リンパ腫
- 悪性リンパ腫は、眼窩では涙腺に好発します。まずは、手術でリンパ腫の一部を採取し、病理学的に組織型を決定します。
- 多くはMALTタイプで、化学療法や放射線療法の効果が大きく、予後は良好です。しかし、他のタイプでは、化学療法や放射線療法に反応しにくいものもあります。
乳がんや肺がんの眼窩転移
- 他部位のがんの転移も、比較的高頻度にみられます。中には眼部の腫瘍が先に見つかって、全身をしらべた結果、原発巣が見つかることもあります。
- 抗がん剤が使われていれば、その抗がん剤の効果が眼部の転移巣にも有効です。
- 視神経が圧迫されていたり、眼を閉じることができない場合には、転移巣であっても視機能を守るために手術を行います。
副鼻腔にできたがんの眼窩進展
- 眼の周りの骨と副鼻腔は接していて薄いため、副鼻腔のがんは容易にそれを破って眼窩内に進展することができます。
- 治療は、がんだけの切除で十分な場合と、眼球を含めた眼窩内組織を含めて切除しなくてはならない場合があります。術後の放射線照射は必ず行います。
眼窩に炎症を起こす病気
- 眼窩に炎症を起こす病気には次のようなものがあります。
眼窩に炎症を起こす病気
- 特発性眼窩炎症【とくはつせいがんかえんしょう】
- IgG4関連眼疾患
- 甲状腺眼症
- 細菌感染による眼窩蜂巣炎【がんかほうそうえん】
- 眼窩真菌症【がんかしんきんしょう】
- 副鼻腔炎の眼窩進展(眼窩膿瘍【がんかのうよう】)
特発性眼窩炎症
- 特発性眼窩炎症は、眼窩に炎症が生じた原因不明の病気で、眼球突出や眼の痛み、結膜の充血・むくみ(浮腫)、眼球運動障害などが、多くの場合、急激に現れます。発症初期の炎症症状は強く、充血や疼痛が著しい特徴があります。
- 特発性眼窩炎症の治療は、はじめに組織生検を行い、病理学的診断がついてから、ステロイドの点滴治療や放射線治療を行います。
IgG4関連眼疾患
- IgG4関連眼疾患はIgG4という抗体が上昇していろいろな臓器に損傷を与えるからだの全体にかかわる病気です。眼窩の中でもさまざまな組織が傷害されます。眼球突出も生じ、痛みはないものの、視力が落ちることがあります。
- IgG4関連眼疾患治療はステロイドの内服治療が基本ですが、減量や中止によって再発することがあるため、慎重に量を減らしたり、中止する必要があります。
- IgG4関連眼疾患治療には放射線治療も有効です。
甲状腺眼症
- 甲状腺眼症は、甲状腺の機能異常によって眼が飛び出てきたり、眼球の運動障害を生じたり、眼が大きく見開いたりする病気です。
- 甲状腺眼症の治療ではまず、ステロイドの点滴治療や放射線治療によって眼窩内の炎症を抑え、その後、眼球突出などの合併症が残ってしまった場合、それぞれの症状に対して手術治療を行います。
眼窩蜂巣炎
- 眼窩蜂巣炎は、眼窩の軟部組織が細菌感染によって化膿した状態です。疼痛が特に強いという特徴があり、重症例では失明や敗血症による死亡の危険性があるため、早急かつ迅速な診断、治療が重要です。
- 眼窩蜂巣炎の治療の基本は、抗菌薬の投与、病気の部分を切り開いて膿を排出することで、抗菌薬は点滴治療を行って全身症状が安定したら、内服への切り替えを考慮します。
眼窩真菌症
- 眼窩真菌症は、高齢者や糖尿病患者を含む免疫不全の人に生じます。
- 眼窩真菌症は、放置しておくと死亡する可能性があるため、早急に生検をして診断し、直ちに抗真菌薬の点滴投与を開始します。しかし、抗真菌薬は腎機能を障害しやすいため腎機能が悪い場合には透析を行いながら治療します。
副鼻腔炎
- 副鼻腔炎は、副鼻腔に膿がたまった状態です。まれに副鼻腔との境界にある眼窩周囲の骨を溶かして膿が眼窩内に伸展することがあり、眼球突出や眼球運動障害、ときに視力低下を生じます。
- 副鼻腔炎の治療は、抗菌薬の内服ないしは点滴治療、さらに耳鼻科的に副鼻腔炎に対する手術を行い、視神経の保護のためステロイドを使用することもあります。
血液が脳から逆流したり、血管の中にたまってしまう病気
- 血液の流れの異常によって起こる病気は、次の3種類に分類されます。
血液の流れの状況による分類
- 血流がない場合:眼窩リンパ管腫
- 静脈の血流に異常がある場合:眼窩静脈瘤【がんかじょうみゃくりゅう】
- 動脈血が逆流してきた場合:内頚動脈海綿静脈洞瘻【ないけいどうみゃくかいめんじょうみゃくどうろう】
眼窩リンパ管腫
- 眼窩リンパ管腫は全身の循環系とは隔絶されており、リンパ管が異常にふくらんだ病気で、発症は小学生ぐらいが多く、男女差や遺伝はありません。
- 眼窩リンパ管腫が大きくなるのは突然で、出血のために管が外側に飛び出したような感じになります。
- 眼窩リンパ管腫の治療の基本は手術ですが、全部は取りきれないので、ふくらんだ部分の量を減らすという考え方で行います。なかには自然治癒するものもあります。
眼窩静脈瘤
- 眼窩静脈瘤はからだ中の静脈につながっている、流れのある異常で、通常はしぼんだ状態です。しかし、いきんだり、うつ伏せになったりするとふくらみます。ふだんはくぼんだような眼が特徴的です。
- 眼窩静脈瘤は通常は無症状ですが、出血したり、血栓ができることもあり、このような場合は急激な痛みや視力低下、眼球突出などを生じます。
- 眼窩静脈瘤の治療は無症状では経過観察、腫脹発作をくり返す場合には脳外科で小さいコイルを静脈瘤内に挿入する治療を検討します。
内頸動脈海綿静脈洞瘻
- 内頸動脈海綿静脈洞瘻は、内頸動脈の本幹、ないしは、硬膜穿通枝動脈【こうまくせんつうしどうみゃく】が海綿静脈洞の中に破れ、海綿静脈洞内の圧が上昇、動脈血が眼窩に逆流してくる状態です。結膜の血管が拡張し、ぐねぐねとコークスクリューのような形をしています。
- 内頸動脈海綿静脈洞瘻の治療は、脳神経外科的に破れた血管壁をふさぎ、眼科的には上昇した眼圧を点眼薬を用いて下げます。
眼窩内への出血による病気
- 眼球突出を起こす眼窩内への出血によって生じる病気は次のようなものがあります。
出血の状況による分類
- 骨膜下血腫
- 眼球後方の出血によって、急激な眼球突出が生じた場合
骨膜下血腫
- 骨膜下血腫は、骨膜と骨の間に出血した状態です。
- 骨膜下血腫の治療は、注射針を刺してたまった血液を抜くことが基本で、処置後には抗生物質を投与して感染を予防します。
- 骨膜下血腫は処置に伴う再出血の可能性もあることから、血腫の大きさが安定している場合には何もしないこともあります。
- 何もしない場合、自然吸収もありますが、月単位の時間を要します。
眼球後方の出血によって急激に生じる眼球突出
- 眼球の後方の出血によって、急激な眼球突出が生じた場合、視神経が急激に引っ張られて視神経が傷害されます。
- 視神経と眼球のなす角度が130度以下になると視力が低下しだし、さらに120度以下になると視力のその後の経過が悪いといわれています。この場合、緊急の血腫除去手術などの眼窩の圧を下げることが必要です。
- 視力の回復は、手術までの時間が短いほど良いです。
眼そのものが大きくなってしまう強度近視
- 強度近視は眼球突出ではなく、眼自体が大きくなってしまった状態ですが、眼球突出とまぎらわしいので、ここで説明します。
- 強度近視は、近視がきわめて強くなった状態です。眼科的には-6D以上の近視と定義しています。
- 視力が出にくかったり、網膜剥離【もうまくはくり】が起こりやすくなるため、定期的な眼科受診が必要です。