筋ジストロフィー:どんな病気?遺伝との関係は?診断や治療は?
更新日:2020/11/11
- 筋疾患の患者さんを割と多くみている、日本内科学会/日本神経学会専門医の大矢 寧と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が筋ジストロフィーになってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
まとめ
- 筋ジストロフィーとは、遺伝子の変異により、筋線維が壊れやすく、しだいに筋力が低下していく筋肉の病気です。
- 筋線維が細くなってしまう変化が増えれば、筋はやせてきます(筋萎縮)。また筋が硬く短くなることもあります。
- いろいろな病型があり、病型によって、症状も、診断のための検査も、経過を見るときの検査も、違ってきます。
- 対症療法を主体に行います。一部の患者さんを除いて、有効な根本的な治療法はまだありませんが、病型によって、また遺伝子変異によっては出つつあります。
- 病型によって薬やリハビリテーションで症状の進行を遅くすることもできます。
- 病型によって、また遺伝子変異によって、遺伝のしかたもまったく異なります。
- 筋ジストロフィーは指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
筋ジストロフィーは何でしょうか?
- 筋ジストロフィーとは、遺伝子の問題により、筋線維が壊れやすく、しだいに筋力が低下していく筋肉の病気です。
- 筋肉は筋線維が束になってできています。
- 筋力が弱いのを補おうと、筋線維が太くなるために、初めはふくらはぎなどの筋肉が太くなることがあります。
- 筋線維が細くなってしまう変化が増えれば、筋はやせてきます(筋萎縮)。骨格筋の細胞は死んでも再生しますが、筋ジストロフィーでは、再生が追い付かなくなって、筋肉がやせていきます。
- 筋線維の間の結合組織が増えると、筋が硬くなって伸びにくくなります(筋短縮)。
- ゆっくり筋肉が減っていくと、筋線維の間に脂肪細胞が入り、筋肉は脂肪に置き換わっていく変化も生じます。
- 軽症の患者さんでは、筋肉への負担がかかりすぎているために、筋痛が主症状になることもあります。
コラム:筋ジストロフィーの検査
- ふつう、筋細胞の中に含まれるクレアチンキナーゼ(CK)などの酵素が漏れ出るために、血液検査でCK高値を認めます。CK以外の酵素にASTやALTがあり、肝臓とも共通しているために、CKを測らないと、初期ないし軽度の場合に疲労しやすいことが肝機能障害と間違われることもしばしばあります。CKなどの値は、筋肉の量が多いほど、また運動量が多いほど、高くなります。
- 筋力低下が進むと、走るのが遅くなり、立ち上がるのに手をついたりします。腰の筋肉が減ると、腰を反らして歩くようになります。太腿の筋肉が弱くなると、膝折れで転びやすくなります。また腕を上げにくくなったり、指先に力が入りにくくなったりもします。
- 病型によって、症状も、診断のための検査も、経過を見るときの検査も、違ってきます。
- 筋ジストロフィーにはいくつも病型(タイプ)があり、病型によって、どこの筋肉がどのように減ってくるかが異なり、症状はかなり違います。また遺伝の仕方も違います。
- 病型によって、咀嚼や嚥下、呼吸の筋、心臓の筋肉などが障害されます。目や口を閉じる筋や開ける筋肉、また眼を動かす筋肉が弱くなる病型もあります。心臓の筋肉は死んでも再生がありません。初期には心臓の筋肉が厚くなることはありますが、進行すれば心臓の筋はやせて薄くなって、心臓の働きが低下し、心不全になります。
- 病型によっては、経過や診察で臨床診断ができることもあり、診断の確認には、血液で遺伝学的検査を行うことができることがあります。検査する遺伝子が絞れない場合や、検査が容易にできない場合には、筋肉の組織をとって調べる筋生検を行う必要があります。
- 他の筋肉の病気と筋ジストロフィーと間違うことがあります。免疫の異常による筋肉の病気や、遺伝子の問題による他の筋肉の病気で、治療方針が全く異なるものの診断のために、筋生検や血液の特殊な検査が大切な場合があります。鑑別診断で重要なのは、筋炎や免疫介在性壊死性ミオパチー、ポンペ病などの代謝性筋疾患などがあります。筋生検の炎症所見の有無では決まりません。筋生検で炎症所見がなければ筋ジストロフィーであるとは言えませんが、炎症所見があれば筋ジストロフィーではないとも言えません。ステロイド内服の有効性でも鑑別診断はできません。正確な診断には、確実な証拠を得る必要があります。
- 筋ジストロフィーは指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
どんな症状がでるの?
- 筋力の低下では、病型にもよりますが、次のような症状が出ます。
筋ジストロフィーの症状
- 走るのが遅くなる
- 段差を上がりにくくなる
- 爪先歩きになって、踵が床に付かなくなる
- 立ち上がるのに手をつく
- 腰を反らして歩く
- 膝折れで転びやすくなる
- 腕を上げにくくなる。肩甲骨が出る。
- 指先でつまむ力が弱くなる
- 病型によっては 指を伸ばしにくくなる
- 手の平でテーブルに手を付けなくなる
- 咳が弱くなる
- 息切れしやすくなる
- 噛み切る力が弱くなる
- 飲み込みにくく、むせやすくなる
など
合併症で大切なのは何でしょうか?
- 命に関わるのは心筋、呼吸筋、咀嚼・嚥下筋であり、それぞれ、心不全、呼吸不全と排痰障害、誤嚥と窒息が問題になります。
- 呼吸不全により食事動作が疲れて食事量が減って、体重が減ることが多くみられます。
- 体重減少は、ほかに心不全や嚥下障害のこともあります。
- 呼吸不全では、睡眠中の酸素不足で、覚醒時の頭痛を生じることがあります。
- 睡眠中に非侵襲的陽圧換気ができると、呼吸筋疲労を解消し、日中の活動を維持できます。
- 肺活量が少なくなっていたり、咳の勢いが弱くなっていたりしている人では、痰がからむようになると、急に呼吸状態が悪くなることがあります。
- 痰を出すために咳の勢いが重要です。咳の勢いを強めるために、介助や機械(排痰補助機器)の使用も考えます。
- 心不全対策に頻脈で疲労しないようβ遮断薬を漸増します。心不全では、むくみや胸水・腹水のために体重増加を来すこともあります。
- 誤嚥や窒息が生じやすくなると、飲食を急がず、詰まりやすいものは避け、調理で食べ物を軟らかくし、刻んで小さくしたりします。
- 一部の病型では、てんかんや知的障害、難聴を合併することもあります。
どんな治療があるの?
- デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど、病型によっては、副作用が出ない程度の少量のステロイドが有効なことがあります。
- 病型と遺伝子変異の内容によっては、治療法が出つつあります。
- 対症的には、従来通りですが、対応していきます。
- なるべく安静にせず、できることは続け、できなくなったことには、装具や車椅子、道具の利用など他の手段を考えます。
- 筋力などの低下に合わせ、環境を整備し、生活の維持していくことが目標になります。
- 筋短縮にストレッチが大切です。
- 横隔膜や肋間筋の短縮では、排痰介助も困難になってしまい、人工呼吸器でも換気が十分にできなくなってしまいます。筋疾患の呼吸リハビリテーションは、肺活量が減っても、肺に入れられる空気の最大量(最大強制吸気量)が減らないように、また介助しても咳の勢いが弱まらないように維持することです。舌咽呼吸(いわゆるカエル呼吸)ができることも望まれます。
治療を受けているときの注意
- ステロイド内服では、肥満や骨密度低下などに注意する必要があります。
- 人工呼吸・陽圧換気では、肺に穴が開く気胸を繰り返す患者さんが時々います。緊急に空気を抜く必要がある緊張性気胸になることはごくまれですが、人工呼吸でも行うほど息苦しさが悪化する時には、緊張性気胸も考えておく必要があります。
- 心不全対策の内服では、薬を増量するのが速いと、血圧が低くなり、入浴などでふらっとするなどの症状が出ることがあります。そのような際には増量はゆっくり行います。
- 新規の治療にはそれぞれ注意すべきことがありえますが、それぞれ異なります。
どんな病型がありますか?
- 筋ジストロフィーはいろいろな型に分かれています。型によって、症状の現れ方に違いがあります。それぞれ対症的な対応を考えていきます。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
- ステロイドなしでは12歳~14歳までに歩行不能になり、呼吸筋と心筋も減ってきます。ステロイド内服で歩けなくなるのを遅くできることが多いため、年齢での病型の区別は難しくなってきています。
- この軽症型がベッカー型筋ジストロフィーで、心筋症が問題となることが割とあります。
- 約1/3は家族歴がなく、いわゆる突然変異で生じます。約2/3は母親に遺伝子変異があり、母親の兄弟などに同じ疾患の患者がいることもあります。遺伝子変異を持っている女性に心筋や一部の筋で筋力低下が生じることもあり、母親や姉妹が遺伝子変異をもっていて、部分的に症状がみられてくることがあります。
肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)
- 様々な病型があり、症状などの出方も遺伝の仕方も異なります。LGMDR1(LGMD2A)=カルパイン異常症や、LGMDR2(LGMD2B)/三好型筋ジストロフィー=ジスフェルリン欠損症が多く、それぞれ臨床的な特徴があります。
- ジスフェルリン欠損症では、ふくらはぎの筋がやせやすいことが多く、高CK血症の程度が高い傾向があります。
- 肢帯型筋ジストロフィーのうち、サルコグリカン異常症やαジストログリカン異常症は、デュシェンヌ型やベッカー型に似た経過をとります。
- 遺伝子変異によって、遺伝の仕方が異なります。子供にはまず遺伝しない病型もあれば、親子で発症することがある病型もあります。
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
- 病名に含まれない腹筋、背筋、下肢の筋が減るのが目立つことも多いのですが、一部の筋がやせていくために、左右差があることがよくあります。
- 子供の頃から目や口を閉じる筋力が弱いことが多く、目はパッチリとしています。
- 一部の患者さんで眼底出血などを来しますが、繰り返すと視力低下を来すため、早めに眼科での治療を受ける必要があります。
- 関係しうる遺伝子が複数あるため、遺伝子変異によって 遺伝の仕方が異なり、親から子に遺伝する確率は50%のことが多いのですが、25%のこともあります。
筋強直性ジストロフィー
- 筋強直(ミオトニア、こわばり)と筋萎縮が生じます。握ったら離しにくい、一言目で舌がこわばるなどの筋強直は、冷えると強まり、繰り返すと生じにくくなります。保温や準備運動しても著しいと内服も試みます。
- 似たような現象との鑑別には針筋電図でミオトニア電位を確かめます。
- 筋強直は筋が減ると目立たなくなります。目や口を閉じる力も開ける力も弱くなります。筋力は顎・のど・食道、首、腹筋、背筋、手首、指先、足首などで弱くなりやすく、噛む力も弱く、飲み込みにくく、咳が弱くもなります。
- 安静で悪化しやすく、安静は最小限にしなければなりません。糖尿病や高脂血症、胆石、不整脈なども生じやすく、様々な問題が合併しやすく、症状と程度、悪くなりかたも様々です。生まれる前から嚥下障害などがある先天性の患者さんもいます。
- 親から子に遺伝する確率は50%ですが、親から子に遺伝する場合に、症状の程度が、親子で同時くらいのこともあれば、子で重症化することも、また頻度は低いのですが、逆に子で軽症化することもあります。とくに重症化した場合には、子供で出生前(妊娠中)ないし出生直後から発症することも稀にはあります。また、親がほとんど症状がないが遺伝子変異があって、子に遺伝して発症した場合には、家族歴がはっきりしないこともあります。
眼咽頭型筋ジストロフィー
- 中高年で、瞼が下がり、飲み込みにくい、鼻声になり、声がかすれるなどが次第にみられるようになります。
- やはり窒息などには注意が必要です。
- 家族に同じ症状の人がみられることも多く、親から子に遺伝する確率は50%ですが、眼咽頭型筋ジストロフィーでは同じ遺伝子変異をもつ家族では重症度は同じ程度のことがふつうです。遺伝子変異が異なる眼咽頭遠位型ミオパチーでは臨床症状で区別が難しいことがありますが、遺伝する確率はやはり50%ですが、親子などで重症度が相当に異なる場合があります。