加齢と難聴:原因は?検査や治療は?病院受診のタイミングは?
更新日:2020/11/11
- 日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医の内田 育恵と申します。
- 耳が聞こえにくくなってくると、心配になりますよね。「何か悪い原因があるのかな?」とか「だんだん進むのかな?」などの不安を抱くこともあるかもしれません。
- そこでこのページでは、加齢による難聴の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「ぜひ知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 聴力は年齢とともに高い音から徐々に低下し、進行するとコミュニケーションが障害されます。
- 聴力を良好に保つためには強大な音にさらされる機会を減らしましょう。
- 補聴器は専門家に相談して正しく選び、会話を楽しんで脳の機能を維持しましょう。
難聴って、そもそもどんな症状? 加齢とどんな関係があるの?
- 難聴とは、音や言葉が聞き取りにくいことをいいます。
- その中でも、年齢とともに聞こえにくさを感じる難聴を老人性難聴、または加齢性難聴と言います。
- 加齢性難聴は、30歳頃から始まっていると言われています。聴力の低下は高音域から起こりますが、会話を構成する音の音域は聞こえているため、若いうちはほとんど症状を感じることはありません。
- 70歳代になると男性で5-6人に1人、女性で10人に1人程度の方が日常生活に不便を感じる程度の難聴になると言われています。
主な危険因子とその説明
- 難聴には、外耳・中耳が障害されることで起きる「伝音性難聴」と内耳および内耳より奥の脳に至る経路が障害されることで起きる「感音性難聴」があります。
- 加齢性難聴は、ほとんどが感音性難聴で両耳に症状が出ます。加齢に伴って生じる難聴のうち、年齢以外に特別な原因がないものを指します。加齢性難聴の場合、残念ながら難聴の改善は見込めません。
- 外耳・中耳・内耳・脳までのきこえの経路のうち、どの部分でも加齢の影響を受けますが、最も影響を受けやすいのが内耳です。加齢により内耳の中にある音を感じる感覚細胞が減ることで聴力が低下します。
- 脳の機能が低下すると早口の会話が処理しきれない、騒々しい場所での会話が聞き取れないなどの症状がみられます。
- 加齢性難聴は、複数の遺伝的要因と環境要因が関わっているため、症状の個人差が大きいことが知られています。環境要因として最も関係があるとされているのが長時間の騒音に曝露されることです。
加齢による難聴に対して、よくなるために自分でできることは?
- 加齢現象により数が減った内耳の感覚細胞は、残念ながら再生することはありません。
- 音声を処理したり、言葉の意味を理解する役割をしている脳は、活用することで機能が改善することもあります。
今ある難聴に対してできること
- 耳鼻咽喉科で難聴の原因を正しく診断してもらう
- ご自身にあった補聴器について耳鼻咽喉科の先生と相談する
- 人とのコミュニケーションを維持し、脳の働きを活発にする
難聴を予防するためにできること
- 大きな音への接触を避ける
- 生活習慣病(糖尿病、腎不全、心疾患、動脈硬化)を予防する
- 禁煙する
- 抗酸化作用のあるビタミンCなどを含む食生活を心がける(サプリメントなど)
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 以下のような症状がある場合には、耳鼻咽喉科での聴力評価をお勧めします。
かかりつけ医を受診するべき場合
- 会話中に聞き返しや聞き間違いが多い
- 後方からの呼びかけや、後方からの車や自転車の接近に気づかないことがある
- 地声が大きい
- 複数人数での会話の聞き取りがしにくい
- 家族よりテレビの音量を大きくする
- 体温計や電子レンジのお知らせ音が聞こえない
お医者さんでおこなわれること
- まず問診でくわしく症状についてお聞きし、難聴の原因を探ります。
- 純音聴力検査で音の聞こえを確認します。
- CTやMRI検査で内耳や脳に異常がないか確認します。
もっと知りたい! 加齢と難聴のこと
難聴はどんな病気が考えられる?
- 加齢性難聴以外にも数多くの病気が難聴の原因になり、高齢者にも起こる可能性があります。以下に代表的な疾患を概説しました。
突発性難聴
- 突然、きっかけもなく聞こえが悪くなる難聴で原因不明です。重症ではめまいを伴うこともあります。早期に治療を開始すればするほど回復の可能性が高くなると考えられています。
滲出性中耳炎
- 鼓膜の奥の鼓室という空間に、貯留液がたまり、中耳の音を伝える機能が下がり聞こえにくくなる状態です。
- 内服や、耳と鼻をつなぐ耳管という道に空気を送る処置、鼓膜の内側から貯留液を出す処置などの治療を行うことで聞こえを改善させることができます。
耳垢栓塞・外耳道真珠腫
- 耳あかがたまりすぎて、外耳道を閉塞させてしまった状態を耳垢栓塞、さらに耳あかの下の皮膚が炎症を起こして骨が破壊される状態を外耳道真珠腫といいます。外耳道真珠腫では、耳漏や出血を生じることがあります。
- 耳鼻咽喉科の診察で、耳あかを除去して、皮膚のただれに対するケアを行えば聞こえが良くなります。
メニエール病
- 難聴・めまい・耳鳴りなどの症状がよくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。耳鼻咽喉科的な診察で、聴力の変動などを評価する必要があります。状態により投薬、点滴などの治療が行われます。
外リンパ瘻
- 内耳に存在する小さな膜が破れて、リンパ液が漏れだすことにより、難聴や耳鳴り、めまいなどが出現する病気です。頭部外傷や、強い力み、急激な気圧の変化などがきっかけになるとされています。突発性難聴やメニエール病と症状が似ているので、専門的に診察する必要があります。投薬や、場合により手術を行うこともあります。