非結核性抗酸菌感染症:原因は?症状は?治療は?薬で治るの?
更新日:2020/11/11
- 肺非結核性抗酸菌症、原発性線毛機能不全症候群や気管支拡張症などの難治性気道疾患を専門としている森本 耕三と申します。
- このページに来ていただいたかたは、自分またはご家族が「肺非結核性抗酸菌症」と診断されたり、闘病されていて不安を感じておられるかもしれません。
- ここでは、いま不安を抱えている方や、つらい症状を抱えている方に役にたつ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、よく質問を受けること、特に患者さんに心に留めておいて頂きたい内容についてまとめました。
目次
まとめ
非結核性抗酸菌感染症は、どんな病気?
- 肺非結核性抗酸菌症【はいひけっかくせいこうさんきんしょう】とは、結核菌とらい菌以外の抗酸菌が肺に感染した病気です。
- 非結核性抗酸菌は、水まわりや土壌などの自然・家庭環境に広く存在している菌です。
- 人から人へ感染することはなく、環境から人へ感染すると考えられています。
- 世界各地で地域差はありますが、日本では肺非結核性抗酸菌症の90%がMAC(マック)菌による肺MAC症で、肺M. kansasii症(カンサシ)、肺M. abscessus症(アブセッサス)が3-4%ほどになります。
- 中高年でやせ形の女性や肺の病気がある方、また免疫不全のある方に感染・発症します。
非結核性抗酸菌感染症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 最も頻度が高いのが、中高年の痩せた女性です。肺の病気を指摘されたことがない、たばこを吸っているわけではないという特徴もあります。なぜ、このような方々が感染しやすいのか、はっきりとした原因は分かっていません。
- 次に多いのが、肺に別の病気があって壊れてしまった部分に感染するタイプです。肺結核後遺症、気管支拡張症、COPDなどの病気で頻度が高いです。
- 3つ目が、他の病気などによって免疫が低下している方です。たとえば抗がん剤、ステロイド、リウマチなどに対する生物学的製剤などのお薬を使用している方も、感染のリスクが高まることが分かっています。
どんな症状がでるの?
- 間違いなく肺非結核性抗酸菌症である、という特別な症状はなく、肺炎や結核と似た症状があらわれます。
非結核性抗酸菌症の症状
- 咳、痰がでる(痰のでない空咳のこともある)
- 血の混じった痰がでる
- 熱が出る
- だるさがある
- 体重が減少する
- 息切れがする
- 咳が2週間以上続くときは受診をお勧めします。
- 約2-3割の方は症状がなく、健康診断や他の病気で経過をみている最中に偶然発見されています。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 症状などを伺って非結核性抗酸菌症が疑われた場合、下記のような検査を行うことになります。
検査の種類
- レントゲン検査:肺に炎症や非結核性抗酸菌症に特異的な所見があるか調べます。
- CT検査:レントゲン検査より詳しく病変のひろがりや肺の空洞の有無などを調べます。
- 喀痰培養検査:痰をとり、非結核性抗酸菌に感染しているのか、どの種類の菌が感染しているのかを調べます。同じ菌が2回確認されれば診断確定となります。
- 気管支鏡検査:痰を出すことが出来ない場合に行うカメラの検査です。
- 血液検査:補助診断としてMAC菌に対する抗体の有無などを調べます。
- 肺機能検査:肺の状態を把握するために行います。
どんな治療があるの?
- 原因菌別に治療が異なります。
肺MAC菌
- 治療は基本的に3種類の飲み薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール)を服用していただきます。
- 気管支拡張が強い方や空洞がある方には注射薬(アミノグリコシド系薬剤でアミカシンやストレプトマイシン)を追加します。
- 薬物治療であまりよくならない場合には、手術を行うこともあります。
肺M. kansasii症(カンサシ)
- 飲み薬だけでほとんどが治癒可能です。
肺M. abscessus症(アブセッサス)
- 飲み薬と点滴を組み合わせた複雑な治療になります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 非結核性抗酸菌症の治療では、複数の薬を服用する必要があります。薬は主治医から説明のあった期間を通して、継続して服用しましょう。症状が良くなっても続けて飲んでいただく必要があります。
- 薬にはそれぞれ副作用がでることがあります。薬の種類や用量を変更したり、中止したりする判断が必要なときもあります。強い副作用がでた場合は、主治医や薬剤師に相談して下さい。
リファンピシン
- 尿の色がオレンジ色になります。胃のむかつき、熱が出る、寒気がする、インフルエンザに似た症状、顔が赤くなる、かゆみがでる、皮膚にブツブツがでるといった、ご自身で気づける症状のほか、肝機能障害、血球異常などの副作用を起こすことがあります。
エサンブトール
- 副作用として皮膚のブツブツ、熱が出る、手足のしびれのほか、目が見えにくくなるなど、目の異常がでることがあります。
- この薬を飲んでいただいている間は、定期的な眼科の受診が必要です。目が変だと思ったらすぐに眼科医に相談してください。
- しびれが出た場合も、早期の中止が必要になります。主治医に相談してください。
クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン
- 不整脈など心臓の病気がある方には定期的な心電図などの検査が必要です。
- 不整脈、耳が聞こえにくくなる、吐き気がする、力がでなくなる、金属の味がする(味覚異常)、腎障害、下痢、お腹の痛み、皮膚のブツブツなどの副作用があります。
アミノグリコシド系薬剤(注射)
- 治療前と開始時のあと、定期的に聴力検査を行います。
- 耳が聞こえにくくなる、吐き気がする、力が出なくなる、皮膚のブツブツ、ふらつきやめまい、腎障害などの副作用が起こることがあります。
うつるの?自分の予防のためにできることは?
- 非結核性抗酸菌症は、基本的に人から人にはうつりません。
- 非結核性抗酸菌は、水回りや土壌など環境のいたるところに存在しています。最近では、お風呂場で発生するエアロゾルを吸い込んだり、ガーデニングなどのときに土埃を吸い込むと感染することが多い考えられています。
- 下記のようなことが予防につながると言われています。
予防のために
- お風呂場を使い終わったら乾燥させる
- お風呂は追い焚きをしない
- 土にさわるときはマスクをする
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 治療薬がない、治らない、という情報もありますが、現在では治療薬があり、軽症で空洞が無いタイプであれば完治することも可能です。
- 非結核性抗酸菌症の治療にかかる期間は、治療を開始した後の喀痰検査で菌が消失してから12か月以上とされています。菌が消えにくい方やCT検査で空洞など強い病変がある場合には年単位で治療することもあります。
- 注意が必要なのは、再発がおきやすく、特に違う遺伝子をもつ菌による再感染がおこりやすいということです。このため、治療が終了した後も定期的に痰の検査とレントゲンの検査が必要となります
医療従事者向けコラム:治療後の培養陽性の解釈
- 肺MAC症の多剤併用化学療法の有効性について、これまでにいくつかの研究があります。
- 約7-8割の患者さんでは、培養検査で菌を検出しなくなり治療が終了可能です。
- しかし、そのうち約3-4割の方は数年で再排菌(再発)してきます。その3分の2が、環境から同じ菌種でも遺伝子が異なる菌に感染(再感染)するためと考えられています。
- 空洞を有する症例では難治性となることが多く、アミノグリコシド系薬剤を加えた早期の治療開始が必要となります。
難治例治療には外科治療の検討のために専門的治療へのコンサルトが望ましいです。
追加の情報を手に入れるには?
- ①NTM-JRC(特定非営利活動法人非結核性抗酸菌症研究コンソーシアム)のホームページ。非結核性抗酸菌症に関する研究、および患者等への啓発活動を行っています。
- http://ntm-jrc.kenkyuukai.jp/information/
- ➁非結核性抗酸菌症Q&Aを扱っている複十字病院のWEBサイト
- https://www.fukujuji.org/clinical-guide/disease/nontuberculous-mycobacterial-infection/
- ③NTMirというアメリカのNTM症患者団体のホームページ(英語)
- https://www.ntminfo.org/
- ④NTMに関するTwitter
- https://twitter.com/search?q=nontuberculous%2C%20OR%20non-tuberculous%2C%20OR%20nichttuberkul%C3%B6s%2C%20OR%20nicht-tuberkul%C3%B6s%2C%20OR%20NTM%20AND%20MYCOBACTERIA%2C%20OR%20%23ntmnet