境界性パーソナリティ障害:どういう時に疑うの?検査や治療はあるの?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の池田 暁史と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が境界性パーソナリティ障害なのかもしれない?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 境界性パーソナリティ障害は、寛解傾向のあるパーソナリティ障害です。
- 弁証法的行動療法やメンタライゼーションに基づく治療、転移焦点化精神療法などが境界性パーソナリティ障害の治療に効果的であることが分かっています。
境界性パーソナリティ障害は、どんな病気?
- 境界性パーソナリティ障害とは、自分や周囲の友人・知人に対する評価が一定しないために人間関係が長続きしなかったり、常に虚しい気持ちを抱え続けていたりするパーソナリティの障害です。
- ネガティヴな感情を抱きやすく、それから逃れるためにしばしば衝動的に自分を傷つけるような行為に走ります。
- これらの特徴が明らかになってくるのは20歳前後のことが多いです。40歳を過ぎる頃になると極端な衝動性は落ち着くことが知られていますが、効果的な治療を受ければ数年でかなり改善します。ですので、まず専門家に相談することが大事です。
境界性人格障害ともいうらしいけど、これって人格の問題なの?
- 確かに、パーソナリティ障害はかつて人格障害といわれていました。ただし、ここでいう人格とは私たちが日本語で「人格者」と表現したりするときとは若干意味が違います。
- 日本語の「人格」には往々にして道徳的、倫理的な意味が含みこまれます。しかし、ここでの「パーソナリティ」にはそうした意味はありません。
- パーソナリティは「仮面」を意味するラテン語の「ペルソナ」に由来します。つまり他人から見たときに映るその人のありようのことです。したがって、それは行動や立ち居振る舞いなどのその人特有の人間関係のパターンを意味しており、内面の徳などを意味してはいません。
境界性パーソナリティ障害と思ったら、どんなときに病院を受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 境界性パーソナリティ障害を疑ったとき、下記のような場合は、医療機関の受診を検討してください。
精神科への受診がお勧めな場合
- 人間関係が不安定で、ケンカやぶつかり合いが多く、その度に死にたくなったり、自暴自棄になったりする場合。
- 慢性的な虚無感や空虚感を抱えていて生きているのがつらい場合。
- 怒りの爆発など、衝動コントロールに困難を抱えていて自分でも苦しい場合。
- リストカットなどの自傷行為が止めようと思ってもやめられない場合。
救急車を呼ぶ場合
- 薬のまとめ飲みをして意識がない、または意識がぼんやりしている場合。
- 深刻な自傷や自殺企図があった場合。たとえば、出血が止まらないような自傷、首吊りや飛び降りなどの自殺企図もしくはその素振りなど。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 境界性パーソナリティ障害による行動上の困難を減らすために下記のことに気をつけるとよいでしょう。
- アルコールの摂取を控える:アルコールはこころのブレーキを弛めてしまうため、酔っていると怒りのコントロールが利かなくなったり、自傷行為を起こしやすくなったりします。
- 刃物などの危険物や薬などの管理を家族にお願いする:衝動的になったときに自傷や自殺企図の手段となる可能性のあるものを管理してもらいます。
境界性パーソナリティ障害になりやすいのはどんな人?原因は?
- 境界性パーソナリティ障害の明確な原因は分かっていません。
- 境界性パーソナリティ障害の患者には、性的虐待や身体的虐待の被害者が多いことはほぼ間違いありません。しかし虐待を受けても境界性パーソナリティ障害にならない人もいますし、虐待の既往がないのに境界性パーソナリティ障害になる人もいます。ですので、これを直接の原因ということはできません。
どんな症状がでるの?
- 境界性パーソナリティ障害の場合、下記のような症状を示します。
境界性パーソナリティー障害の症状
- 著しい気分変動
- 不明確で動揺しやすい自己イメージ
- 慢性的な空虚感
- 激しく不安定な対人関係
- 繰り返される自傷行為や自殺の脅かし
- アルコール、薬物、摂食、セックスなどへの嗜癖
- 一過性の乖離や精神病症状
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 境界性パーソナリティ障害の診断は、専門医による問診によってなされます。補助的に心理検査が用いられることもありますが、必須ではありません。
どんな治療があるの?
- 境界性パーソナリティ障害に対する効果が確立している薬はありません。少量の抗精神病薬や気分安定薬、もしくは抗うつ薬などが処方されることがありますが、いずれも保険適用外の使用です。効果が認められないのに漫然と服用を続けることは望ましくありません。
- 境界性パーソナリティ障害に対する治療の中心は精神療法です。弁証法的行動療法、メンタライゼーションに基づく治療、転移焦点化精神療法などが自傷行為や衝動性を中心とした症状を改善させることが分かっています。ただし、日本でこれらの治療をしっかり提供できる機関はごく少数に限られます。
- 日本では曜日や時間などをある程度固定化した治療設定の下、週1回15分~20分程度の診察で、その時々の困難や苦痛のマネジメントを行っていくことが現実的な治療といえるでしょう。対人関係が安定しない境界性パーソナリティ障害の患者さんにとって、特定の治療者と長期にわたる関係を維持することができると、それ自体が気分や自己イメージの安定化につながり、治療効果をもちます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 精神療法のトレーニングをきちんと受けていない治療者から、探索志向の強い、こころの内面をみつめていくようなタイプの治療を受けると、かえって混乱の度合いが強まる場合もあるので注意が必要です。
- また、適切な治療を受けていても、治療で扱われたテーマや、そのときの実生活上の心的負荷によって一過性に調子を崩すこともあり得ます。希死念慮が強まったときの救急対応の方法などについては事前に相談しておいてください。
予防のためにできることは?
- 原因が判明していないため、ご本人にできる予防策はありません。
- 社会的には、子どもを虐待的環境から保護することで将来的な境界性パーソナリティ障害への進展を予防しうる可能性があります。子どもを身体的に虐待してしまう場合、親自身が医療的あるいは福祉的支援を受けることで子どもへの虐待が止むかもしれません。子どもを性的虐待から保護するためには、より強力な介入が必要となるでしょう。社会が子どもを守る機能を高めることが、境界性パーソナリティ障害の予防につながるかもしれません。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 以前は、境界性パーソナリティ障害は20歳前後で問題が顕在化し、治療を受けても受けなくても40歳を過ぎる頃には衝動性が和らぎ、診断基準を満たさなくなる障害であるといわれていました。
- 現在は境界性パーソナリティ障害に有効な治療を受けることで、もっと短期間で改善するという見解が増えています。最初の2年で約40%が、その後は1年で10%ずつ改善していき、治療開始後6年で80%が寛解しているという報告もあります。
- 「治る」をどう定義するかにもよりますが、いまや境界性パーソナリティ障害は治る障害といえます。
追加の情報を手に入れるには?
- 境界性パーソナリティ障害の日本版治療ガイドラインが刊行されています。
- 牛島定信編,境界性パーソナリティ―日本版治療ガイドライン.金剛出版,東京,2008