便秘:腹痛や吐き気もあるの?解消方法は?食べ物との関係は?治療薬は?
更新日:2020/11/11
- 私は日本消化器病学会の専門医の尾髙健夫と申します。
- 便秘で悩んでいる方はたくさんいらっしゃいますが、その対応に困ることが多いと思います。便秘は体質の問題から起こることもあれば、背景に別の病気がひそんでいて起こることもあります。そのため、順調に便が出なくなると、病院を受診すべきか、様子を見るべきか、心配や不安になることがあるかもしれません。
- このページでは、便秘の一般的な原因や、まずご自身で行うべき適切な対処方法、また医療機関を受診する際の目安などについて、ご参考になる情報をまとめました。私が日々の便秘症診療で感じる大切な点を、以下にご説明しましたのでご覧ください。
目次
まとめ
- 便秘とは、うんち(便)が順調に出なくなった状態の総称で、便の回数が少なくなった状態(一般的に3日に1回以下)や、便は出るがスムーズに出なくなった状態など、いろいろな場合があります。
- 「便秘」の状態で、診療を受けたいと思うほどの症状がある場合、「便秘症」と呼びます。
- 私たちは、ほぼ毎日1日1回、排便があるのが普通です。ただ、その人の体質によって、2日に1回の人もいたり、1日に2回便が出る人もいたりと、多少の個人差あります。
- 多くの便秘は、機能性便秘と呼ばれる、「結腸の運動、直腸の感覚などの排便機能が低下した状態」ですが、まれに背景に別の病気が潜んでいることやお薬が原因になっていることがあります。
- 便秘になったら、まず充分な水分をとる、食物繊維をとる、生活のリズムを整える、適切な運動をするなどの、食事や生活を改善してください。
- 便秘が長く続いている場合、お腹の痛みやお腹のハリが強くなってくる場合、便に血が混ざっている場合や熱がある場合など、便秘とは異なる症状がある場合は、医療機関を受診してください。
- お薬は、大腸を傷つけにくい穏やかな薬から試してください。すぐに、たくさん便を出そうと強い下剤を使用しないことがすすめられています。
便秘とは?
- 便秘とは、明らかにうんち(便)をする回数が減ってしまった状態(一般的に3日に1回以下)や、うんちが出にくい状態(かなり強くいきまないと便が出ない、便が出るまでに時間がかかる、スムーズに便が排出されない)のことです。
- 質も量も十分にうんちを出せない「便秘」の状態で、診療を受けたいと思うほどの症状がある場合、「便秘症」と呼びます。
- 私たちは、ほぼ毎日1日1回、排便があるのが普通です。ただ、その人の体質によって、2日に1回の人もいたり、1日に2回便が出る人もいたりと、多少の個人差あります。
どんな症状がでるの?
- 便秘になると、「うんちがかたい」、「うんちが残っている感じがする」といった症状を自覚することが多いでしょう。
- また、便秘症には大きく分けて便の回数が減る(排便回数減少症状)と、便をしにくくなる(排便困難症状)、2つのタイプの症状があります。
便の回数が減る
- 大腸内に大量の便が残っているために起こる症状です。
- 「お腹がはる」、「お腹が痛い」、「お腹が鳴る」などの症状が起こります。
便をしにくくなる
- 直腸まで便が下りてきているのに、肛門から外へ出すことができないために起こる症状です。
- 「うんちをしたいのに出すことができない」、「かなり強いいきみが必要」、「うんちが出るまでに時間がかかる」、「肛門がつまった感じがする」などの症状が起こります。
便秘の主な原因とその説明
- 便秘の原因には様々なものがあります。大きく分けて、大腸の働きに原因がある便秘(大腸の機能性疾患による便秘)、大腸の形や組織に異常が起こることで生じる便秘(大腸の器質性疾患による便秘)、大腸以外の病気が原因で起こる便秘(続発性便秘)にわけられます。
大腸の機能性疾患による便秘
- 機能性便秘:もっとも一般的な便秘症です。結腸の運動、直腸の感覚などの排便機能が低下してしまうためにおこる便秘症です。
- 便秘型過敏性腸症候群:ストレスが原因で大腸がけいれんしてしまい、痛みとともに順調に便が出なくなる状態です。
大腸の器質性疾患による便秘
- 大腸腫瘍:大腸にがんや粘膜下腫瘍などができると、便の通り道である大腸が狭くなってしまいます。また、腫瘍のために大腸の動きが悪くなり、より便秘が悪化します。
- 炎症性腸疾患:クローン病や虚血性大腸炎などで大腸に強い炎症が起きると、まず下痢になりますが、治った後で炎症の強かった部位は硬くなって狭くなります。これにより、便秘を起こすことがあります。
- 器質性直腸疾患:直腸瘤、直腸重責などの病気では、直腸の形が変化してしまい、便を肛門から出しづらくなります。
- 巨大結腸:とてもまれですが、大腸が異常に広がって膨らんでしまう病気です。大腸が十分に動かなくなり、便がたくさん溜まってしまいます。
続発性便秘の原因となる疾患の例
- 糖尿病:糖尿病が悪くなると神経がうまく働かなくなり、大腸の運動が低下して便秘の原因となります。
- パーキンソン病:パーキンソン病による自律神経の障害により、大腸の便を出す機能がうまく働かなくなり、便秘症になります。
- 甲状腺機能低下症:全身の臓器の活動を活発にする甲状腺ホルモンが低下してしまい、大腸の運動が衰えて便秘になります。
- 飲んでいるお薬の影響:お薬の副作用で便秘になることもあります。
コラム:便秘を起こしやすいお薬の例
- 痛みの治療で使う「オピオイド薬」
- うつ病など精神の病気で使う「抗うつ薬」、「抗不安薬」
- 花粉症やじんましんの治療で使う「抗ヒスタミン薬」
- むくみや心臓の治療で使う「利尿剤」
便秘に対して、よくなるために自分でできることは?
- 便秘に対して、ご自分でできることは、食事面の改善、生活様式の改善、運動面の改善があります。薬を飲むことをすぐに考えず、まず生活習慣を見直してみてください。
- 下記に概略をまとめ、それぞれの項目について解説します。
食事面の改善
- 十分に水分をとる!
- 1日3食、特に朝食をしっかり食べる!
- 食物繊維をとることを意識する!
- 腸内細菌を整える!
生活様式の改善
- 生活リズムを規則正しくする!
- 十分な睡眠をとる!
- うんちをしたいと感じたらすぐにトイレに行く!
- うんちをする時は「考える人」の姿勢になる!
運動面の改善
- 適度な運動をし、その後は休息する!
- 激しい運動は逆効果、適度な運動を心がける!
- 腹壁マッサージや体幹伸屈運動を行う!
食事面の改善について
- とる水分量によって便の硬さが変わりますので、十分に水分をとってください。一般的に成人の1日に必要な水分量は約1500mLと言われています。なお、気温の高い季節は汗などで水分が減少し、寒い時期には自然に水分をとる量が少なくなります。意識して水分をとってください。
- 食事をして胃に食べ物が入ると、大腸に信号が送られ、大腸の運動が始まります。特に朝食をしっかり食べることは、大腸を目覚めさせる大切なポイントです。
- 食物繊維には水に溶けるものと水に溶けないものがあります。ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸などの水に溶ける食物繊維は、ねばねばしており、便をよい形にし、多すぎる脂質や胆汁酸を体の外へ運ぶ機能があります。セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの水に溶けない食物繊維は、便の大きさと水分を保ち、大腸に適切な刺激を与えて運動を促進させます。それぞれバランスよく摂取してください。
- ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌など、腸にいる良い細菌(善玉菌)は、大腸の働きを改善し、大腸内のガスを減らします。ヨーグルト、チーズ、味噌、漬物などの発酵食品を適度に食べてください。
生活様式の改善について
- 食事する時間、起きる時間、寝る時間を規則正しくすることは、便をコントロールする自律神経に良いリズムを与えます。
- 私たちが寝ている間に大腸は翌日の便の準備をしています。睡眠不足では便を出しにくくなりますので、十分な睡眠を心がけてください。
- 多くの便秘症の患者さんは、「うんちをしたいと感じても、我慢しているうちに便秘症になってしまった」とおっしゃいます。便の合図を無視していると大腸の機能が低下してしまいますので、便をしたいと感じたら、すぐにトイレに行くようにしてください。
- 人間の直腸や肛門は、便座に座って背筋を伸ばしたり仰け反ったりする姿勢では、便を出しにくい構造になっています。背を丸めて前に傾く「考える人」のような姿勢をすると、便が出やすくなります。
運動面の改善について
- 大腸は運動している最中には動きが低下し、運動後に身体を休めると活発に動き出します。便秘を解消するには運動だけではなく、その後の休息も大切です。
- 激しい運動は大腸を緊張させ、逆効果になります。少し息が弾む程度の運動を15~30分くらい毎日行うことをお勧めします。
- ゆっくりと痛くない程度に、右下→右上→左上→左下と、お腹をひと回りするように手で圧迫してマッサージすると良いでしょう。また、背伸びする時のような姿勢と膝を抱え込むような姿勢を、仰向けとうつ伏せで交互に繰り返す体操運動も効果があると言われています。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 一般的に、機能性の便秘症がずっと続くと、いつも同じような硬いうんちが同じくらいの頻度で出るようになるでしょう。
- ただし、便秘状態がひどい、または以下のような症状がある場合は、身体に重大な影響を与える病気が原因の可能性もあります。必ず医療機関を受診してください。
病院へ行くべき便秘の症状
- 便に血が混ざる場合
- 熱が出ている場合
- だんだん便が少なくなる場合
- 強いお腹の痛みやお腹のハリがある場合
- 突然便が出なくなった場合
お医者さんでおこなわれること
- 便秘の診療を希望される場合、「内科」または「消化器内科」を受診してください。
問診
- 医師はまず、便秘の状態について問診でお話を伺います。あらかじめ以下の点をまとめておいていただけると良いと思います。
お話しいただきたい内容
- いつから便秘が始まったか?(何日前から、何カ月前から、など)
- 現在はどのくらいの頻度でうんちが出ているか?(何日に1回、1週間に何回、など)
- うんちの硬さは?(コロコロしている、ひび割れている、普通、泥状、など)
- 他の症状はあるか?(お腹の痛み、お腹のハリ、肛門のつまる感じ、いきみすぎるなど)
- 現在、他の病気があるか?
- 現在、飲んでいるお薬はあるか?
便秘に関して行う検査の例
- 便秘の原因を探るため、次のような検査を行うことがあります。医師とよくご相談いただき、検査の必要性をご理解ください。
- お腹の触診、腸の音の聴診:お腹の張りや便の詰まり具合を確認します。
- お腹のX線撮影、お腹のエコー検査:便秘やお腹の症状が強く、たくさんのうんちがつまった状態や腸が閉塞してしまうのが心配される場合は、行うことがあります。
- 便潜血検査:便に血が混ざっていた場合、器質性の病気がないかの確認のために行うことがあります。
- 大腸内視鏡検査:肛門からカメラを入れ、大腸に重大な病気が隠れていないかを確認することがあります。
もっと知りたい! 便秘症
便秘を起こす病気と診断
- 便秘症診断の第一は、機能性か器質性かの判別です。軽度の便秘で症状も強くない場合は、まず便秘症治療薬を内服して経過を観ることも選択肢の一つですが、便秘症が容易に改善しない場合はその原因となる疾患の探索が必要です。
- 先に述べましたように、原因疾患として大腸腫瘍(がん、粘膜下腫瘍など)、炎症性腸疾患(クローン病、虚血性大腸炎など)が疑われる場合は、腹部CT検査や大腸内視鏡検査が必要です。
- 器質性直腸疾患(直腸瘤、直腸重責など)や巨大結腸など特殊な疾患の診断や評価は、一般的な病院ではできないこともあります。専門的な検査が必要となりますので、便秘症外来のある総合病院の受診と専門医の診察をお薦めします。
- 症候性便秘をきたす疾患はとても多くあります。糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症などの代謝性疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患が代表的な原疾患です。血液生化学血清検査で調べます。
- 薬剤性便秘をおこす薬もたくさんあります。抗うつ・抗不安薬、鎮痛オピオイド薬、抗ヒスタミン薬、酸分泌抑制薬、利尿薬、金属イオン含有薬、降圧薬など、便秘症患者さんが内服している薬と量を確認し、それが原因となっているか否か検討することが大切です。
- 機能性の便秘でも治療薬でなかなか改善しない場合は、重度の大腸運動低下をきたしている場合(大腸通過遅延)や、直腸肛門機能が強く障害されている場合(便排出障害)が考えられます。その病態診断は、便秘症外来のある総合病院の受診と専門医の診察をお薦めします。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 便秘症について、診療ガイドラインや詳しい医療情報は以下を参照してください。
- 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会(編) 慢性便秘症診療ガイドライン2017 <南江堂>
- 特集 慢性便秘症の診療の進歩 日本内科学会雑誌2019 ;108 (1) :7-86. <日本内科学会>