ホルモン補充療法(HRT):どんな治療法? どのような症状に効果があるの? 副作用はあるの?
更新日:2020/11/11
- 産婦人科専門医の若槻 明彦と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると更年期障害についてのお悩みがあり、お医者さんから「ホルモン補充療法(よく「HRT」と略していわれます)を試してみては」などといわれ不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- ホルモン補充療法(HRT)は、低下したエストロゲンを上昇させるために行われます。
- ホルモン補充療法(HRT)は、卵巣機能が低下し始めるころから閉経後に行われるため、50歳前後から開始されることが多いです。
- ホルモン補充療法(HRT)は、閉経前後の女性の多くが経験する更年期障害の症状を改善します。
- ホルモン補充療法(HRT)は、更年期障害の症状を改善するほかにもメリットがあるとされています。
ホルモン補充療法(HRT)は何歳頃から開始するの?
- ホルモン補充療法(HRT)は、低下した「エストロゲン」を上昇させるために行われます。
- 「エストロゲン」は一般に女性ホルモンと呼ばれ、卵巣から分泌して女性らしいからだをつくり、そのはたらきを調節するために役立っています。
- HRTは、卵巣機能が低下し始めるころから閉経後に行われるため、50歳前後から開始されることが多いです。
- 年齢が高くなってからHRTを開始すると、心血管の病気になるリスク(危険性)を大きくする可能性があるので、閉経後10年以内か60歳までに開始することが望ましいとされています。
ホルモン補充療法(HRT)はどのように行われるの?
- HRTは、病気などで子宮を取り除いてしまった女性にはエストロゲンだけを投与すればよいのですが、子宮を有する女性へエストロゲンのみを投与すると「子宮内膜過形成」や「子宮内膜癌」などの病気を発生することが多くなります。
- 子宮を有する女性にHRTを行うときは、別の女性ホルモンである「黄体ホルモン」をあわせて投与します。
- エストロゲンと黄体ホルモンをあわせて投与する場合、連続して投与する方法とあいだに休みを挟んで周期的に投与する方法があります。
- エストロゲン製剤には経口(口から飲む)と経皮製剤(貼布・ゲル剤)があり、エストロゲンと黄体ホルモンを含有した経皮製剤もあります。
ホルモン補充療法(HRT)はどういう症状に効果があるの?
- 閉経前後の女性の多くは更年期障害を経験しますが、HRTは次に示すような多くの症状を改善します。
HRTが効果を示す更年期障害の症状
- ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、寝汗)
- 性機能障害
- 不眠
- 腟の乾燥感
- 記憶力低下
- 頻尿
- イライラしやすい、気分が落ち込む、意欲が低下するなどの精神的な症状
- 関節痛
- 四肢痛
ホルモン補充療法(HRT)は更年期障害以外にどんなメリットがあるの?
- HRTには、更年期障害の症状を改善するほかに、次のようなメリットがあります。
- 動脈硬化【どうみゃくこうか】を促進してそれによる病気にかかりやすくするLDLコレステロール(いわゆる「悪玉コレステロール」)を低下させ、動脈硬化を抑えるはたらきをするHDLコレステロール(いわゆる「善玉コレステロール」)を上昇させます。
- インスリンが正常にはたらかなくなる状態を改善して、新たに糖尿病が発症するのを抑制します。
- 血管の内側の膜である内皮の機能を改善させて、血管の健康を維持するのに役立ちます。
- 骨量を増加させ,骨折を予防します。
- そのほか、大腸癌のリスクを低下させ、胃癌や食道癌のリスクも低下させる可能性が報告されています。
ホルモン補充療法(HRT)にはどんなデメリットがあるの?
- 軽い副作用として、月経時以外の性器からの出血(不正性器出血)や乳房の痛み、片頭痛【へんずつう】が悪化する可能性などがあります。
- 乳癌や卵巣癌のリスクが大きくなるとの報告がありますが、その可能性は小さなものです。
- 乳癌に関しては、黄体ホルモンの種類やHRTを実施する期間に関連しているといわれています。
- すでに冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患を有する女性への投与は再発のリスクを大きくする可能性があります。
- 経口エストロゲンでは静脈血栓塞栓症のリスクが高まりますが、経皮エストロゲンではそのリスクはありません。
ホルモン補充療法(HRT)の禁忌・慎重投与症例は?
- 日本産科婦人科学会が作成した『HRTガイドライン2017年度版』には、HRTを投与してはいけない症例(禁忌【きんき】症例)、ほかの患者さんより危険性が高いため投与にあたって注意が必要な症例(慎重投与症例)が示されています。
コラム:HRTの禁忌症例
- 重度の活動性肝疾患
- 現在の乳癌とその既往
- 現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜間質肉腫
- 原因不明の不正性器出血
- 妊娠が疑われる場合
- 急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
- 心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
- 脳卒中の既往
コラム:HRTの慎重投与症例
- 子宮内膜癌の既往
- 卵巣癌の既往
- 肥満
- 60歳以上または閉経後10年以上の新規投与
- 血栓症のリスクを有する場合
- 冠攣縮および微小血管狭心症の既往
- 慢性肝疾患
- 胆嚢炎および胆石症の既往
- 重度の高トリグリセリド血症
- コントロール不良な糖尿病
- コントロール不良な高血圧
- 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往
- 片頭痛
- てんかん
- 急性ポルフィリン症
- 全身性エリテマトーデス(SLE)