羊水過多・過少:原因は?症状は?いつ頃起こるの?赤ちゃんは無事?
更新日:2020/11/11
- 産婦人科専門医の小畠真奈と申します。
- 妊婦健診の超音波検査で医師から「羊水が多めです」とか「羊水が少ないです」などと言われると、心配になりますよね。「赤ちゃんに何か病気があるの?」と心配されたり、「羊水の量が多い(少ない)と、赤ちゃんに何か悪い影響があるの?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、「羊水過多」「羊水過少」の一般的な原因や、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について書かせていただいています。
目次
まとめ
- 羊水過多の原因はさまざまで、お母さんの糖尿病や赤ちゃんの病気(羊水をうまく飲めない消化管閉鎖など)が原因となることもあります。ふたごでは双胎間輸血症候群という病気も原因となることがあります。一方で、羊水過多と診断されても何も原因が見つからない(異常がない)ことも多いのです。
- かかりつけの産科の医師とよく相談し、糖尿病の検査や詳しい超音波検査を勧められたら、受けるようにして下さい。
- 羊水過多では、おなかのはり(子宮の収縮)が現れることがありますので、おなかがいつもより硬い、あるいは痛むような場合はかかりつけの産科医療機関を受診するようにして下さい。
- 羊水過少の原因もさまざまです。羊水の主な成分である赤ちゃんの尿が少なくなっている場合のほか、赤ちゃんを包んでいる卵膜が破れて羊水が漏れ出てしまう「破水」も原因となることがあります。双胎間輸血症候群では、一方の赤ちゃんに羊水過多、もう一方の赤ちゃんに羊水過少が見られることがあります。特に異常がなくてもお産の予定日が近くなると、羊水は減ってきます。
- かかりつけの産科の医師とよく相談し、赤ちゃんの予備力の検査や詳しい超音波検査、破水の検査等を勧められたら、受けるようにして下さい。
- 胎動がいつもより少ない場合や、破水かもしれない、と思う場合は、かかりつけの産科医療機関を受診するようにして下さい。
羊水って何?どうやって測るの?
- 羊水は、子宮の中の赤ちゃんのまわりにある淡黄色透明の液体です。主成分は赤ちゃんのおしっこです。
- 赤ちゃんの肺の成熟のために必要であり、また、赤ちゃんを衝撃から守ったり、運動のスペースを確保したりしています。
- 羊水の量は、個人差がありますが、妊娠30週頃の最も多くなる時期で800 mLに満たないくらいと言われています。
- 羊水量が800 mLを超える場合を羊水過多、羊水量が100 mL未満の場合を羊水過少と言います。
- お腹の中の赤ちゃんのまわりにある羊水の量は超音波検査の見え方で推測します。羊水ポケットを測る方法と羊水インデックスを測る方法があります。
どんな症状があるの?
羊水過多
- 羊水過多では、妊婦さんのおなかが通常よりも大きくなることがあります。妊婦健診では子宮底長と言って、恥骨の直上から子宮底部までの長さを測ります。個人差がありますが羊水過多の場合、この長さが通常よりも大きくなることがあります。
- 羊水過多では、おなかのはり(子宮の収縮)を強く感じることがあります。また、通常よりも大きい子宮が胃などを圧迫することで、食事が進まなくなったり、呼吸がつらくなったりすることもあります。
羊水過少
- 羊水過少では、妊婦さんのおなかが通常よりも小さくなることがあります。子宮底長が小さくなることもありますが、これも個人差があります。
- 羊水過少では、赤ちゃんの胎動が少なくなることがあります。
- 破水によって羊水過少になることがあります。破水は、腟から羊水が出てくることで気がつきますが、尿漏れと区別が難しいこともあります。
どんなことが原因になるの?
羊水過多
- 羊水の産生量が多い場合や羊水の吸収低下によって起こります。
- 羊水過多の原因は以下の通りです。
羊水過多の原因
- 母体の糖尿病あるいは妊娠糖尿病:母体に糖尿病や妊娠糖尿病がある場合、赤ちゃんが高血糖となることから尿産生が増加して羊水過多となります。
- 胎児消化管閉鎖:赤ちゃんの消化管(食道・十二指腸・小腸)がどこかの部位で先天的に閉鎖している病気です。赤ちゃんが羊水を飲み込むことができないため、羊水過多となります。
- 胎児脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)・無脳症:赤ちゃんの神経管の閉鎖がうまくいかずに脊髄の一部や脳が、体の外に露出している病気です。赤ちゃんの脳脊髄液が流れ出たりホルモンが十分に分泌されないことによる尿産生の増加により、羊水過多となります。
- 双胎間輸血症候群:一つの胎盤を共有しているふたごで、赤ちゃん二人の循環する血液の量のバランスが崩れるとおきる病気です。血液の量が多い赤ちゃん(受血児)では尿量が多くなるため、羊水過多となります。また、血液の量が少ない赤ちゃん(供血児)では、尿量が減少するため、羊水過少となります。
羊水過少
- 羊水の産生障害や羊水流出(破水)によって起こります。
- 羊水過少の原因は以下の通りです。
羊水過少の原因
- 胎児尿路閉鎖: 赤ちゃんが尿を体の外に出せないために、羊水過少になる病気です。
- 胎児腎無形成・異形成腎・多嚢胞腎:これらの赤ちゃんの病気によって尿が産生されない場合も羊水過少となります。
- 胎児機能不全:子宮のなかの赤ちゃんが胎盤から十分な栄養や酸素を貰えなくなっていると考えられる病気です。この場合も尿の産生が減るため、羊水過少となることがあります。また、胎児発育不全に伴うことも多くあります。
- 破水:子宮の中で赤ちゃんと羊水をつつんでいる膜が破れて、中にある羊水が漏れ出している状態です。また、陣痛が来る前に破水することを前期破水と言います。妊娠37週未満に破水した場合は早産の原因となります。また、細菌感染やへそのおの圧迫のリスクも高くなります。
コラム:Potter sequence
- 胎児尿路閉鎖や腎臓の病気によって、妊娠中期に羊水過少となった場合にPotter顔貌、四肢の変形、肺低形成など、赤ちゃんに一連の症状をきたすことを、Potter sequenceといいます。
自分でできることは?
羊水過多
- 左を下にして横になる :羊水過多に限らず、妊婦さんが仰向けで休むと、気分不快や意識低下を起こすことがあります。これは、大きくなった子宮が、下大静脈という体の中の太い血管を圧迫することで、心臓に血液が戻りにくくなり、低血圧になるためです。楽な姿勢で休むのが基本ですが、左を下にして横になることでこのような低血圧を起こしにくいと言われています。
- 激しい運動は控える:羊水過多に限らず、妊婦さんが激しい運動をすると、子宮収縮や呼吸困難が悪化することがあります。特に羊水過多がある場合は、妊娠中に可能なスポーツとされるラケットスポーツやマタニティスイミング、ヨガなども避けたほうがよいと考えられます。
羊水過少
- 栄養のバランスに気をつけて無理のない生活をしましょう。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- ひんぱんにおなかがはる。
- 腟から出血する。
- 赤ちゃんの動き(胎動)が少ない。
- 腟から羊水が出る。
どんな検査をするの?
羊水過多でも羊水過少でも行う検査
- 胎児超音波検査:通常の妊婦健診で行う羊水量や赤ちゃんの発育のチェックに加えて、赤ちゃんの内臓などに先天的な病気がないかを詳しくチェックします。羊水過多でも羊水過少でも行います。
- 胎児心拍数モニタリング(ノンストレステスト):赤ちゃんの心拍数と子宮の収縮を同時に計測し、お腹の中の赤ちゃんの予備力を調べます。
羊水過多
- 75g糖負荷試験:妊娠糖尿病や糖尿病の検査です。糖液を飲む前後の血糖値を測定します。
- 羊水染色体検査:赤ちゃんに染色体の病気があるかどうかを診断する検査です。お母さんの子宮に針を刺して、羊水を20mLほど採り、羊水のなかに浮いている赤ちゃん由来の細胞を分析します。結果が出るまで3週間ほどかかることがあります。
羊水過少
- 破水の検査:視診によって、腟のなかに羊水が漏れ出てきていることを確認します。また、妊娠中の腟のなかは通常は弱酸性ですが、羊水は弱アルカリ性なので、腟内のpHを確認することで、羊水の存在を推測します。
どんな治療をするの?
羊水過多
- 羊水穿刺ドレナージ:羊水過多で胃が子宮に圧迫されて、妊婦さんが食事をとることができない等、日常生活に支障があるような場合、妊婦さんの子宮に針を刺して、羊水を抜きます。
- 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術:双胎間輸血症候群の場合、妊娠週数と重症度を考慮した上で行うことがあります。
羊水過少
- 赤ちゃんが原因の羊水過少については、妊娠中の確立された治療はありません。
- 破水の場合は、赤ちゃんの感染を防ぐために抗菌薬を投与します。
- 早産で未熟児の赤ちゃんがうまれることが予想される場合、NICU(新生児集中治療室)がある病院へ転院となることがあります。
もっと知りたい! 羊水過多・過少のこと
羊水過多はどんな病気が考えられる?
母体の糖尿病・妊娠糖尿病
- 糖尿病は、耐糖能(血糖値の上昇に対して血糖値を一定の範囲内に戻す能力)が下がっている病気です。妊娠の影響によって耐糖能の異常がおこっているものを妊娠糖尿病といいます。母体に糖尿病や妊娠糖尿病がある場合、胎児が高血糖となることから尿産生が増加して羊水過多となることがあります。
- 糖尿病や妊娠糖尿病は、巨大児や新生児の低血糖の原因にもなるので、これらを予防するために、妊娠中の食事療法やインスリン注射による母体の血糖の調節が必要です。
胎児食道閉鎖
- 先天的に食道が途中で閉鎖している病気です。食道と気管の間の瘻孔の有無と位置によってA〜E型の5つの病型に分類されます。羊水を飲み込むことができないため、羊水過多となります。
- 出生3,000〜4,000人に1人に見られます。児に食道閉鎖がある場合、心臓の病気やVACTERL連合(椎体、肛門、心臓、気管食道瘻、腎臓、肋骨の異常)、18トリソミーや13トリソミーという染色体の病気を持っていることがあります。
- 生後に手術が必要ですので、小児外科がある病院で出産することが望ましいとされています。
胎児十二指腸閉鎖・狭窄
- 先天的に十二指腸が閉鎖していたり、狭くなっている病気です。閉鎖のタイプによって膜様型・索状型・離断型・多発型に分類されます。膜様型に穴があいていれば狭窄となります。羊水を飲み込むことができないため、羊水過多となります。
- 出生6,000〜10,000人に1人に見られ、約半数に羊水過多を伴います。児に十二指腸閉鎖・狭窄がある場合、心臓の病気を持っていることやダウン症候群(21トリソミー)の児である可能性があります。
- 生後に手術が必要ですので、小児外科がある病院で出産することが望ましいとされています。
胎児小腸閉鎖
- 生まれつき小腸(空腸・回腸)が途切れている病気です。閉鎖のタイプによって膜様型・索状型・離断型・離断特殊型・多発型に分類されます。回腸のほうが空腸よりも若干多いです。羊水を飲み込むことができないため、羊水過多となります。
- 出生400〜5,000人に1人に見られ、胎児期の腸管の血行障害によるとされ、他の合併奇形は十二指腸閉鎖よりも少ないです。
- 胎便性腹膜炎を伴う場合、超音波検査で胎児腹水や腹腔内の石灰化像が見られることがあります。
- 生後早期に手術が必要になることが多く、小児外科がある病院で出産することが望ましいとされています。
胎児脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)
- 脊髄髄膜瘤は、妊娠6週頃の神経管の閉鎖がうまくいかずに脊髄が一部、体の外に露出している病気です。児の脳脊髄液の流出や抗利尿ホルモン分泌不全による尿産生の増加により、羊水過多となります。
- 出生10,000人に5〜6人に見られ、原因は不明ですが、妊娠前からの葉酸の摂取により予防できる可能性があります。
- 生後に手術が必要ですので、治療が可能な病院で出産することが望ましいとされています。
胎児口腔内腫瘤
- 先天的に口腔内や咽頭などから発生する腫瘍です。奇形腫のほかに、横紋筋肉腫、鼻腔神経膠腫、嚢胞性リンパ管腫、髄膜脳瘤などがあります。口腔内を腫瘤が占拠するため、羊水を飲み込むことができずに羊水過多となります。
- 奇形腫の場合、口腔内に発生する頻度は200,000人に1人といわれ、非常に稀な疾患です。
- 早産になることが多いことや、出生直後に集学的な治療が必要であることから、対応可能な施設で出産することが望ましいと考えられます。
胎児嚢胞性肺疾患
- 肺の一部が先天的に嚢胞状となる良性の腫瘍です。大きなものでは食道を圧迫して胎児の嚥下を妨げることにより、羊水過多となります。
- わが国では年間約100人程度が診断されます。原因は不明です。大きなものでは胎児の心臓を圧迫して胎児水腫となることもあります。
- 生後に手術が必要ですので、小児外科がある病院で出産することが望ましいとされています。
双胎間輸血症候群TTTS
- 双胎間輸血症候群は、一絨毛膜双胎に起こる病気です。二人の胎児が共有する胎盤のつながっている血管(吻合血管)を通じて、血流のバランスが崩れることで発症します。血液を余分にもらっている胎児(受血児)は、心不全、胎児水腫という状態になります。また、胎児の尿量が増えることにより羊水過多となります。一方、血液を送り出している胎児(供血児)は、胎児発育不全で小さくなり、尿量が少なくなるため羊水過少となります。
- この病気は一絨毛膜双胎の約1割におこり、無治療では児の救命が困難です。TTTSはどちらか一人の児の病気ではなく、どちらの児も状態が悪くなることが特徴です。
- 日本では2018年現在9つの施設において、吻合血管をレーザーで焼灼する治療(胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術)が行われています。
羊水過少はどんな病気が考えられる?
胎児下部尿路閉鎖
- 胎児下部尿路閉鎖は、膀胱から尿道までのどこかに先天的な閉鎖があることで、児が尿を体の外に出せないために、羊水過少になります。
- 羊水過少のため、胎児の肺の発育が阻害され、肺低形成といって出生後に重篤な呼吸障害をきたすことがあります。また、腎臓が機能を失ってしまう(腎不全)場合もあります。肺低形成も腎不全も重度の場合は出産しても救命できないこともあります。
- 生後に集学的な治療が必要なことから、対応可能な施設で出産することが望ましいと考えられます。
胎児腎無形成・異形成腎・多嚢胞腎
- 腎無形成(先天的に腎臓がない)や異形成腎、多嚢胞腎によって尿が産生されない場合も羊水過少となります。
- 尿路閉鎖や腎臓の病気によって、妊娠中期に羊水過少となった場合にPotter顔貌、四肢の変形、肺低形成など、一連の症状をきたすことを、Potter sequenceといいます。
胎児機能不全
- 胎児機能不全は、胎児が胎盤から十分な栄養や酸素を貰えなくなっていると考えられる状態です。この場合も赤ちゃんの尿の産生が減るため、羊水過少となることがあります。
- 胎児発育不全に伴うことが多くあります。
破水
- 卵膜が破れて、中にある羊水が子宮の出口から漏れ出している状態です。また、陣痛が来る前に破水することを前期破水と言います。
- 細菌感染や臍帯圧迫のリスクが高くなります。
- 正期産期の破水はあまり問題になりませんが、早産期(妊娠37週未満)に破水した場合、早産の原因となります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下の書籍やウェブサイトを参照してください。
- 産婦人科診療ガイドライン産科編2020
- 日本胎児治療グループ
- https://fetusjapan.jp