支持的精神療法:どんな治療? 治療を受けるべき人は? 治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の白波瀬 丈一郎と申します。
- このページに来ていただいた方は、心に悩みごとを抱えておられ、それを解決する方法としてカウンセリングや支持的精神療法について知りたいと思っておられるのかもしれません。あるいは、心の病気に対する薬の治療に抵抗があり、カウンセリングや支持的精神療法で治せないか考えておられるかもしれません。
- カウンセリングや精神療法には実際に効果があります。ただ、その半面で誤解や過大な期待をもたれていることも少なくありません。
- 私が日々の診察のなかで、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 支持的精神療法(カウンセリング)とは、ご本人と治療者(カウンセラー)が話し合いながら、一緒に心の悩みごとを解決する方法です。
- 支持的精神療法(カウンセリング)を受けることで、問題を解決するための力を高めることができます。
- ただ、悩みごとは治療者(カウンセラー)が解決してくれると誤解してしまったり、頼りすぎたりすることがあります。
- 誤解や頼りすぎが悪いわけではありませんが、そのこともまた、治療者(カウンセラー)と話し合って解決してください。
どんな治療?
- 支持的精神療法とカウンセリングは、専門的な意味では異なる治療法ですが、共通する部分もたくさんあります。ここでは、その共通する部分に注目して2つを一緒に説明します。
- 支持的精神療法(カウンセリング)は、ご自身が困っておられること、悩んでおられることを、治療者(カウンセラー)に話し、解決策について一緒に考え、それを実行しながら、問題解決を目指す治療法です。
- 悩みごとを話せば、治療者(カウンセラー)から解決策が与えられるというのは誤解で、治療者(カウンセラー)の役割は、次にみるように、コーチにたとえることができます。
治療者(カウンセラー)の役割はコーチにたとえられる
- コーチは、選手を注意深く観察して、能力を高めるためのアドバイスをしますが、試合に勝つ方法自体を教えることはできません。
- 練習で自分の能力を高めるのも、その能力で試合に勝つのも選手自身で、コーチは、練習や試合に取り組む選手をはげまします。
- 治療者(カウンセラー)も、解決策そのものを教えることはできませんが、ご本人が問題を解決できるように、アドバイスをしたりはげましたりします。
- 選手とコーチが深い信頼関係で結ばれているように、支持的精神療法(カウンセリング)においても、ご本人と治療者(カウンセラー)との信頼関係(治療同盟とよびます)がとても重要になります。
- 今のところ特別な訓練や資格がなくても、治療者(カウンセラー)になることはできます。その一方で、提供される支持的精神療法(カウンセリング)の質は、治療者(カウンセラー)がどのような訓練を受け資格をもっているかによって大きく左右されます。
- 支持的精神療法(カウンセリング)を受けるときには、治療者(カウンセラー)がどのような訓練を受け資格をもっているかを確認することが大切です。
この治療の目的や効果は?
- 支持的精神療法(カウンセリング)の目的は、ご本人の自信やまわりのものごとに適応する能力など、問題を解決するための力を高めることです。
- 支持的精神療法(カウンセリング)を受けることで、より効果的に問題解決に取り組むことができるようになります。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 次のような状態の方は、ぜひこの治療を受けてみてください。
支持的精神療法を受けられることがすすめられる状態
- 健康に生活していた人が、突然、圧倒的なストレスにみまわれ、健康をくずしてしまった
- 悩みごとやこまりごとに対して、自分なりにいろいろ工夫してみたが、なかなか解決しない
- カウンセラーの力を借りて、解決策に取り組みたいと考えている
- 問題の解決はむりなのではとあきらめかけている
実際には、どんなことをするの?
回数、時間、費用など
- 支持的精神療法(カウンセリング)は1回で終わることもありますが、継続的に行うこともあります。
- 支持的精神療法(カウンセリング)の頻度や1回の時間などについては、目的によっても変わってきますので、治療者(カウンセラー)と相談しながら、決めます。
- 費用は診察料のなかに含まれている場合もありますし、医療保険を適用せず自費で行っている場合もあり、自費の場合は、30分3,000〜5,000円が一つの目安になります。
治療者(カウンセラー)が働きかけること
- ご本人の不安やこだわりなどがじゃまをして、本来の問題解決能力が発揮できなくなっているというパターンが少なくありません。このパターンに気づいていなかったり、たとえ気づいていても、ご自分だけの力ではパターンを変えることができなかったりします。
- 支持的精神療法(カウンセリング)では、ご本人の話を詳しく聞くことでそのパターンをみつけ、アドバイスやはげましなどによってご本人がそのしくみを変え、本来の問題解決能力を取り戻すのを手伝います。
- 治療者(カウンセラー)が、ご本人の不安やこだわりなどを非難したり否定したりすることはありません。まず、そうした不安やこだわりを抱かずにはいられない事情があると考え、共感して受け入れ、その事情について詳しく話をお聞きします。
- 情報提供をしたり保証したりすることで不安の軽減を図り、新たな解決策を試してみるようにはげまします。
- 新たな解決策を試してみることができたら、そのことをねぎらい、その効果や副作用について話し合って、またさらなる改善点を考えます。
ほかにどのような治療があるの?
精神分析的精神療法
- 精神分析では、さまざまな心の症状は、ご本人も気づかない無意識の葛藤【かっとう】が原因で生じていると考えます。
- 心をより深く理解することを通して、無意識の葛藤や人格的なかたよりの解決を目指します。
認知行動療法
- 認知行動療法では、ものごとのとらえ方(認知といいます)のかたよりによって、さまざまな心の症状が生じると考えます。
- 自分自身の認知のかたよりを理解するとともに、行動を通して認知の修正を行います。
薬物療法
- 不安やこだわりなどは、お薬によって軽減されることがあります。
- お薬は使わずに、支持的精神療法(カウンセリング)で治したいという方がおいでになります。ですが、薬物療法か支持的精神療法(カウンセリング)か、の選択肢になるのではありません。お薬を併用することで、支持的精神療法(カウンセリング)の効果を高めることができます。
治療を受けるにあたって注意することはあるの?
- 支持的精神療法(カウンセリング)では、治療者(カウンセラー)との信頼関係(治療同盟とよびます)がとても大切です。
- 治療同盟は、やみくもに治療者(カウンセラー)を信じることではありません。疑問に思うことや納得できないことなどを率直に話し合いながら、つくりあげていくものです。
- 思うように改善がみられなかったりして信頼がゆらぐことは、治療のなかでよくあることです。そんなときは、その気持ちを治療者(カウンセラー)とよく話し合ってください。
理解しておきたい リスクと合併症
- 治療者(カウンセラー)を信頼するあまり、頼り切ってしまうことがあります。問題を解決するのは、自分自身であるということをいつでもおぼえておいてください。
- 治療者(カウンセラー)は、専門家として誠実にご本人の問題解決のために力を貸します。しかし、ご本人の問題を肩代わりすることはできません。
患者さんによく聞かれるのはどんなこと?
カウンセリングで話した秘密は守られますか?
- 治療者(カウンセラー)は、秘密を守る義務(守秘義務)を負っています。ですから、面接で話されたことを第三者(ご家族も含む)に勝手に話すことはありません。
- 治療者(カウンセラー)が、家族など第三者に伝えたほうがよいと考えた場合は、必ずご本人の承諾を得ます。承諾なく話すことはありません。
- ただし、生命にかかわる場合や法律に違反する可能性がある場合などは例外です。
心の悩みを抱えている本人ではなく、その家族や関係者が相談することはできますか?
- もちろん可能です。
- ご本人に対して、家族や関係者の方ができる支援の方法や、ご本人に相談においでいただくための方法を一緒に考えたりします。
子どもが支持的精神療法(カウンセリング)を受けることはできますか?
- はい、可能です。ただ、お子さんの場合は、自分の気持ちを言葉で表現することが難しい場合が多く、遊びなどを通して治療を進めるプレイセラピーがしばしば必要となります。
- その場合は、専門の訓練を受けた治療者(カウンセラー)と設備が必要となります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報については以下の書籍を参照してください。
- 大野 裕・堀越 勝・中野有美監訳『動画で学ぶ 支持的精神療法入門』医学書院,2015年
- 山藤奈穂子・佐々木千恵訳『支持的精神療法入門』星和書店,2009年