排尿障害・失禁:原因は?病院受診のタイミングは?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医の朝比奈 正人と申します。
- 排尿障害・失禁が何日も続いたりすると、何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、排尿障害・失禁の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について記載しています。
目次
まとめ
- 排尿障害には尿をためる時の障害(蓄尿障害)と、尿を出す時の障害(尿排出障害)の二種類あります。
- 排尿障害の原因としては泌尿器や神経の病気があります。
- 排尿回数が増えたり、尿がもれたり、尿が出にくくなったり、残尿感がある時はかかりつけ医に相談しましょう。
排尿のしくみはどうなっているの?
膀胱【ぼうこう】の働き
- 膀胱は尿をためる働きをしています。腎臓で作られた尿は膀胱にためられ、適切な時に排出されます(図表1左)。膀胱の壁には排尿筋と呼ばれる筋肉(平滑筋)があります。
図表1 腎臓と膀胱
- 尿がたまっていない時の膀胱は縮んでいますが、尿がたまると排尿筋がゆるんで膀胱が大きくなります。尿が100~200 ml程度たまると尿意を感じますが、膀胱の出口や尿道にある括約筋という筋肉を収縮させて排尿を我慢することができます。尿をためることを蓄尿と呼びます。
- 300~500 mlの尿がたまると我慢できない尿意を感じます。排尿する時は括約筋がゆるみ、排尿筋が収縮して尿が出ます。
蓄尿・排尿の調節を行う神経
- 蓄尿をする神経は交感神経です。交感神経は、膀胱の排尿筋をゆるめ、括約筋を収縮させて尿をためるよう働きます。
- 尿を排出する神経は副交感神経です(図1右)。副交感神経は、括約筋をゆるめ、排尿筋を収縮させて尿を出すよう働きます。
どんな症状?
- 排尿障害の症状は、尿をためる時(蓄尿障害)と尿を出す時の症状(尿排出障害)に分けられます。
蓄尿障害の症状
- 蓄尿障害の症状には、日中の排尿回数が増える「頻尿」、尿意で目が覚める「夜間頻尿」、尿意を感じると我慢できない感覚の「尿意切迫感」、尿意を感じると我慢できずに漏らしてしまう「切迫性尿失禁」などがあります。
- 尿意切迫感を伴うこれら一連の症状がみられる状態を「過活動膀胱」と呼びます。
- 一方、お腹に強い力がかかった時に尿がもれてしまうものを「腹圧性尿失禁」と呼び、過活動膀胱と違って尿意切迫感を伴いません。
尿排出障害の症状
- 尿排出障害の症状としては、排尿しようとしてから尿が出るまでに時間がかかる「排尿開始遅延」、排尿に時間がかかる「排尿時間遅延」、排尿後も膀胱に尿が残った感じがする「残尿感」、尿が出ない「尿閉」、尿を出せずに膀胱にたまった尿があふれ出る「溢流性尿失禁」があります。
腹圧性尿失禁について
- 腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみをしたり、重いものを持ち上げたりしてお腹を入れた時に尿がもれるものです。
- 女性に多く、尿道の周りにある筋肉(骨盤底筋群)のおとろえによります(図2)。
- 尿道や膀胱を支える骨盤底筋群には、尿道を閉じる機能をもつ括約筋が含まれます。
- 骨盤底筋のおとろえは妊娠・出産、加齢が主な原因ですが、便秘や肥満も関係します。
図表2 下から見た骨盤底筋群
どんな原因?
蓄尿障害の原因
- 脳・せき髄などの神経の病気、膀胱炎や前立腺肥大など泌尿器の病気で蓄尿障害がみられます。
- 以下に主な原因をまとめました。
蓄尿障害の主な原因
- 脳梗塞、パーキンソン病、レビー小体型認知症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血種、多発性硬化症、多系統萎縮症、前立腺肥大、尿路感染、膀胱結石、加齢など
尿排出障害の原因
- 尿排出障害の原因としては前立腺肥大や前立腺癌などの尿道を圧迫・閉塞する病気、排尿を促す神経である副交感神経の障害、排尿する筋肉の障害、薬の副作用などがあります。
尿排出障害を起こす原因
- 病気:前立腺肥大、前立腺癌、多系統萎縮症、糖尿病性末梢神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病など
- 薬の副作用:過活動膀胱の治療薬、アレルギー治療薬、抗うつ薬など
排尿障害・失禁に対して自分でできることは?
夜間頻尿の場合
- 夕食以降は水分摂取を少なめにし、特に利尿作用のあるお酒やコーヒーは控えましょう。ただし、脱水に気を付けてください。
腹圧性尿失禁の場合
- 骨盤底筋群(前述)を鍛えましょう。尿道、腟、肛門の周囲の筋肉を収縮させるトレーニングを行います。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 以下の症状がある時は、かかりつけ医の受診を考えましょう。
蓄尿障害の場合
- 日中8回以上の排尿がある(頻尿)
- 排尿で睡眠が1回以上中断される(夜間頻尿)
- 尿意を感じると我慢できない感覚(尿意切迫感)がある
- 尿意を感じると我慢できずに漏らしてしまう(切迫性尿失禁)
- お腹に強い力がかかると尿をもらしてしまう(腹圧性尿失禁)
尿排出障害の場合
- 尿が出始めるまでに時間がかかる(排尿開始遅延)
- 排尿が終わるまでに時間がかかる(排尿時間遅延)
- 残尿感がある
お医者さんでおこなわれること
- お医者さんでは、まずは問診(お話を聴くこと)で診断を進めます。特に下記の情報をお医者さんに正しく伝えると診療の助けになります。下記の情報などを紙に書いて持参をすると喜んでもらえるかもしれません。
診療の助けになる情報
- 日中の排尿回数は?
- 就寝後に尿意で目が覚めてトイレに行く回数は?
- 尿意を感じたら我慢できずにすぐに排尿したくなる感覚があるか?
- 尿意を感じてあわててトイレに行こうとしても間に合わずに漏らすことがあるか?
- 咳、くしゃみをしたり、重いものを持ち上げたりした時に尿が漏れてしまうことがあるか?
- 尿が出始めるのに時間がかかることがあるか?
- 排尿中に尿が何度も途切れることがあるか?
- 尿に勢いがなく、尿を出し終わるのに時間がかかることがあるか?
- 排尿した後も尿が残っているような感覚があるか?
- 尿に血が混じることがあるか?
- 排尿時に尿道に痛みがあるか?
- 脳卒中、神経の病気、糖尿病、高血圧、高脂血症、尿路結石、前立腺肥大、腎機能障害にかかったことがあるか?
- 服用中の薬があるか?
- これらの症状を手がかりに排尿障害の原因を考えていきます。
- 尿や血液の検査、腹部の超音波検査、腹部のレントゲン検査、残尿測定検査、頭部や脊髄の画像検査(CTやMRI)などの検査を行うことがあります。
- 残尿は排尿直後に膀胱に尿が残っている状態のことで、尿排出障害がある場合にみられます。残尿量の測定には、尿道に管(カテーテル)を入れて残尿を直接計量するカテーテル法と超音波を使って測定する方法があります。最近はより簡便かつ安全にできる超音波での測定が一般的です。
- 以上の問診・検査の結果によって脳神経内科、泌尿器科、婦人科などに紹介されることがあります。
もっと知りたい排尿障害・失禁のこと!!
専門医で行う検査はどのようなものがある?
専門医が行う検査
- 尿流測定検査、膀胱内圧測定検査、尿道内圧測定検査、括約筋針筋電図検査などがあります。
尿流量検査
- 測定装置を備えた便器に排尿すると尿流量を測定することができます。尿排出障害のある人では尿流量は低下し、排尿に時間がかかり、途中で途切れたりすることがあります。
膀胱内圧測定検査
- 尿道を通して膀胱内に管を入れて、尿の代わりに水を膀胱に一定の速度で注入しながら膀胱内圧を測定します(図3)。
- 正常の人では膀胱が徐々に広がるため300~500 mlの尿がたまるまで膀胱内圧はあまり変化しませんが、蓄尿障害のある人では膀胱に尿が少したまるだけで排尿筋が収縮し、膀胱内圧が上がります。排尿筋の筋力が弱くなって尿の排出がうまくできない人では、排尿しようとしても膀胱内圧があまり上がりません。
図表3 膀胱内圧測定検査
尿道内圧測定検査
- 尿道内に管を挿入し、水を一定の速度で注入しながら尿道内圧を測定します。徐々に管を引き抜くことで、尿道の全長にわたり尿道圧を測ることができます。尿道内圧が高いと尿を出しにくく、尿道内圧が低いと尿をもらしやすくなります。
治療にはどのようなものがある?
蓄尿障害・過活動膀胱の治療法
- 蓄尿障害・過活動膀胱の治療には排尿筋の活動を抑える薬が使われ、その種類に抗コリン薬とβ3作動薬があります。これらの薬の副作用としては、排尿筋の収縮を抑えることで排尿しづらくなり、尿が出なくなること(尿閉)があります。
- よくある抗コリン薬の副作用は口の渇きと便秘です。
- 抗コリン薬は認知機能を低下させる危険があるので、高齢者では注意が必要で、認知症のある方は服用しないほうがよいでしょう。
尿排出障害の治療法
- 尿排出障害の治療薬としては膀胱の出口の緊張をゆるめる薬(α1遮断薬)や排尿筋を収縮させる薬(コリン作動薬)があります。
- α1遮断薬は血圧を下げる副作用があり、立ちくらみが出ることがあります。
- コリン作動薬は気管支喘息の方には使えません。また、副作用には徐脈(脈拍が遅くなる)、下痢などの消化器症状などがあります。
- 残尿があると、膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症を起こしやすくなります。残尿で膀胱内圧が上がると腎臓に負担がかかります。薬で治療しても残尿が100 ml以上ある場合は、尿道に管(カテーテル)を入れて尿を排出する間欠導尿を行います。
- 導尿は尿道に細菌を押し込んで尿路感染を起こす危険があり、清潔に行われるべきものです。導尿を行う患者または介護者は医療機関で適切な指導を受ける必要があります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 排尿障害・失禁のより詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下の書籍やウェブサイトを参照してください。
- 過活動膀胱診療ガイドライン
- パーキンソン病における下部尿路機能障害診療ガイドライン
- 日本自律神経学会編:自律神経機能検査 第5版、文光堂、2015.