肝硬変:原因は?症状は?食事で気を付けることは?治療で良くなるの?
更新日:2020/11/11
- 日本肝臓学会専門医の正木尚彦と申します。
- このページをご覧になろうとしているかたは、もしかするとかかりつけの先生から、「あなたは肝硬変にかかっていますよ」と告げられて、たいへん不安になっておられるかもしれません。肝硬変という病名を聞いて、なんとなくおどろおどろしい印象を抱かれたと思います。
- そのような方の不安を和らげ、ご病気に立ち向かう気持ちになっていただくために、お役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「肝硬変のいろいろな症状が起こる理由」、「それを良くするためにこういう治療や対策が必要であること」、「あなたにお守りいただきたいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 肝硬変とは、様々な原因によって肝臓に炎症が起こり、炎症が繰り返されることで肝臓がだんだんと硬くなって、肝臓の機能が失われる病気です。
- 肝硬変の治療には、原因に応じた治療法や対策があります。肝硬変の原因について、担当の先生に必ず確認してください。
- 一番大切なことは、あなたの肝臓の状態がどの程度であるかをしっかりと把握し、これ以上悪くしないにはどうすればいいのかをよく知っていただくことです。
肝硬変は、どんな病気?
- 肝硬変とは、様々な原因によって肝臓に炎症が起こり、炎症が繰り返されることで、肝臓が段々と硬くなって、肝臓の機能が失われる病気です。
- 肝硬変であらわれる症状には、肝臓の機能が損なわれたことで生じる症状(低栄養、むくみ、腹水、黄疸など)と、肝臓が硬くなることで生じる症状(胃・食道静脈瘤、意識障害など)があります。
- また、肝硬変が進行すると肝臓がんになる確率が高くなります。
医療従事者向けコラム:肝硬変が起きる仕組み
さまざまな原因で肝臓に繰り返し 炎症が起こると、肝臓の細胞はいったん壊れ、 新たな肝細胞が生まれて修復されます(肝再生といいます)。その過程で、周りにコラーゲンという 線維の成分が徐々にたまります(線維化といいます)。 コラーゲンの束によって肝臓の正常な構造は次第に失われ、肝臓は硬くなります。肝臓の大きさは次第に小さくなり、滑らかであった表面には大小さまざまな凹凸(デコボコ)ができます。これが肝硬変とよばれる病気です。
- さまざまな原因で肝臓に繰り返し炎症が起こることがあります。その際、肝臓の細胞はいったん壊れますが、あらたな肝細胞が生まれ修復されます。これを肝再生といいます。その過程でその周辺にはコラーゲンという線維成分が徐々にたまって行きます。
- このコラーゲンの束のために、肝臓の正常な構造は次第に失われて行き、肝臓は硬くなります。肝臓の大きさは次第に小さくなり、滑らかであった表面には大小さまざまな凹凸(デコボコ)ができます。これが肝硬変とよばれる病気です。
- 肝硬変では、肝臓の機能が損なわれたことで生じる症状(低栄養、むくみ、腹水、黄疸など)と、肝臓が硬くなることで生じる症状(胃・食道静脈瘤、意識障害など)があります。また、肝硬変が進行すると肝臓がんを合併する確率が高くなります。
肝硬変の原因は?
- 肝硬変の原因には、大きく分けて、ウイルス感染、アルコール多飲、免疫異常、脂肪肝などがあります。
- 原因として一番多いのはウイルス感染で、特にC型が最も多く53%程度、B型は12%程度です。ただ、アルコール性肝硬変は最近著しく増え、17%程度になっています。
医療従事者向けコラム:肝硬変に関する統計調査
- 厚生労働省による患者調査(2014年度)では、肝硬変患者数はアルコール性で約1.3万人、アルコール性以外で約5.4万人の計6.7万人と推計されています。特に、アルコール性肝硬変の増加が著しいのが最近の特徴です。
- 2014年日本肝臓学会が行った肝硬変調査(のべ26,293例)の集計では、以下のような内訳でした。
- B型肝炎ウイルス感染:12.4%、C型肝炎ウイルス感染:53.3%、アルコール性:17.6%、原発性胆汁性胆管炎:3.4%、自己免疫性肝炎:1.8%、その他(代謝性疾患、心不全、寄生虫感染、非アルコール性脂肪肝炎、原因不明):10.6%
どんな症状がでるの?
- 肝硬変になっても初めはほぼ症状がないことが多いです。症状があったとしても、軽いだるさや食欲がない程度でしょう。
- しかし、肝硬変が進行するにつれて、以下のような色々な症状が出てきます。
肝硬変の主な症状
- お腹の張り
- 白目の貧血・黄疸、皮膚が黄色くなる、手のひらが赤くなる、首や胸のあたりの毛細血管が拡張する(クモ状血管腫)
- 女性のような乳房のふくらみ
- 手足のむくみ・お腹に水がたまる(腹水)
- こむら返り
- 消化管の出血(胃・食道静脈瘤の破裂)
- 意識障害
肝硬変と思ったら、どんなときに病院を受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 初期の肝硬変はご自身では気づきにくいので、健診や人間ドックなどで肝機能の障害を指摘された方は、放置せず早めに医療機関を受診されることをおすすめします。
- 確定診断には血液検査だけでなく、腹部超音波検査やCTスキャン、MRI検査、消化管内視鏡検査なども必要になるので、消化器内科や肝臓内科がある医療機関が望ましいです。
- いったん肝硬変と診断されますと、治療や定期的な検査のための長期間の通院が必要となるため、通いやすい、アクセスのよい病院も条件の一つになるでしょう。
救急車を呼ぶ場合
- 以下のような状況は生死に関わることがあります。緊急の対応が必要ですので、救急車を呼んでください。
- 血を吐いたり、お尻から出血している場合:胃・食道静脈瘤破裂の可能性があります。
- 意識がなくなっている場合:昏睡状態が長く続くと、脳にむくみが生じます。
- お腹の右上あたりの痛みとともに、貧血の症状がある場合:肝硬変に合併した肝臓がんの腹腔内破裂の可能性があります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 肝硬変の疑いを認めると医師が判断した場合には、その原因を調べるとともに、現在の肝機能の状態がどの程度であるか、肝硬変の合併症の有無について、さまざまな検査を行います。
原因を調べる検査
- まず現在の症状、飲酒歴、今までに肝機能の異常を指摘されたことはあるかなどを伺います。特に、アルコール性の肝硬変が疑われる場合には、その種類・飲酒量・飲酒年数などについてお聞きします。
- 次に肝炎ウイルス感染や免疫学的な異常がないかについて、主に血液検査で調べていきます。
現在の肝機能の状態を調べる検査
- 肝硬変では白血球数や赤血球数(ヘモグロビン量)、特に血小板数が減少することが多いため血液検査を行います。同時に、肝機能を反映する血液中のアルブミン値(肝臓で合成されるタンパク質)、ビリルビン値(黄疸の指標)、プロトロンビン時間(肝臓で合成される複数の凝固因子の活性)などを調べます。
- さらに、肝臓の形態が変化していないかを評価するために、腹部超音波検査、CT・MRI検査を行います。
- 肝臓内のコラーゲン量を評価するために血液中の肝線維化マーカー測定や、画像検査(超音波エラストグラフィ-、MRIエラストグラフィーなど)も併用されます。
- 肝臓の表面・内部の状態を把握するために腹腔鏡検査を行ったり、肝生検検査による病理学的診断が必要になる場合もあります。
合併症の有無を調べる検査
- 初回の診察時だけではなく、定期的に受けていただく必要があります。
- 胃・食道静脈瘤をみるには上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)、肝臓がんをみるには腹部超音波検査、腹部造影CT・MRI検査、血液検査(αフェトプロテイン、PIVKA-Ⅱ等の腫瘍マーカー)などを行います。
どんな治療があるの?
- 残念ながら、肝硬変で一度硬くなった肝臓を元に戻すことはまだ出来ません。したがって、治療の目的は、個々の原因への対策をすることで病気の進行を抑えること、低下した肝機能を補うこと、そして合併症が生命予後になるべく影響しないように早めの処置を行うことなどになります。
- この3つの目的に沿った治療法を下記にまとめました。
病気の進行を抑える治療
- B型肝炎ウイルス感染:核酸アナログ製剤という薬を投与します。これはウイルスの増殖を抑えることで、炎症を抑え、肝臓が硬くなることを防ぎます。
- C型肝炎ウイルス感染:インターフェロン・フリー経口剤を投与する治療が主流です。これは、副作用も少なくウイルスを完全に除去することが高確率で可能です。
- 自己免疫性肝疾患:免疫抑制剤(ステロイドホルモン、アザチオプリン等)や胆汁排泄促進剤(ウルソデオキシコール酸)という薬を飲んでいただきます。
肝機能低下を補う治療
- 血中アルブミン低下:経口分岐鎖アミノ酸製剤(バリン・ロイシン・イソロイシン)、利尿剤投与に加えてアルブミン製剤点滴を行います。むくみが起こり、お腹の中に水分がたまるのを防ぎます。
- プロトロンビン時間の延長:必要に応じて新鮮凍結血漿という血液製剤を投与します。
合併症対策としての治療
- 肝性脳症:便秘対策(下剤内服、合成二糖類内服・浣腸)、腸管滅菌(リファキシミン内服または特殊組成アミノ酸製剤の点滴)が行われます。
- 胃・食道静脈瘤:消化管の破裂予防、出血時の治療として内視鏡的結紮術を行います。
- 肝臓がん:肝切除術、肝動脈塞栓療法、ラジオ波焼灼療法、抗がん剤、各種の分子標的治療薬などが病期に応じて選択されます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?食事や生活で気をつけることは?
- 肝硬変と診断がついた方に、生活するうえで注意していただきたいことを下記にまとめました。
食事について
- 肝硬変の初期には健康な時と変わらない食生活で良いのですが、手足がむくんだり、お腹に水が溜まる状態になった場合には、塩分を控えるとともに、少し多めにタンパク質を摂るよう心がけてください。
- さらに病気が進行して、「肝性脳症」とよばれる意識レベルの低下がみられる場合には、タンパク質を控えなければなりません。しかし、それでは栄養不足になってしまいますので、肝性脳症を悪化させないような経口分岐鎖アミノ酸製剤を使用します。
日常生活について
- アルコールが原因の場合には、お酒の量を減らす、できればお酒をやめることが最も有効な治療法です。アルコール依存症が疑われる場合には、内科的治療に加えて精神科的アプローチも必要ですので、専門医の指導をお受けになることをお勧めします。
- 肝硬変という病気はさまざまな原因がきわめて長期にわたって続いていたことで起こります。そのため、お医者さんから肝硬変という診断を告げられた場合には、その状態をよくご理解いただくとともに、お医者さんと相談して最も適切な治療法を選び、継続すること、そして検査を定期的に受けていただく必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 肝硬変に関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 日本消化器病学会ガイドライン「肝硬変」(http://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/kankohen.html)
- 日本消化器病学会ガイドライン「患者さんと家族のための肝硬変ガイドブック」(http://www.jsge.or.jp/guideline/disease/)
- 国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センターホームページ 「肝硬変」(http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/kankouhen.html)
- 厚生労働省ホームページ 「アルコール健康障害対策」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000176279.html)