帝王切開術: 対象となる人は? どんな手術? リスクはあるの?
更新日:2020/11/11
- 産婦人科専門医の松原 茂樹と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分は帝王切開術を受けなければならない?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
まとめ
- 帝王切開術は、赤ちゃんが下から生まれない場合と、急いで出す(出産させる)必要がある場合に行われます。
- 当初から帝王切開をすると決めていた予定帝王切開と、下から産むつもりだったが急に帝王切開をすることになった緊急帝王切開があります。
- 子宮の下のほうを横に切り、赤ちゃんと胎盤【たいばん】を取り出し、切った場所を縫って元どおりにする手術です。
- おなかを切って開けるので、多少の悪影響が起こることがありますが、後遺症などが出る方はほとんどおられません。
- 次の妊娠の際、再び帝王切開をすることになったり、前置胎盤【ぜんちたいばん】や癒着胎盤【ゆちゃくたいばん】になることが多くなります。
帝王切開術は、どんなときに行われるの?
- 赤ちゃんが下(産道)から生まれない場合と、急いで出す(出産させる)必要がある場合に行われます。
産道から生まれない場合
- 前置胎盤:胎盤が子宮の出口を塞いでしまって、赤ちゃんが産道から出ることができない場合。
- 児頭骨盤不均衡:お母さんの骨盤が小さい場合(狭骨盤【きょうこつばん】といいます)や、赤ちゃんの頭が大きすぎて骨盤を通らないと判断できる場合。
- 分娩停止:分娩【ぶんべん】がある程度まで進んできたのに、それ以上は進まなくなった状態(通常の出産を試みたが、産道から生まれない状態)。
- 骨盤位【こつばんい】(一般にいう逆子【さかご】)や前回の出産で帝王切開をした場合:絶対に産道を通って生まれないわけではありませんが、不具合が生じることがあります。
- 骨盤位ではからだが先に出て頭がひっかかってしまうことがあります。また、前回帝王切開で出産した場合は、帝王切開の傷が今回の分娩中に開いてしまって子宮破裂を起こす可能性があります。
- このような場合、予定帝王切開がよいか、産道を通した出産にトライするか、医師とよくご相談ください。
急いで出す必要がある場合
- 赤ちゃんが病的な状態(胎児機能不全といいます)になるなど、このまま産道を通した出産を続けていると、赤ちゃんの具合が悪くなる場合。
- 産道を通した出産を試みていると、お母さんのからだに負担がかかると予想される場合。以下のようなケースがあります。
お母さんに負担がかかることが予想される分娩
- 胎盤が異常な位置にあったり、早期に剥がれてしまうなどによって、大量に出血している場合
- お母さんに病気があり、長時間の分娩に堪えられない場合
そのほかの場合
- 双胎妊娠(ふたご):赤ちゃんが2人とも頭が先にきている(頭位【とうい】といいます)場合には、産道を通した出産も可能ですが、安全を見込んで帝王切開にすることもあります。
- 赤ちゃんに病気があり、生まれてすぐに治療(手術など)の必要がある場合など。関連する医師・スタッフ全員が待ち受けた状態で生まれたほうが、次の処置が進めやすくなります。
帝王切開術はどんなふうに行われるの?
- 帝王切開術は、まず子宮の下の部分を7〜8センチほど横に切って、赤ちゃんを出します。次に胎盤を出し、切った部分をきれいに縫って元どおりにします。
- 妊娠の状態によっては、子宮の下の部分を横に切ることができない場合もあります。その場の判断で最も適切な場所を切りますが、次の妊娠のときに子宮が破裂する可能性が高くなります。
- 今回の出産と次回の出産で病院を変わる場合もありますので、「どこを切ったか?」「通常の切開位置だったか?」を聞いておくといいでしょう。
コラム:帝王切開の切開位置
- 子宮の切開は、子宮の下のほう(子宮下節)を横に切ります。
- 以前は、子宮の上のほう(子宮体部)を縦に切っていました(古典的帝王切開)。
- その後、子宮の下のほうが上のほうよりも“薄く”、切りやすくて、傷の“つき”も良いとわかり、現在は子宮の下を横に切ります。
- 胎盤が下の方にある(前置胎盤、低置胎盤など)、子宮筋腫がじゃまをしている、赤ちゃんが小さすぎてその場所を切ったのでは赤ちゃんが出にくいなど、子宮の下を横に切れない場合もあります。
- 胎盤が下の方にある場合などでは、子宮の下のほうを切ると大出血してしまいます。
- このような場合には、決まった場所ではない子宮のほかの場所、その場の判断で、最も適切な場所を切ります。
- ほかの場所を切った場合には子宮の下のほうを切った場合に比べて、次の妊娠での子宮破裂の可能性が高くなります
手術後の痛みは? どれくらい入院するの?
- 手術後の痛みは、おなかを切るのでまったくないというわけにはいきません。
- ただ、次の理由から積極的に痛みをとる処置を行いますので、痛みのご心配はほぼ解消されています。
痛みをとる積極的な理由
- 血管を詰まらせて病気を引き起こす血栓の予防(いわゆるエコノミークラス症候群の予防)のために、手術当日または翌日には一番の予防である歩くことを始めていただくようにします。
- できるだけ早くからお母さんと赤ちゃんが接触することが良い影響をもたらすので、赤ちゃんへの授乳は産道を通して産んだ人とほぼ同じ時期に同じ程度していただきます。
- これらをしていただくためには痛みをとることが不可欠ですので、多くの病院で患者さんの痛みをできるかぎり軽くするいろいろな方策をとっています。
痛みをとる処置の例
- 当日は、背中からの麻酔(硬膜外麻酔)を効かせておきます。
- 静脈から痛みを取るのに十分なだけの痛み止めを投与します。このお薬はくせにならない薬物を使用します。
入院に関して
- 入院期間は、産道を通した出産とくらべて、1〜2日ほど長くなるだけです。
- 不安が強い方の場合には、無理に帰宅させることはありません。ご要望に応じて、入院管理させていただくこともあります。
- シャワー、トイレ、赤ちゃんのケアなどのタイミングは、産道を通して産んだ方とほとんど変わりません。
- 食事を開始する時期だけは通常の出産の場合と異なり、「お祝膳を当日」というわけにはいきません。おなかを切って開けているので、手術当日はお食事を控えていただき、手術の翌日ぐらいから軽い食事を開始していただきます。
何か悪い影響はあるの?
- 帝王切開は広く行われている安全な手術ですが、おなかを切って開ける手術ですので、多少の悪い影響(有害事象【ゆうがいじしょう】といいます。合併症、副作用など)はあります。
大出血を起こし輸血が必要となる
- 大出血は、帝王切開を必要とした異常(前置胎盤や胎盤早期剥離など)そのものが原因になります。
出血が止まらない(止まりにくい)
- 子宮が収縮しないために出血が止まらない場合は、溶ける糸で子宮を前後に縫い縮めて止めたり、子宮内へ風船(バルーン)を入れるなどして止めます。
- どうしても出血が止まらない場合、最終手段として、太ももの動脈からカテーテルという医療用の管を入れて子宮に血を送る動脈を閉じてしまう方法や、子宮を切って取り出す方法を選択することもあります(子宮摘出術)。
- カテーテルや子宮摘出術は滅多に行わないため、ここまではお話をしない場合もありますが、稀とは言え、そのような事態はありえます。ただし、帝王切開ではない、「下からのお産」であっても、ここに述べた事態はあり得ます。過度のご心配は無用ですが、不安な点がありましたら担当の医師にお尋ねください。
膀胱や腸など子宮の周囲の組織に傷が生じる
- 子宮の前には膀胱、後ろには腸があります。これら周囲の組織に傷が生じたときはきちんと縫い合わせて対処します。
- 腸の動きが悪くなる、腸が詰まった軽い腸閉塞のような症状を示すこともありますが、通常は様子をみるだけで治ります。
足の静脈に血のかたまり(血栓)ができやすくなる
- 下からのお産に比べるとじっと寝ている時間が長いので、足に血の塊(血栓といいます)ができやすく、血栓性静脈炎(深部静脈血栓)がおこりやすいです。
- 稀ですが、足にできた血栓が肺に飛んで肺塞栓を起こすことがあります。先にもお話をしたエコノミークラス症候群です。
- それぞれの病院で手慣れた方策がありますから、担当の医師にご確認ください。
将来、何か影響があるの?
- 今、お腹にいる赤ちゃんを助けるのが帝王切開ですから、将来に及ぼすかもしれない影響を細かく知ってもあまり意味がないかもしれません。ですが、知識としてごく簡単に述べます。
悪い影響
- 次の妊娠の際も帝王切開になる確率が高くなります。
- 次は産道を通して出産したいと希望される方もいますが、その場合、子宮破裂の確率が帝王切開をしたことのない人よりも高くなります。
- 次の出産の際、帝王切開をするか、産道を通した出産を試みるかで悩まれる場合は、医師とよくご相談ください。
- 前置胎盤や胎盤が子宮にくっついてはがれにくくなる癒着胎盤の可能性が高くなります。癒着胎盤は大出血を起こすことが多く、産婦人科医の間でも課題となっています。
好ましい影響
- ささいなことかもしれませんが、陣痛が始まる前に帝王切開(予定帝王切開)をした人では、将来の尿失禁、便失禁が少ないと報告されています。
- もちろん、そのために、しなくてもいい帝王切開をわざわざ選択することは、まず考えにくいことです。
さいごに
- 帝王切開は、生涯に1回かせいぜい数回の出来事ですので、お一人お一人不安があるかと思います。
- ここにお示ししたご説明を読んでいただき、ご不安な点や疑問点はなんでも担当の産婦人科医におたずねください。
- 産婦人科医はお母さんと赤ちゃんの健康に命をかけていますから、何でも教えてくれるはずです!