急性虫垂炎（盲腸）の手術:どんな治療？

• 消化器外科専門医の服部 正嗣と申します。
• このページに来ていただいた方は、ご自身、またはご家族、お知り合いの方が、虫垂炎と診断され、お腹が痛くて辛い思いを耐えながら、治療法について知りたいと考えられているかもしれません。
• 虫垂炎の治療、手術にはどのようなものがあり、どのように行うのかをまとめました。

盲腸ってなに？　虫垂ってなに？

• 盲腸は、お腹の右下にある、小腸と大腸の境目の曲がり角のことです。盲腸にぶら下がるように虫垂があります（図表１）。　
• 「盲腸」と呼ばれている病気は、この虫垂に炎症が起きた状態で、正式には急性虫垂炎といいます。

図表1 盲腸と虫垂

虫垂炎が起きる理由

• 虫垂炎は、虫垂で細菌が繁殖することで起こります。虫垂の内腔は盲腸とつながっていますが、先端部分は行き止まりになっているからです。
• 原因の一つとして、虫垂の出入り口に、便が石のように固くなったものが詰まり、虫垂の中の圧が上がることが考えられています。しかし、詳しい原因は分かっていません。

虫垂炎の症状

• 虫垂炎になると、多くの場合、最初に痛みがみぞおちのあたりに起こり、お腹の右下に移動します。
• 痛みのほかに、熱、吐き気、吐く、食欲が落ちるといった症状が出ることがあります。人によっては、あまり痛くないこともあります。
• 虫垂炎には、虫垂が少し腫れるだけの軽いものもありますが、虫垂が破れて感染がお腹の中に広がってしまう腹膜炎や、お腹の中に膿がたまってしまう腹腔内膿瘍になる重いものまであります。

急性虫垂炎の治療にはどんなものがあるの

• 急性虫垂炎の治療には、「手術」と「抗生剤」があります。

手術

• 手術では、炎症を起こした虫垂を切って取り除き、治します。
• メリットは、治療の確実性は高く、虫垂炎にもう一度なることはありません。デメリットは、手術による体への負担、手術の危険性があります。
• 開腹手術（お腹をメスで開ける）と腹腔鏡手術（お腹をカメラで見る）がありますが、腹腔鏡下手術が行われることが多いです。

抗生剤

• 抗生剤は、菌を抑えるお薬で、虫垂に起きた炎症をおさえ込みます。
• メリットは、手術をせずに済むということです。デメリットは、菌をおさえ込めないと状態が悪化することや、おさえ込めても再び虫垂炎になる可能性があることです。
• 点滴の方法と口から飲む方法があります。また、抗生剤治療を行い、炎症をおさめた後で、改めて手術を行う方法（＝待機的虫垂切除術：interval appendectomy）が行われることもあります。

どういう人が手術を受けるべき？

• どのように治療をするかは、お腹の痛みなどの症状、診察や検査の結果をもとに、患者さんの希望を伺って決定します。手術は、以下のような方におすすめします。

手術が勧められる方

• お腹の痛みなどの症状が強い方
• 炎症の症状が強い方
• 腹膜炎になっていることが疑われる方
• 再発の可能性が考えられる方

• 炎症があまりに強い場合は、抗生剤治療を行って炎症をおさえてから手術を行う作戦をとることもあります。
• お腹の痛みが強くなく、炎症が強くない方に対しては、抗生剤の治療が行われることが多いです。しかし、再発の可能性がある方には、手術をおすすめすることもあります。

手術はどのようにおこなうの？

• 手術では、虫垂を切って取り除きます（図表2）。
• 虫垂が破裂して腹膜炎になったり、腹腔内膿瘍ができたりしていた場合には、お腹の中をきれいに洗い、細い管（ドレーン）を入れることがあります。炎症の範囲が広い場合には切る範囲が大きくなることもあります。

図表2 虫垂切除

ほとんどが虫垂のみ切除する手術となります。虫垂の根元の炎症が強い場合は盲腸切除、さらに炎症の範囲が広い場合は回盲部切除を行い、大腸と小腸をつなげます。

開腹手術

• お腹の右下の部分を切り、お腹を開けて手術を行う方法です（図表3）。手術の方法によって、切開する位置や長さが変わります。

図表3 開腹手術の切開創の例

腹腔鏡下手術

• 腹腔鏡（お腹のカメラ）と、鉗子という細い器具をお腹の中にいれて、手術を行う方法です。お腹を開く必要がなく、腹腔鏡と鉗子を入れるための5mmから1cm程度の小さな切り口で手術が行えます（図表4）。
• 小さな傷で手術を行うので、傷が目立ちにくいです。また、切り口の数を減らし、例えば1つの小さな切り口から手術を行うことに取り組む病院もあります。
• ただし、お腹の中の状況や手術の経過によっては、途中で開腹手術に変更する場合もあります。

図表4 腹腔鏡下手術の切開創の例

カメラを入れるための切り口と、右手と左手の鉗子を入れるための切り口の3か所のみ開けています。

治療を受けるにあたっての心構え

• 治療を受けるにあたっての心構えは、以下の通りです。

手術時間について

• 手術時間は、虫垂炎の状況や、患者さんの体型などによって異なります。
• 手術開始から30分以内に終了する場合も、逆に数時間かかることもあります。手術の予定時間に加えて、手術の準備、麻酔の時間など、手術前後で1時間程度はかかります。

麻酔について

• 開腹手術は、「腰椎麻酔」または「全身麻酔」で行います。腹腔鏡下手術は、「全身麻酔」で行います。
• 腰椎麻酔：背中から麻酔のお薬を注射し、下半身の感覚や痛みを感じないようにして、手術を行う方法です。全身麻酔と違って眠らないので、手術中も意識はあります。
• 全身麻酔：麻酔のお薬で眠っていただいている間に手術を行う方法です。麻酔のお薬の効きやすさに個人差はありますが、痛いまま手術をしたり、途中で目が覚めたりすることはありません。麻酔のお薬を中止すると目が覚めてくるので、ほとんどの場合、手術が終了した後、目が覚めてから手術室を出ます。

術後の痛みについて

• どうしても、少しの痛みは出ます。我慢せずに、医療スタッフに伝えてください。痛み止めのお薬を、飲む、点滴する、注射するなどして痛みを和らげるようにしていきます。
• 手術前の虫垂炎によるお腹の痛みと違い、傷の痛みは日に日に改善していきます。

禁煙について

• 特に全身麻酔の場合、たばこによる影響で痰の量が増えて詰まると、大きな支障が出ることがあります。
• 虫垂炎の手術は、ほとんどが緊急で行われるので、そこから禁煙しても間に合いません。全身麻酔の支障が出るだけでなく、たばこは健康の害です。今から止めることをお勧めします。

理解しておきたいリスクと合併症

• 手術によって引き起こされる望ましくないことを、合併症と言います。虫垂炎の手術後の代表的な合併症を挙げます。

感染

• 虫垂炎の手術は、感染を起こした虫垂を切り取るため、完全に清潔な手術ではありません。また、すでにお腹の中に菌が広がっていることもあります。そのため、術後にお腹の中に膿がたまったり、傷に膿がついてしまったりすることがあります。
• 感染を予防するため、手術前後には抗生剤を使います。また、手術中はしっかり洗って感染を予防しています。

術後の出血

• 手術は出血していないことを確認して終わりますが、まれに止まっていた出血が後から起こることがあります。
• 出血はほとんどがそのまま様子をみておさまりますが、まれに輸血や再手術が必要な場合もあります。

腸閉塞

• 腸閉塞とは、お腹の手術を行った後、腸が動かなくなったり、他の部分にくっついたりして腸の中身が流れなくなることで、一定の確率で起こります。イレウスとも言います。
• 特に炎症が強い場合、起こりやすくなります。手術翌日から起きて歩いていただくなど、手術後に早くベッドから出ることが予防になります。

腸瘻・糞瘻

• まれな合併症ですが、虫垂を切った付け根の塞がりが悪く、腸液がこぼれてしまうことです。
• しばらく食事をとらずに様子をみていただき、もう一度手術が必要になることもあります。

全身の合併症

• 虫垂炎の手術は、痛みや炎症で体が弱った状態で緊急に手術を行うことが多いため、全身のトラブルが出ることがあります。
• 他の手術でもありえることですが、心臓の病気、脳の病気、既に持っている病気の悪化などが起こることもあります。

治療後について

• 治療後については、以下の通りです。

手術後の入院期間

• 虫垂炎の状況、行った手術の内容次第で大きく異なります。術後1-2日で退院できる場合から、1-2週間以上かかる場合もあります。

退院後の生活について

• 退院後、自宅で静かに寝ていなければならないことはありません。まずは、最低限の身の回りのことから再開し、無理ない範囲で少しずつ普通の生活に戻していくようにしましょう。
• 食事については、消化の良いものをゆっくりよくかんで食べるようにしてください。逆にとても辛い食べ物や油っこい食事はしばらく控えるようにしてください。
• 運動については、退院後しばらく軽いウォーキング程度までとし、それ以上の運動の再開は担当の先生とご相談ください。
• 仕事については、デスクワークであれば退院後すぐから可能ですが、体調・手術内容・業務内容によりますので、担当の先生とご相談ください。
• 入浴については、退院時には傷がまだ治っていないことが多く、しばらくはシャワーだけがいいです。傷が完全に塞がれば、湯船につかって入浴ができます。

よく聞かれるご質問

盲腸の手術は簡単な手術なの？

• 炎症の程度が軽い場合には簡単なこともあります。しかし、炎症の程度によってはとても難しく、とても大変な手術となることもあります。
• また、簡単と思われる場合でも油断は禁物で、十分に注意して手術を行っています。　

手術後、傷の消毒はしなくていいの？

• 傷は、消毒するより、きれいに洗うことの方が有意義といわれています。
• とはいえ、あまりゴシゴシこする必要はありません。シャワーなどでさっと洗うようにしてください。

退院したら晩酌してもいい？

• 少量のアルコール摂取を禁止する強い根拠はありません。ですが、手術後1週間くらいは、禁酒いただくようにおすすめしています。
• 飲酒を再開する場合も、少量、適量に限ったほうがよく、深酒はしないでください。