耳の手術(顕微鏡と内視鏡):どんな治療?合併症は?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の窪田 俊憲、伊藤 吏と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身またはご家族、お知り合いの方が中耳の病気だと診断され、どのような治療法があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 中耳の病気に対する手術で、顕微鏡と内視鏡について理解するために役に立つ情報をまとめました。
- 私達が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 中耳の手術は、聴こえを良くしたり中耳の病気を完全に取るために、中耳の周りの骨を削ったり、耳小骨という小さい耳の骨の一部を取ったり、音の伝わりを作り直したりします。
- 手術には、顕微鏡手術と内視鏡手術があります。 体の外側から拡大して見るのが顕微鏡、体の内側から拡大してみるのが内視鏡といったイメージです。
- 中耳の手術をする病気には、滲出性中耳炎、慢性穿孔性中耳炎、中耳真珠腫、耳硬化症などがあります。
どんな治療?
- 中耳の手術は、中耳の病気を完全に取るために、中耳の周りの骨を削ったり、耳小骨という小さい耳の骨の一部を取ったり、場合によっては鼓索神経を一緒に取ったりします。
- また、聴こえを良くするために、孔が開いた鼓膜、手術や病気で破壊された耳小骨を、様々な材料で作り直すこともあります。ご自身の骨、軟骨、筋膜や、人工耳小骨などを使います。
- 手術には、顕微鏡手術と内視鏡手術(経外耳道的内視鏡下耳科手術:TEES)と顕微鏡手術があります。体の外側から拡大して見るのが顕微鏡、体の内側から拡大してみるのが内視鏡といったイメージです。顕微鏡手術と内視鏡手術を組み合わせて行うこともあります。
図表1 顕微鏡手術と内視鏡手術①
この治療の目的や効果は?
- 中耳の手術の目的は、以下の2つです。
中耳手術の目的
- 様々な耳の病気の部分をきれいにし、病気が悪くなることで生じる、めまいや顔面神経の麻痺などの大変な合併症を防止する
- 耳が聞こえにくい、耳から液が漏れるなどの、病気によって生じた症状を治す
- 顕微鏡手術と内視鏡手術では、手術をする目的は変わりません。しかし、病気のある中耳へのアプローチが違うので、手術後の傷の大きさが異なります。
- 顕微鏡手術では、体の外側から中耳を覗くため、中耳の手前に大きく皮膚を切り、骨を大きく削って見える範囲を広げることが多いです。内視鏡手術では、外耳道に内視鏡を入れて中耳を覗くため、大きく切ることはありません。しかし、内視鏡手術では、外耳道を通して手術を行うため、手術の器具の操作には制限があります。
どういう人がこの治療を受けられるの?
- 中耳の手術は、以下のような中耳の病気を持っている方の一部の方に行います。
手術の対象になる方
- 滲出性中耳炎
- 慢性穿孔性【せんこうせい】中耳炎
- 中耳真珠腫
- 耳硬化症
実際には、どんなことをするの?
- 実際にどんなことを行うか、顕微鏡手術と内視鏡手術に分けて説明します。
顕微鏡手術
- 顕微鏡手術は、耳の手術としては一般的な方法で、病気の部分を顕微鏡で立体的に見ながら、両手を使って操作します。
- メリットは、両手を使うので、確実な手術の操作が行えることです。
- デメリットは、体の外側から覗くため、耳の後ろに大きく皮膚を切り、骨を削って開ける必要が多いこと、奥の凹みに隠れた病気が見えない場合があることです。この場合は内視鏡を併用することもあります。
図表2 顕微鏡手術と内視鏡手術②
顕微鏡手術では確実な手術の操作ができるが骨を削って開ける必要があることが多い
内視鏡手術
- 内視鏡手術は、比較的新しい、体をあまり傷つけない手術です。
- メリットは、顕微鏡よりも病気の部分をさらに拡大でき、視野が広く、きれいな画像を見ながら手術を行えること、顕微鏡では見えなかった部分も見えることです。
- デメリットは、狭い外耳道に内視鏡や手術器具を入れて手術を行うため、顕微鏡手術とは異なる技術や手術器具が必要なことです。
理解しておきたい リスクと合併症
- 中耳の手術の合併症は、以下の通りです。ただし、手術を行う中耳の病気の種類や病気の状態によっても異なります。
耳が聞こえにくい
- 手術の目的の一つとして「よく聞こえるようにする」ことがありますが、中耳真珠腫などの重い病気では聞こえが良くならない場合や、病気を治すために聞こえが悪くなる場合もあります。
- まれに、音を感じる内耳へ影響が及ぶと、感音難聴が生じる場合があります。
めまい
- 三半規管などのバランスを調整する内耳に影響が及ぶと、めまいが生じる場合があります。
- 多くは手術後のリハビリで良くなりますが、まれにふらつきが残る場合もあります。
味覚の障害
- 中耳には味を感じる神経(鼓索神経)があります。中耳手術では鼓索神経をよける操作が不可欠であり、この操作の影響で手術後に舌がしびれたり味が変わったりすることがあります。
- また、中耳真珠腫を完全に取る手術の場合や病変と神経がくっついて離れない場合は、鼓索神経を一緒にとり除くこともあります。多くの場合、症状は徐々に良くなります。
顔面神経の麻痺
- 手術の操作で顔面神経が障害されると、手術した側の顔の動きが弱くなります。
- 骨の破壊が進んだ中耳真珠腫など、顔面神経麻痺の危険がある病気では、多くの病院で顔面神経モニタリングを行いながら顔面神経麻痺の防止を行います。
耳介(耳の外側)のしびれや曲がり
- 耳の後ろを切る顕微鏡手術で生じることがあります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 中耳手術の方法についてのガイドラインはありませんが、病気や手術の分類や判定基準は一部下記ウェブサイトに掲載されていますので参照してみてください。
- https://www.otology.gr.jp/about/guideline.html
もっと知りたい!中耳の手術(顕微鏡と内視鏡)
中耳とは?
- 耳は、以下の3つの部分に分けられます。
耳の仕組み
- 外耳【がいじ】:耳介から鼓膜まで
- 中耳【ちゅうじ】:伝わってきた小さな音を鼓膜で受け、小さな三つの骨(耳小骨)を介して内耳へ伝える
- 内耳【ないじ】:音の振動を電気信号に変換する蝸牛(かぎゅう)と三半規管などの平衡器官があります。
- 中耳は、鼻の奥と交通している耳管からの換気や、乳突蜂巣粘膜のガス交換で、空気を含んでいます。耳小骨は鼓膜よりツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨と三つが順番につながっています。耳小骨が、空気のなかで振動することで、外からの音の振動を内耳に伝えることができます。
- 耳小骨の関節が硬くなったり、壊されたり、耳小骨の周りに炎症が起きて良く振動できなくなると、伝音難聴が起こります。これに対して、内耳や聴神経が障害されて生じる難聴を感音難聴と言います。
- 中耳の中には顔面神経や味を感じる鼓索神経、中耳の周りには内耳、脳、頸動脈、頸静脈などの重要な器官が存在しています。
図表3 耳の構造