唾液腺の腫れ:どんな症状?原因やリスクは?自分で対処する方法は?どんなときに医療機関を受診すればいいの?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の鈴木貴博と申します。
- とつぜん唾液腺が腫れたり、痛みが何日も続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、唾液腺の腫れの一般的な原因や、ご自身での初期の対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 唾液腺が腫れる原因は、大きく分けると炎症、腫瘍、のう胞などが挙げられます。そして、それらはさらに様々な病気に分類されます。
- 詳しい診断をつけるために、診療所や病院では問診(お話をすること)から始まり、さらに血液検査や画像検査(レントゲン、超音波エコー、CT、MRI)などをすすめていきます。
- 病気の種類によって治療方法が大きく異なってきます。炎症であればお薬による治療や、時には手術による治療が必要になることもありますし、腫瘍であれば手術による治療が主体になります。
唾液腺ってそもそもどこにあるの? どんな症状?
- 唾液腺は、唾液(だえき:つば)を産生し分泌する組織です。唾液腺で作られた唾液は、唾液腺管という管の中を通って口の中に流れ出てきます。
- 唾液腺は体内に複数存在していて、大唾液腺と小唾液腺に分けられ、さらに大唾液腺は耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)、舌下腺(ぜっかせん)の3種類に分けられます。耳下腺は耳の下、顎下腺はあごの下、舌下腺は舌の下にある唾液腺です(図表1)。小唾液腺は口の中に多数分布しています。
- 唾液腺に起こる病気は、多くが耳下腺と顎下腺に発生しますので、本稿ではこの2つに焦点を絞って話をすすめたいと思います。症状は唾液腺の腫れの原因となる病気により様々です。
図表1 耳下腺、顎下腺の部位
主な原因とその説明
- 唾液腺が腫れる病気は多数ありますが、大きく分けると炎症、腫瘍、のう胞によるものが代表的です。そして、それらはさらに様々な病気に分類されます。
炎症
- 炎症は、細菌やウィルスなど外敵となる病原微生物や異物が体に侵入してきた時の体の防衛反応のことを示します。腫れ以外にも発熱や痛みを伴うことが多いです。
- その他にも自己免疫疾患という病気もあって、これは本来なら病原体などと戦って外敵から自分の身を守るべき免疫反応に異常が生じてしまい、自分の体の組織を異物と誤認して攻撃し、炎症が起こってしまうものです。自己免疫疾患は、ひとつの病気を示しているわけではなく、いくつもの病気の集団を示す呼び名です。
- 炎症を起こす代表的な病気をいくつか挙げます。
炎症を起こす代表的な病気
- おたふくかぜ:ムンプスウイルスにより耳下線や顎下腺に炎症が起こり、痛みや腫れなどの症状が出ます。学校や幼稚園で流行性に発症し、3歳~10歳頃のお子さんに多い病気です。腫れは1週間から10日程度でおさまります。
- 急性化膿性耳下腺炎、急性化膿性顎下腺炎:細菌を含んだ唾液が口の中から唾液腺管を通って唾液腺へと逆流し、唾液腺に炎症を起こす病気です。耳下腺や顎下腺が腫れて、痛みます。
- 反復性耳下腺炎:耳下腺の腫れや痛みを数週~数年おきに繰り返す病気です。1歳~小学生くらいの子供さんにみられることが多いです。
- 唾石症:唾液が流れる通り道に石ができる病気です。石が邪魔になって唾液の流出が妨げられるため、食事中に唾液腺が腫れたり、痛みが出ます。唾石は顎下腺に発生することがほとんどで、まれに耳下腺にもできます。
- シェーグレン症候群:自己免疫疾患の一つで、唾液腺や涙腺(涙を分泌する組織)に炎症が起き、徐々に壊れていくことで唾液や涙を分泌する量が減り、口や目の渇きの症状が出ます。
- IgG4関連疾患:全身のいろいろな臓器(膵臓、唾液腺、涙腺、腎臓など)が腫れたり、硬くなったりする原因不明の病気です。
腫瘍
- 腫瘍は炎症とは異なる病気です。腫瘍は、その人が本来もっている細胞・組織が異常に変化してしまい、それが勝手に増え続けて大きくなっていく病気です。
- 腫瘍には良性と悪性があります。
腫瘍の種類
- 唾液腺良性腫瘍(耳下腺良性腫瘍、顎下腺良性腫瘍):耳の下やあごの下の「しこり」として気づくことが多いです。痛みを伴うことは少なく、数か月~数年かけて緩やかに大きくなってきます。長年放っておくと癌に変化してしまうものも中にはありますので、手術で取り除く必要があります。
- 唾液腺悪性腫瘍(耳下腺悪性腫瘍、顎下腺悪性腫瘍):唾液腺に発生する悪性腫瘍は、唾液腺癌や悪性リンパ腫という病気が多くを占めます。良性腫瘍と同様に「しこり」として気づくことが多いですが、「痛み」や「顔の動きが悪い」、「首のリンパ節も腫れている」などの症状を伴う場合は悪性腫瘍の可能性があります。一般的に唾液腺癌に対しては手術で取り除きます。
のう胞
- のう胞は、内部に体液や体の老廃物をためた袋状の病変を示します。
唾液腺の腫れに対して、よくなるために自分でできることは? 冷やせばよいの?
- 体を休め、よく眠る
- 体を温かくする
- 水分をこまめにとる
- 痛みや熱でつらいときは、ドラッグストアで売っているアセトアミノフェン(カロナール)などを使用する
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 唾液腺が腫れる原因は様々で、病院で詳しく調べる必要があります。症状が長引いたり、繰り返す場合は、耳鼻咽喉科のある病院にご相談ください。
お医者さんでおこなわれること【診察の流れ】
- まず問診で症状について詳しくお聞きします。
- 唾液の分泌量を調べる検査や血液検査、画像検査(頭や首のレントゲン、超音波、CT、MRI)、細胞診(腫れている部分の細胞を針で取ってきて顕微鏡で調べる)などを行い、原因となる病気を調べていきます。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- おたふくかぜに関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 国立感染症研究所感染症情報ホームページ
- https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html
- シェーグレン症候群については下記のページを見るとよいでしょう。
- 難病情報センター シェーグレン症候群(指定難病53)
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/111
- IgG4関連疾患については下記のページを見るとよいでしょう。
- 難病情報センター IgG4関連疾患(指定難病300)
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/4504
もっと知りたい! 唾液腺腫脹のこと
どんな病気のことが考えられる?(医療従事者向けの詳細情報)
- コメディカルで初期対応のために勉強してもらうためのコンテンツとして考えています。
- 前述した唾液腺の腫れを起こす原因疾患の一般的な治療・対応について簡単に記載いたしました。参考にして頂ければ幸いです。
流行性耳下腺炎
- ムンプスウィルスによる感染症で、耳下腺の腫れ以外にも頭痛、腹痛、睾丸の腫れ、難聴などさまざまな症状を伴う場合があります。
- 治療は解熱鎮痛剤などの対症療法が中心で、発症した後にウィルスを抑制する治療薬はありません。そのため、予防策としてワクチン接種が推奨されています。
急性化膿性耳下腺炎、急性化膿性顎下腺炎
- 口腔内から唾液腺管を経由して逆行性に細菌感染が起こることによって生じる唾液腺炎です。口腔内にある唾液の排出口から膿汁がみられることがあります。
- 抗菌薬による治療が有効です。口腔内衛生が再発予防に重要です。
反復性耳下腺炎
- 耳下腺の腫脹、疼痛を数週~数年おきに繰り返す疾患です。口腔内の細菌が逆行性に耳下腺に感染すると考えられています。なぜ反復するのか、その原因ははっきりとはわかっておりません。多くの患者さんは小児期に発症し、通常は思春期までに自然治癒します。
- 症状出現時には抗菌薬や消炎剤を投与します。口腔内を清潔に保つことも大事です。
唾石症
- 唾石が妨げとなり唾液のうっ滞が起こります。ときには急性化膿性顎下腺炎や急性化膿性耳下腺炎をも引き起こします。
- 治療としては、急性期には抗菌薬や消炎剤で炎症をおさえ、その後で根本的治療を行います。根本的治療としては唾石のみを口腔内外から摘出するか、もしくは唾石とともに唾液腺も一緒に摘出します。
シェーグレン症候群
- 慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とする自己免疫疾患です。
- 血液検査、涙腺・唾液腺機能の検査、小唾液腺生検により診断を得ます。他の自己免疫疾患(例えば慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど)を合併していることがありますので、シェーグレン症候群と診断された後は、全身の評価が必要になります。
- 口腔乾燥・眼乾燥症状に対しては、唾液分泌促進薬の服用や、人工唾液の噴霧、人工涙液の点眼など対症療法が主体となります。
IgG4関連疾患
- 血清IgG4値の上昇およびIgG4陽性形質細胞浸潤による全身臓器の肥厚変化、腫瘤形成を特徴とする疾患です。
- 頭頸部領域では、涙腺、耳下腺、顎下腺の両側対称性,持続性腫脹を認めます。これら3種類の腺組織すべてが腫脹することもありますし、2種類のみ、もしくは顎下腺のみのこともあります。涙腺・唾液腺以外では膵臓や胆管、肺、腎臓など複数臓器に病変が及ぶことがあります。
- ステロイド治療が有効です。
唾液腺良性腫瘍
- 唾液腺良性腫瘍は耳下腺に最も多く発生し、顎下腺がこれに次ぎます。
- MRI、超音波エコー、CTなどの画像検査は有用で、また穿刺吸引細胞診は良性か悪性かの判別に役立ちます。
- 先にも述べた通り悪性化の潜在力を持つ病理組織型も存在しますので、治療は、一部の例外を除いて原則的に外科的摘出です。
唾液腺悪性腫瘍
- 耳下腺にも顎下腺にも発生し得ます。痛みを伴う場合や顔面神経の麻痺を伴う場合、頸部のリンパ節も同時に腫れている場合などは悪性腫瘍を疑います。
- 悪性リンパ腫に対しては抗がん剤や放射線治療が主体になります。耳下腺癌に対しては手術が中心であり、補助的に放射線治療を行うこともあります。
唾液腺のう胞性疾患
- 大唾液腺に発生する頻度は多くありません。下口唇の小唾液腺で水ぶくれのように発生するものがしばしば見られます。
- 少し専門的になりますが、のう胞の種類としてはリンパ上皮のう胞、唾液腺導管のう胞、類皮のう胞などが挙げられます。良性腫瘍・悪性腫瘍がのう胞のように変化して見える場合もあります。
- 治療は疾患の種類により異なります。外科的摘出を行うか、あるいは経過観察を選択する場合もあります。