歯がしみる(歯の知覚過敏):どうして起こるの? 対処法や治療は?
更新日:2020/11/11
- 歯科保存専門医の石井 信之と申します。
- 虫歯はないのに、食事中に冷たいものがしみたり、歯ブラシ中にピリッとくることがありませんか? このような症状がでると、安心して食事することや歯みがきが満足にできなくなります。実は、これらの症状は歯を守るためのSOSサインです。
- 歯が「しみる」のは「痛み」の前段階で、歯の健康を保つための「歯のさけび声」です。
- そこで、このページでは、歯が「しみる」一般的な原因や、治療法、病院を受診する際の目安について役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 歯が「しみる」のは、「痛い」の前段階の状態です。
- 「しみる」という症状は、知覚神経が冷たい、熱いといった刺激などを感じやすく(過敏【かびん】に)なっている状態で、原因をとりのぞけばもとに戻ります。
- 歯の症状は放置すると悪くなるだけで、自分自身で対処する方法は残念ながらありませんので、歯医者さんを受診してください。
- かかりつけの歯医者さんで定期検診を受けることが、一生自分の歯で食べることにつながります。
歯がしみる(歯の知覚過敏)のはどうして起こるの? どんな原因があるの?
- 歯がしみる病気のことを、象牙質知覚過敏【ぞうげしつちかくかびん】(知覚過敏)とよびます。
- 歯が「しみる」のは、「痛い」の前段階の状態です。
- 「しみる」という症状は、知覚神経が過敏になっている状態で、原因をとりのぞけばもとに戻ります。
- 過敏になる神経は、歯の表面のエナメル質とよばれる部分の内側にある象牙質とそのさらに内側の中心部にあたる歯髄【しずい】との境に位置しています。
- 歯ぐきに埋まった部分の歯の表面はセメント質とよばれ、エナメル質やセメント質には神経はありません。
- エナメル質やセメント質の下の象牙質がむき出しになったときに知覚過敏が起こります。
コラム:知覚過敏が起こる理由
- 知覚過敏が起こる理由は、象牙質にある無数の小さな管(象牙細管【ぞうげさいかん】)が関係しています。
- 象牙細管の中は液体で満たされていますが、その細管の中に歯髄の側から象牙芽細胞【ぞうげがさいぼう】という細胞が細管をふさぐように入り込んでいて、その象牙細管と象牙芽細胞の隙間に神経が分布しています。
- 歯が「しみる」のは、象牙細管の中の液体が歯の表面に向かって動き、同時に象牙芽細胞が細管内に引っぱられるときで、その際神経がはさまれて刺激され痛みを感じるのです。
- この神経が象牙細管中で刺激される現象そのものが、知覚過敏の症状なのです。
- 知覚過敏は、象牙質がむきだしになって象牙質の細管が開き中の神経が刺激されることで起こりますが、その主な原因には次のようなものがあります。
知覚過敏の主な原因
- 初期のむし歯
- 歯周病による歯肉の退縮:歯ぐきがすり減って下がった状態です
- 歯ぎしり:歯がひび割れ、くさび状に欠けてしまいます
- 外傷:歯が割れたり欠けたりする
- 酸性飲料や食品の飲食:歯のエナメル質が溶けてしまいます
- 歯の漂白【ひょうはく】:歯のエナメル質が溶けやすくなります
歯がしみる(歯の知覚過敏)と思ったら、どんなときに歯医者さんを受診したらよいの?
- 歯が「しみる」ときの原因や症状は人によって異なります。
- 共通している症状は、しみる時間が短いことで、「しみる」のは一瞬、もしくは長くても30秒以内です。
- 30秒以上たっても痛みが引かないときは、歯の神経(歯髄)まで炎症が起こっていて、もはや知覚過敏の領域を超えています。
- 知覚過敏の症状を自覚したら、できるだけ早く歯医者さんを受診してください。
- がまんすれば症状は悪くなって、「痛い」段階にまで進むと、もう神経をとらないと治りません。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 知覚過敏が軽い症状であれば、むきだしの象牙質表面を唾液【だえき】や歯みがきのフッ素成分で新たにエナメル質の層をつくる再石灰化【さいせっかいか】を生じさせることで症状が軽くなる場合があます。
- 知覚過敏の症状が消えなくてつらいと感じたときは、自分自身で対処する方法は残念ながらありませんので、一刻も早く歯医者さんを受診してください。
- 歯が「しみる」症状にならないように行う予防法は適切な歯みがきです。
歯がしみる(歯の知覚過敏)になりやすいのはどんな人?
- 歯が「しみる」症状はだれにでも起こりますが、最近では歯の寿命が長くなり、高齢になっても健康な歯が多数残っている人が受診する機会が多くなりました。
- 歯の知覚過敏で受診する患者さんの特徴は、次のようなものがあげられます。
知覚過敏の患者さんの特徴
- 歯周病で歯ぐきが退縮し、歯が長くなった人:歯の根っこの部分が露出しています
- 歯ぎしりで歯が短くなって、黄色の象牙質がむきだしになった人
- 毎日「酸性度の高い飲食物」をとっている人:酢などにふくまれる「酸【さん】」などが原因になります
- 知覚過敏は初秋の時期から増えて冬に最盛期となる季節性の病気でもあり、水や空気が冷たくなると初期の「しみる」症状があらわれます。
症状はどんなふうにしてでるの?
- 初期の虫歯:冷たいものやすっぱいもので歯が「しみる」症状がでます。
- 歯周病で歯ぐきが下がったり、歯ぎしりで歯がすり減ったり、歯をぶつけてひびが入ったとき:歯ブラシや風があたっただけでも一瞬、歯が「しみる」ことがあります。
- 最近の健康ブームによる黒酢飲料や酸性食品などのとりすぎ:歯の表面を溶かして歯が「しみる」症状がでます。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 知覚過敏で歯医者さんを受診すると次のような検査を行います。
歯医者さんで行われる検査
- 視診:「しみる」のは初期の虫歯や象牙質がむきだしになっていることが多く、まず「しみる」部位の特定を行います。
- 触診・温度診:視診ではわからないとき、風を吹きかけたり、針で触れるなどして部位を特定します。
- 歯科用実体顕微鏡:視診で原因がわからないエナメル質のひび割れなどを確認することがあります。
- 歯髄電気診:部位の特定が終わったあと、歯の表面から電気刺激を与えて、歯髄の生死や、興奮した神経がもとに戻る状態を確認します。
- エックス線検査:歯髄電気診で「しみる」時間が長いときに、歯の内部(歯髄)に近接した深い虫歯がないか確認します。
どんな治療があるの?
- 知覚過敏の治療は次の3つが基本で、早めの受診であれば基本治療で対応可能です。
知覚過敏の3つの基本治療
- 穴をふさぐ:象牙細管口に蓋【ふた】をします。開いた象牙細管に、レジンやグラスアイオノマーセメントという歯科用の接着物質を接着させて入り口をふさぐ方法です。
- 感覚を鈍くする:神経鈍磨【どんま】といいます。硝酸【しょうさん】カリウムという薬剤を細管口にぬり、細管内のカリウムイオンが神経を囲むようにして、神経を鈍くします。
- 固める:細管液凝固【ぎょうこ】という方法です。グルタールアルデヒドやレジンの接着システムに使うハイドロキシエチルメタクリレートという物質のタンパクを凝固させるはたらきで組織液を固め、神経への刺激をさえぎります。
- 3つの基本治療と同様の効果が期待できる方法として、レーザー(YAG、半導体の2種類)照射があります。
- 基本治療を繰り返しても症状が続き、痛みががまんできないときは、最後の手段として神経をとります(抜髄【ばつずい】治療といいます)。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 食事や生活で気をつけることは? 治療の副作用は?
- 知覚過敏は生活習慣病の1つと考えられます。
- 黒酢などの酸性飲料や食品を、高頻度にとられている人は、象牙質の表面を溶かして「しみる」症状が進行しますので、酸性飲料や食品の飲食をやめることが症状軽減に有効です。
- 日ごろから、正しい歯みがきを心がけてください。
- 食べたらみがくが基本で、歯みがき剤の成分に含まれる硝酸カリウムは知覚過敏の予防効果があります。
うつるの? 自分の予防のためにできることは?
- 知覚過敏は生活習慣病なのでうつる(感染する)ことはありません。
- 生活習慣を変えることが予防につながりますので、次のようなことに気をつけてください。
予防のために注意すること
- 正しい歯みがきを身につける。
- 酸性飲料や食品の飲食後に、うがいや歯みがきを行う。
- くいしばり癖のある人はマウスピースを着用する。
- 歯医者さんで定期的に検診する。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 穴をふさぐ(象牙細管口に蓋)治療は、治療したその日から症状が楽になります。
- 鈍くする(神経鈍磨)治療や、固める(細管液凝固)治療は、効果が出るまで時間がかかるので数回の来院が必要です。
- 痛みの感じ方は人によって千差万別で、治療を繰り返し行っても症状が消えない人もいます。
- 治療を繰り返しても症状がなくならないときは神経をとることで、痛みはなくなります。