人工内耳:どんな治療?合併症は?術後の再発は?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の神崎 晶と申します。
- このページをご覧になられている方は、補聴器を装用してもなかなかききとりがよくならないような難聴についてのお悩みがあり、将来に人工内耳について考えておられるかもしれません。
- たとえ聴覚機能が落ちても、ご家族ご友人らとのコミュニケーションをもった有意義な人生を長く送ることができるような治療方法を選択するために役に立つ情報をまとめました。私が日々の診察の中で、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 人工内耳とは、ひどい難聴で、補聴器を使っても言葉のききとりが悪く、補聴器の効果が十分に出ない方に対して行われる治療です。
- 人工内耳の適応はますます拡大しています。人工内耳は、残された聴覚の神経の機能を使った治療になるので、適応のある方は早めに人工内耳植込み術を行うことをお勧めします。
- 一方で、機器を体内に植え込むことになるため、出血、痛み、感染や合併症のリスクがあります。手術を受ける際には、これらのリスクについて十分に理解しておくことも大切です。
どんな治療?
- 人工内耳とは、聴く力が落ちた方に対して、機器を耳に植え込むことで、聴く力を再び得る治療です。
- 通常私たちの体では、内耳という聴こえのセンサーで、音を電流に変えて脳に電流を送り、聞こえていることを感じています。手術を受けていただきたい方は、音を内耳で電流に変えることができない方で、つまり内耳が障害されている難聴者(耳が聞こえにくい方)です。
この治療の目的や効果は?
- 人工内耳の効果は、以下のものがあります。
人工内耳の効果
- 筆談しなくても会話ができるようになる:特に1対1で会話がしやすくなります。
- 認知症になりにくくなる:音が耳に入ってくることで、脳への刺激になります。
- うつなどの予防:会話ができない方ほどうつになると言われています。
- 耳鳴りが軽くなる:手術を受けた患者さんのうち80%くらいの方が、耳鳴りが軽くなると言われています。
- 聴く力が上がることで、自分の安全を守れるようになる:地震災害などの警報を逃さないようにしたい、とおっしゃった方もいらっしゃいます。
コラム:人工内耳ってどんなもの?
- 人工内耳は、電気信号を受信して脳へ送る「手術で耳の奥に埋め込む部分」と、音をマイクで拾って耳の中へ送る「体の外の部分」からなります。体の外の部分は、耳掛け式補聴器に似ています。
- マイクで集めた音は、スピーチプロセッサーという音を処理する部分で、電気信号に変えられます。その信号が耳介の後ろに埋め込んだ受信装置へ送られます。受信装置に伝わった信号は、蝸牛の中に埋め込んだ電極から、聴神経に伝わって脳へ送られ、音として認識されます
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 人工内耳は、以下のような方が治療を受けてください。詳しくは、小児(2014年)、成人(2017年)にそれぞれ改定された人工内耳適応基準がホームページに出ています(URLは最後尾に記載しています)。
子どもの人工内耳の対象
- 言葉を覚える前、覚える時期の聴覚障害児
- 原則1歳以上(体重8kg 以上)
- 上の条件を満たした上で、遺伝子検査の結果、内耳の形の異常などを考え、適切な手術の時期を決定します。
- 言葉を覚えた後では、補聴器の効果が十分でないひどい難聴であることが確認された後、覚えた言葉を忘れないために早めに人工内耳の治療をするか考えることが望ましいとされています。
大人の人工内耳の対象
- ①聴力検査で平均聴力レベルが90dB 以上の重い感音難聴(内耳や脳が原因の難聴)
- ②平均聴力レベルが70dB以上90dB未満で、かつ適切な補聴器を付けた上で、最高語音明瞭度(言葉の聞き取り度合い)が50%以下の重い感音難聴
- ①または②を満たしている方、つまり補聴器でも会話が難しい方は、人工内耳埋め込み術を行います。
- 上記以外の場合でも、患者さんの状況を考えて手術治療になることもあります。例えば、髄膜炎という脳の病気によって難聴になった場合には、内耳の蝸牛と言う部分に電極を入れるスペースがなくなってしまうため、すぐに手術を行う必要があります。他に、高い音のみ聴こえず低い音は聴こえる方も、人工内耳の手術を行うことが可能です。
コラム:適応の注意点
- 耳漏が多い中耳炎、後迷路疾患による、脳が原因の聴覚の障害を持っている場合、認知症や精神の病気を持っていることが疑われる場合、言葉を覚える前または言葉を覚えている時期の場合などでは慎重な判断が必要です。
コラム:ガイドラインは変わるの?
- 今後も人工内耳の医療技術などの進歩により、適応の基準の変更があり得ます。
- 海外の適応の基準も考え、3年後に適応基準を見直すことになります。
実際には、どんなことをするの?
- 実際には、以下の流れで人工内耳の手術を行っていきます。
人工内耳を行うかどうか決定する
- 聴覚の検査を行う:難聴の程度を調べるために行います。通常の聴力検査、言葉の聞き取りの検査を行います。さらにABRと呼ばれる脳波の検査で、聴覚の状態を確認します。補聴器を付けた上で検査を行い、補聴器の効果を確認します。
- CT、MRIを行う:内耳やその周り、聴神経、脳に異常がないかを確認します。
- 平衡機能検査を行う:手術後の平衡感覚についても影響がでるためです。
- もともとの病気、飲んでいる薬などの問題がないか確認する:手術は全身麻酔で行うので重要になります。
- お年寄りの方には、認知機能の検査を行う
- 血液検査、尿検査、胸のレントゲン、心電図などを行う
②人工内耳植込み手術を行う
- 耳の後ろの皮膚を切り、骨を削った後に、内耳にある聴こえのセンサー(蝸牛)の窓や、その近くの骨に穴をあけて、細かい電極本体を内耳の蝸牛に埋め込みます。全身麻酔で行われます。
他にどのような治療があるの?
- 人工内耳に代わる治療はありません。
治療を受けるにあたって
- 治療を受けるにあたって気を付けて頂きたいことは、以下の通りです。
気を付けること
- お風呂に注意する:体の外の装置が防水のものもありますが、保護する必要があるものもあります。
- MRIをとるときは、人工内耳のことを伝える:手術後MRIを行うことはできます。しかし、MRI検査は強い磁気が生じるので、人工内耳の周りの場所の情報がわからなくなってしまいます。脳にご病気がある方、あった方は事前に神経内科・脳外科でご確認ください。現在ではほとんどの場合、人工内耳に包帯を巻いてカバーする事で検査できます。
- 手術や治療に使う、電気メス、神経刺激器などのも制限される
- 頭を打つ、頭のケガなどで、埋め込んだ電極が故障する場合がある
- 外の装置を落とすと、故障の原因になる
理解しておきたいリスクと合併症
- 人工内耳のリスクは、以下の通りです。
人工内耳のリスク
- 出血
- 痛み
- めまい
- 手術した側の味覚の低下(回復する場合も多いです)
- 顔面神経麻痺
- 髄膜炎
コラム:内耳の奇形がある場合、気を付けることは?
- 内耳にスペースがあることを確認してから手術を行いますので、人工内耳の植込みはできますが、入れてもどの程度聴神経に刺激がとどくかわからない場合もあります。
治療後について
- 手術後2-3週後に、体外装置を付けます。落ち着いてから、人工内耳を介して音がきこえるかテストします。電気刺激による音の大きさの調整を行います。その後、マッピングという人工内耳の音の調整を行います。言語聴覚士と聴覚のリハビリテーションを行いますので、手術後も定期的な受診が必要です。
- 人工内耳は、効果に個人差があり、また手術直後から完全に聞こえるわけではありません。人工内耳を通して初めて聴く音は、本来は機械で作られた音です。リハビリテーションで、多くの場合徐々に言葉が聞き取れるようになります。なおリハビリテーションには、本人の継続的な積極性と、家族の支援が必要です。
よくある質問
手術に伴う費用は?
- 多くの方は身体障害者手帳を持っており、自治体からの補助があります。さらに収入に応じた高額療養制度もあり、医療費の大半を補助で対応できると思いますが、詳しくは医療機関や役所でご相談ください。
どちらの耳に入れますか?
- 聴こえない期間、画像検査などをみながら判断します。補聴器を使っていない側に人工内耳を入れると、片側が補聴器、反対側に人工内耳を入れることになり、両耳を活かすことができます。
人工内耳を両側に入れる方はいますか?
- 両耳手術が必要な場合には、両側の手術をお勧めします。耳は本来両側ありますし、方向感もでます。両耳を同日に行うことができませんでしたが、最近では同日に行えるエリアもあります。