滲出性中耳炎:どんな病気?検査や治療は?どれぐらいで治るの?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の丸山 裕美子と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が滲出性中耳炎になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 滲出性中耳炎【しんしゅつせいちゅうじえん】とは鼓膜【こまく】の奥の空間に液体がたまって、聞こえにくくなる病気です。
- 子どもの難聴の一番の原因となります。
- 子どもは小さいと訴えることが難しかったりするので、周囲の人が気づくことが大切です。
- 数カ月かけて経過しますので焦らず治療しましょう。
- 大人の場合は鼻の奥の腫瘍が原因の場合があります。
- 気になるときは受診しましょう。
滲出性中耳炎は、どんな病気?
- 鼓膜の奥の部屋に液体がたまり、耳が聞こえづらくなる病気です。
- 鼓膜の奥の部屋と鼻の奥をつないでいる管の働きが弱く、鼓膜の奥の部屋に炎症があると、液体がたまるようになると考えられています。
- 小学校入学までに9割の子どもが1回はかかるといわれ、子どもの難聴の一番の原因です。
- 痛みなどの症状がないため気づかれないことも多く、言葉や学習への影響がでたりすることがあります。
滲出性中耳炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 滲出性中耳炎では飛行機やエレベータに乗ったりした時のような耳がつまった感じ(耳閉感【じへいかん】)が持続します。
- 鼓膜の奥の部屋に液体がたまると鼓膜の振動が悪くなるので、聞こえづらくなります。
- 全く聞こえない訳ではないため、気づくのが遅れてしまうことがあります。
- テレビのボリュームをあげる、呼んでも返事をしないなどがあれば耳鼻咽喉科への受診をおすすめします。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 滲出性中耳炎では下記のことがきっかけになることが多いです。
滲出性中耳炎のきっかけ
- かぜ
- 鼻や副鼻腔【ふくびくう】の炎症
- 鼻すすりの癖【くせ】
- 生活環境(集団保育、家族の喫煙など)
- 鼻かぜをひいた時には、優しく、こまめに鼻をかむことで予防につながります。
- 大人の場合、鼻の奥のできものが原因の場合もあります。気になる場合は早めに受診しましょう。
滲出性中耳炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 滲出性中耳炎になりやすい人は下記のような人です。
滲出性中耳炎になりやすい人
- 小学校に入るまでの子ども
- 鼻副鼻腔炎の人
- アレルギー性鼻炎の人
- アデノイド(鼻の奥のリンパ組織)が大きい人
- 1歳までに50%以上、2歳までに60%以上、小学校に入るまでに90%の子どもが1回はかかるといわれます。
- 一番多いのは急性中耳炎が治りきらずに膿【うみ】が残ってしまう場合です。急性中耳炎は完全に治るまで治療を受けましょう。
どんな症状がでるの?
- 滲出性中耳炎では下記のような症状が出ます。
滲出性中耳炎の症状
- 耳がつまったような、ふさがったような感じの違和感(耳閉感)
- 耳が聞こえづらい
- 自分の声が大きく響くように感じる
- 耳の聞こえの程度がひどい時には滲出性中耳炎以外にも原因がないか調べることも大切です。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病院では耳の診察の他に下記の検査をすることになります。
検査の種類
- ティンパノメトリー:耳栓をして鼓膜にかかる圧力を変化させ鼓膜の動きをみる検査です。滲出性中耳炎の程度の確認に用いられます。
- 聴力検査【ちょうりょくけんさ】:耳の聞こえの有無と程度を調べる検査です。お子さん用の特殊な検査を行う場合もあります。
- 気密耳鏡【きみつじきょう】:鼓膜を観察しながら鼓膜の圧変化への様子を調べます。
コラム:耳の診察について
- 液体の貯留:正常では中耳には空気が入っていますが、滲出性中耳炎ではたまった液体(滲出液【しんしゅつえき】)が鼓膜から透けてみえます。
- 鼓膜陥凹【こまくかんおう】:中耳腔が陰圧になり鼓膜が奥に引き込まれてへこんだ状態(陥凹)になります。
- 鼓膜の菲薄化【ひはくか】・接着:長い間滲出液がたまっていると鼓膜が薄くなったり(菲薄化)、鼓膜のへこみが強くなり奥の骨とくっついたりする(接着)こともあります。進行すると癒着性中耳炎【ゆちゃくせいちゅうじえん】や真珠腫性中耳炎【しんじゅしゅせいちゅうじえん】といった慢性中耳炎に移行する場合があり得ます。
どんな治療があるの?
- 3カ月以内は自然に治ることも期待できるため、注意深く様子をみます。
- 治らない場合の治療としては下記の保存的治療、手術治療があります。
治療の種類
- 保存的治療:薬などで液体を排出させやすくしたり、元となる病気の急性中耳炎やアレルギー性鼻炎を治したりすることがあげられます。
- 手術治療:鼓膜を切開したり、チューブを入れたりして、鼓膜の奥にたまった液体を出すものがあります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 保存的治療であれば特に注意することはありません。手術治療の場合、下記について注意しましょう。
術後注意すること
- 切開して液体を出す手術の場合:切開後耳だれが一週間以上続く場合は、医師に相談してください。
- 鼓膜にチューブを入れる手術の場合:深く潜ったり、飛び込む水泳は避けてください。耳鼻科での定期的な診察を受けましょう。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 適切な治療を受けていれば、ほとんどの場合治ります。
- 滲出性中耳炎は数カ月かけて治っていく病気ですので、焦らず治療を受けましょう。
- 治らない場合は言葉や学習への影響がでたり、鼓膜の変化が残ったりします。
追加の情報を手に入れるには?
- 一般むけ「小児滲出性中耳炎ガイドライン」解説書
- http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/pub_otitis-media-with-effusion-in-children/pub_otitis-media-with-effusion-in-children.pdf
- 日本耳鼻咽喉科学会 耳と聞こえのQ&A 「滲出性中耳炎」
- http: www.jibika.or.jp/citizens/handbook/mimi4.html
もっと知りたい! 治療のこと
保存的治療とは
- よく使われるのは、カルボシステインとよばれる粘液溶解剤【ねんえきようかいざい】です。この薬は中耳の液体を出しやすくし、鼻副鼻腔炎にも効果があるといわれています。
- 滲出性中耳炎の治療では、鼻副鼻腔炎や繰り返す急性中耳炎、アレルギー性鼻炎などの炎症を治すことも大切です。
- 鼻や副鼻腔炎の治療:鼻副鼻腔炎がある場合には、内服にくわえ、大人の場合は鼻うがい、お子さんの場合は鼻水を吸う、などの治療があります。
- 耳管通気【じかんつうき】:鼻と耳をつなぐ耳管【じかん】という管から中耳に空気を送り、中耳の圧力を正常に戻そうとする治療です。自己通気の機器もあります。
手術治療とは
鼓膜チューブ留置術
- 正しくは鼓膜換気チューブ留置といいます。鼓膜に小さなチューブを挿入することで、鼓膜に小さな穴が開いた状態を保つことができるため、中耳にたまった液体を出しやすくして炎症をおさえ、また中耳に空気が入った自然に近い状態になります。
- 手術は局所麻酔または全身麻酔(小さなお子さんの場合)で行われます。
- すぐに聞こえが良くなることや鼓膜の病的な変化を予防する効果が期待されます。
- ただし、鼓膜が硬くなったり(石灰化【せっかいか】)、鼓膜に開けた穴が残ったりする可能性や、耳だれが出るなどの問題が起こる場合があります。
鼓膜切開
- 鼓膜を少し切り開いて中耳にたまっている液体を吸い取る手術です。中耳の液体の状態を知りたい時や、どのような治療をするかを決める目的でも行われます。鼓膜切開を受けると聞こえが良くなりますが、多くの場合は切開であけた穴はしばらくすると自然に閉じるので効果は一時的なものです。時に穴が残る場合もあります。
アデノイド切除
- 鼻の奥にある扁桃の仲間のリンパ組織である「アデノイド」は耳や鼻の慢性の炎症のもとになっていると考えられています。鼓膜チューブ留置だけでは効果が足りないと考えらえる場合にアデノイド切除もおこなわれます。通常は入院して全身麻酔をかけて行います。