子宮摘出術:どんな治療?入院期間はどれくらい?術後の合併症はある?
更新日:2020/11/11
- 子宮摘出術は婦人科においてポピュラーな手術の一つですが、その適応は良性疾患から悪性疾患まで多岐にわたり、子宮の大きさなどによっても難易度は様々です。
- さらに、子宮という妊娠分娩に関わる女性特有の臓器を摘出する手術のため、不安を感じている方も多いと思います。
- 子宮全摘術をお受けになる際に役立つ情報や、手術後の注意点、皆様からよく伺う質問の回答などをまとめましたので、是非お役立てください。
目次
まとめ
- 子宮摘出術の適応は良性のものから悪性のものまで多岐にわたります。手術方法は開腹、腟式手術、腹腔鏡手術があり、適応の疾患や子宮の大きさなどで決定します。
- 月経痛や月経量が多いことによる貧血、子宮筋腫による圧迫症状などは子宮摘出術が根本的な治療になるため改善が期待できます。
- 子宮を摘出した事による術後の副作用は特にありませんが、同時に卵巣やリンパ節を摘出した場合は副作用が起こり得るため注意が必要です。
どんな治療?
- 子宮摘出術の適応となる疾患は多く、良性疾患では子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症など、悪性疾患では子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、子宮肉腫などが挙げられます。
- 手術方法はお腹を切開する開腹手術と、腟から子宮を摘出する腟式手術の他、近年では腹腔鏡による子宮摘出も増えています。
- 適応となる疾患や子宮の大きさなどで手術方法を決定します。
- 年齢や患者さんの希望で卵巣・卵管を同時に摘出することがあります。さらに、悪性疾患では骨盤内のリンパ節を同時に摘出する場合があります。
この治療の目的や効果は?
- 治療の目的は適応となる疾患によって異なります。
良性疾患の場合
- 自覚症状の改善が目的になることが多いです。子宮摘出が根本的な治療になるので自覚症状の改善を期待できます。
- 子宮筋腫では月経量が多い・貧血・圧迫症状などの改善が目的となります。
- 子宮内膜症・子宮腺筋症では痛みの改善などが目的となります。
悪性疾患の場合
- 悪性組織を取り除く事が目的になります。
- 治療効果は疾患の進行度によって異なり、場合によっては手術後に抗癌剤などの追加の治療が必要となることがあります。
どういう人がこの治療を受けるべき?
良性疾患の場合
- 自覚症状があるかないか、またその程度によって子宮全摘術が選択されます。
- 子宮筋腫では、月経量が多い、月経期間が長い、月経に伴う貧血、腹部の圧迫感や下腹部痛、排尿や排便の異常などの症状の管理が難しい場合に適応となります。
- 子宮腺筋症や子宮内膜症では、月経時の痛みや長く続く骨盤の痛みが薬物治療では管理が難しい場合に適応となります。
悪性疾患の場合
- 診察や画像検査などでがんの進行状況を判断し、手術で取れる場合に適応となります。
- 疾患によって、卵巣・卵管、骨盤内のリンパ節、大網という臓器を同時に切除します。
実際には、どんなことをするの?
- 子宮摘出術は適応疾患によって単純子宮全摘術、準広汎子宮全摘術、広汎子宮全摘術に分けられます。
単純子宮全摘術
- 良性疾患や子宮体癌の一部、卵巣癌などで適応となります。
- 子宮を支える組織を切除した後、子宮と腟の接合部を切除して子宮を取り出します。腟の端を縫った後、血が止まっていることを確認して手術は終了です。
- 子宮体癌では卵巣・卵管と骨盤内のリンパ節を同時に切除します。
- 卵巣癌ではさらに大網と呼ばれる臓器を摘出します。
- 良性疾患でも年齢や患者さんの希望によって卵巣や卵管を同時に切除する場合があります。
- 手術方法として、開腹手術、腟式手術、腹腔鏡手術があります。適応となる疾患や子宮の大きさ、治療を受ける施設の方針などによって決まります。
準広汎・広汎子宮全摘
- 子宮体癌や子宮頸癌で適応となります。
- 単純子宮全摘術と比較して、子宮を支える組織や腟の壁を広く切除する手術で、より大がかりな手術になります。
- 基本的には開腹手術で行われますが、限られた施設で腹腔鏡での手術も行われています。
治療を受けるにあたって
- 手術を安全に行うために、手術前に心電図検査や胸部のレントゲン撮影、呼吸機能検査、血液の検査を行います。また、麻酔科の先生にも評価してもらいます。
- 大きい子宮筋腫を認める場合や、悪性疾患でリンパ節の摘出を行う場合などでは手術中の出血量が多くなることが予想されます。その際は手術時の出血に備えて、ご自身の血液を事前に採取してためておく「自己血貯血」を行うことがあります。
理解しておきたい リスクと合併症
- 手術によって引き起こされる望ましくないことを合併症と言います。
子宮摘出手術の代表的な合併症
- 術中・術後出血:手術中に血管を傷つけてしまった場合などは、出血量が多くなる可能性があります。非常に多くなった場合は、輸血が必要になることもあります。また、十分に止血を確認して手術を終了しても、稀に手術後に再度出血を生じる場合があります。
- 術後感染:手術した部位にばい菌が入って、手術後に熱が出たり傷から膿が出ることがあります。感染を予防するために手術前から手術後にかけて抗菌薬を投与します。
- 他臓器損傷:子宮の近くには膀胱、大腸や小腸、膀胱と腎臓をつなぐ尿管などの臓器が存在し、手術中にそれらを傷つけてしまうことがあります。これまでにお腹の手術を受けたことがある場合は臓器同士がくっついていることがあり(癒着と言います)、リスクが高くなります。万が一傷つけてしまった場合は臓器を修復してから手術を終了します。
- 術後腸管麻痺:麻酔薬などの影響で、手術後は腸の動きが悪くなります。腸の動きが悪い状態が長引く場合は、食事を止めて点滴を行うことがあります。
- 下肢静脈血栓症・肺塞栓症:手術で足などが動かない状況が続くと、血液の流れが悪くなって血の塊(血栓)が形成される場合があります。その血栓が肺の血管に流れ込むと命にかかわる危ない状態となります(肺塞栓症と言います)。手術中の予防として弾性ストッキングを装着したり、足をマッサージする機械を使用したりします。また手術後にできるだけ早く動き出すことも血栓の予防になるので全身状態が安定したら頑張って動き出してください。
- 創部離開:お腹の傷が開いてしまうことです。傷を洗ったり、抗菌薬を飲むだけで自然に治ることが多いですが、稀に再度縫合を必要とすることもあります。肥満や糖尿病の方に起こりやすいため注意が必要です。
- 排尿障害:準広汎・広汎子宮全摘では、膀胱の働きをコントロールしている神経がある骨盤の深い位置での操作が必要となります。手術操作によりそれらの神経機能が低下し、排尿が障害されることがあります。
- リンパ浮腫、リンパ嚢胞:悪性疾患の手術で骨盤内のリンパ節を摘出した場合、リンパ液の流れが悪くなり、足や陰部にむくみ(リンパ浮腫と言います)が発生することがあります。また摘出したリンパ節の周囲に、こぼれたリンパ液が溜まる袋(リンパ嚢胞と言います)を作ることがあります。リンパ浮腫、リンパ嚢胞には感染を合併することがあるため注意が必要です。
治療後について
子宮摘出後の生活について
- 手術後の状態が安定すれば、特に制限することはありません。腹腔鏡手術や腟式手術は開腹手術に比べて回復が早いことが特徴です。
- 仕事への復帰や運動、車の運転、入浴などについては、主治医に相談してください。
- 子宮摘出後も夫婦生活は可能ですが、腟断端の縫い合わせた部位が十分に治癒することが必要であり、手術後の診察で主治医に相談してください。
リンパ浮腫について
- リンパ節を摘出した後のリンパ浮腫は、リンパドレナージと呼ばれるマッサージや、弾性ストッキングなどを用いた圧迫などである程度の予防ができます。また感染を予防するために肌のケアも必要です。
- リンパドレナージなどには特殊な技術が必要であり、リンパ浮腫ケアの具体的な方法については医者や看護師へ相談してください
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 産婦人科 診療ガイドライン ―婦人科外来編2017 - 日本産科婦人科学会
- http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2017.pdf
- 日本婦人科腫瘍学会ホームページ
- https://jsgo.or.jp/index.html
もっと知りたい! 子宮摘出術
子宮全摘後の月経はどうなりますか?
- 子宮を摘出しているので月経はなくなります。
子宮を摘出することで身体の変化はあるのでしょうか?
- 卵巣を同時に摘出した場合は、更年期症状などが出現する可能性がありますが、子宮のみを摘出した場合は卵巣からの女性ホルモン分泌は保たれるため症状は特にありません。
- 子宮という女性特有の臓器を摘出することで喪失感を自覚される方もおられます。
子宮摘出後に夫婦生活は可能ですか?
- 可能です。腟断端の縫い合わせた部位が十分に治癒する必要があり、手術後の診察の際に主治医に相談してください。
- また、悪性腫瘍の手術後は腟が短くなることがありますので、主治医やパートナーとも相談しましょう。
その他の治療は?
良性疾患に対する治療
- 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の治療について下記にまとめました。
子宮筋腫
- 子宮筋腫核出術:子宮筋腫のみを摘出する手術です。子宮を残すことができるので、手術後に妊娠を考えている場合に適応になります。
- GnRHアゴニスト療法およびGnRHアンタゴニスト療法:注射薬で女性ホルモンの分泌を抑え、月経が止めることで貧血などが改善します。子宮筋腫の縮小や圧迫症状の改善の効果もあります。副作用があるため投与できる期間は6ヶ月までとされています。
- 子宮動脈塞栓術(UAE):子宮や子宮筋腫を栄養する血流を人工的に止めることで、月経量の多さの改善や子宮筋腫の縮小に効果があります。
子宮内膜症・子宮腺筋症
- 鎮痛剤、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、プロゲスチン製剤:月経痛などの痛みを抑え、さらに子宮内膜症の進行を抑える効果もあります。
- GnRHアゴニスト療法:月経を止めることで痛みを和らげ、子宮内膜症の進行も抑える作用があります。
- レボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ(R)):子宮内に入れることで子宮内膜症や子宮腺筋症に伴う痛みを抑える効果があります。
悪性疾患
- 化学療法(抗癌剤)や放射線治療を行います。
- 疾患やその進行度によって治療効果は様々であり、主治医とよく相談する必要があります。