クッシング病:どんな病気?検査や治療は?手術は必要?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 内分泌代謝科専門医の田中 知明と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分がクッシング病になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- クッシング病とは、脳の下垂体という部分から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)がたくさん分泌する病気です。
- お腹や肩に脂肪がつきやすく、顔が丸くなります。しかし、筋力が低下するので、腕や足は細くなります。
- 脳下垂体に腫瘍ができて、副腎皮質刺激ホルモンがたくさん分泌され、副腎のコルチゾールもたくさん分泌されます。
- 治療は、手術で脳下垂体の腫瘍を取り除くことです。
- クッシング病は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
クッシング病は、どんな病気?
- クッシング病とは、脳の下垂体という部分から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)がたくさん分泌する病気です。
- 大量に分泌されたACTHの影響で、副腎皮質が刺激されてそこから出るコルチゾールというホルモンもたくさん分泌します。
- このコルチゾールがたくさん分泌する疾患をまとめてクッシング症候群と言います。
- クッシング病は、脳下垂体にできる腫瘍が原因のことが多いですが、まれに、脳下垂体以外の部位(肺や気管支など)の腫瘍が原因のこともあります。
- クッシング病は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
クッシング病と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 生活習慣は変わっていないのに、糖尿病が悪くなってきたり、太ってきたりしたら、クッシング病かもしれません。
- その他、お腹や肩に脂肪がつきやすく、顔が丸くなります。しかし、筋力が低下するので、腕や足は細くなります。
クッシング病になりやすいのはどんな人?原因は?
- 日本におけるクッシング病の推定患者数は、1年間で450人程度と、まれな病気です。
- 発症年齢は40から50歳です。
- 男性に比べて女性に多い病気です。
- クッシング病で脳下垂体に腫瘍ができる原因は、はっきりとわかっておりませんが、最近では、ACTHをつくる細胞に遺伝子異常が起こることで発症すると言われています。
どんな症状がでるの?
- クッシング病になると次のような症状が現れます。
クッシング病の主な症状
- 顔が丸くなる (満月様顔貌)
- お腹に脂肪がたまる (中心性肥満)
- 肩に脂肪がたまる (野牛肩)
- 皮膚が弱くなり、皮下に内出血を生じたり、血管が透けて見えたり、赤い線ができる(皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下溢血)
- 高血圧
- 多毛
- 骨折・骨粗鬆症
- 月経異常
- 血糖値の上昇
- むくみ
- にきび
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- クッシング病が疑われたらまずは、血液検査で血中のACTHとコルチゾールを測定します。また尿中のコルチゾールを測定します。
- 次に、一晩少量デキサメタゾン抑制試験、血中コルチゾール日内変動、DDAVP試験、深夜唾液中コルチゾール値を測定し、ACTHが自律分泌しているかどうかを調べます。
- 最後に、CRH試験、一晩大量デキサメタゾン抑制試験、頭部MRI撮影をして診断を確定します。
- 選択的静脈洞血サンプリングを行うと、より診断が確実になります。
どんな治療があるの?
- クッシング病の治療では、手術が一番に検討されます。最近では内視鏡を使った手術が主流ですが、鼻の中(の奥)から脳の蝶形骨洞を通って、下垂体の腫瘍を取りだします。高度な技術が要求されるので、熟練した下垂体専門の脳外科医によって行われます。
- 手術で腫瘍がとりきれずに残っている場合や手術ができない場合には、放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)を行います。
- 薬物療法として、副腎皮質ホルモン合成阻害薬(メチラポン)が有効です。
- 他にも、ドパミン作動薬、セロトニン拮抗薬、ソマトスタチンアナログがありますが、効果は限定的です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- クッシング病の治療による注意点・副作用を下記にまとめました。
手術の場合
- 手術によって脳下垂体の機能が障害を受けることがまれにあります。
放射線療法の場合
- まず、放射線療法の効果は、数ヶ月から数年経って現れます。
- そのため、副作用である脳下垂体機能の障害も数年後に現れることがあります。
- また、放射線をかけた部位からまれに発ガンすることがあります(二次性ガン)。
薬物療法の場合
- 薬物療法では、それぞれの薬物の作用に応じた副作用が現れることがあります。
- もっとも使用される副腎皮質ホルモン合成阻害薬(メチラポン)では、副腎の機能が低下する副腎不全が起こることがあります。
- 治療によってコルチゾール量を正常に戻すと、多量のコルチゾールに慣れてしまった体はコルチゾールが足りないと感じて、倦怠感が出ることがあります。そのため、しばらくの間、内服薬でステロイドホルモンを補充することが必要です。
予防のためにできることは?
- 残念ながらクッシング病の発症を予防する適切な方法は確立されておりません。
- 現在、クッシング病の発症にはある遺伝子の変異が関係していると言われています。遺伝子変異と下垂体腫瘍の形成、そしてACTHがたくさん分泌されてしまうメカニズムが明らかとなれば、何かしらの予防法を発見することにつながるかもしれません。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 手術で腫瘍を完全に取り除くことができれば、完治することができます。
- 筋力低下が著しく、日常生活動作が低下している場合には、長期のリハビリが必要になることがあります。
- クッシング病は再発することもあるので注意が必要です。
追加の情報を手に入れるには?
- 公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターに詳しい情報が記載されています。
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/78
もっと知りたい! クッシング病
遺伝子の変異に関して詳しく知りたい!
- クッシング病を引き起こす下垂体腫瘍の原因として、上皮成長因子受容体(EGFR)のユビキチン化に関わる酵素のひとつUSP8という遺伝子の変異が認められます。EGFRが活性化するとACTHの産生が高まると言われています。
- しかし、すべてのクッシング病でUSP8の遺伝子変異があるわけではありません。クッシング病の発症には、様々な遺伝子の変化が関係している可能性があります。