脳動脈瘤クリッピング術およびコイル塞栓術:どんな治療?合併症は?
更新日:2020/11/11
- 脳神経血管内治療指導医/脳卒中の外科技術指導医の太田 貴裕と申します。
- このページに来ていただいた方は、脳動脈瘤の治療についてのお悩みがあり、将来において脳動脈瘤の外科手術について考えておられるかもしれません。
- 脳動脈瘤に対しての外科手術には大きく分けて2通りあります。患者さんご自身が治療法を十分に理解され、納得していただいた上で治療を受けていただけるように役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 脳動脈瘤【のうどうみゃくりゅう】の外科治療として、開頭クリッピング術【かいとうくりっぴんぐじゅつ】と血管内コイル塞栓術【けっかんないこいるそくせんじゅつ】の2通りがあります。
- 開頭クリッピング術は動脈瘤をつぶす方法で、効果が確実というメリットがありますが、頭の骨を外して脳を触る必要があること、体への負担が大きい治療法であること、傷が残ることなどのデメリットがあります。
- 一方、血管内コイル塞栓術は体への負担が少なく、頭に傷が残ることもありません。ただし、再発や再治療の可能性がわずかですが残ることと、血液をさらさらにする薬を飲んでいただく必要がでてくることなどがデメリットとなります。
- 最近では多くの患者さんが血管内コイル塞栓術で治療されていますが、メリットとデメリットは患者さんの状況によっても異なります。治療を受ける前に、担当の先生によくご相談ください。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 脳動脈瘤があることがわかっていて、次の条件に当てはまる方には治療を受けることを考えていただいた方がよいと考えています。そのままにしておくと、脳動脈瘤が破裂する危険性が高くなる可能性があるためです。
脳動脈瘤の外科治療を受けていただくことをお勧めする方
- 5mm以上の大きさなど、注意すべき形状の脳動脈瘤がある方
- クモ膜下出血を経験したことがある方
- 脳動脈瘤による症状がある方
- たばこを吸う方
- 多くお酒を飲まれる方
- 未治療の高血圧がある方
- ご両親や兄弟など、近い親族にクモ膜下出血を起こしたことがある場合
コラム:注意すべき脳動脈瘤の形状
- 瘤が大きい(5mm以上または10mm以上)。
- 前交通動脈、脳底動脈先端部、後交通動脈分岐部に瘤ができている。
- 動脈瘤が2つ以上ある。
- 動脈瘤が不規則な形をしている。
この治療の目的や効果は?
- この治療の目的は、動脈瘤が破裂することが原因で起きるクモ膜下出血を起こさないようにすることです。
- なお、動脈瘤が破裂する確率は平均すると年間1%程度と考えられており、すぐに破裂するわけではありません。また、たいていの動脈瘤は症状がでていない段階で見つかりますので、この治療をしても、患者さんに感じられる変化はありません。
開頭クリッピング術
どんな治療?
- 開頭クリッピング術【かいとうくりっぴんぐじゅつ】とは、頭の骨の一部を外して、脳の中にできた数ミリの動脈瘤を直接確認し、動脈瘤の根元をクリップで挟んでつぶす治療法です。
- こめかみ付近から手術することが多いですが、瘤の部位によって異なります。
- クリップはチタン製で、まっすぐの形、まがった形など、瘤の形にあわせてさまざまなものがあります。
- 手術は全身麻酔で行い、手術時間は短いもので3時間以内、長いと6時間以上かかることもあります。入院していただく期間は10日間程度です。
実際には、どんなことをするの?
- 患者さんに全身麻酔がかかったら、頭がぐらぐらしないようにピンで固定します。耳の前からおでこにかけて10-15cm程度、皮膚を切り開きます。髪の毛は皮膚を切る線の周囲を2-3cm程度剃ることになります。
- 皮膚と筋肉をひっくり返し、頭蓋骨にドリルで穴をあけて必要な大きさの骨を外します。その後、脳を包んでいる硬膜を切開すると脳がでてきます。
- 顕微鏡をつかって動脈瘤を探します。動脈瘤はたいてい深い場所にあるので、脳のシワをミリ単位で丁寧にはがしながら、少しずつ進めていきます。
- 動脈瘤が見えたら、周りの血管や神経が巻き込まれないことを確認して、クリップをかけます。クリップは小さい瘤であれば1本、大きい瘤だと2本あるいは3本かけることもあります。
- クリップをかけた後、動脈瘤内に血流がないかどうか、また周りの血管にきちんと血流が残っているかどうかを確認します。
- その後硬膜を縫い合わせ、脳の周りの髄液が漏れてこないように血液から作った糊(フィブリン糊)を巻き、骨はチタン製の薄いプレートとねじで固定して、筋肉、皮膚を縫い合わせて手術は終了です。
他にどのような治療のオプションがあるの?
- 脳動脈瘤の形、場所、枝分かれのパターンなどから、頭の骨を外す場合でもいくつかの治療法が考えられる場合があります。
- また、頭の皮膚の血管をつなぐ手術(バイパス手術)が行われることもあります。
コラム:バイパスを使った開頭術
- 動脈瘤の途中から正常な血管が枝分かれしている場合に検討されます。正常な血管への血流を残すために、皮膚の動脈をはがして、顕微鏡下でつなぎます。
理解しておきたい リスクと合併症
- 脳はとてもダメージに弱く、傷つきやすい繊細な組織です。そのため、治療によって障害が残ったり、合併症が起きたりする可能性があります。
手術によるリスク
- 手術中に動脈瘤が破裂してしまうことがあります。その際の出血をコントロールするために周りの動脈を一時的に止めることがあり、その時間が長くなると、脳梗塞ができてしまうことがあります。また、動脈瘤の周りの動脈の流れが悪くなっても、脳梗塞を起こすことがあります。
- 脳梗塞のできる部位によっては、意識がもどらない、手足が動かない、手足がしびれる、言葉が話せない、目の見え方がおかしいなど、さまざまな後遺症が出ることがあります。
- 手術中に脳が傷ついてしまい、手術後に脳がむくむ、脳の表面の血液の流れが悪くなるなどの症状が出ることがあります。
- 手術後、骨を外した部分の下や脳の表面などに出血が起こると、再手術が必要になることがあります。
- 脳の周りを流れている髄液が皮膚の下に漏れてたまったり、細菌が脳へ入っていき、髄膜炎を起こすこともあります。
手術後のリスク
- 退院後もけいれん発作を起こす可能性があります。脳の表面にゆっくり血がたまっていく硬膜下血腫【こうまくかけっしゅ】を起こし、再手術が必要になる場合もあります。
- 肺炎や心臓に合併症が起きたり、それらの治療を行うために入院期間を延長していただくこともあります。
- (注:ここに挙げたリスクと合併症は、すべての合併症の可能性を記載したものではありません。患者さんの状況によっても異なりますので、詳しくは治療を受ける前に担当の先生に確認してください。)
治療後について
- 退院してから1か月程度は、髪を染めないほうがよいと思います。
- 手術した部位を強くぶつけないようにしてください。
- 脳動脈瘤が別の部位に新しくできる可能性もありますので、数年ごとに画像検査を受けてください。
血管内コイル塞栓術
どんな治療?
- 血管内コイル塞栓術【けっかんないこいるそくせんじゅつ】とは、脳の中にできた数ミリの動脈瘤の中に、プラチナでできた柔らかい針金を何本かコイル状に丸めて詰め、動脈瘤に血液が流れないようにする治療法です。
- コイルはカテーテルという細い管を使って、脳の血管まで届けます。カテーテルは足の付け根の動脈から入れることが多いです。
- 手術は全身麻酔で行うことが多いですが、病院によっては局所麻酔で行うところもあります。破裂していない脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の場合、入院していただく期間は5日間程度です。
実際には、どんなことをするの?
- 足の付け根にある動脈から、直径 2mm 程度の管(カテーテル)を挿入し、レントゲンで撮影しながら首の動脈まで進めます。
- 首から先の動脈には、さらに細い直径 1mm 程度のカテーテルを通して、脳の動脈瘤の中まで進めていきます。
- 動脈瘤の中にカテーテルが入ったら、プラチナでできたとても柔らかい針金を丸めてコイル状にし、詰めていきます。動脈瘤の中がコイルでいっぱいになり、血流が入らなくなれば終了です。
- 完全に血流が入らない状態にならなくても、手術後に血栓ができるのを待つ場合もあります。
他にどのような治療のオプションがあるの?
- 動脈瘤の形によっては、瘤の中にコイルがうまく収まらない場合もあります。そういった場合は、バルーン(風船)やステントという器具を使って血管を広げます。
バルーン(風船)を使ったコイル塞栓術
- あらかじめバルーン(風船)を動脈瘤の近くまで進めておき、バルーンを一時的に膨らませて、コイルがうまく瘤の中に収まるようにします。
ステントをつかったコイル塞栓術
- バルーンを使ってもコイルがうまく瘤内に納まらない場合には、ステントを手前の血管において支えます。ステントは金属でできたメッシュ状の筒で、一度置いたら回収できません。血栓がつきやすくなりますので、手術後は血液をさらさらにする薬(抗血小板剤)を飲んでいただく必要があります。
コラム:フローダイバーターステントを使った治療
- 内頚動脈にできた10mm以上の大きな脳動脈瘤に対しては、フローダイバーターステントという新しいステントを用いた治療法もあります。ただし、すべての動脈瘤に行える治療ではなく、治療できる病院や医師もまだ数少ないのが現状です。
理解しておきたい リスクと合併症
- 脳はとてもダメージに弱く、傷つきやすい繊細な組織です。そのため、治療によっても障害が残ったり、合併症が起きたりする可能性があります。
- 合併症には大きく分けて、出血によるもの、血管が詰まることによるもの、その他のものがあります。以下に可能性を列挙します。
出血による合併症
- カテーテルやコイルを挿入しているときに瘤が破けてしまい、クモ膜下出血を起こす可能性があります。ただし、治療中に動脈瘤が破裂する確率は約1%程度です。
- カテーテルを挿入しているときに、動脈瘤以外の血管が破れることがあります。
血管が詰まることによる合併症
- コイルを動脈瘤の中に詰めるとき、詰まらなくてよい血管にまで入ってしまい、正常な血流を止めてしまうことがあります。
- カテーテルを入れていることで血液の固まりができ、血管を詰まらせてしまう可能性もあります。
その他の合併症
- 治療中には血液を固まりにくくする薬を使用するため、カテーテルを挿入した部分から血が止まらなくなることがあります。その場合は、輸血が必要になることもあります。
- 治療中は血管をわかりやすくするための造影剤を使用しますが、これに対するアレルギーや腎臓の機能障害をおこすことがあります。
- 治療が長時間におよんだ場合、レントゲン撮影に使った放射線による脱毛、皮膚の炎症、白内障などを生じることがあります。
- 治療後に瘤が再びできたり、大きくなったりすることがあります。この場合は再治療をする可能性があります。
- そのほか、肺炎や心筋梗塞などの合併症が起こることがあります。
- 手術後に頭痛や発熱がおこることがありますが、これは数日で消えることがほとんどです。
- (注:ここに挙げたリスクと合併症は、すべての合併症の可能性を記載したものではありません。患者さんの状況によっても異なりますので、詳しくは治療を受ける前に担当の先生に確認してください。)
治療後について
- 退院した後、瘤の中に詰めたコイルが血流に押されて形が変わったり、動脈瘤が再び大きくなったりする可能性があります。定期的にMRIやレントゲン検査などの画像検査を受けていただく必要があります。
- 抗血小板剤を飲んでいただく場合、血圧が高くなると脳出血を起こすリスクが増えてしまいます。そのため、ご自宅で血圧を測っていただき、血圧が高い場合には降圧剤も飲んでいただく必要があります。
よくある質問
脳動脈瘤は治療したほうがよいのでしょうか?
- 脳動脈瘤があることを指摘された方は、治療の一環として、まずタバコをやめてください。
- 脳動脈瘤クリッピング術やコイル塞栓術については、必ずしもこれらの外科治療を行うのがよいとは限りません。脳動脈瘤が破裂してしまう可能性、治療の危険性、患者さんの状況などから総合的に判断されますので、治療を受けるべきかどうかは担当の先生とよくご相談ください。
- 一般的に、脳動脈瘤が5mm以上の場合から治療を考慮し、10mm以上の場合は強く治療をお勧めします。
- また、年齢が若い方ほど、治療した場合のメリットが多くなります。75歳以上の方の場合は、治療を行うことに慎重になります。
日常生活で注意すべきことはなんですか?
- 脳動脈瘤がある方は、下記の3点を守っていただくことが重要です。
脳動脈瘤がある方の日常生活で重要なこと
- 血圧が140を超えないようにする
- たばこを吸わない
- 便秘や重いものを持つなど、いきむ動作をしないようにする
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本脳卒中学会から『脳卒中治療ガイドライン2015』が出ています。以下のページから購入が可能です。
- http://www.kk-kyowa.co.jp/stroke/index.html