産後うつ病:どんな病気? 症状は? 検査や治療は? 治療後は? 完治するの?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の菊地 紗耶と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分が産後うつ病かもしれない」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 産後うつ病は産後に発症するうつ病で、出産をした女性の10〜15%にみられるといわれます。
- 気持ちの落ち込み、育児が楽しくない、食欲がない、授乳以外でも夜に目が覚める、からだの疲れがとれない、自分のことを責めてしまう、物事が決められない、死にたい気持ちになるなどの症状がみられます。
- 育児で悩んだり、気分の落ち込みを感じたりするときは、一人で抱えずに、ご家族や、出産した病院、市区町村の母子保健の保健師さん・助産師さんに気軽に相談してみましょう。
- 心療内科や精神科で、授乳をしている期間でもお薬の治療を受けることができます。
産後うつ病は、どんな病気?
- 産後うつ病とは、出産された方の10〜15%にみられ、産後数週〜数か月の間に、気持ちが落ち込む、育児が楽しくないなどの症状が現れる病気です。
- 特に、ほかのお母さんはできているのに、自分は育児ができていない、お母さんとして失格だという気持ちになる方が多くいます。
- しっかり休むこと、周囲のサポート(つらい気持ちを聞いてもらうことや、育児や家事を代わってもらうこと)が大事で、ときにお薬による治療が必要になります。
産後うつ病と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの? 医療機関の選び方は?
- 産後に、気持ちの落ち込みが続く、育児をするのがつらいというときは、心療内科や精神科の受診を考えてみてください。
- 受診したほうがよいか迷うときは、出産した病院や市区町村の母子保健の保健師さんに相談してみてください。
- 消えてしまいたい、死んでしまいたいという気持ちが現れたときは、うつの症状が進んでいますので、早急な病院受診をおすすめします。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 産後はすることがたくさんあって、気の休まるときがないかもしれません。まず、周りの人に相談し、頼るようにしましょう。
- つらい気持ちを理解してもらう、育児や家事を手伝ってもらう、自分のペースでゆったり過ごす時間をもつ、日中や夜間にしっかり眠る時間をつくるようにするとよいでしょう。
産後うつ病になりやすいのはどんな人? 原因は?
- 現在のところ、産後うつ病の原因はわかっていません。
- 産後うつ病には、次のような、妊娠中や産後のさまざまな変化が複合的に関係しているといえます。
妊娠中や産後のお母さんに起きる変化
- 身体の変化:感情に関する脳の神経伝達物質やホルモンが変化します。
- 環境の変化:子ども産み育てることは、今までの自分とは違う役割をもつようになることです。
どんな症状がでるの?
- 産後うつ病では、次のような症状がみられます。
産後うつ病でみられる症状
- 気持ちが落ち込む
- 育児が楽しくない
- 食欲がない
- 授乳以外でも夜に目が覚める
- からだの疲れがとれない
- 落ち着かないまたは物事が進まない
- 自分のことを責めてしまう
- 物事が決められない
- 死にたい気持ちになる
- そのほか、育児がつらくて子どもをかわいいと思えないとお話される方も多くいます。
- 上に示した9つの症状の中で、最初の2つのうちどちらかがあり、さらに全体の中で5つ以上が2週間以上続くと、産後うつ病と診断されます。
コラム:エジンバラ産後うつ病質問票
- 産後うつ病の疑いのある方をみつけるために、「エジンバラ産後うつ病質問票」という自己記入式の質問紙が使用されています。
- 点数が高い場合には産後うつ病の疑いがあると考えられ、また、育児不安が高い場合にも得点が高くなります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 通常は、詳しくお話をお聞きすること(問診)で診断をします。
- 貧血や甲状腺機能異常がないか、血液検査をすることもあります。
どんな治療があるの?
周囲のサポートを受ける
- 産後うつ病の治療の基本は、十分休むことと周囲からのサポートを受けることです。
- 休む時間をとるのが難しいと思う方が多いかもしれませんが、うつの症状がある中で、頑張り続けるのは限界があります。
- パートナーやご家族、周囲の方に育児や家事を積極的に手伝ってもらうようにしましょう。
- 産後の育児は本当に大変ですから、一人で抱え込まずに、つらい気持ちを話すようにしましょう。
- 家族の中にサポートしてくれる方がいない場合には、ヘルパーや産後ケアなどのサービス(一部有料)が受けられるか、市区町村の保健師さんに相談してみてください。
病院での治療を受ける
- 心療内科や精神科では、症状の程度によってお薬による治療を行います。
- 抗うつ薬の中には、母乳への移行が少なく、お子さんに特に病気がなければ、授乳と両立できるお薬があります。
- 死にたい気持ちが強いときには、精神科での入院治療をお勧めすることがあります。
- お薬や入院はできれば避けたいと思う方はとても多くいらっしゃいますが、状態に応じた適切な治療を早めに受けることが、早い回復につながります。
- 実際に、産後うつ病で病院にいらっしゃる方の中には、はじめは「うつ病じゃない。子どもをかわいいと思えない。自分が母親に向いていないだけ」とお話されていたけれども、治療を受けて回復した後には「病院を受診してよかった。普通に子どもがかわいいと思えるようになった」という方が多くいらっしゃいます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 治療の副作用は?
- お薬による治療が始まっても、無理は禁物です。
- お薬は少しずつ効果が出てきますので、主治医の先生とよく相談しながら、効果が出てくるまで焦らずに過ごすようにしましょう。
- 副作用はお薬によって異なりますが、抗うつ薬の多くは、飲み始めに、胃がむかむかしたり、眠気がでたりすることがあります。
- 胃のむかむかは通常はお薬を飲み続けていると楽になりますが、はいてしまうなど副作用が強い場合は、早めに主治医に相談しましょう。
- 自己判断でお薬をやめないようにしましょう。
- ご本人だけでなく、ご家族の方も、焦らずに治療を進めていくようにしましょう。
予防のためにできることは?
- 産後うつ病はご本人や家族に気づかれにくい病気です。
- 「産後の肥立ちが悪い」「育児ノイローゼ」と言われ、産後うつ病が見逃されていることがあります。
- 産後のお母さんは皆大変だから頑張ろうと考えてしまわず、眠れているかな、気持ちがつらくないかなと、ご自身の心の状態に気を配るようにしましょう。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 産後うつ病は、休養、周囲のサポート、適切なお薬での治療により、徐々に症状がよくなっていきます。
- まずは、数か月間焦らずに治療を進めるようにしましょう。
- 症状に波がありますので、一喜一憂せず、回復まで少しずつ進んでいくことが大切です。
産後うつ病とマタニティーブルーは違うの?
- マタニティーブルーとは、出産された方の約3割にみられ、産後数日〜1週間以内に起こる涙もろさや不眠のことをいいます。
- マタニティーブルーは一過性のもので、自然に良くなることが多いです。
- 産後うつ病は、先にあげたような症状がみられる「うつ病」であり、休養やサポートを受けることや、時にお薬の治療が必要です。
ご家族の方へ
- 産後うつ病は、ご本人もご家族の方も気づきにくい病気です。
- 妊娠中、産後は、ご本人の話を否定せずに受け止め、その大変さに寄り添ってあげることが大切です。
- 仕事などで忙しくて、中々育児や家事を手伝えないかもしれません。そんなときでも、「今日も1日大変だったね」「ありがとう」などいたわりや育児への感謝の気持ちを伝えるようにしてください。
- 産後うつ病の患者さんには、ご家族のサポートが一番のお薬になります。