成長ホルモン分泌不全症:原因は?症状は?難病なの?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 内分泌代謝科専門医の高橋 裕と申します。
- このページに来て頂いた方は、お子さんの場合には身長が低くて成長ホルモンが足らないかもと思って不安を感じておられるかもしれません。また成人の方の場合には下垂体機能低下症で成長ホルモン注射を勧められているがどうしたら良いか迷っている方がおられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 成長ホルモン分泌不全症とは、脳の下垂体という部分の働きが悪くなって成長ホルモンが十分につくられなくなる病気です。
- お子さんの場合、背が伸びなくなります。
- 大人では、気力や体力が落ちたり、筋肉が減り脂肪が増えるなど体のバランスがくずれてしまったりします。また、成長ホルモンがないと寿命が短くなる可能性が報告されています。
- 成長ホルモンを毎日注射し補うことで、多くの症状がよくなります。
成長ホルモン分泌不全症は、どんな病気?
- 成長ホルモン分泌不全症とは、脳の下垂体という部分の働きが悪くなって、成長ホルモンが十分につくられなくなる病気です。
- 成長ホルモンは脳の下垂体という部分でつくられるホルモンで、子どもの時には成長を、大人になると体の活動を調節するなどの役割を担っています。
- 子どもでは背が伸びなくなることで気づかれます。
- 大人では体のバランスがくずれて、おなかに脂肪がついたり、筋力が落ちて骨がもろくなったり、気力・体力が落ち、寿命が短くなる可能性があります。
- 成長ホルモンが十分につくられていないことを、成長ホルモン分泌刺激試験という検査で調べます。
- 実際に成長ホルモンが足りていない場合は、注射で補います。
成長ホルモン分泌不全症と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 成長ホルモンが分泌されなくなるさまざまな病気があります。これらの病気と診断されたときや、加えて次のような症状があった場合は、受診を検討されることをおすすめします。
お子さんの場合
- 生まれたときに原因不明の低血糖があった場合。
- 学校の健康診断で身長が低いこと(-2SD未満)を指摘された場合。
- 思春期の前に、急に背が伸びなくなった場合。
大人の場合
- 脳の病気の経験があり、疲れやすい、スタミナ、集中力、気力が落ちた、うつ状態である、性欲が落ちた、などを自覚された場合。
成長ホルモン分泌不全症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 成長ホルモンは、下垂体ホルモンの中で一般に最も障害されやすいことが知られています。下垂体やその近くの場所が病気になると、成長ホルモン分泌不全症になってしまいます。
- 成長ホルモン分泌不全症の原因として、下記のことが考えられます。
成長ホルモン分泌不全症の原因
- 頭の病気がある(とくに下垂体腺腫、胚細胞腫、頭蓋咽頭腫などの脳腫瘍)
- 頭の手術および放射線治療を受けたことがある
- 頭のケガやくも膜下出血をしたことがある
- 下垂体に病気がある
- 出産時に異常があった(骨盤位分娩、出生時仮死など)
- 遺伝子(特に視床下部下垂体系に影響があるもの)に異常がある
- 小児がん(特に放射療法を受けた場合)の経験がある
どんな症状がでるの?
- お子さんの場合、背が伸びなくなります。
- 大人の場合、疲れやすい、集中力・気力が落ちた、性欲がなくなるなど、QOLが下がる症状が出ます。また、皮膚がカサカサする、内臓脂肪が増えてウエストが太くなるなど、目に見える変化も出てきます。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 成長ホルモン分泌不全症と診断するためには、成長ホルモン分泌刺激試験が必要です。これは、成長ホルモンを出すように働きかける物質を体に入れて、成長ホルモンがどのくらい出ているかを確かめる検査です。いくつか方法があり、少なくとも1つ、必要によって2つ以上の試験をして診断します。
- お子さんの場合、インスリン、アルギニン、L-DOPA、クロニジン、グルカゴン、またはGHRP-2の負荷試験が行われます。
- 大人の方は、インスリン、 GHRP-2、アルギニン、またはグルカゴンの負荷試験が行われます。
- 同時に、他の下垂体ホルモンが足りているかどうかを確かめます。
コラム:成長ホルモン分泌不全症の診断基準
- 小児の診断基準は、負荷前および負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間)にわたり、30分毎に測定した血清(血漿)中成長ホルモン濃度の頂値が 6 ng/ml以下であること、GHRP-2負荷試験で、負荷前および負荷後60分にわたり、15分毎に測定した血清成長ホルモン頂値が16 ng/ml以下であることです。
- 成人の診断基準は、インスリン負荷、アルギニン負荷、またはグルカゴン負荷において、負荷前および負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間)にわたり、30分ごとに測定した血清成長ホルモンの頂値が3 ng/ml以下であること。GHRP-2負荷において、負荷前および負荷後60分にわたり、15分毎に測定した血清成長ホルモン頂値が9 ng/ml以下であることです。
- 成人の場合、成長ホルモン治療の適用となるのは、成長ホルモン分泌刺激試験における血清成長ホルモンの頂値が1.8 ng/ml以下(GHRP-2負荷では 9 ng/ml以下)を満たす重症成長ホルモン分泌不全症のみですので、注意が必要です。
- 一般に、成長ホルモンによって刺激されるIGF-Iの血中濃度も低下しますが、正常範囲の場合もあります。
どんな治療があるの?
- 成長ホルモン(遺伝子組み換え成長ホルモン製剤、ソマトロピン)を、毎日ご自分で注射して補います。成長ホルモン補充療法といいます。
- なお、この治療は、成長ホルモン分泌不全症ではない低身長に対する治療としては認められていません。
お子さんの場合
- 1週間に決められた量を6-7回に分けて、自分でまたは親が注射します。
- お薬の量は体重にあわせて随時調整していきます。
大人の場合
- 毎日寝る前に、ご自分で注射していただきます。
- お薬の量は少量から始めて、血液検査で確認しながら4週間単位で増やしていきます。IGF-1の値が年齢と性別の基準範囲内に保たれるように、副作用の出方もみながら、適宜増減します。
コラム:ソマトロピンの投与量
- 小児の場合、通常1週間に体重kg当たり、ソマトロピンとして 0.175 mg です。これを6-7回に分けて皮下に注射します。
- 成人の場合、3 μg/kg体重/日から開始し、必要に応じて増量していきます。成長ホルモン投与上限量は1 mg/日です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 成長ホルモン分泌不全症の治療は、足りない分の成長ホルモンを補うものですので、深刻な副作用を心配する必要はありません。また、定期的な検査を受けていただき、お薬の量が適切か確認する必要があります。
お子さんの場合
- 治療を中断する必要のある副作用は、ほぼありません。
- まれに肝臓の機能の異常が検査値にあらわれることや、血尿(おしっこに血が混じっていること)が出ることがあります。
- 治療初期に一時的に頭痛がみられるときがあります。また、ペルテス病、大腿骨頭すべり症などが出たという報告もあります。
大人の場合
- 治療を始めて手足がむくんだり、関節や筋肉の痛みが出たりすることがあります。
- これらの症状があらわれたときは、お薬の量を減らしたり一度中止すれば治まりますので、その後も治療を続けることは可能です。
治療中の検査
- 定期的に血液検査を行い、「IGF-1」という成長ホルモンの量を反映する値を測ります。この値が年齢・性別の基準範囲内であることを確かめて、補充する成長ホルモンの量が適切かどうか判断します。
- お子さんの場合には、身長の伸びとともに、骨年齢、二次性徴の有無・程度を確認します。大人の場合には、筋肉や脂肪の割合、体の栄養のバランスがよくなっていること、QOLの改善など治療の効果を評価します。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- お子さんの場合、適切に治療すれば、低身長は改善されます。また、大人の患者さんも、治療を受けていただくことで、症状や生活の質が大きく改善します。
- お子さんの原因不明の成長ホルモン分泌不全症の場合、大人になったときには改善していることが多いです。成長期の後に成長ホルモンが回復しているかを確かめます。
治療はいくらくらいかかるの?
- 成長ホルモン補充療法に使うお薬は遺伝子組み換え製剤なので、高価な治療になります。
- なお、成長ホルモン分泌不全症と適切に診断された場合は、小児慢性特定疾病、指定難病(下垂体機能低下症として)、高額医療、自治体などの医療費助成制度を用いることによって、治療などにかかる費用の補助がもらえます。
- 医療費助成制度は、主治医の先生や福祉の窓口に相談してみてください。なお、下垂体機能低下症の原因によっては、申請が認められないこともあります。
追加の情報を手に入れるには?
- 厚生労働省指定難病、下垂体機能低下症のページを参考にしてください。
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3922