妊娠中絶と流産手術(中期中絶も含む):対象となる人は? どんな手術・処置? リスクはあるの?
更新日:2020/11/11
- 産婦人科専門医の松原 茂樹と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「妊娠したけれど中絶しなければいけない?」「流産手術を受けることになるかもしれない?」などと思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
まとめ
- 妊娠するとお母さんの子宮の中に胎盤【たいばん】とよばれる、赤ちゃんとお母さんをつなぐ器官が作られます。
- 赤ちゃんは胎盤を通して栄養や酸素を受け取り、臓器などが十分にできあがっていない胎芽【たいが】から胎児【たいじ】へと育ち、外の世界で生きていけるようになって生まれてきます。
- 妊娠中絶や流産手術は、子宮の中の胎児(胎芽)や胎盤(これらを妊娠産物といいます)をからだの外へ取り出し、子宮をもとどおりにする手術や処置です。
- 妊娠中絶・流産手術には3つの種類があり、基本的には安全な手術・処置ですが、患者さんの不安は強いことが多いです。
- 子宮内容除去術:一般にいう「人工妊娠中絶」のことです。
- 分娩様式の妊娠中絶:お薬を使って人工的に陣痛を起こし、お産と同じような状態にして流産させます。
- 胎盤への薬物の注入:やや特殊な場合で、薬物を注入して胎盤の細胞を殺し、妊娠産物が自然に排出されるのを待つ方法です。
どんなときにこの手術・処置を受けるの?
- 妊娠中絶と流産手術を受けることが必要となる場合を下記にまとめました。
妊娠中絶・流産手術の対象になる方
- 流産が起こっているのに、子宮の中にまだ妊娠産物の一部が残っている場合(これを不全流産といいます)。
- 胎児(胎芽)が子宮内で死んでしまっているにもかかわらず、症状がない場合(これを稽留【けいりゅう】流産といいます)。
- お母さんが病気をもっているなど、妊娠を続けることでお母さんのからだに害がある場合。
- お母さんご本人やそのパートナー、ご家族が妊娠を希望しない場合(法律の適応を広くとらえています)。
- 子宮の中の赤ちゃんに命にかかわる病気があり、妊娠22週より前の場合。
- この手術・処置の対象となる特殊な場合もあります。
コラム:妊娠中絶・流産手術が対象となる特別な場合
- 胞状奇胎【ほうじょうきたい】:胎盤の細胞がぶどうの房のように異常に増殖する病気で、「ぶどう子」などと呼ばれたこともありました。
- 帝王切開瘢痕【はんこん】部妊娠:以前に帝王切開で出産をした患者さんで、子宮の切開部に妊娠した場合です。
どんなことをするの?
子宮内容除去術
- 妊娠12週(または11週)より前の、妊娠の初めの時期の手術・処置で、子宮の中の胎児と胎盤をからだの外へかき出す手術です。
- おおよそ10分ぐらいの手術です。
コラム:子宮内容除去術の手順
- 子宮がどちらを向いているか、またからだの中でどんな位置にあるか、超音波装置で確認する。
- 麻酔をかける(静脈麻酔が多い)。
- 子宮の出口(この部分を頸管といいます)を特別な器具でゆっくり広げる。
- 子宮の中に特別な器具を入れて妊娠産物をかき出す。
- 特殊な「吸引器」を使って、子宮内容物を「吸い取る」こともある。
- 術後の出血を少なくするために、厚くなっている子宮の内側の壁(これを子宮内膜といいます)をかき出す。
分娩様式の妊娠中絶
- おおよそ妊娠12週以降の場合に行われるものです。ふつうに出産する場合と同じ方法で、中絶を行います。
コラム:分娩様式の妊娠中絶の手順
- 子宮の出口(頸管)に「ラミナリア」と呼ばれる細い棒のようなものを入れる。
- ラミナリアが水分を含んでゆっくりと膨張し、1〜2晩かけてじわじわと頸管をひろげる。
- 頸管が十分に広がったら、腟内に子宮の収縮を起こさせるお薬(腟座薬)を入れる。腟座薬は3時間ごとに追加挿入できるが、子宮が収縮する強さや分娩の進行状況をみながら、医師が判断する。
- 子宮の収縮が起こって分娩が始まり、子宮内容物が外へ排出される。
胎盤への薬物の注入
- 帝王切開瘢痕部妊娠という、まれな場合などに行います。子宮内容除去術では出血が止まらなくなってしまうため、この方法をとります。
- このような妊娠ではいずれ子宮破裂が起こりますので妊娠中絶が必要で、胎盤(と胎児)に薬物を注入して、妊娠産物が自然に外へ出てくるのを待ちます。
ほかにはどんな治療法があるの?
待機療法
- 胎芽(胎児)が死んでしまっているが、症状がない稽留流産などで行われる、なんの処置もしないで、自然に出てくるのを待つ方法です。
- 胎芽(胎児)が死んでしまっているので、胎盤などはいずれ腐って自然に出てくるのです。
- 良い点:順調に進めば、なんの処置をしなくても子宮内容物が自然に吸収され、あるいは少量の出血とともに自然に出てきて、何事もなかったように次回の月経が起こります。
- 悪い点:待っている間に、出血や感染が起こってしまい、結局は子宮内容除去術が必要になることもあります。
- うまくいくか、いかないか保証はありませんが、どちらになるかある程度は見分ける方法がありますので、担当の医師に相談してください。
どんな悪い影響(有害事象)があるの?
- 子宮内容除去術を受けた人は、次の妊娠の際に「癒着胎盤」や「前置胎盤」といったお産に関係した病気がやや増える可能性があります。
- それでも、現在必要とされている処置を優先することが大事です。
- そのほか、次のような悪い影響が起こることがあります。
妊娠中絶による有害事象
- 出血
- 感染による子宮内膜の炎症
- 子宮動脈仮性動脈瘤:比較的まれで、子宮の動脈の壁に傷がついた状態になり、2〜4週間後に大出血が起こる
- 子宮穿孔:さらにまれで、子宮に穴があいた状態になる
- 出血については、手術・術後の安全性を重視して大目にみようと考える医師が増えてきています。出血が続いた場合は、異常かどうか担当の医師に相談してください。
- 子宮動脈仮性動脈瘤は手術の失敗ではなく、原因不明のものです。このような場合にはすぐに受診してください。
- 子宮穿孔の多くは、穴が自然に塞がって実害はないことが多いのですが、穴が大きく出血するような場合は、おなかを開けて穴を塞ぐ必要があります。
さいごに
- これで説明を終わりますが、暗記できる内容ではありませんし、暗記すべき事柄でもありません。
- 基本をおおまかに押さえたうえで、心配な点は、医師にご相談ください。漠然とした不安よりも、「ここはどうなんでしょうか?」といった具体的なご質問でしたら、医師は答えやすいでしょう。