多発性嚢胞腎:原因は?症状は?検査や治療は?血液透析が必要になるの?
更新日:2020/11/11
- 腎臓専門医の西尾 妙織と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が多発性嚢胞腎かな?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 多発性嚢胞腎とは、両方の腎臓に多数の嚢胞(水のたまった袋)ができる病気です。
- 遺伝性の腎疾患です。
- 進行がはやい場合には治療が可能となっているので、専門医の受診をお勧めします。
- 腎機能が悪くなった場合には難病申請ができますので主治医に相談しましょう。
多発性嚢胞腎は、どんな病気?
- 多発性嚢胞腎(ADPKD)は、病気の進行に伴い両側の腎臓に多数の嚢胞ができる病気です。
- 徐々に腎臓の機能が低下して60 歳までに約半数の患者さんが末期腎不全になります。
- 多くの方に高血圧が見られ、脳動脈瘤、肝嚢胞、心臓弁膜症といった、他の臓器に合併症を生じることがあります。
- なお、多発性嚢胞腎は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
どのように診断されますか?
- 健康診断や人間ドックなどのスクリーニング検査の画像検査で診断されることが多いです。一般的な健康診断は、超音波(エコー)検査などの画像検査が含まれないことが多く、みつからない可能性があります。
- 下記のような症状で診断に至る場合もあります。
多発性嚢胞腎の症状
- 腹痛
- 血尿
- 側腹部・背部痛
- 疲れやすい
- 嚢胞が1~数個認められるものの腎臓が大きくなっていない単純性腎嚢胞の場合が多いです。
- 家族に同じ病気の方がいる場合やADPKDと迷うようであれば、医療機関への受診をおすすめします。
多発性嚢胞腎の原因は?どのくらいいますか?
- 多発性嚢胞腎(ADPKD)は両親のどちらかが病気をもっていることが多く、優性遺伝形式をとります。
- 家族歴がない患者さんも5%くらいいると言われています。
- 日本のADPKD患者さんは3万1,000人で3,000~8,000人に1人程度と推測されています。
コラム:ADPKDは子供全員に遺伝するのですか?
- 常染色体優性遺伝形式を示すので、子どもは患者である親から変異をもつPKD遺伝子あるいは正常のPKD遺伝子のどちらかを性別を問わず受け継ぎます。その確率は2分の1(50 %)です。子どもの数によって決まるものではなく、全員に遺伝することもあれば、誰にも遺伝しないこともあります。
どんな症状がでるの?
ADPKDの主な症状は?
- 多発性嚢胞腎では下記のような症状が出ます。
多発性嚢胞腎の症状
- 腹痛・腰痛・背部痛
- 体のおなかの張り(腹部膨満感)
- 肉眼的血尿
- 早期には痛み、自覚症状がないことも多いです。
診断された後は検査をするの?
- 多発性嚢胞腎(ADPKD)と診断された後に、必要な検査は何かありますか?
脳動脈瘤の検査
- ADPKD患者さんは脳動脈瘤(脳の血管の一部に膨らみができる病気)を合併する可能性が高いです。
- 特にご家族が脳動脈瘤を合併、あるいはくも膜下出血を発症している場合は、その可能性はさらに高くなります。
- 脳動脈瘤の発生を予防するため脳のMRI検査を3 〜5 年に1回する事が必要です。
心臓超音波(エコー)検査
- 心臓の弁膜症(心臓の弁が異常を起こす病気)はADPKDに合併することがあります。
- 弁膜症の合併、重症度、治療の必要性などを判断します。
どんな治療があるの?
- 多発性嚢胞腎(ADPKD)の進行を抑制する薬剤治療としてトルバプタンがあります。このお薬は腎機能が比較的よい患者さんにおいては、腎臓が大きくなる速さ、腎機能が低下する速さを抑えます。トルバプタンの副作用として一番多いのが、尿量が増加です。また、高ナトリウム血症、肝機能障害もあります。
- 高血圧の症状が出る患者さんが多いので、それに対する治療も行います。
コラム:トルバプタンは誰でも飲める薬ですか?
- トルバプタンの適応基準は、「総腎容積(両側の腎臓容積の合計)が750mL以上あること」と「総腎容積の増加率が概ね1年あたり5%以上あること」です。
生活で気をつけることはありますか?
- 生活する上で下記のことに気をつけると良いです。
生活する上で気をつけること
- 減塩
- 肥満にならないための適度な運動
- アルコールは適切な量にとどめる
- コーヒーの飲みすぎには注意する
- こまめな水分補給
- 激しい運動は避ける
- 多発性嚢胞腎(ADPKD)では食塩のとり過ぎで血圧が上がりやすく、腎機能にも悪い影響が出ることが知られています。食塩は1 日3 〜6gを目標に減塩するとよいでしょう。
- 肥満は腎機能を悪化させます。カロリーをとり過ぎないように注意し、適正な体重を維持しましょう。
- アルコールをとることは問題ありませんが、ビール500mL、日本酒1 合ほどにすると良いです。
- 水分摂取量については、腎機能に応じて主治医の先生と相談しながら調整が必要です。
- ラグビー、アメリカンフットボールや格闘技などの外傷をきたしやすいスポーツは、外部から大きな力が加わると、嚢胞出血をきたすことがあるので避けるべきです。
追加の情報を手に入れるには?
- 難病情報センター(Japan Intractable Disease Information Center)
- http://www.nanbyou.or.jp/
- 国の難病対策についてもほぼすべての情報が記載されています
- 多発性嚢胞腎財団日本支部(PKDFCJ)
- http://www.pkdfcj.org
- 米国ミズーリ州カンザスシティに本部を置くPolycystic Kidney Disease Foundation(PKDF)の日本支部として患者と患者の家族、支援してくださる医療関係者の方々がつくり、活動している団体です。
- 患者さんのための多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2019が出版される予定です。