顔面けいれん:原因は?症状は?手術やボトックス注射で良くなるの?
更新日:2020/11/11
- 脳神経外科専門医の藤巻 高光と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が顔面けいれんかもしれない?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 片側顔面痙攣(顔面けいれん)とは、顔の筋肉が勝手にピクピクとうごいてしまう病気です。
- 症状は顔の半分だけ(右なら右だけ、左なら左だけ)に起こります。
- 放置しても病気自体が医学的に命にかかわったり、ほかの大きな病気を引き起こしたりすることはありません。
- 同じ側の片目だけに半年も症状が続く、ほっぺたや口元もひきつる症状があるときは受診してください。
- 精神安定剤、ボツリヌス毒素注射、手術が治療として行われます。
片側顔面痙攣って?どんな症状?
- 片側顔面痙攣(略して顔面けいれん)とは、顔の筋肉が勝手にピクピクとうごいてしまう病気です。
- 多くのかたは目の周りのピクピクではじまり、次第にほっぺたの筋肉や口元の筋肉もピクピクするようになります。
- 最初はいわゆる「疲れ目」と区別がつきにくいことがありますが,疲れ目はふつうあまり長くつづかず,長くても2ヶ月くらいで、やがておさまります。また疲れ目で口がひきつることはありません。
- 顔面けいれんも初めは症状がおさまることがあってもだんだんといつも症状が続くようになることで区別がつきます。症状は顔の半分だけ(右なら右だけ、左なら左だけ)に起こりますので、ある時は右、あるときは左、というようなことはありません。
- この病気は、脳の深いところで、顔の神経を動かす顔面神経に血管が触れておこる病気です。
- 気持ちのいいものではありませんが、放置しても病気自体が医学的に命にかかわったり、ほかの大きな病気を引き起こしたりすることはありません。その意味で気にならなければ放置してよい病気と言えます。
- ただ、非常にめずらしいですが血管の圧迫以外の原因があることもあります。
- 病気が起こるのにストレスは関係ありません。しかし、ストレスを感じると症状が悪化する、という方がいらっしゃるのは事実です。
片側顔面痙攣かもしれないと思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診すればよいの?
- 目のまわりだけ、ときおりピクピクするという症状は、上にも書きましたが、「疲れ目」のことが多いです。
- 疲れ目は病気ではなく、だれにでも起こるものですので、病院にあわてて行く必要はありません。また疲れていないときでも起こります。いずれにしても目のまわりだけの症状の時は医療機関を受診する必要はないです。
病院に行って欲しいとき
- 同じ側の片目だけに半年も症状が続く
- ほっぺたや口元もひきつる症状がある
受診してほしい診療科
- 神経内科
- 脳神経外科
どんな検査があるの?
- 片側顔面痙攣の診断はこの病気に慣れている医師がお話を伺い、また顔の症状を詳しく診せていただければ、だいたいは診断がつきます。
- 脳のMRI検査を行うと大体の場合は神経を圧迫している血管を見つけることができます。
- また非常にめずらしく,ほとんどは良性ですが,脳腫瘍が神経を圧迫して症状が出ることもあります。その意味でもMRI検査はおすすめしています。
- 診断がつきにくい場合、筋電図という顔に電極をはりつけて顔の筋肉の働きを記録する検査が診断の助けになる場合があります。
どんな治療があるの?
内服薬
- 顔面けいれんの症状をゆるやかにするための方法としては内服薬はあまり効果がないことが多いです。
- ただし症状の強い、弱いに気分的なストレスが関係している場合には、精神安定剤がきく場合があります。
- よくクロナゼパム(リボトリール(C)、ランドセン(C))というお薬が処方されるようです。ほかのてんかんのお薬はあまり効果がないことが多いようです。漢方薬の抑肝散で症状が軽くなるとおっしゃる場合もあります。
ボツリヌス毒素注射
- ボツリヌス毒素製剤(ボトックス(C))は、もともとは食中毒の毒素を注射薬にしたものです。
- ボツリヌス食中毒は、筋肉が動かなくなるので、症状が重たいと呼吸ができなくなって命にかかわることもある怖い食中毒です。しかしこの毒素をちょうどよい弱さにして顔に注射をすると、顔面神経から顔面の筋肉に「動け」という命令が出ても筋肉自体が動きにくくなるので、痙攣の症状が楽になります。
- 注射の効果は数ヶ月続きます。非常によい治療法ですが、根治を目的としていませんし、また効果がきれてきた場合は、繰り返し注射が必要です。
- 入院しなくてできる治療という意味でどなたも受けやすい治療ということができると思います。
手術療法
- 片側顔面痙攣は、顔の筋肉を動かす顔面神経と脳の深いところで血管が触れておこる病気です。この触れている部分を解除することで、顔面けいれんが治るはずです。
- 実際に多くの方がこの手術で症状が良くなります。改善率は90%台と考えられています。
- 再発率は数%ですので、かなり有効な手術と言えます。
- ただ、顔面神経が血管によって押されて敏感になっているので、術後に痙攣が治るまでしばらく(2年くらい)かかることがあります。
手術治療を気軽に考えられない理由
- まず手術部位が脳の深い場所、脳幹という場所です。ここでは呼吸や血圧など脳のもっとも重要な働きを担当しています。
- 通常は耳の後ろの髪の生え際の皮膚を切って頭の骨を切り取り(骨は最後にもどします)、脳と骨の間の数㎜のすき間を何センチも脳の奥までたどって行く必要があります。そこでようやく神経と血管が触れている場所にたどりつきます。
- 神経を圧迫している血管を移動させて、人工血管の材料で血管をつり上げます。
- 全身麻酔で何時間もかかる手術で、手術用の顕微鏡を使って行います。
手術が難しい人
- 心臓や肺などに大きな持病があって全身麻酔をかけづらい方
- 脳や心臓の病気で血液をさらさらにするお薬を飲んでいる方
- 平均で日本でもアメリカでも1000人に2-3名が、この手術で命を落としていると言われています。
- 命の危険がなくても、お身体が不自由になる、長期のリハビリが必要になることもめずらしいですがありえます。
患者さんにとって不便な合併症
- 手術を行う側の耳が聞こえにくくなったり、全く聞こえなくなる(2-3%)。手術中に耳から音を聞いていただき、特殊な脳波を調べながら手術をすることでかなり頻度は抑えられますが、ゼロにすることは困難です。
- 声がしわがれる
- 飲み込みの障害がおこる
- ものが二重に見える(複視)
- 脳が浮かんでいる脳脊髄液という液体が漏れて皮膚の下にたまってしまう。再手術が必要となることがあります。
- 顔面の筋肉がうごかしづらい(顔面神経麻痺)
- これらの合併症は、いずれも頻度は少ないものの、患者さんにとってはかなり困る合併症です。
- これらの手術は「脳神経外科専門医であれば、だれにでもできる手術」ともいわれますが、「専門医が手術してもしばしばとても難しい手術」でもあります。
- つまり片側顔面痙攣で手術治療を考える時は、それぞれの先生の経験に基づいた病気についての説明、治療成績をよく聞いて手術を選ぶべきかどうかを決めるべきです。
図表1 顔面けいれんの手術部位(左側)
図表2 顔面けいれんの手術(右側)